グローバル教育
「幼児期のバイリンガル教育」を考える vol.3

シンガポールでは幼児期から日本語、英語、中国語でのさまざまな教育の機会があります。この充実した多言語環境の中で「子どもをバイリンガルにしたい」と願う親御さんは多いことでしょう。しかし、わが子にあった教育を決めることはとても難しい選択です。
今号より当地の幼児・初等教育の専門家の方々に「幼児期のバイリンガル教育」についてアドバイスをうかがい、シリーズでお届けします。

Eis International Pre-School 園長 峯村 敏弘先生

◎ シンガポールならではのバイリンガル教育

 シンガポールの幼稚園では、マレー系、中華系、インド系とさまざまな人種の先生方が、文化や言語が異なる環境の中で子どもたちの成長を支えています。そんな先生方に温かく抱きしめられたり褒められたりする体験を積むことで、子どもたちは「先生ともっと話したい」と思うようになります。これこそが英語に興味を持つきっかけであり、「バイリンガル教育」の最初の一歩だと思います。

 「バイリンガル教育」とは単に二言語の習得を目指すものではなく、宗教や文化という垣根を越えて交わる「心の教育」と言えるのではないでしょうか。幼児期にとっては英語のフレーズを正確に話すことが目標ではなく、まずは子どもたちが身の回りの状況に応じて英語を使い、自ら話すよう導くことが大切です。

 私の経験から、幼児期において第二言語(英語)の習得をしたい場合、まずは母語である日本語の「聞く」「話す」を重視しましょう。お母さんが話す言語である「母語」をしっかり確立することで心の安定を促し、第二言語を習得する土壌ができていきます。擬音語・擬態語などの日本語独特の表現にも日々の生活で触れさせ、子どもがうまく表現できずもどかしいと感じていることを正しい日本語に言い換えるなど、親子の会話を根気強く続けていくことが肝要です。

◎「 待つ」ことの大切さ

 幼児期の成長には、個人差が大きくあります。特に言葉に関しては成長の差が顕著になりがちですので、焦らずゆっくり「待つ」ことが大切です。子育ての過程で焦って結果を求めると、子どもの心には不安感が生まれます。すると学ぶ楽しさを知らず、自尊心を持てない子どもになってしまいます。このような心の大ケガをしないためには、子どもが自ら「挑戦したい」、「伝えたい」、「理解したい」と最初の一歩を踏みだす時が来るまでチャンスの芽をいっぱい与え、豊かな言語環境を提供することに努めましょう。

 「バイリンガル教育」における親御さんの影響は、非常に大きいと思います。保護者自らが「シンガポールに来てよかった」という前向きな気持ちを持って国際色豊かな環境を楽しめば、その様子はお子さんにも伝わるはずです。親御さん自身がさまざまな人種の方と関わって二言語を使うことで、子どもたちは「お父さんやお母さんのようになりたい」と思うようになります。それこそが「バイリンガル教育」の最初の一歩になるのです。

Happy Train 代表 川守田 宏美先生

◎ 国語力の重要性

  第二・第三言語を習得するために一番大切なことは、その土台となる母語、つまり国語力の育成です。国語力がある人は、ただ単に会話ができるだけでなく「読む・書く・話す」の三つの力のバランスがとれている人を意味します。国語力は、言わば大樹の「幹」のようなもので、言語を習得する上で根幹になる力です。第二・第三の言語は「枝」にあたります。つまりしっかりとした幹があれば、枝は後から伸ばしていくことが可能なのです。

◎ 大切な環境づくり

  国語力を伸ばす上で、幼児期は保護者による環境づくりが最も必要です。保護者の子どもへの関わり方を数値化するとしたら、例えば6歳になるまでは200%、小学生で100%、中学生で50%程度を目安にし、その後は少しずつ減らし、子ども自身に任せていくことが子どもを自立させることだと思います。

 国語力を伸ばすためにお勧めなのは、「読み聞かせ」と「本の世界の体験」を通しての親子の会話です。内容も昔話、童話、自然界、歴史、地理など様々なジャンルを組み合わせると良いでしょう。テレビやゲームの時間には留意し、子どもの関心が本に集中し、読書の楽しさを堪能できるようにします。

 また、できるだけ絵本や本で見たものに実際に触れる機会を作ることが大切です。本の舞台となった場所への旅行、山登りやキャンプを通しての自然観察、四季折々のスポーツ、美術館、観劇などを楽しみましょう。

◎「 バイリンガル教育」は人間力の育成

  皆さんは、言語にはそれぞれ異なる周波数があることをご存知ですか。日本語、英語、中国語ではそれぞれの周波数(日本語125-1500Hz、英語2000-16000Hz、中国語500-3000Hz)が異なります。周波数の違いを聞き取れる能力は、3歳頃までに養われると言われています。

 外国語の習得は、まず幼児期から耳を慣れさせることです。例え言葉の意味がわからなくても、耳を慣らすことには音を聞き取る能力を身につけるという大きな意味があるのです。さまざまな言語を聞かせることが、その後のバイリンガルやトリリンガルになるための財産へとつながるでしょう。

 「バイリンガル教育」は単に言語力をつけることが目的ではなく、社会に出て自立した際の「人間力の育成」だと思います。子どもたちが社会で活躍する20年後には、 今以上にさまざまな人と多言語でコミュニケーションをとる能力が重要となるでしょう。 コミュニケーションできることによって職業選択の幅が広がり、生活基盤の幅も広がります。「バイリンガル教育」とは、つまりどこにいても「生きていける力」であり、それを身につけることこそが「人間力」の育成ではないでしょうか。

 

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