現在日本では「大学教育のグローバル化」が声高に叫ばれ、英語による学位プログラムや留学プログラムの拡充などが、喫緊の課題となっています。文部科学省のグローバル人材育成推進事業、大学入試の英語試験改革、国際バカロレア・ディプロマ・プログラム(IBDP)の普及など、変革への取り組みは枚挙にいとまがありません。
今後ますます加速するグローバル化に伴い、日本国内だけでなく世界に目を向けた大学選びも、より身近な選択肢の一つになるのではないでしょうか。
Springでは「海外大学進学特集」と題し、海外大学への進学に役立つ情報をお届けします。第1回目は海外大学に進学する際の基礎知識をご紹介します。
世界にはどんな大学があるのか?
定評のあるイギリスの大学評価機関、Quacquarelli Symonds社による「世界大学ランキング」で上位に上がっている80校をご紹介します。www.topuniversities.com
どこの国の大学で学びたいのか ~志望大学を決めるときの留意点~
海外の大学に進学する場合に大切なのは、大学を決める時点で既に「専攻が決まっているかどうか」という点です。専攻が決まっている学生は、国によってはいわゆる教養課程を経ず入学後すぐに専攻分野を学び、3年間で卒業することができます。
UWCSEA イーストキャンパス大学アドバイスセンター長 Pamela Kelly Wetzell 先生
今日の学生は大学選びを母国に限定することなく、かつてないほどグローバルな視点で検討する機会が与えられています。重要なことは、生徒が高校生の時点で「専攻したい科目が明確に決まっているか」という点です。
入学前に専攻が決まっている生徒
イギリスや多くのアジアの大学では、出願時(高校の最終学年のはじめ)に大学の学部で何を専門に学ぶのかを決める必要があります。大学では、入学直後から専攻分野について深く掘り下げて学ぶからです。これらの国々では3年間で大学を卒業することができます。
● 保護者の心得
専攻を高校生のうちに絞るため保護者は次のようなサポートが出来
ます。
① 関心のある分野に関して、学校の課題以上の読書を勧める
② 子どもの関心を反映させた休暇の計画を立てる
例:科学が好きな場合、旅行先でも科学博物館を訪問
③ 興味を示した分野で働いている人を探し、職場体験(インターンシップ)をさせる
イギリスで法律、医学、建築、獣医学を学びたい場合は、特に重要で合否に関係する
④ 地元のコミュニティや各地の大学、またはオンラインで提供されている高校生向けサマープログラムで、好きな分野が開講されていないか検索
⑤ その分野について子どもに良いアドバイスをできる人がいないか、
出身校の同窓生ネットワークを活用
入学後に専攻を考えたい生徒
関心のある分野が複数あり、大学での科目選択に柔軟性を求める生徒には、北米の大学を検討することをお勧めします。アメリカとカナダでは学士号取得に4年間必要です。学生は大学入学後に専攻を決めることができます。
● アメリカ
「リベラルアーツ&サイエンス」と呼ばれるタイプの大学では、はじめの2年間で一般教養を幅広く学び、深い教養を身に付けます。その間に自分が後半の2年間で何を専攻するのかを考えます。
● カナダ
出願する時点で学部(例えば教養学部、工学部、経営学部など)を選択しなければなりませんが、専門的な内容をすぐに学ぶわけではありません。入学後一年間はその学部内で包括的な知識を広く学び、その後学部内のどの「学科」を専門にするのかを模索していきます。
合格基準
● アメリカ
学業成績だけではない「総合評価」で判断されます。
● 課外活動 ● 教師による推薦書 ● エッセイ ● 特別な才能
● 職場体験 ● 市民権の有無 ● 性別 ● 経済力 など
これは、合否が予測しづらいことを意味します。スコアが低い方の生徒が合格し、より高いスコアを出した生徒が不合格、ということも起こります。
「自分の特性を伸ばし、その分野で結果を出す」ことに集中する日本人生徒はそれほど多くないかもしれませんが、アメリカの大学は何かに傑出している学生こそが求められます。
● アメリカ以外
学業成績が合否の最大の決め手です。ただし、多くの大学が成績以外の要素を求めます。
