グローバル時代を迎えた今、企業が求める人材、教育とは何でしょうか。企業の人事担当者に聞きました。
電機業界は日本の「モノづくり」を代表する業界だと思います。 御社の歴史について教えてください。
NEC は「日本電気」として 1899 年に創業しました。以来、多くの世 界初の革新的な製品やサービスを開発し、信頼の技術と最適なソ リューションを提供している、国内トップクラスの通信・情報機器の 総合メーカーです。日本におけるパソコンではその黎明期より手がけ、 98 シリーズに代表される日本のパソコン市場をリードし、また創業 事業である通信事業ではさまざまな製品をパイオニアとしてグローバ ルにも展開し、通信事業、半導体 IC(電子デバイス)および IT サービ スの 3 つを主力事業としてきました。
シンガポールでは 1971 年にビジネスを始め、1977 年に現在の NEC Asia Pacific の前身である、NEC シンガポールを設立、2010 年に東南 アジア、南アジア、オセアニア地域の事業を統括する会社になりまし た。現在シンガポールのオフィスでは、およそ 10 カ国の国籍のスタッ フが働いています。
NEC は Computer & Communication(以下 C&C)つまり「コンピュー ターと通信の融合」を世界に先駆けて提唱しました。それ以来、IT と ネットワークの両事業に注力し、両分野における革新的なグローバル リーダーを目指し活動をしています。
この企業理念は今から 40 年以上前に、当時の社長が発表したもの です。現在多くの人に利用されている「スマートフォン」はまさにそ の発想そのものです。人々がネットワークでつながることにより、手 の中に納まる電話機で世界中からの情報入手等いろいろなことが可能 になる、と 40 年前に考えていた人はほとんどいなかったでしょう。
現在の売り上げはおよそ 3 兆 1 千億円です。一時は国内のパソコン シェアが 60%ほどあり、グローバルに PC や携帯を扱っていて売り上 げは 5 兆円くらいあったので、それからするとビジネス規模がだいぶ 小さくなってしまいました。また新しい成長を見つけていかなければ なりません。ご存知の通り、電機業界は韓国企業など外国メーカーの 勢いに押され大変厳しくなりました。
弊社が手掛ける事業内容は「宇宙から海底まで」多岐にわたってい ます。例えば、人工衛星の分野では、日本では約 2 社が携わっている 中の 1 社です。2010 年に 7 年ぶりの地球帰還を果たした小惑星探査機 「はやぶさ」は、弊社が宇宙航空研究開発機構(JAXA)の指導の下で、 トータルシステムの開発や製造、試験および運用に深く携わり、数々 の世界初の快挙を成し遂げました。絶対に壊れず、何万キロも離れた ところからコントロールできる精緻な製品を作る技術が求められまし た。
「海底ケーブル」では 30 年以上の実績を持ち、世界シェアは第 3 位 でアジア太平洋地域ではトップです。「海底ケーブル」とは、海底の中 にある光ファイバーケーブルのことで、従来使われていた人工衛星に 比べて、超高速に情報をやり取りできるインフラとして、インターネッ トや電話の通信を可能にしているものです。数千メートルの海底に沈 めるため修理は困難ですから、長期間正常に稼働し続けることが絶対 条件となり、非常に高い技術力が求められます。
御社が求める人材は。また、グローバル人材をどのように育成しますか。
まずは「優秀な」エンジニアが大切だと考えています。「優秀な」と いうのは、学校の成績がよい人ということではありません。パイオニ ア精神を持って、いろいろな領域に面白がって挑戦し、入り込める人 を求めています。 採用の基準は、出身校に関わらず「挑戦心を持ってクリエイティブ に活動できる人」かどうかです。海外の大学を卒業している日本人の 採用ももちろんあるでしょう。期待するのはグローバルという点で、 社長の遠藤も「グローバルファースト」と、グローバル事業を拡大し なくてはならないと常に強調しています。現在、全世界に 11 万人の グループ企業の社員がいます。NEC 単独でも約 2 万 4 千人いますが外 国籍のスタッフは約1%と、まだまだ少ないのが現状です。
弊社のグローバルの売上は、全社売上のうち 20%弱と、比率はそ んなに多くないため、今後はグローバルの売上を更に伸ばさなくては いけません。 国や地域、組織といった「枠」を超えた積極的な活動を展開し、世 界のマーケットに貢献することができ、グローバルに挑戦してくれる 人が求められています。以前は日本人中心の体制ができあがっていま したので、社長や重要ポストはすべて日本人でした。しかし、現在は それらのポストもローカルスタッフになってきています。今後は外国 籍のスタッフを、日本国内でも増やしていくつもりです。 現在私が見ているのはアジア太平洋地域(インドからニュージーラ ンドまで)ですが、採用条件に国籍や宗教はまったく関係ありません。 そのポストに最もふさわしい人を入れるだけの話です。以前は、それ はイコール「日本人」でしたが、今はそのような考え方はせず、あく まで「能力第一」です。
弊社は 08 年度から「Global Track to Innovator」(通称 GTI 研修)とい う名称で、新たなグローバル人材育成に向けた取り組みを始めました。 入社数年目の若手の社員をできる限り早期に海外に派遣し、現地で業 務経験を積むという画期的なプログラムです。現地の職場では、派遣 された社員が唯一の日本人ということもあります。できるだけ若いうちに外国人のボスのもとで働くという経験をしてほしいと思います。 自分なりのビジネス流儀が固まってしまう前に、日本人とは違う視点 で自分を評価される経験が非常に重要です。実際の現場で困難な場面 を乗り越えることで、NEC の海外事業拡大を担う「真のグローバル人 材」として成長する姿を楽しみにしています。
