企業からの声
グローバル時代を迎えた今、 企業が求める人材、教育とは何でしょうか。 企業の方からお話をうかがいました。

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社員には何ごとにも好奇心を持ち、研究開発から大きな市場形成にいたるまで長期に向かって取り組む「タフさ」と、一つのことを深く掘り下げていく「粘り強さ」が求められています。これは、東レのDNAでもあります。
東レインターナショナル シンガポール 社長
馬場 孝一郎 氏
1988年 上智大学 外国語学部卒業、東レ株式会社入社、2012年 東レインターナショナルインディア社 社長、17年 東レ株式会社 フィルムグローバル部 部長を経て20年より現職。
会社概要
東レ株式会社
1926年にレーヨン糸の生産会社として創立。以来、基礎素材メーカーとして新分野・新素材を開発し、樹脂、ケミカル、フィルムだけでなく炭素繊維複合材料や電子情報材料、医薬・医療、水処理・環境などさまざまな分野で先端材料や高付加価値製品を展開。現在グループとして売上収益約2.5兆円、日本の国内外に300社以上のグループ企業を持つ。
Q.御社のご紹介をお願いします。
東レ株式会社は、1926年にレーヨン糸の生産会社として設立され、それ以来、高品質で独自性が高い製品を海外市場に送リ出してきました。2026年には創業100周年を迎えます。"Innovation by Chemistry"をコーポレートスローガンに掲げ、現在は海外売り上げ比率が60%を占め、炭素繊維世界シェアにおいては世界No.1を誇っています。
当社グループの海外活動は1963年に開始しました。戦後の日本としては極めて早く、1960から70年代には東南アジア、80年代には欧米、90年代には韓国と中国へと広げ、繊維だけでなく非繊維のフィルムや炭素繊維などの生産拠点を設立してきました。現在では29の国と地域で生産・営業活動をしています。シンガポールにおける特筆すべき活動としては、2016年から、半導体分野のシンガポール政府系研究機関(IME)主催の国際コンソーシアムに継続的に参画し、先端半導体に関する共同研究を行ってきました。さらに22年には東レシンガポール研究センター(TSRC)を開所し、IMEや現地大学などとの連携を強化しながら新規素材の研究開発を加速しています。今後もアセアン地域におけるエレクトロニクス材料分野の研究・技術開発拠点と位置付け、日本・韓国・中国の各研究拠点と連携して、グローバル研究開発を強化していきます。
Q.どのような人材を求めていますか。
「素材には社会を変える力がある」と確信している当社は、常に世界が求める新素材を生み出す会社として、研究や技術開発が不可欠です。社員には何ごとにも好奇心を持ち、研究開発から大きな市場形成にいたるまで長期に向かって取り組む「タフさ」と、一つのことを深く掘り下げていく「粘り強さ」が求められています。これは、東レのDNAでもあります。例年、採用は理系出身者の方が多いですが、幅広い人材を確保すべく、海外大出身者や海外から日本への留学生などの採用にも取り組んでいます。
当社は、創業以来「人を大切に育成する」文化が根付いており、たとえイノベーションを起こすために失敗したとしても、挑戦したこと自体を讃える文化があります。不確実性が高いといわれる現代、環境の変化には柔軟に適合していかなくてはなりません。そのため、多様な価値観や背景の人たちが力を充分に発揮できる環境作りが重要だと考えています。
私自身、長年の海外生活を通して感じること、それは、繊細な人よりも鈍感力があり打たれ強さを備えている人の方が成功を収めやすいということです。地域に溶け込む柔軟さが大切なのはいうまでもありません。特に海外に出た時に現地の食事は苦手、と食べず嫌いでいるような人はいつまで経ってもその国に馴染めず、良いパフォーマンスができにくいものです。
Q.さまざまな分野で新素材を開発されていますが、今後の成長分野は。
当社が製造・販売する製品は多岐にわたっており、それぞれの分野で将来性があるため、特にこれというのは難しいと感じます。単に素材を生み出すだけでなく、近年は特に環境を意識しながら異分野や異文化をうまく取り込み融合することによって「新たな価値」を創造していくことも当社の研究・技術開発の特徴です。例えば、風力発電で使われる風車の構造材、水素エネルギーでわれる水素を貯めるタンク、海水を淡水にしたり工場排水をきれいな水に変えるための素材など環境分野で使われる素材も多数開発しています。
皆さんがご存知で身近な素材としては、ユニクロさんと共同開発した「ヒートテック」が挙げられるでしょう。今や冬に活躍するアイテムの代名詞となっており、2003年の販売開始以来、本物の暖かさと気持ち良さを目指し、年々進化し続けています。快適性を求めて寒さを凌ぐだけではなく、節電対策にも一役を担い、その重要性が注目されています。ヒートテックだけでなく、「エアリズム」や「ウルトラライトダウン」などの共同開発商品は、今では日常生活を豊かにする「ライフウェア」として世界中で愛用されています。
