グローバル教育
なぜ「国際バカロレア」なのか | 第1回 入門編

社会が多様化し、子どもの学習環境と学びの目的も変化しています。グローバル人材の育成が課題となる中、日本の教育は十分に対応できていないとの危機感があり、国を挙げてグローバル人材育成のための教育に力が注がれています。そこで注目されているのが、文部科学省が推進する「国際バカロレア (InternationalBaccalaureate、以下IB)」という教育プログラムです。では、なぜ「国際バカロレア」なのでしょうか。Springでは、改めてその内容と、世界中で広がる導入の背景、日本での取り組みをシリーズで探ります。

国際バカロレア(IB)とは

1968年に設立されたスイスに本拠地を置く非営利財団国際バカロレア機構が提供する教育プログラムを言います。外交官の子弟など世界中のインター校に通う子女が他の国に移動後も継続的に学習でき、特定の国の教育政策に偏らない大学進学用の国際統一カリキュラムとして開発されました。3歳から19歳までの児童生徒を対象に、初等教育プログラム「IBPYP」、中等教育プログラム「IBMYP」、大学入学前のディプロマプログラム「IBDP」、キャリア関連教育プログラム「IBCP」の4種類があります。中でも、国際バカロレア・ディプロマプログラム(IBDP)は1960年代に開始され40年以上の長い歴史を持ちます。シンガポールのインター校でも導入が進み、日本でも文部科学省が、2018年までにIBDPを導入する学校を200校まで増やすという数値目標を掲げています。

PYPMYPDP
初等教育(Primary Years Programme)中等教育(Middle Years Programme)大学入学準備課程(Diploma Programme)
3~12歳の児童対象11~16歳の生徒対象16~19歳の生徒対象
6教科(言語、算数、社会、理科、芸術、体育)の横断的テーマを指導8教科(言語A、言語B、人文科学、理科、数学、芸術、体育、テクノロジー)6教科(言語と文学、言語習得、個人と社会、理科、数学、芸術または前述のグループからもう一つの選択科目)
子どもを全人的に育てる高度な学習内容と生きるスキルを養成2年の高度なプログラム

備考:その他、16~19歳の生徒を対象にしたキャリア学習課程としてCPがある。日本でのCP認定校はない

IBを学ぶお子さんの保護者に聞きました。

PYPMYPDP
小学4年生 女の子の母 Aさん中学1年生 男の子の母 Bさん高校2年生 女の子の母 Cさん
★教科の壁を越えて一元的に学ぶ
★「日本」についての理解を促す良い機会に
★自分で調べ・考え・まとめる力がつく
★国際問題や社会問題に積極的に取り組む
★クオリティーだけでなくスピードも
★成功や失敗など色々な体験を
理科や社会、音楽、美術など教科の壁を越えて一元的に学べるのが良い点だと思います。毎年同じ6つのテーマで学習しますが、前年までに学習した内容をベースに、広範囲に深く掘り下げる学習方法も面白いです。また、毎年必ず自分のアイデンティティーを確認し他国、他者との比較をする授業があり、日頃は学習する機会がない「日本」についての理解を促す良い機会になっています。教科ごとに学習を掘り下げていく感じがします。しかし各教科が完全に独立しているわけではなく、ユニットを通して横の連携もPYPと同様に保たれているようです。暗記中心の勉強とは違い、子どもたちが自分で調べ・考え・まとめる授業が多いと思います。また国際問題や社会問題にも積極的に取り組んでいるようで、世界を身近に感じているようです。YP、MYPを通して習得してきた探求型学習の総仕上げだと思います。選択する教科やレベルは、進学したい大学や将来の目標、ビジョンにあわせて子ども自身が決めました。また提出するリポートは、クオリティーだけでなくスピードも要求されるので、思った以上に大変なようです。目的意識を持ち自ら道を切り開き前に進んでいる大事な時期だからこそ、DP取得の過程で成功や失敗など色々な体験をしてほしいと思っています。

