なぜ「国際バカロレア」なのか
第7回 ディプロマプログラム(DP)
~IBDP振り返り~ 編
※DP : Diploma Programme
前回までの記事はこちら☞
https://spring-js.com/global/global01/iinternational-baccalaureate/
国際バカロレア(IB)についてシリーズでお届けしているこの特集では、以下の内容をお伝えしてきました。
● 第1回 入門編
● 第2回 初等教育プログラム(PYP)編
● 第3回 中等教育プログラム(MYP)編
● 第4回 ディプロマプログラム(DP)~実施校での取り組み~編
● 第5回 ディプロマプログラム(DP)~学習具体例~編
● 第6回 ディプロマプログラム(DP)~IB日本語~編
IBDP編の最後となる今回は、これまでお伝えした内容のまとめと、ディプロマ取得者による体験談をお送りします。

取材協力:五十音順・アルファベット順 〈日本〉 K.インターナショナルスクール(東京)以下、KIST 玉川学園中学部高等部(東京)以下、玉川学園 法政大学国際高等学校(神奈川)以下、法政大学国際高 立命館宇治中学校・高等学校(京都)以下、立命館宇治中高 〈シンガポール〉 Chatworth International School 以下、Chatsworth EtonHouse International School 以下、EtonHouse |
5分でわかる!
国際バカロレアプログラムとは
◆ 国際バカロレアとは?
1968年スイスで設立された国際的な教育プログラムです。平和な世界の実現を目指して、探究心や知識、思いやりに富んだ人間性の育成を目的としています。

◆ 対象年齢は?
● PYP(Primary Years Programme) 初等教育プログラム : 3~12歳
● MYP(Middle Years Programme) 中等教育プログラム : 11~16歳
● DP(Diploma Programme) 大学入学準備課程 : 16~19歳
※その他、16~19歳の生徒を対象としたCP(Carrier Programme)がある。日本では未導入。

◆ なぜ注目されているか?
特定の国の教育課程と違い、どの国でも同じ枠組みで学べることが魅力です。
また、以下の意義があります。
● グローバル人材の育成にふさわしいカリキュラム
● 世界中の大学入試で利用
●「 何を」学ぶではなく「どう」学ぶか
● 日本では、国内大学の国際化と活性化

◆ 日本語の習得方法は?
PYP、MYPではすべての言語(日本語含む)での履修が可能です。
DPでは言語の教科で「日本語」科目を選択することができます。言語教科以外にも「日本語DP」として日本語で履修できる科目もあります。
◆ どこで学べる?
“IB world School”と呼ばれる国際バカロレア機構の認定を受けた学校です。国内外のインターナショナルスクールだけでなく、日本の一条校(学校教育法第1条に制定されている学校)でもIBの認定を受けた学校が増えています。
※詳しくは本特集の最後の学校リストをご覧ください。
IBDPの振り返り
大学入学準備課程 ( Diploma Programme) |
対象:16~19歳対象 |
2年間の高度なプログラム |
◆ ディプロマ取得までの流れ
ディプロマ取得までの流れ
2年間に渡るDPをすべて履修し、外部評価(External Assessment)と内部評価(Internal Assessment)を通じて最終的に評価されます。配点は「6つの教科」の各科目それぞれで7点、「3つのコア科目」で最大3点となっており、45点満点中、原則として24点以上でディプロマ取得可能です。取得にあたっての細かな条件は、国際バカロレア機構ウェブサイトをご覧ください。
国際バカロレア機構:https://www.ibo.org/programmes/diploma-programme
DP認定校で2年間のプログラム 「6つの教科」+「3つのコア科目」 を履修・評価を受ける(内部評価) |
⇓
最終試験 5・11月に実施される 国際バカロレア試験を受験(外部評価) |
⇓
ディプロマ取得 内部評価と外部評価を合算し、原則24点以上で取得 |
IBスコアの配点 | ||
配点 | 合計 | |
グループ ① 言語と文学(母国語) | 7 | 45 |
グループ ② 言語習得(外国語) | 7 | |
グループ ③ 個人と社会 | 7 | |
グループ ④ 理科 | 7 | |
グループ ⑤ 数学 | 7 | |
グループ ⑥ 芸術 | 7 | |
TOK(知の理論)・EE(課題論文)の評価の組み合わせで算出 ※CAS(創造性・活動・奉仕)は必修だが評価対象外 |
3 |
最終試験 (国際バカロレア試験) | |
試験日 | スコア通知 |
5月 | 7月 |
11月 | 翌年1月 |
