企業からの声
グローバル時代を迎えた今、 企業が求める人材、教育とは何でしょうか。 企業の方からお話をうかがいました。
多国籍スタッフをマネジメントする上では、 「日本的な考え方」を押し付けないことが大事だと感じます。 日本の社会は「完璧」を求めるあまり、 失敗をしないことが大切というカルチャーが あるのではないでしょうか。
日本人の完璧を求める気質は、時に日本の競争力を落としている面があると感じます。70点を100点に引き上げる努力よりも、そのまま走り出す方が全体として効率が上がることもあるのです。
AGC グループアジアパシフィック総代表
AGC アジアパシフィック株式会社社長
小浜拓二氏(こはま たくじ)氏
1990年 慶應義塾大学卒業 、旭硝子株式会社入社、96年 Float Glass India 社(インド)派遣 経理部 Senior Advisor、2017年Asahimas Flat Glass 社(インドネシア)派遣 CFO、24年AGCアジアパシフィック総代表 兼 AGCアジアパシフィック株式会社社長
会社概要
AGC株式会社
1907年の創業以来、100年以上にわたりガラス、電子、化学品、セラミックスの事業領域で世界トップクラスのシェアを持つ製品を生み出すリーディングカンパニー。お客さまや社会にとって「無くてはならない製品」を提供し続け、いつもどこかで、世界中の人々の暮らしを支える。
Q.御社のご紹介をお願いします。
当社は1907年に創業し、以来110年以上にわたり、「ガラス」「電子」「化 学品」「セラミックス」という事業領域で世界トップクラスの製品を生み出 してきました。1900年代に各地で建設ラッシュが巻き起こり、西洋建築の 材料として「板ガラス」の需要が拡大しました。当時、日本はその大半を 輸入に依存していましたが、創業者である岩崎俊弥は高まる板ガラス需 要を見据えて日本で初めてガラス製造に挑み、旭硝子株式会社(現AGC) を設立しました。その後はテレビの需要に応えるため、1954年よりテレビのブラウン管用ガラスバルブの生産を開始し、また1956年からは自動 車用加工ガラス事業に本格的に進出し、自動車産業の発展を支えました。
海外へは戦後間もない1956年に最初の海外進出地としてインドに、シンガポールには1984年に旭硝子シンガポール支店を開設しました。現 在では30を超える国や地域でピジネスを展開しています。2013年には現 在のAGCアジアパシフィック社を設立し、東南アジア・南アジア地域の拠点として事業活動を続けています。
現在の社員数は世界に約5万7000人、その約7割を外国籍の社員が占めておリ、売上高も海外市場が7割を占めています。
Q.なぜ社名を変更されたのでしょう。
2018年に旭硝子株式会社からAGCに社名を変更しました。理由は事業に占めるガラスの比重が相対的に下がり、化学品や電子関連製品などの比重が高くなってきたからです。これまで培われたガラスや化学品事業だけではなく、「戦略事業」としてモビリティ、エレクトロニクス、パフォーマンスケミカルズ、ライフサイエンスを位置付けています。ガラス会社というより「高機能な部材とソリューションを提供する会社」であることを前面に出すために社名を変更しました。会社としては主軸のガラス製品でも、特に機能性が高い製品に力を入れて差別化を図っています。具体的には、ガラスに金属の膜をコーティングして遮熱性を高め室内の快適性を向上させたり、自動車用のガラスでは紫外線をカットする機能を付加する製品です。
Q.採用について教えてくたさい。
創業者の精神に「易きになじまず難きにつく(簡単なことだけでなく難しいことにも挑戦せよ)」があり、この精神は今も受け継がれています。会社の仕事はチャレンジの連続ですので、挑戦を厭わない柔軟な発想ができることが大切です。
また当社はブランドステートメントに“Your dreams our challenge”を掲げており、若いうちから責任のある仕事を任せて挑戦し成長する機会を与える組織風土があります。総合職の新卒採用については、4月から6月にかけての一括採用が主流です。近年はキャリア採用にも一層力を入れており、多様なバックグラウンドの方々に活躍いただいています。また、多岐にわたる事業をグローバル展開しているという当社の事業性質も踏まえ、海外大学出身者、外国籍の人財も早くから受け入れています。
ありがたいことに、大手の就職サイトでは特に理系の学生からの人気が年々上がってきています。その理由としては、学生や若い方をターゲットにしたブランディング活動と、勤務制度や福利厚生、組織風土をはじめとした働きやすい職場環境に取り組んでいることが挙げられると考えています。
Q.「女性の活躍」についてはいかがですか。
弊社グループでは、「女性活躍の推進」は重要なテーマとして2009年から本格的に取り組み、女性の積極的採用や活躍の場の拡大、女性社員が活躍できる環境づくりなど、女性社員のさらなる活躍に向けた施策を推進しています。2017年には「女性活躍事務局」を設置し、制度整備の充実に加え、女性社員の横断的ネットワークの形成など、ソフト面でのサポートにも注力しています。