■国際バカロレア(IB)とは~国際統一カリキュラム~

グローバル化が進む昨今、国境という垣根を超えて頻繁に移動する駐在家族がかつてないほど増えています。また、一国にいたとしても世界共通の学びの土台が必要とされるようになっています。IBとは、まさにその時代のニーズに応え、グローバル化した21世紀を生き抜く力を育み「平和でより良い世界を目指す」という教育理念に基づいたプログラムです。特にIBDPは特定の国の教育政策に偏らない国際統一カリキュラムとして、世界各国の大学への進学準備として高い評価を得ており、40年以上の長い歴史を経て常に改善を繰り返してきました。今後も世界の潮流に合わせて、より良い学びを提供するために、枠組みとカリキュラムは柔軟に変化していくことでしょう。

■日本での展開~2018年までに200校を目指す~

2018年までにIBDPを実施する学校を200校とする日本の数値目標は、世界初で最大規模の政府主導の取り組みとなるでしょう。シンガポールでは、インターナショナルスクールを中心にIBが導入されていますが、米・加・豪など、既に公立校での導入が進んでいる国もあります。日本でも、インター校に限らず一般の学校で広く導入が進むことは非常に意義のあることであり、その取り組みがアジア諸国の国際教育を牽引することになるでしょう。日本企業ではグローバルで活躍できる人材がますます求められ、外国人を採用する動きが加速しています。しかしその一方で、日本人が世界のトップ大学に進学する絶対数は非常に少ない状況です。日本政府が目指す「国際的人材を創出する」ための打開策として、IBの導入が促進されているのです。既に、かつてない規模でIBの詳細情報は日本語で公開され、この夏は国際バカロレア機構主催のセミナーが全国各地で開催されます。また、2017年には、「IBアジア太平洋地区年次総会」および「IB代表者世界会議」の日本開催が検討されています。実現したあかつきには、世界中から2,000名のIB校代表者などが日本で一堂に会することになります。日本にとっては教育分野でのアジア太平洋地域の拠点として更に注目されることでしょう。

※国際バカロレア機構のウェブサイトでは、日本語によるIBに関する情報が随時公開されている。
http://www.ibo.org/en/about-the-ib/the-ib-by-region/ib-asia-pacific/information-for-schools-in-japan/

■日本語IBDPとは~日本語が指導言語に~

2013年、国際バカロレア機構および文部科学省は日本におけるIB普及促進のため、従来は指導言語とされていなかった日本語の使用を認め、二カ国語(英語・日本語)によるIBDPの開発に関する共同プロジェクトを開始することを発表しました。現状ではIBDPの6科目のうち、2科目は英語、4科目は日本語で履修することが可能です。


■IBDP修了者としての実感

私自身がシンガポールでIBDPを修了しているので、IBの学習アプローチが優れている点を実感してきました。どの過程でも、学習の出発点は「自分のルーツ」である国や文化や母語を重視する視点から始まります。まずは自分のアイデンティティーを知り、他国や異文化に目を向け比較していくことが、IBでは重要な意味を持ちます。地球規模の発想が必要な時代になっているからこそ、このアプローチが大学や社会で評価されています。例えば、テクノロジー産業を想像してください。テクノロジーが誕生するのは日本であっても、その機器を製造するために、部品は中国で作られ、半導体はシンガポール、更に営業戦略は韓国で立てられ、実際に売るのは米国市場といった例が沢山あるはずです。新しい技術・サービスを創造し世界に広げるには、世界各国の人々との直接的なつながりと協働作業なくしては成立しません。生まれ育った環境が違うもの同士が、一つの目標に向かってチームワークを築く術は、IBであれば習得できることだと思います。


日本語で指導可能な対象科目

経済、歴史、生物、化学、物理・数学、知の理論(TOK)、課題論文(ExtendedEssay)および創造性/活動/奉仕※(CAS)

※IBDPでは6教科群からそれぞれ一教科ずつ選択する一方、課題論文(ExtendedEssay)、知の理論(TOK)、150時間以上の自発的な創造性/活動/奉仕(CAS)活動への参加が求められる。

この日本語IBDPの拡大は世界でIBDPを履修する学生にも当てはまり、日本以外の国でも、希望すれば同様に日本語でIBDPの試験を受けられるようになります。ただし、大学での受け入れについては、世界各国の大学および学部の判断に委ねられます。

技術の進歩が速く、10年後がどのような世の中でどのような職業があるか分からない現代、子どもたちをいかに導き育てていけば良いのでしょうか。どんな世の中でも生きていける力を養うためには、単に知識を身に付けるだけの教育ではなく、語学力やコミュニケーション能力、論理的思考力を備えた「課題解決能力」を育む必要があります。