イギリス、オランダ、カナダ、香港、シンガポールなどの大学は、次の点を重視します。
● パーソナルステイトメント
( 生徒の関心事と志望学部が合っているか)
● 学校のコミュニティでの貢献度と、生徒自身によるその考察
保護者がすべきサポートとは
● 検討する際に大切なこと
どの国の大学に進学するかを検討する際、子どもと率直に話し合い、検討できる可能な範囲を明確にしてあげることが大切です。
・地理的な優先順位 ・経済的な制約
● 費用の比較
学費の比較検討も行う必要があります。海外の大学に進学させることは、母国での進学に比べ費用の負担はかなり大きくなる場合があります。
● 専門学位の国際認定度を確認
イギリスの医学と法学の学位は、全てがシンガポールで認められているわけではない、というようなケースもあるので、注意が必要です。
● キャンパス訪問
生徒自身が「この大学は本当に自分に合っているのか」を実感できる大変貴重な機会であるとともに、その後の準備段階での大きなモチベーションにつながります。
● 一つの大学にこだわらない
何よりも大切なのは、さまざまな大学で活躍できる可能性を伝え、特定の大学の合格に過度のプレッシャーをかけないことです。山の頂上に登る道は何通りもあることを忘れないでください。
僕はもともと何かを製作したり、分解したりするのが好きだったので工学を学びたいと9年生の頃から思い始めました。
10年生の終わりにIBDPで履修する科目を選択しないといけなかったため、改めて「将来何をしたいのか、どの大学で学びたいのか」具体的に考えました。
■大学を決めるまでの経緯
来星前アメリカンスクールに通っていたことから、アメリカで学ぶことを考えました。工学部志望だったので10年生が終わった夏休みには、関心のある大学の工学サマープログラムに実際に参加してみました。
11年生になると、勉強と平行して工学が学べる大学を国別に調べていきました。日本は英語で学べる工学部は少なく、どちらかというと文系の学部が多いことがわかりました。日本の工学部で学ぶためには物理と数学も日本語で勉強し直し、大学センター試験に通らないといけません。そこまで時間をかけて準備をして日本の大学に進学しなくても、他の国でトップレベルの工学を学べるのではないかと思いました。
■アメリカの大学への出願に向けて
キャンパス訪問
11年生が終わった夏休みに渡米し、大学毎にアドミッションズオフィスがやっている説明会とツアーに参加。
SAT
Reasoning Testを11年生の1月、5月、12年生の10月に受験、SubjectTest(物理と数学の2科目)を11年生の6月に受験。
● ACTでもよいが、シンガポールの場合SATの方が実施回数が多く便利。
エッセイ
合否に関係するとても重要な出願書類の一つ。
●「 どういう人間か「」入学後どのような貢献をしてくれるか」を知るため大学側は非常に重んじる。
● 勉強以外で自分が取り組んだ活動から何を学んだかをしっかりアピールする。
課外活動
前述のエッセイに大きく関係する。
● 学校から与えられている機会を有効に活かす。
● 数より質を重視し、努力をして結果を出すことに努める。
学校のサポート
各段階で進路相談をすることで、的確なアドバイスがもらえる。
● 国別の大学の特性を熟知した指導(出願方法、時期、面接の有無など)。
● エッセイについても指導を受ける。
● 志望に合う大学を紹介してもらう。
● 大学フェア 自分の知らなかった工学が強い大学などを知る機会に。
■今、思うこと
友人や親からの勧めではなく自分がやりたいことを見つけてそれに向かって努力していくこと、途中で折れないことが大切だと思っています。この5月に行われるIBDPの試験に向けて頑張りたいと思います。
取材協力:UWCSEA
編集部より
企業の採用活動はますますグローバル化しています。「どこの国でも生きていける」という感覚も今まで以上に必要になっていると感じます。今後は世界中の大学の中から、将来のキャリア形成に最適な進学先を探す学生が増えるのではないでしょうか。
漠然としたイメージでなくお子さまの具体的な将来設計のために、お役に立てれば幸いです。第2回目以降は国ごとに詳しくご紹介していきます。