弊社は経済産業省および東京証券取引所から、女性活躍推進に優れた企業として2020年度「なでしこ銘柄※」に選定されました。2012年度、13年度、19年度に続き今回で4度目となります。海外ではすでに多くの女性が部長クラスで活躍しているため、日本でも女性活躍について高い関心を持って経営しています。
※「女性活躍推進」に優れた上湯企槃を「中長期の企業価値向上」を毘視する投資家にとって魅 力ある銘柄として紹介することを通して、企奨への投資を促i1Lし、各社の取組を加速化していく ことが狙い。
Q.多国籍・多文化のスタッフのマネジメントのこ苦労点は。
「日本的な考え方」を押し付けないことが大事だと感じます。日本の社会は「完璧」を求めるあまり、失敗をしないことが大切というカルチャーがあるのではないでしょうか。例えば会議の資料でも一言一句間違いのない資料を上司に提出することが当たり前と考えず、70点ぐらいのものでも良しと許容するよう心がけています。日本人の完璧を求める気質は、時に日本の競争力を落としている面があると感じます。70点を100点に引き上げる努力よりも、そのまま走り出す方が全体として効率が上がることもあるのです。もちろん、製品の品質やコンプライアンスに関して妥協は許されません。私は、以前インドで経理を担当していました。日本だと前月の資料を直すということはあまりないのですが、当時はそれが常態化していたのです。何度注意しても理解されないため、考え方の違いだと割り切り、許容しながら進めていたものです。大事なところは妥協せず、あとは大らかに受け入れる姿勢も大切だと痛感した経験です。
「失敗を認める文化」は、AGCグループのアイデンティティでもあります。私たちの使命である「AGC、いつも世界の大事な一部」のためには、高度な技術開発が求められます。そのため、いつも成功するとは限りません。本気で挑戦して失敗した場合は、それ自体もプラスに評価する「失敗を許容する慣習」も必要なのです。さもないと高い目標を掲げる人が減り、会社の活力も削がれてしまいます。欧米の会社は、短期の思考で目標を達成できなければ責任を取らされてしまうような印象がありますが、当社は比較的長期の視点で成果を評価しています。
Q.貴社の働き方改革について。
シンガポールでは、2022年から在宅勤務と出社勤務とのハイブリッド型の勤務形態を導入しました。週に2日以上の出社を必須としていますが、出社日については各組織ごとに委ねており、一律でいつ出社ということはありません。オフィスの面積も縮小し、現在は出社率が6割程度です。勤務時間が柔軟に決められ、通勤時間を節約できることで自由に使える時間が増えたと大変喜ばれ、アンケートでも9割程度の人が肯定的な受け止め方をしています。一方で、従来にも増してそれぞれの仕事の成果をしっかり把握する必要があるため、各人の仕事内容の明確化も並行して進めています。日本の本社でも同様にハイブリッドな働き方をしているため、採用においても学生さんの当社に就業するモチベーションや意欲が増していると手応えを感じます。
また、「自由な雰囲気」も当社の特徴といえるでしょう。社内では役職に関わらず、例え社長であっても「社長」とは呼ばず「さん」付けで呼ぶのが伝統で、上下左右の人間関係が近く親しみやすい組織だと言われます。各拠点で社長が他の社員と同じ目線におり、腹を割って話をすることが会社の風土を変えてきており、自分の意見を自由に言える「風通しの良さ」は大切にしています。
Q.海外在住のご家族にメッセージを。
お子さまのように年齢が若いほど、新しいことや異質なものを受け入れる許容範囲は広いものです。ぜひ若いうちからいろいろ見て「楽しい」と思うことを思い切り体験しましょう。私は、海外ではできるだけ現地の食べ物を食し、その国の理解を深めています。例えば香辛料の効いた食べ物を食べながら「この香辛料を求めてヨーロッパの人たちは東インド会社を作ったんだ」などと考えながら食事を楽しんでいます。ご家庭でもいろいろなものを食べながら、文化的背景の会話などをされたりすると違った側面が見えてくるのではないでしょうか。
お子さまの学びについて申し上げるならば、今後はますますAIなど先端のテクノロジーが大きく進化し、ビジネスに大きな影響を与えるでしょう。個別の専門知識を学ぶことはもちろんですが、さらに大切なのは「リベラルアーツ」など一般教養を学ぶことだと思います。現代の社会課題は複雑化の一途を辿っていますから、狭い領域で一つのことを学ぶのでは対応できなくなるでしょう。広い領域を学び総合的な力をつけてこそ、物ごとを的確に判断し解決に導く力を養えると確信します。お子さまには、学校の勉強に限らず関心を持った分野の学びを楽しんでいただきたいと思います。私自身、現在もなお、高校の世界史の授業や化学の勉強をもう一度したいと思うことがあります。異国の地での生活を満喫しつつ、広い視野で学んでいただくことを願って止みません。
2025年1月10日現在の情報です。最新情報は直接お問い合わせください。