グローバル教育
この人から エール 関西学院大学 学長 森 康俊 氏

最新鋭のインキュベーション施設で「起業家マインド」を育成

関西学院大学 学長 森 康俊 氏

はじめに   

本学は、1889年に米国人の宣教師であり医師でもあったW.R.ランバスが創立した大学で、今年開学135年を迎えます。人生100年の時代となり、生涯学習のあり方や大学での学びが見直されています。チャットGPTなど生成 AI の台頭は、大学では剽窃(ひょうせつ)やプレジャーイズム(盗用・盗作)など、良くないものとして捉えられることがありますが、一方で、AIを賢く活用することによって、自動翻訳や品質管理、病気の早期発見など、あらゆる業界で仕事の質を上げ人手不足の解消や業務効率化を実現しています。大学は、最先端の技術を取り入れる場であると同時に、従来の慣習を見直しそぎ落とす場でもなくてはなりません。   

コロナを経て、キャンパスに大勢の学生と教員が集う伝統的な学びのスタイルに拮抗するように、通信教育の存在も大きくなっています。創造的で有能な「世界市民」を育むことを使命とした本学が、日本で、そして世界でどのような立ち位置で先端の学びを提供していくか、私は日々その課題に向き合っています。  ;  

2025年春 KSC Co-Creation Village【C-ビレッジ】開設   

本学のメインキャンパスは、兵庫県西宮市にある「西宮上ケ原キャンパス」と三田市にある「神戸三田キャンパス」の2つです。神戸三田キャンパスは1995年に開設された郊外型キャンパスで、2021年には「理系教育のさらなる充実」という施策の中で、理工学部を理系4学部(理学部、工学部、生命環境学部、建築学部)に改組し、総合政策学部との文理横断・学問分野の垣根を超えた学びの場として再編されました。  

25年4月、神戸三田キャンパスの近接地(徒歩約3分)に更なる教育・研究の充実を図るための複合施設、「KSC Co-Creation Village(通称C-ビレッジ)」を開設します。学生寮(通称G-ドーム)と起業を後押しする施設(通称S-ベース)、そして商業施設からなり、学生や教職員だけでなく、地域住民や学生、企業人など多様な人々が集うことができます。「C-ビレッジ」は、「起業家」を育てるためのインキュベーション機能を備えた新たな施設で、起業や地域・企業課題解決に挑戦する知的創造空間なのです。  

そもそもスタートアップでは文理を融合した形が多く、本学の環境は起業を実現するには理想の環境と言えます。スタートアップの一例として、卒業生が京都府内で栽培したホップを使ったクラフトビールの醸造所を立ち上げました。ビールづくりを通して持続可能な自然環境づくりに寄与する技術力とアイディアは、まさに文理を融合した本学らしい発想だと注目しています。その後に続く起業の事例が今後も増えることでしょう。  ; 

郊外型キャンパスで学び・研究に没頭する   

C-ビレッジ内に開設されるSpark Base(通称S-ベース)には、起業するために役立つさまざまな機能があります。「起業家精神などが学べる教育機能」と起業を支援する「産学官民連携機能」、そして「県内企業・産業の支援機能」です。アイディアを練ったりみんなで検討することができるスペースもあり、実際に起業する際には会社住所として登記も可能です。学生寮に隣接していることから日常の暮らしの中にインキュベーションの活動が溶け込み、学生が自然に起業家マインドを養うような相乗効果を生み出すことができる画期的な施設なのです。   

S-ベースには、24時間いつでも活動できるエリアがあり、事業を立ち上げ、運営までをも支援していきます。この比類ない環境を提供することで、「起業」という形で夢を実現しようとしている方々が大きな一歩を踏み出すことができると確信しています。    

学生海外派遣数全国トップ「グローバルチャレンジ制度」を新設   

国際社会での競争を生き抜くために必要な資質、「主体性」や「タフネス」「多様性への理解」「チャレンジ精神」を養うために、2024年度から「グローバルチャレンジ制度」を導入しました。この制度は、海外に渡航したりキャンパス内外で留学生と共修する機会を全学生に強く推奨するものです。以前から本学から海外へ渡る学生数が多いことには定評がありました。日本学生支援機構(JASSO)による「2022年度 日本人学生留学状況調査結果」で、「協定等に基づく日本人学生派遣数の多い大学」では全国第1位(1,234人)という評価を得ています。現在、59ヵ国・地域の310を超える大学・国際機関と協定を締結しており、海外大学で学べる留学プログラムが充実しているのです。    

その一方で課題もあります。円安やインフレ、渡航費の高騰など学生の留学を取り巻く厳しい経済環境が継続しているため、「長期」で留学へ行く学生が少ないことです。本学では留学の機会を失わず、希望どおりに挑戦できる機会を提供するために、22年度より「緊急留学支援金」の支給を開始しました。24年度は支援金として1.7億円を準備しており、引き続き多くの学生が留学しやすい環境を整え、挑戦を後押ししています。   

