海外生・帰国生へのヒント
Yale University 1年 磯崎 ちひろ さん「シンガポールで育まれたもの」

シンガポールでの学校生活

 私は10年前、Grade 3の時に5年間のアメリカ生活を終えてシンガポールに移って来ました。アメリカよりもずっと食べ物がおいしく、毎日プールに入ることも出来るし、すぐにシンガポールは大好きになりました。学校は父がUWCSEAに決めました。文化の多様性を重視し、それぞれの国の文化を尊重している考え方に共感したからです。

 日本の学校や塾には通った事がなかったため、日本語を集中して学習する機会がありませんでしたが、9 年生になったときから、UWCSEAのIGCSE(英国のSecondary Schoolのプログラム)の科目の一つとしてNative Speakerのための日本語を選択し、学内で日本語学習を始めました。メイン校で日本語学習をすることができるようになったことは、本当に嬉しいことでした。G11,12のIBでも第一言語としての日本語(A1 Japanese)を選択しました。日本文学を学ぶ授業を選択したことで、単に日本語を学ぶというよりは、日本語で文学を楽しむことができたので、私に新しい境地を開いてくれたように思います。

 学校生活は机上の学習だけでなく、器械体操・歌・ピアノ等の課外活動や、様々なボランティア活動、社会問題を考える活動に積極的に取り組みました。

 UWCSEAのDover校が所属するRound Square(世界から60校以上が参加し、高校生として世界の様々な問題を知り、その問題を解決するためにどうすればよいかを考えるグループ)の世界会議にG10で参加し、G11,12の2年間は学校代表として、地球温暖化対策について考える機会を作ったのはとても良い経験となりました。また、Global Concernという世界にある様々な問題について考える生徒主催のグループ活動では、私はCatalyst GCというグループのリーダーとして、UWCSEA内で初めて原爆展を開催しました。原子爆弾の恐ろしさを伝え、もし核戦争が起これば地球はどうなってしまうか、もしシンガポールに原子爆弾が投下されたらどうなるのかを知らせる展示を作り、講義をすることで、学生たちへの啓蒙を図りました。この活動については、Peace Boatの「旅と平和のエッセイコンテスト」で大賞をいただきました。

 

卒業式の写真

 

 学外でも2010年にシンガポールで開催されたYouth Olympicでは通訳として活動したり、2011年にシンガポール政府が開催したWater Week ConferenceのLiaison Officerとして会議開催準備を手伝ったのも大変有意義な活動でした。

 これらの活動では、インターナショナル校に通うことで疎遠になりがちなシンガポールの現地の人達との交流やシンガポール政府との結びつきができ、大変良い経験になったと思います。

 私の高校生活はボランティア活動や課外活動にささげたと言っても過言ではありません。リーダーとして活動する中で大変なこともありましたが、仲間たちと色々なことに取り組んだことで友人の幅が広がり、生涯の友人に巡り合えたと感じています。

IBと大学生活

 G11になるまでは特にIBを意識したことはありませんでした。特別な対策はせず、G11になってから学校の授業に沿って学習しました。

 選択した科目はEnglish A1 Higher ・Psychology Higher・Biology Higher・Japanese A1 Standard・Math Standard・History Standard です。

 Yale大学に決めた理由は、大学院生だけではなく、学部生も研究に携わることができるという点に魅かれたからです。心理学に興味があるので、実際に学部生時代から研究できるかどうかは大きな違いだと考えました。Art系(音楽、歴史、文学等)に強い大学であることも、大きな魅力でした。

 

 大学の仲間との写真

 

 現在の大学生活は、とても忙しいです。初めての寮生活や10年ぶりの季節の有る生活は、沈んだ気持ちになる時もあります。しかし多くの友人に恵まれ、毎日が本当に楽しく、この大学を選んで良かったと実感しています。

 大学の授業内容は、IBをこなしてきた生徒にとっては、すでにその準備ができているので、大した苦労もなく授業を楽しんでいます。素晴らしい仲間に恵まれ、授業だけでなく、図書館で一緒に勉強し、常にいろいろなディスカッションをしながら課題に取り組んでいます。

 学内では、世界的な著名人が講演するイベントも盛んに行われており、大変刺激的です。これまでに俳優のMorgan FreemanやNew York TimesのジャーナリストであるThomas Friedman、シェフのRene Redzepi、そして作家のJodi Picoult の講演会を聞きました。毎日わくわくしながら、大変貴重な経験をしています。

 学ぶことが多い毎日を送る中で、私の夢は広がり続けており、就きたい職業はまだ決まっていません。今後の大学生活の中で模索したいと思っています。

シンガポール生活を振り返って

 どの思い出を振り返っても、楽しかったことを思い出しますが、多種多様な文化の中で、自分の価値観が何なのか見つけられず葛藤していたこともありました。私の持つ価値観が、一体どこから来ているのか、自分の住む社会のものなのか、親の属する社会のものなのか、自分自身の考え方なのか、ということが分からないでおり、実態の伴わない、バブルの中で生きているような生活は、時に窮屈でした。

 しかし、今、自分ひとりで行動するようになり、「自分」を発見することができ、自分の価値観と社会の価値観との接点がようやく分かるようになったと感じています。

シンガポールのみなさんへ

 どんなに海外生活が長くなっても、「日本人」であることを棄てないでほしいと思います。

 海外に住み続ければ、日本人としての意見を求められ、「あなたの国、日本ではどうなのか?」と聞かれる機会も増えてくると思います。その時、日本人として、また日本の代表としてしっかりと答えられるようにしておくことは、とても大切だと思います。

 シンガポールでの経験が役立つ時が必ず来ると思うので、人生の大切な時期だと考え、色々なことに挑戦し、冒険してほしいと思います。

お母様より

 「小さい子はすぐに英語を覚えるなんていうのは嘘だからね」という言葉を、日本を出る前、先輩ご夫妻から聞かされてアメリカに旅立ったのが、今から約15年前のことでした。当時3歳になったばかりの娘は、ミッキーマウスに会いに行こうという親の言葉を信じてついて来たものの、英語がわからず日本に帰る、と夜泣きした日もありました。そんな経験を経てきたことに比べると、シンガポールでの生活は、最初から楽でした。

 UWCSEA では、振り返ると楽しかったことばかり思い出されます。学習面でも大変なことはあったのでしょうが、IB Diploma及びBilingual Diploma を取得できたことは、本人にとって、とても大きな達成感となっていると信じています。世界中から優秀な学生が集まるIvy League の中に入っても、怖気づくことなく、自分を表現していくことが出来るのも、常に多くを求めるIB を乗り越えた成果ではないかと思っています。

『海外生の今』バックナンバー
https://spring-js.com/global/global02/kaigaisei/

※本文は2012年1月20日現在の情報です。

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