海外生・帰国生へのヒント
Vol.2 報道記者 近藤 明日香 氏 ~報道で世界と日本をつなぐ~

報道記者としての原点

多感な10代には、誰もが「どのような人間でありたいか」を思索しながら社会との糸口を見つけていくものだと思います。私の10代は、机上の勉強にとどまらず全人格的な情操の陶冶を重視してくれた日本の国立小中学校を離れ、父の米国駐在のためにニューヨークのスカースデールという町に移り体験したことが、その後の自分を形成したと感じています。現地校を経て慶應義塾ニューヨーク学院(以下、慶應NY)の一期生として入学したころ、世界ではベルリンの壁の崩壊や湾岸戦争勃発があり、米国内ではバブル期の「強い日本」からくるイメージにより日本企業や日本人への抵抗感を垣間見ることもありました。日本人として自分を見つめる冷静な眼と、自分たちだけ能天気に暮らしているわけにはいかないと焦る気持ちや、社会と乖離せずに何ができるのかという解なき問い、世界で起こっている事象の背景を知りたいという好奇心が常に私の心でうずまいていました。視座を確立しつつあるこの時期にこうした自問にとことん向き合った体験が、その後報道記者に至る私の原点になりました。

慶應NY一期生として集まったのは、アメリカはもとより、アジア、ヨーロッパ、アフリカ、中東など、色々な国で異なる経験をした生徒たちでした。同じ年の日本人でありながらも「価値観が違うからこそ、話し合うと面白い」という前提があり、「これをもっと学び たい」と自由に伝えられる校風がありました。授業の言語も物理は 日本語、生物は英語、公民は日英の両方で習うというように、さまざまな国籍の先生に垣根無く教わっていくユニークなものでした。今でも日本人、外国人と意識せずに人間関係を築くことができているのは、このときの環境が基礎になっていると感じます。

日本への愛情とこだわり

私が大学・院で専攻し、その後報道記者としても専門分野の一つにした「法律」は、各国が目指す社会の方向性や経済活動の枠組みなどに国の姿勢が色濃く反映されます。大学院在学前後には、例えばライブドアや村上ファンドを巡る新たな事象が世間を賑わせ、日本における企業法務への注目が一気に集まりました。また、法律や企業会計基準を巡っては国際的な平準化の流れが強まりました。日本独自に発達させてきた民法や会計制度において、仮に日本の制度の方により優れた点があったとしても、グローバル化に適合せざるを得ない事例が頻出してきたのです。記者としてはその都度、「世界の動きへの対応が遅れることで、日本が損をしてはいけない」という切実な気持ちになったものです。

現在の日課は、まず早朝のうちに欧米各国の動きを確認しながら、オンラインニュースと新聞からシンガポールをはじめとする東 南アジア各国やインドの情報を調べます。何十と送られてくるエコノミストやアナリストからのレポートなどにも目を通したうえで、これら地域の動きを横断的に判断し、その日に起きる新たな展開へと備えたり、日本の読者にも影響がありそうなテーマを選んで情報を発信したりしていきます。政財界で活躍される方々などの取材では、最先端で何が起きているか、その背後にあるしくみや問題点を明らかにしようとします。また、国際的な投資家が日本のどこに価値を見い出し、あるいは他国との相対感からどのように位置付けているかなども伝えていきます。

報道記者として常に心がけていることは、日本の企業や人々に少しでも具体性や大局観がある情報を届けられるように、また日本と日系企業への愛情を込めて情報を伝えるということです。

傍観者でなく当事者であれ

人間は社会的動物なので、世界で生きて行くには知的好奇心が必須です。社会の中で「自分は何をしたいか、どんな役割を果たせるか」という視点で行動する姿勢を、子どものうちから身につけられたら素晴らしいと感じます。つまり、傍観者でなく当事者であるということです。

長期的な展望の中で、その国が現在どのステージにいるのかと考えると、シンガポールや東南アジアは非常に面白い時期にあると言えるでしょう。経済的な側面ばかりではありません。例えばシンガポールでは、経済発展により生活水準や利便性は飛躍的に高まりました。しかしその一方で、急激な社会の変化に迫られて焦燥感や郷愁の念、アイデンティティーの確認欲求なども強まり、それらの表現手段として文学や芸術も深みを増しつつある気がします。建国50年という節目を目前に「本当の幸せとは何だろうか」という迷いや、自分の歴史・ヘリテージへのこだわりが政府の支援・政策と響き合うことで、音楽や演劇・文学・アートフェアなど芸術の分野において、才能のある人々が集結してきたのだと感じます。

東南アジアと日本の関わりには、戦争の歴史と経済発展で恩恵をもたらした過程などの多面性があるので、私は日本人として限りなく謙虚に真摯にありたいと願っています。これらの歴史的社会的背景について深く理解した上で、見識をもってこの地の人々との関係を築きたいと強く思います。アジアの人々が抱いてくれた日本人の勤勉さや、製品・サービスの品質などに対する信頼感などを過去のものとしないため、私たちも日々できることに誠意を尽くす使命があるのではないでしょうか。

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