グローバル教育
IBとは何か 【3】進学編

前回はIBディプロマ履修までに必要な学習とIBディプロマの構成と科目について概説し、スコアの計算の仕方についても説明しました。
 最終回は大学入学のためのスコアの目安、IBディプロマを修了すると得られるメリットとフルIBを履修できず Certificateを取得した生徒の進路についてお話します。

入学時に優遇されるIB ディプロマ修了者

世界ランキングの上位に位置する各国の多くの大学において、入学者に占めるIB ディプロマ修了者数の比率が増加しています。多くの上位大学を擁するアメリカも例外ではありません。アイビーリーグ(※1)の某名門大学のアドミッション担当者は次のように語ります。「近年、アメリカの上位大学の間では、IB ディプロマの高得点取得者の取り合いになっています。彼らのアカデミックスキルはアメリカカリキュラムのAP(※2)修了者より明らかに高い。IBのテストが大学のリサーチ型教育を意識した論述式になっていることが多いので、IB 高得点者が優秀なのは当然でしょう」自らの教育システムに強い自信を持っているアメリカの高等教育の関係者がこういう発言をするのは衝撃的です。

スコアと大学進学の目安

どれくらいのスコアを取れば世界ランキングの上位大学に入学できるのか?という質問をたびたび筆者は受けます。各大学の選考の方針(アドミッションポリシー)はそれぞれ異なり、IB ディプロマのポイントだけでなく他の要素を加味する大学も多いので一概には言えません。また、専攻学部・コースによって入学条件はかなり違います。一般的に、医学、獣医学、法律等は同じ大学でもハードルはきわめて高く設定されているので注意が必要です。

あくまでも目安ですが、世界大学ランキングで見たときの一般的学部・コースの入学基準は以下のようだといわれています。下記のスコアがあれば出願すれば合格する可能性があります。

◎重点評価科目 … Math と専攻分野関連科目

大学のアドミッションオフィス側は、合計のスコアだけでなく、履修した科目の選択と、重点科目のスコアも重要な評価のポイントにします。

Math(数学)は専攻分野にかかわらず(歴史学・文学等直接数学を使わない、純粋人文科学系であっても)最重評価点科目です。数学を学習することで養われる論理性や数学的表現記述力(リテラシー)は『大学進学者がもつべき基礎教養』として国際的に認識されています。

加えて、志望専攻分野の科目をHL(Higher Level)で選択し、Extended Essay はその科目の関連するテーマを選択することが望まれます。何故なら、大学での勉強の興味と目的意識が明確なことを表現できるからです。

(※1) アイビーリーグ:アメリカ東部名門大学。いずれも世界ランキング上位に位置する。Harvard, Yale, Princeton, Cornell, Columbia, Pennsylvania, Dartmouth, Brown の8大学をさす。

(※2) AP(Advanced Placement):アメリカカリキュラムの成績優秀者が履修する大学教養課程レベルの授業単位。

IB ディプロマ修了者のメリット

◎大学一年履修の基礎科目の免除と早期卒業

各国の多くの大学では、HL で一定以上の成績(一般的には5 か6 以上)を収めた科目に関しては、関連の基礎科目を免除しています。実際にはIB の科目がそのまま大学の卒業単位として認定されることになります。これにより一部の専門科目は1年次から履修を開始、卒業年限より早く卒業することが可能になります。(残念ながら日本では、IB科目の大学での単位認定は文部科学省が認めていません)

◎学部での奨学金の受給(就職にも有利)

一般的に、学部レベルでの奨学金は少ないのですが、IBディプロマを取得して入学した学生が奨学金を受給する例は多くあります。特にカナダではIB ディプロマ取得者対象の奨学金を制度として整備している大学が多く、大きな特典となっています。学部レベルの奨学金は、学生にとって経済面のメリットだけでなく、『優秀な学生としてのお墨付き』となるため就職時に極めて有利な材料になります。

下記カナダのブリティッシュコロンビア州の大学の実例を挙げます。

(※3) QS 世界大学ランキング:Quacquarelli Symonds 社が毎年発表する世界で定評のある大学ランキング。

サーティフィケイト 取得者にとっての海外上位大学への道

「インター校歴が短い」「科目によって好き嫌いが多い」その他の理由でディプロマが取得できない学生にとって、6教科ではなく、1 ~ 3 教科程度IB を履修すると単位取得証明としてのサーティフィケイトが取れるという制度があります。多くのインター校の場合、これらIB の科目を、その学校独自のハイスクールディプロマの単位の一部として扱い、卒業単位として換算しています。HL の科目を取得すればアメリカカリキュラムのAP と同等の評価を受けます。

「フルディプロマを取得できなかったので上位大学の入学基準に届かない」「TOEFL のスコアが足らない」こうした学生もあきらめることはありません。海外上位大学に入学するPathway の制度があるからです。一番有名なのがオーストラリアのファウンデーションコースです。大学入学前に約1 年間規定の科目を履修し、一定の成績を取得すれば入学が保証されます。留学生の多くが大学で必要な様々な学習スキルと基礎科目の知識をファウンデーションコースで身につけてから大学に入学し、その多くは優秀な成績を取得し卒業していきます。直接大学入学の場合と比較して卒業するまで1年余分にかかりますが、卒業すれば学士の資格は全く同じです。

世界のステージで活躍するためにチャレンジしましょう

IB はなかなかレベルが高く大変なカリキュラムです。ディプロマを取得し、世界ランキングの上位大学へ進学した多くの学生が「大学の勉強のほうが、ある意味で楽です」と語っています。これは2年間のディプロマの課程で相当鍛えられた証拠です。

「苦しかったけどやって良かった」とも…。「何故?」と尋ねると「ものの考えかたや表現の仕方を教わった」「日本人としてのアイデンティティを意識した」「科目だけでなくExtended Essay, TOK, CAS が良かった」等の答えが返ってきます。

たとえ、フルデイプロマが取得できず、サーティフィケイト取得に終わっても、IB のカリキュラムを勉強することは決して無駄ではありません。特定の教科だけでも世界標準のレベルに届いたことを意味するからです。当然この学習は大学入学後の勉強に大きく役立ちます。

本稿が皆さんの参考になり、一人でも多くの生徒さんが世界のステージを目指して頑張っていただければ筆者にとって望外の幸せです。

(終わり)

提供:World Creative Education Group CEO 後藤敏夫さん

(※3) QS 世界大学ランキング:Quacquarelli Symonds 社が毎年発表する世界で定評のある大学ランキング。

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