※日本の一条校の場合は、原則として3年次の11月に実施される試験を受験
◆ DPの科目選択
科目グループ | 主な科目名 |
グループ ① | 言語A「文学」「文学と言語」「文学と演劇」 |
グループ ② | 言語B・初級言語 |
グループ ③ | 歴史・経済・心理学など |
グループ ④ | 生物・化学・物理など |
グループ ⑤ | 解析とアプローチ・応用と解釈 |
グループ ⑥ | 音楽・美術・演劇など |
科目選択のポイント☞
● 6つの教科グループから科目を選択
● 6科目のうち、3科目か4科目をHL(上級レベル)、残りをSL(標準レベル)で履修
● 志望大学で必要とされる科目(HL/SLやスコアの要件)、将来自分の目標に役立つ科目か、事前に調べることが必要
【HL】Higher Level ... 各科目240時間
【SL】Standard Level ... 各科目150時間
◆ 3つのコア科目
6つの教科のほか、EE、TOK、CASの「3つのコア」と呼ばれる必修科目があります。
EE:課題論文 Extended Essay |
関心ある研究分野について個人で研究を行い、その成果を論文にします。 |
TOK:知の理論 Theory of Knowledge |
「知識の本質」について考え、「知識に関する主張」を分析し、知識の構築に関する問いを探求します。 批判的思考を培い、自分なりのものの見方や他人との違いを自覚できるように促します。 |
CAS:創造性・活動・奉仕 Creativity・Activity・Service |
創造的思考を伴う芸術などの活動、身体的活動、無報酬での自発的な交流活動といった「体験的な学習」に取り組みます。 |
Spring編集部が
IBで学んだ卒業生に聞きました。
国内の高校から国立大学へ進学
IBでの学びと経験は私の宝物
田中 ひらりさん
玉川学園中学部高等部 2021年卒業
筑波大学 人間学群 障害科学類
■ 大学受験で利用した入試形式、英語資格などは?
筑波大学は公募制推薦、その他の大学はAO入試、IB入試
■ DPスタート時の海外在住歴や英語力、日本語力は?
海外在住経験はなく、中学から玉川学園でIB MYP※を学び始めました。授業はほぼ英語で行われるため、はじめはついていくことに必死でしたが、3年目ぐらいからだんだんと英語を自由に使えるようになりました。
※IB MYP(Middle Years Programme):IBの中等教育プログラム
■ 科目は何を選択しましたか?
日本語A【HL】、英語B【HL】 、歴史【HL】、生物【SL】 、数学【SL】、フィルム※ 【SL】 ※映像を活用した学習 |
複数の大学の募集要項を確認し、歴史 HL、 生物SL を選択しました。
数学は最終的なIBスコアを考慮し、スコアが取りやすいMath Studies※を選びました。※2019年まで「グループ5数学」にあった科目。
またIBの特徴として、「3つのコア科目」があります。私はCASで老人ホームの訪問やダウン症や視覚障害がある人のサポート、また手話を習う過程で障害のある人の生活を目の当たりにしました。それがきっかけで「障害がある人のことをよく理解し、彼らがストレスなく生活できる社会」を実現させたいと考えるようになりました。
現在、大学で「障害科学類」を学んでいます。IBで学んだことで、勉強に対する姿勢やグローバルな視点、疑問を持つ癖や考え抜く力を得ることができ、その学びと経験は私の宝物となりました。
国内の高校から国立大学へ進学
志望先の出願要件に沿って科目を選択
山田 海矢さん
法政大学国際高等学校 2022年3月卒業
北海道大学・総合教育学部 理系
■ 大学受験で利用した入試形式、英語資格などは?
国際総合入試(IBスコアを利用)
■ DPスタート時の海外在住歴や英語力、日本語力は?
高校に入学する前、マレーシアに3年とポーランドにも3年弱住んでいました。英検準一級を取得していましたが、文法などを詳しく勉 強した経験がなく、長文を書くことは苦手でした。日本語についてはそれまで国語の授業を受けたことがなく、授業についていけるか不安でしたが、幼い頃から読書は好きだったので、平均以上の力はあったと思います。
■ 科目は何を選択しましたか?
日本語A【HL】、英語B【HL】 、歴史【HL】、生物【HL】 、化学【SL】、数学 解析とアプローチ【HL】 |
科目を選択する時点で国内大学への進学を志望していたので、募集要項を確認しながら出願要件に沿うよう、理系科目を積極的に履修しました。
また歴史が好きだったので、HLを選びました。志望先により科目が制約されることはありますが、最終的には自分が学びたいことを学ぶ方が、意欲的に学習できると思います。
国内の高校から私立大学へ進学
「自分が得意な科目」を深く学ぶ
手柴 若菜さん
立命館宇治中学校高等学校 2021年3月卒業
早稲田大学国際教養学部
■ 大学受験で利用した入試形式、英語資格などは?