日本経済団体連合会の平成25年の提言でも「世界を舞台に活躍できる人づくり」という言葉が明記されたように、日本の産業界でも「課題解決型」のグローバル人材が緊急に求められています。このような人材育成のために日本でも国際バカロレア(以下IB)を推奨し、国内の大学入試においても積極的な活用を促進していきます。

日本のIB認定校

IBプログラムは、PYP(対象:3歳~ 12歳)・MYP(対象:11歳~ 16歳)・DP(対象:16歳~ 19歳)の全てまたはどれか1つのみ導入することも可能です。認定を受けている学校は、現在、世界では4,200校、日本における認定校は以下の34校となっています(そのうち一条校※は12校)。

※学校教育基本法・第一条で定められている、幼稚園・小学校・中学校・高等学校・中等教育学校・特別支援学校・大学・高等専門学校のこと。高等学校の課程を有している一条校を卒業すれば、通常は高校卒業資格が与えられる

学校名PYPMYPDP
仙台育英学園高等学校(宮城県)※  
つくばインターナショナルスクール(茨城県) 
ぐんま国際アカデミー(群馬県)※  
インディア・インターナショナルスクール・イン・ジャパン(東京都)  
カナディアン・インターナショナルスクール(東京都)  
K・インターナショナルスクール(東京都)
清泉インターナショナルスクール(東京都) 
セント・メリーズ・インターナショナルスクール(東京都)  
玉川学園(東京都)※ 
東京インターナショナルスクール(東京都) 
東京学芸大学附属国際中等教育学校(東京都)※ 
東京都立国際高等学校(東京都)※  
神宮前インターナショナルエクスチェンジスクール  
インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢(長野県)※  
サンモール・インターナショナルスクール(神奈川県)  
ホライゾン・ジャパン・インターナショナル・スクール(神奈川県)  
横浜インターナショナルスクール(神奈川県)
加藤学園暁秀高等学校・中学校(静岡県)※ 
名古屋国際学園(愛知県) 
名古屋国際中学校・高等学校(愛知県)※  
京都インターナショナルスクール(京都府)  
同志社国際学院(京都府) 
立命館宇治高等学校(京都府)※  
大阪YMCAインターナショナルスクール(大阪府) 
関西学院大阪インターナショナルスクール(大阪府)
カナディアン・アカデミー(兵庫県) 
関西国際学園(兵庫県)  
神戸ドイツ学院(兵庫県)  
AICJ高等学校(広島県)※  
広島インターナショナルスクール(広島県) 
福岡インターナショナルスクール(福岡県) 
リンデンホールスクール中高学部(福岡県)※  
沖縄インターナショナルスクール(沖縄県)  
沖縄尚学高等学校(沖縄県)※  
合計18校9校25校

※一条校

■IB拡大の背景と教育のグローバル化

日本では、海外で働くビジネスマン・研究職の激増やグローバルビジネスの急速な拡大により、大学教育のみならず中等教育でのグローバル化を強く要請しています。親が世界中どこで働いていても、子弟には「多文化、多民族が混在する多様性の高い環境で、レベルが高いグローバルな教育」が必須になってきました。企業活動、研究活動が国境を超える状況で、国家の枠を超えたグローバルなカリキュラムとして国際バカロレア(IB)への期待が大きくなってきたのも必定と言えるでしょう。

■共通語となった英語(共通語英語+民族語)

グローバル化の進展とともに共通語である英語の使用人口が急増していることも、国際統一カリキュラムとしてのIBDPが拡大している一つの遠因でしょう。2014年時点で英語を第一言語にする人口は約4億人で20年前とほぼ同じです。しかし第二言語として使う人口は約14億人。今後ますます増えるといわれています。しかし、多くの日本人生徒は、第二言語のレベルにさえ達していないのが現状です。この傾向を受けて旧来の英語圏だけではなくヨーロッパ、アジア、南アメリカ、中近東等で大学教育の英語化が急速に進んでいます。日本でも、文部科学省が主導するスーパーグローバル大学創生支援プロジェクトに現在37大学が採択され、授業の英語化、外国人教員と留学生比率の向上等を目標に動き始めています。アジアの一部の発展途上国では、中等教育段階から民族語と共通語としての英語の2言語教育(DLE:DualLingualEducation)が拡大しています。もちろん大学で英語による専門教育が受けられるようにすることが目的です。