また、当社が1961年に研究開発し、71年に世界に先駆けて量産を開始した炭素繊維は最も注目を集めた素材です。炭素繊維は鉄より10倍強く、4倍軽いという特性から重量のある金属の代替として航空産業の進化に欠かせない素材となりました。燃費が20%から25%も改善し、Co2排出量を抑制するなど、地球環境にも大きく貢献しています。1990年にボーイング777型機で初めて構造材の認定を受け、その後787型では、主翼から胴体、尾翼など機体構造重量の半分に炭素素材が使用されました。このように、炭素繊維は、航空機の重要構造体の軽量化や性能向上、総コスト削減を実現する無限の機会があるのです。
Q.国際社会で感じる感性の違いは。
日本で始まり拡大していった当社は、その過程で国内外の他企業の買収を繰り返してきました。そのためそもそも異なる企業のアイデンティティや理念が存在する中で、どのように会社の理念を伝えていくかを模索し、「東レ理念」として創業以来の考え方を改めて体系化しました。それは「企業理念」や「経営基本方針」、「企業行動指針」に「コーポレートスローガン」を言語化しており、東レのアイデンティティそのものと言えます。その「理念」をパンフレットとしてまとめ、全世界の社員に配るキャンペーンを行いました。単に読むだけでなく社員一人ひとりが自分なりに考え、その理解を部下に伝えていきます。そうすることで自分と会社との向き合い方やミッションが明確になるからです。
多国籍の人と協働していると、日本人の仕事ぶりは丁寧ですが裏を返せば非効率的な仕事も多くなってしまうと痛感します。当社の企業行動指針の一つに「お客様第一」という項目があります。「お客様第一」を心掛けるがゆえに、さまざまな局面で「ご挨拶」に伺うことが慣例としてありますが外国の会社の場合、「仕事に繋がらないのなら来なくて良い」という割り切った考えがあります。また、ビジネスメールにも大きな違いを感じます。非日本人のメールは、要点だけの端的なメールですが、日本人のメールは本題以外の余談も多く、総じて長いのです。コミュニケーションコストが高くなることは問題で、グループ全体でも社内向けのコミュニケーションはなるべく簡潔にすることを徹底しています。多くの時間をお客様へのサービス向上に向けることが真の「お客様第一」という行動につながり、社全体の生産性を上げると考えています。
日本人は几帳面で責任感が強いと言われますが、時に行きすぎる側面もあると感じることがあります。以前、日本のスーパーマーケットで「お客様の声」を見た時のことです。「従業員の愛想がない」や「開店後に品出しをしている」という、外国ではまったく見られない細かい指摘に唖然としました。私が以前赴任していたインドやここシンガポールでも、ドリンクを飲みながら品出ししたり、スマホを眺めている様子はよく見る光景でそれに対してクレームをつける人はいません。日本で見た指摘は、国際社会では決してコモンセンスではなく、逆に日本人は細かすぎて寛容性が無いとマイナスに受け取られてしまいかねないでしょう。グローバル
における接客方法を考えると、国によってお客様の感受性が異なるため非常に難しい課題だと感じます。
日本人の几帳面で繊細という性質は私が申し上げるまでもなく、世界に誇る素晴らしい美徳です。几帳面で細かいがゆえにきちんと計画を立てて仕事を進め、トラブルや遅延があってもその修正をしっかりできるタイムマネージメントの力は、日本人ならではの素晴らしい長所だと感じます。スポーツや芸術、食文化やおもてなし、建築や社会インフラなどさまざまな分野で日本人のこの特性が成功につながり、評価を上げてきていることは嬉しい限りです。
Q.海外在住のご家族へのメッセージ
限られた海外在住期間には、ぜひ、お子さんが「やっぱり海外っていいな」と思うように過ごしていただきたいと思います。近隣諸国に旅行に行ったり現地の食べ物を食すなど、海外でしかできないことに取り組み、そこにしかないものを存分に感じていただきたいと思うのです。円安が続く昨今、なかなか思い切れない場合もあるでしょう。しかし、思い切りお金を使うことも大事だと感じます。せっかくの期間ですから後のことはあまり考えず、お金と時間の許す範囲で、どんどんエンジョイしていただきたいと思います。
シンガポールの場合、当地で工場見学ができる日系企業も少なくありません。また、日本人学校生向けに出張授業をしている企業もあるようです。そのような機会を活用し、日々の生活の中で「化学」に触れてみることも、お子さまの興味を引き出すという意味ではおすすめです。当地のクライアントとお付き合いすると、男性だけでなく女性の多くが理系分野を学び仕事に生かしています。海外での貴重な経験を糧に、化学にも目を向け、将来日本を背負うグローバル人材になっていただくことを願っています。
2025年4月25日現在の情報です。最新情報は直接お問い合わせください。