グローバル教育
「幼児期のバイリンガル教育」を考える vol.1

シンガポールでは幼児期から日本語、英語、中国語でのさまざまな教育の機会があります。この充実した多言語環境の中で「子どもをバイリンガルにしたい」と願う親御さんは多いことでしょう。しかし、わが子にあった教育を決めることはとても難しい選択です。
 今号より当地の幼児・初等教育の専門家の方々に「幼児期のバイリンガル教育」についてアドバイスをうかがい、シリーズでお届けします。

こどもクラブ 主任 山出亜弓先生

◎「 バイリンガル」とは
単に日本語や英語の日常会話を話せるだけでは「バイリンガル」とは言えません。真の「バイリンガル」とは、ニュースの内容や新聞などが理解でき、仕事でも通用するコミュニケーション能力と深い思考ができる言語能力が備わっていることを言います。これらの力を養うことは決して容易ではありません。

◎ ご家庭の進学方針に合わせた言語環境
〈日本人のお子さまの場合〉
インターナショナルスクールやローカルの幼稚園に通わせることは、幼いころから国際性を体験できるというメリットがあります。これは他者との違いを認める寛容さを身につけるという点では、日本では得難い非常に有意義な体験です。しかしその一方で、言語(母語である日本語)の発達が未完成である時期に多言語の環境にいると、母語の発達の遅れを生じさせることもあり、お子さまによっては大きなストレスになる場合があります。「幼稚園では英語、家庭では日本語」と期待する親御さんは多いですが、お子さまにとっては混乱する可能性がありますので、心のケアには充分注意してあげましょう。

〈ハーフのお子さまの場合〉
「何のために日本語を学んでいるのか」という目的意識を明確にすることが必要です。長期休暇に日本の四季や年間行事を楽しみ、実体験から日本語への興味を持たせることも効果的でしょう。
在星期間が数年でその後日本での進学を考えている場合は、幼児期から小学校の時期こそ日本語を主にした言語環境をおすすめします。言語の基礎を作るだけでなく思考力を高めるためにも大切な時期だからです。諦めず長期的に学習を継続するためには、親御さんのサポートが最も大切だと感じます。

◎ 家庭でのバイリンガル教育
幼児期は学習の基礎を学ぶ時期でもあります。小学生に上がるまでに、学年相当の教材がきちんと理解できるように導いてあげることが大切です。また親子の会話の中でも丁寧な日本語を心掛け、「しとしと」「ざあざあ」という擬音語の違いを本を読むなかで話し合うなど、工夫するようにしましょう。幼稚園年長になったら映像や絵からの情報を少しずつ減らし、文章から想像する力をつけていきましょう。豊富な読書体験は、バイリンガルの礎となる語彙力を継続的に養ってくれるはずです。

いろは幼稚園 園長 山本貴世江先生

◎ 学校選択について
シンガポールにはバイリンガル教育を行う園や学校がたくさんあります。是非、保護者の方が実際に足を運び、ご家庭の教育方針に合う、お子さまにとって適切な環境を選んでいただきたいと思います。
幼児期は基本的な生活習慣を身につける大切な時期です。その時期に通う園は言語のみを習得する場所ではなく、集団生活という環境を体感しながら多面的に学ぶ場所になります。その意味では、集団の中での「コミュニケーション力」と「聞く力」を身につけることが、幼児期におけるバイリンガル教育の中心となるでしょう。
お子さまはまだ自分の言葉だけではうまく表現できないため、保護者が状況を理解しながら的確にサポートすることが重要です。保護者が英語で園や学校のスタッフと意思疎通がはかれることも必要になります。それが難しい場合には、日系の幼稚園や日本語のサポートがある教育機関を選択する方が適していることもあるでしょう。

◎ 帰国後のバイリンガル教育
ご両親が日本人の場合には、幼児期に英語教育を当地で受け、その後日本に帰国される方も多いと思います。幼児期は聞いたことをそのままスポンジのように何でも吸収していける時期ですので、極めて英語環境を受け入れやすい状態といえます。

一般的に、多言語の習得には最低5 ~ 7年かかるといわれていますが、たとえバイリンガル環境で過ごせるのが2~3年だったとしても決して無駄になるというわけではありません。その後ブランクがあったとしても「R」と「L」を聞き分けられるなど、英語のヒアリングや発音は残ると言われています。しかし幼児期は覚えるのも忘れるのも早いので、帰国後はお子さまが英語への興味を持ち続けることができる
よう、積極的に英語に触れる機会を作ったり家庭学習を続けることが、その後のバイリンガル教育の鍵となります。

◎ シンガポールにおけるバイリンガル教育研究会
シンガポールでは、英語を母国語としない子どもたちへの英語教育(ESL: English as a Second Language)や、バイリンガル教育の取り組みを各学校の教師たちが共有する場があり、インター校を中心とした20名以上の専門教師が集まっています。先日オーストラリアンインターナショナルスクールで行われた会合では、日本人生徒のESLに関するケーススタディと効果的なアプローチについて研究発表がされました。バイリンガル教育についてはさまざまな教育法があり、今なお進化しています。 進化するバイリンガル教育を取り入れているシンガポールの園・学校と、保護者も同じ方向性を共有し、家庭でもサポートできればより効果的だと思います。

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