総合型選抜(AO入試)
早稲田大学は「国内選考(日本の高校卒業資格)」「国外選考(IBスコアを利用)」の両方を受験(「国内選考」ではIBスコアでなく、英語の論文とTOEFLスコアを提出)
■ DPスタート時の海外在住歴や英語力、日本語力は?
小学校6年間をオーストラリアで過ごし、立命館宇治中学校に入学 しました。英語・数学・理科・社会を英語で学ぶコースに入り英語力は 維持できましたが、日本語力は、書く能力や読解力が弱く、学習にお いては英語の方が得意でした。
■ 科目は何を選択しましたか?
英語A【HL】、日本語B【HL】 、ビジネスと経営【HL】、経済【SL】、生物【SL】 、数学【SL】 |
苦手だった理系科目をSLで、得意だった文系科目をHLで選びました。「自分に何が合っているか」を考えたことで、好きなことや得意なことを深く学ぶことができました。
国内の高校(インターナショナルスクール)から国立大学へ進学
理系志望のため、HLは理系科目を中心に履修
M.I さん
K.インターナショナルスクール 卒業
国立大学 医学部
■ 大学受験で利用した入試形式、英語資格などは?
IB入試
■ DPスタート時の海外在住歴や英語力、日本語力は?
2歳からG10まで海外で暮らしました。英語力はネイティブレベルで、日本語は少し苦手でした。中学生レベルの日本語力だったと思います。
■ 科目は何を選択しましたか?
英語A【HL】、日本語B【HL】 、経済【SL】、生物【HL】 、化学【SL】、数学解析とアプローチ【HL】 |
理系を目指していたので、可能な限り理系科目をHLで取りました。
海外の高校(シンガポールのインター校)から海外大学へ進学
自分の言葉でアウトプットすることが大切
村形 ひかりさん
Chatsworth International School 2019年卒業
オーストラリアのモナシュ大学 心理学とビジネス専攻
■ 大学受験で利用した入試形式、英語資格などは?
IBを利用した総合選抜とIELTS
■ DPスタート時の海外在住歴や英語力、日本語力は?
中学2年生のときからシンガポールに住み、そのまま高校を卒業しました。当初は、教科書を読むことにも苦労し、授業の半分ほどしか理解できていませんでしたが、英語を日本語に翻訳して読むようにした結果、徐々に英語だけでも理解ができるようになりました。
■ 科目は何を選択しましたか?
日本語A【SL】、英語B【HL】 、経済【SL】、地理【SL】 、生物【SL】、数学 Math Studies 【SL】 ※IBディプロマではなく、IBコースを履修 |
比較的得意な教科と、興味のある分野を選択しました。
◆ 特に苦労したことは?
タイムマネージメントです。課題が溜まると焦りから思考が鈍るため、課題が出たらすぐに目を通し、どれくらい時間がかかるかを推測しスケジュールを立てることを大切にしました。精神的にも肉体的にも大変でしたが、自分がこれほど成長するとは当初は考えもしなかったです。これからも学ぶ意欲は尽きないと思います。 (玉川学園 田中さん) |
自分の言葉でアウトプットすることです。ほとんどの問題を記述で答えなくてはならないのですが、英語力がまだ乏しかったため、模範回答や教科書で使われている英語の真似をするなど、たくさん練習をしました。日本語 Aの科目は過去問も少なく、自習で学ぶSSST※だったので、受験対策が大変でした。 ※SSST(School-Support Self-taught):母語を指導できる先生がいない場合、 学校のサポートを受けながら、自習し履修できる制度(ただしSLでの取得のみ) (Chatsworth 村形さん) |
毎日継続して勉強することが難しく、苦労しました。試験に向けて満足のいく準備ができないこともあり、余裕をもってスケジュールを立てるべきだったと後悔しました。特にコロナ禍で3年生のはじめからオンライン授業となり、普段以上に自主的に勉強することが求められましたが切り替えが上手くできず、通常授業に戻った時は元の学習リズムに戻すのにも苦労しました。 (立命館宇治高 手柴さん) |
IBDPが始まると、急に勉強量やテストの回数が増えたので戸惑いました。生活時間の配分や勉強のペースを掴むのに苦労しました。特に化学や生物のIA※の実験では失敗の連続だったので、先生方に多くのサポートをいただきながら乗り越えることができました。 ※IA(内部評価:Internal Assessment):学校の先生による評価。IBに指名された学校外の採点官による評価はEA(外部評価:External Assessment)(KIST M.I さん) |
タイムマネージメントです。高3でEEやIAと最終試験の勉強が重なった時は、余裕を持ったスケジュールを計画しましたが思うように進めることができず、睡眠時間が3時間という日が1ヵ月ほど続きました。この体験から、いかにスケジュール管理が重要であるかを学びました。 (法政大学国際高 山田さん) |

◆ 学校以外で、一日にどのくらい勉強しましたか?