■国際バカロレア・ディプロマプログラム(IBDP)はなぜ高く評価され、拡大するのか?評価が高まるIBDPの大きな優位性は次の4点です。

グローバル化の進展とともに共通語である英語の使用人口が急増していることも、国際統一カリキュラムとしてのIBDPが拡大している一つの遠因でしょう。2014年時点で英語を第一言語にする人口は約4億人で20年前とほぼ同じです。しかし第二言語として使う人口は約14億人。今後ますます増えるといわれています。しかし、多くの日本人生徒は、第二言語のレベルにさえ達していないのが現状です。この傾向を受けて旧来の英語圏だけではなくヨーロッパ、アジア、南アメリカ、中近東等で大学教育の英語化が急速に進んでいます。日本でも、文部科学省が主導するスーパーグローバル大学創生支援プロジェクトに現在37大学が採択され、授業の英語化、外国人教員と留学生比率の向上等を目標に動き始めています。アジアの一部の発展途上国では、中等教育段階から民族語と共通語としての英語の2言語教育(DLE:DualLingualEducation)が拡大しています。もちろん大学で英語による専門教育が受けられるようにすることが目的です。

①情報開示と明確で一貫した評価基準

IBのカリキュラムや試験の内容など、ほとんどすべての情報は開示されています。また、最終試験は毎年2回世界一斉に実施されるので極めて公平です。大学の入学者を決める大学アドミッションオフィス担当者にとって、大学進学課程IBDPの公開性は極めて重要です。大学入学希望者を選考する場合、志望者のIBDP履修科目と最終試験の結果にて、学力判定が容易にできます。また、志望者の合否データを集計すれば世界中の大学間のアドミッションポリシーや合格基準の比較ができます。これとは反対のものが、従来の日本の大学入試です。大学ごとの個別性が高く、大学によっては文部省指導要領に準拠しない出題も多いと言えます。

②特定の国家カリキュラムに依拠しないグローバルな内容

特定のイデオロギーや国家の文教政策とは一線を画し、単一の結論、回答を求める手法を取りません。解決の難しいグローバルな課題に対応できる統合的手法をトレーニングする高度な内容が多く、大学進学後のリサーチワークで極めて有効な学習スキルがつくことは、多くのIBDP履修者の大学での結果がそれを実証しています。

③母語(民族語)の尊重とバイリンガルディプロマの高い価値

IBDP履修者は学習言語(英語)と第二言語を学習することになり、IBDPカリキュラムは第二言語では母語(日本人の多くは民族語としての日本語)の学習を推奨しています。母語のリテラシーは自らのアイデンティティーを保持するために必須のスキルという考えに立っているからです。学習言語が英語、日本語が母語の場合、通常EnglishB(外国語レベル)とJapaneseA(母語か同等レベル)を履修する生徒が多いですが、英語の能力が高くEnglish A : Language & Literature と Japanese A(両科目とも母語か同等レベル)を履修、パスするとバイリンガルデイプロマが授与され、評価の高い資格になります。そのため、このバイリンガルディプロマ保持者は就職時にも有利になります。IBは、極めてグローバルな言語教育の考え方に立脚していると言えるでしょう。

④世界の上位大学入学のプラットフォームとしてのIBDP

以上の理由から、年を追うごとにIBDPに対する世界中の大学の評価と認知度が上がっています。グローバルシフトをしている世界大学ランキングの100位くらいまでの大学では、IBDP履修者の合格数が増えています。事実世界各国の上位大学のアドミッションオフィスにとって、入学後好成績を期待できるIBDP高得点者の獲得競争になっています。更に、多くの国の大学では、その国の国家カリキュラム修了者より、IBDP修了者の方が優先される例が多くなっています。グローバル型の上位大学進学のためのプラットフォームとしての地位はすっかり固まったと言えそうです。


取材協力:文部科学省/国際バカロレア機構/ World Creative Education 2015年6月10日現在でのSpring編集部の取材をもとにした情報です。詳細は各関係機関に直接ご確認ください。

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