御社は90年代、既に女性を人事部長に抜擢するなど、女性の登 用に積極的だと伺いました。
現在、日本では全社員に占める女性の割合は 18%で、その内管理 職は 366 人(2%)、管理職にしめる女性の割合は 5%と、まだまだ低 く課題といえます。それに比べますとアジアでは女性の登用は進んで います。また彼女たちの「プロ意識」はとても強く、出産の時でさえも、 自分のキャリアに傷がつき仕事がなくなるかもしれないから、と生ま れる直前まで働き、出産後も早く復帰する人が多く驚かされます。
IMF の提言で「女性の進出が進めば日本の景気が良くなる」とあっ た通り、女性の活躍の場は広げるべきだと思います。日本で会議に出 て驚くのは、女性が一人も出席していない場合があるということです。 当地で 20 人くらいの会議を行うと 7~8 人は女性ですが、日本ではま だそうはいきません。今後は、より働きやすい環境を提供して、女性 の活躍を更に広げたいと思っています。
日本人が海外から学ぶべき点は何でしょうか。
たくさんありますが、例えば海外の「プロジェクトマネージャー」 は相手との「違い」を認めながら仕事を進めるのが上手だと感じます。 日本の中で純粋培養されてきた人は、相手の意見を認めたがらない傾 向やフレキシブルに対応できない傾向が見られることがあります。い ろいろな国の人と働く場合は自分の考えを露骨に押し付けるのではな く、お互いの違いを素直に認めることが大切でしょう。
日本人が会議で黙っていることが多いのも気になります。外国人ス タッフはよく発言するのに対し、日本人は黙っている場合が多いよう です。会議の間まったく発言せず、終わってから私にこっそり意見を 伝えてくる場合があります。議論に参加して意見を伝え、「言葉で」相 手を納得させようと努力することが少ないと感じます。これは学歴に 関係なく共通に言えることですから、日本の教育の問題でしょうね。
責任の所在が明確でないことも問題だと思います。日本ではいろい ろな部門が絡むため、最終的に誰の責任か分からず曖昧なことが多い ようです。「組織プレー」と言えばそれまでですが、成功したときはみ んなで喜び、失敗したときは、私の責任ではないと消えていくケース が多い。そこは日本型ビジネスの悪いところだと感じます。他の国の ように一人一人の責任が明確で、決断とアクションが速い点はぜひ見 習うべきでしょう。
日本の教育では御社が求める「パイオニア精神」が養われにくい と聞きますが、その精神を養うアドバイスをお願いします。
日本では、親の「過保護」が問題だと思います。自分で痛い思いを すれば分かることも、やらせなければいつまでも分かりません。子ど もの自立を促し、きちんとした考えのもとで子どもを育てていかない といけないのではないでしょうか。時にはあえて痛い思いをさせるこ とも必要でしょう。
学校の運動会で順位を付けないという話も聞きますが、その時点で 間違っていると思います。昔は学校の成績も廊下に張り出されたもの でした。他者との比較を恐れるのでなく、人には向き不向きがあると 理解し、本当に適性や能力がある分野で力を発揮できるよう、伸ばし てあげれば良いと思います。
実際に私も文系で NEC に入りましたが、途中からエンジニアに転向 しました。自分ができることを決めすぎず、新たな分野に挑戦する心 意気を持ち続けて欲しいです。特に海外では、日本なら 10 人で担当 していたことを一人で担当する場面も多くあります。自分の領域を広 げることを意識してほしいと思います。 「敗者とは挑戦して負けた人のことではなく、はじめから挑戦しな い人」だと言います。弊社の中にもそのような雰囲気がありますが、 近頃は安全志向で挑戦することをしない人も増えており、残念に感じ ます。何ごとにも挑戦する「パイオニア精神」を養っていただきたい です。
単身赴任だそうですが、家族への気配りやコミュニケーション で気をつけていることはありますか。
私が海外勤務になったときは、子どもたちもある程度大きかった ため、ずっと単身赴任です。家族といる時間はもちろん短いですが、 離れることによって子どもの成長やお互いのありがたさを再確認でき ます。日本出張などの合間に食事を必ず家族でするなど、中身の濃い 時間を過ごすよう努めています。
日ごろ家族と共に過ごすことができないため、まとまった時間は仕 事とは違う活動に費やすようにしています。写真撮影やフルートに加 え、最近ではチェロを始めました。日本にいたらまとめた時間を趣味 に使うことは難しいでしょうが、海外駐在の独特のストレスを逃がす ためにも自分の時間をうまく使いたいと思います。いくつになっても 親が新しいことに挑戦する姿を見せることは、子どもにとっても良い 影響を与えると思います。
日本人ご家族へメッセージをお願いします。
シンガポールは非常に安全できれいなところです。せっかく異文化 の街で暮らすのですから、日本では絶対に得られないことに挑戦して 欲しいと思います。決して日本人だけで固まることなく、シンガポー ル人や当地で働いているいろいろな国の人とのお付き合いを広げてみ てはいかがでしょうか。お子さんと一緒にそのような場に出る機会を 増やし、世の中の「多様性」を若いうちから肌で感じて欲しいと思い ます。
※取材は 2013 年 2 月に行われたものです。