国際連合との深い関わり~国連・国際機関職員を目指す学生のために~   

本学と国際連合(国連)は、長い時間をかけて強いつながりが築かれています。1997年にはニューヨークの国連本部を訪れる国連セミナーを、2004年には国連ユースボランティアを開始しました。そして07年からは日本の大学で初めて「UNHCR難民高等教育プログラム」に参加し、難民学生の受け入れを行っています。国連スタッフになることを目指し入学してくる学生や、夢を実現した卒業生も多くいます。今年5月には国連大学学長のチリツィ・マルワラ氏が来校し、「留学とキャリア設計」について講演いただきました。そして、国連でのインターンシップやボランティアプログラムへの学生派遣に本学が大きく貢献しているというお言葉もいただいています。  

こうした国連との長い連携に基づき、世界の公共分野でリーダーとして活躍するプロフェッショナルの養成を一層強化しようと25年4月に「国連システム政策専攻」を、大学院総合政策研究科に設置します。全科目の授業が英語で、少人数かつ演習主体。海外大学院と同等レベルで展開します。カリキュラムは、国連の採用基準“UN Competency Framework”に基づいて体系的に編成。「国際の平和と安全の維持」、「人権の擁護と推進」、「経済社会開発の推進」の国連の3本柱に沿って、政治学のカテゴリーの1つとしての国際関係論を中心としつつ幅広い学問分野を踏まえた学際的なアプローチをとり、専門分野の学習を通じて、実践的応用力と国際的な競争力を身につけた人材を養成します。   

担当する教員は皆、外務省やアジア開発銀行、国連UNESCOや国連ILO本部、国連女性開発基金(現UN Women)の実務経験者です。本学は以前から国際関係のプログラムを豊富に提供していましたが、当プログラムの開講は、国連・国際機関の職員を目指す学生にとって、目標達成へとつながるロードマップになるに違いありません。   

就職ランキング1位 ※伝統ある「キャリア教育」   

就職は、大学のブランド力よりも個人のポテンシャルが重視される傾向にあるため、学生一人ひとりの長所を引き出す万全の「キャリア教育」を提供しています。一般に、総合大学は学生数が多いために「サポートが手薄」という印象をもたれる方も多いでしょう。本学では6,000人を超える学生に対し「KGキャリアナビ」という登録システムを通して一人ひとりのキャリアデザインや就活状況を把握し、就職率だけではなく、高い就職満足度につなげています。昨年度も就職率99.7%、就職満足度98.2%、進路把握率99.6%と、目を見張る結果となっています。   

本学開学の経緯として、キリスト教主義であり「神学部」と並び最初にできたのが「高等商科(現在の商学部)」につながる分野であることも特徴的です。つまり「祈り」と「商い」。いわば開学した明治時代から伝統的に「神学の学びと商いを並立させて社会に生かす」、実学に強い学校なのです。   

※「2024大学ランキング」(朝日新聞出版)よりデータを独自集計。
 卒業生4,000人以上の大学で就職率が全国1位。

海外在住の方へのメッセージ   

海外で暮らしている皆さんが帰国後に大学進学をされる場合は、日本だけでなく海外も視野に入れるなど、選択肢も多いことでしょう。近年、日本の大学の国際評価は厳しくなっていますが、大学の実情も変わってきています。ご自身の進路に合わせ多様な選択肢をじっくりリサーチいただくことをおすすめします。特に本学は、創立者W.R.ランバスが当時日本では定着していなかった学問を英語で教えたという、教育の原点そのものがグローバルな大学です。皆さんの貴重な海外経験が大いに発揮される場であることを確信しています。 

日本型の教育は「知識詰め込み型」と揶揄されることがありますが、社会で活躍する前提として、知識は必要であることを忘れないでください。プロジェクトを通じた体験的な学びと知識を蓄積する座学のバランスが重要であり、変化が激しい現代では生涯教育が必須で「学び」に終わりはありません。人生のどのステージでも学び直すことは大切で、大学と大学院が同じ国である必要もないと感じます。ご自身の夢の実現に向けて、最善の選択をしていただき、創造的かつ有能な「世界市民」になっていただくことを願ってやみません。   

Profile

森 康俊(もり やすとし)氏

1993年 大阪市立大学法学部卒業、96年 東京大学大学院社会学研究科修士課程修了、99年 東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学、同大学社会情報研究所助手、2001年 大妻女子大学社会情報学部専任講師、03年 関西学院大学社会学部社会学科専任講師、14年 同大学 社会学部社会学科教授・副学部長を経て23年より現職 

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2024年9月25日現在の情報です。最新情報は直接お問い合わせください。

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