平日は5時間、土日は予定が無い日は一日中、テスト期間はそれに加えて朝4時に起きて取り組んでいました。 (玉川学園 田中さん) |
夜中の3~4時まで勉強する日もあれば、家でまったくやらない日もありましたが、試験前や課題の提出期限前は、普段の倍以上勉強していました。家ではあまり集中できないので、できる限り放課後学校に残って勉強するようにしていました。 (立命館宇治高 手柴さん) |
高1では1~3時間、高2で3~5時間、 高3は6~8時間程度です。(法政大学国際高 山田さん) |
平日は平均3~5時間、週末は5~8 時間です。(KIST M.Iさん) |
平日は毎日、朝2時間、放課後6時間 程度、休日は、12 時間程度です。 (Chatsworth 村形さん) |
◆ 塾などで対策しましたか?
数学を日本語で習っていました。TOEFL講座にも通っており、 そこでのライティングの授業が役に立ちました。(玉川学園 田中さん) |
特に利用していませんでした。高校の先生と生徒の距離が近く、わからないことがあったらすぐに聞くことができた上、出願時など手厚くサポートしていただきました。 (立命館宇治高 手柴さん) |
週に1~3回、1~3時間ほど。Biologyは英語で教えてくれる家庭教師と、Economicsはオンラインの日本語と英語が話せるチューターを活用しました。学校は進みが早いことが多かったため、自分のペースで進めてくれる先生がいることで、安心感が湧きました。(Chatsworth 村形さん) |
特にしていません。授業以外の時間に補習として先生方のサポートを受けました。(法政大学国際高 山田さん) |
外部の塾などは利用せず、学校の「家庭教師制度」を利用して苦手科目を勉強しました。(KIST M.Iさん) |

ディプロマを履修中の生徒にも聞きました
言葉の壁に苦労しながらも、海外大学進学を目指す
黒木 葵さん
EtonHouse International Schoolに在学 Year12(2023年卒業予定)
英語力の強化やさまざまなバックグラウンドを持つ人々と学び、広い視野を身につけたいという思いから、海外大学・理系への進学を志望
■ 科目は何を選択していますか?
日本語A【SL】、英語B【SL】 、ビジネスと経営【HL】、環境システムと社会【SL】 、物理【HL】、数学【HL】 |
どの科目をHLにするかは「得意であり、大学進学に有利」となるこ と、さらに、今までまったく触れたことのない科目であることを理由に 決めました。
■ 特に苦労していることは?
やはり言語の壁です。中学校で学んだ英語だけでは日常の生活で使うのは難しく、友人とコミュニケーションを取ることはもちろん、一番大変だったのは宿題でした。提出日に間に合わせるため、泣きながら徹夜で終わらせたこともありました。
■ 学校以外で、一日にどのくらい勉強していますか?
平日は2~3時間ほど、休日は5時間ほどの学習を心がけています。勉強だけでなく他にもいろいろなプロジェクトがあるため、それらに充てる時間が確保できるようにしています。
■ 塾などで対策していますか?
すべて学校で学んでいます。わからないところは、学校がサポートしてくれています。
シンガポールのIB校
シンガポールは小規模の国でありながら、例年IBDPスコアで高得点を獲得する生徒が多く、幼稚園から高校まで、多くの選択肢があることが魅力と言えるでしょう。
国際バカロレア機構のウェブサイトはこちら ☞https://www.ibo.org/programmes/find-an-ib-school/
40校(PYP23校、MYP8校、DP30校) 2022年5月現在
※国際バカロレア機構のウェブサイトより引用
日本のIB校
海外でIBを学んだお子さまや、帰国後にIB認定校を検討されているご家族も多いことでしょう。現在、幼稚園から高校までIBを導入する学校が増えています。
日本の全IB認定校はこちら ☞https://ibconsortium.mext.go.jp/ib-japan/authorization/
*…学校教育法第1条に規定されている学校(57校) ◎…日本語DP実施校(30校)
※IBプログラム認定校数 102校(PYP55校、MYP30校、DP61校) 2022年3月末現在
※1校で複数のプログラムを実施している学校があるため、プログラム毎の校数の合計は、 全体の校数と一致しない。
※文部科学省IB教育推進コンソーシアムウェブサイトより(抜粋)