海外生・帰国生へのヒント
Vol.9 公益社団法人日本スカッシュ協会 常務理事 潮木 仁 氏 ~世界に挑戦する次世代のプレーヤーを育成する~

スカッシュとの出会い

スカッシュは、世界185以上の国と地域で約2,000万人の人々に親しまれている国際的なスポーツです。日本の競技人口は10万人程度でまだまだマイナーではありますが、2020年の「東京五輪」の最終種目にも残り、今もっとも期待されているスポーツの一つです。

現在私はスカッシュの日本代表監督として、スカッシュの普及と若手選手育成のバックアップに努めています。私がスカッシュを始めたのは大学2年生の時、兄に誘われたのがきっかけでした。空間全体を使ってプレーする楽しさと、力だけでなく経験値やテクニックでどんどん進化していける点に惹かれていきました。当時は今よりスカッシュ人口が少なかったこともあり、始めて1年半で日本選手権に出場し、準々決勝まで進みました。

vol.9 公益社団法人日本スカッシュ協会 常務理事 潮木 仁 氏 ~世界に挑戦する次世代のプレーヤーを育成する~

チャンピオン時代を支えた「精神力」

大学4年生の時、オーストラリアで開催されたアマチュア選手権に参加したことが私のスカッシュ人生を大きく変えました。現地では学校の体育の授業でもスカッシュが取り入れられ、子どもから主婦、ビジネスマンたちが気軽にスカッシュを楽しんでいました。それを見て「日本でも、こんなふうにたくさんの人がスカッシュに親しめる環境があれば良いのに。それを実現するにはどうすれば良いのか」と熱い思いが込み上げてきたことを、今でも鮮明に覚えています。当時の日本には練習場も50ヵ所ほどしかなく、施設面でも世界に大きく遅れを取っていたのです。

1981年から94年までの14年間は、全日本選手権で連覇を重ねたチャンピオン時代でした。海外遠征も含めると年間約340日はスカッシュをしており、まさにスカッシュ一色の生活でした。

勝ち続けている間は正直、かなりのプレッシャーを感じていました。しかし、自分のレベルが上がれば一緒に練習している仲間も強くなる。その結果が次の試合を勝利へと導く…。とてつもない練習量が苦にならなかったのは、そこにプラスの連鎖があったからです。同時に「目指すものはもっと上にある」と、常に自分を奮い立たせ、前だけを見ていたことがあの頃の私を支えていました。

シンガポール遠征で技術と国際感覚を磨く

学生や有志30人ほどを引き連れて、91年から始まったシンガポール遠征ツアーは、地元の方々の多大なるご支援により今年で27回目を迎えました。スカッシュはシンガポールでは成熟したスポーツであり、国営コートをはじめ設備の整った素晴らしい練習場が数多くあることも大きな魅力です。そして私が尊敬するシンガポールの偉大なスカッシュプレーヤー、ザイナル・アビディン氏との出会いもこの遠征のきっかけになりました。
 
「海外遠征というのはトップ選手だけがするものではなく、みんなが成長するためにある」と教えてくれたのも彼です。当地でスカッシュの技術や戦術を学ぶことはもちろんのこと、海外の選手たちとの出会いや交流を通し、スカッシュの本当の楽しさ、素晴らしさを肌で感じてほしいと考えています。シンガポール遠征は、次世代を担う選手たちにとっても非常に大きな意味のあるツアーなのです。

スカッシュを通じて世界を繋ぐ

私がスカッシュを始めて40年以上が経ちました。この道で生計を立てるのは決して楽ではありませんが、一方でスカッシュに助けられたことも多々ありました。コートで共に汗を流して戦った相手のことは一生忘れませんし、引率した学生が学校の副校長になり、体育館にスカッシュコートを作ったという嬉しい報告を受けたこともありました。練習も試合も過酷ですが、スカッシュで培ったスポーツマン精神は「宝」だと信じています。それはやがて国境という垣根を超え、世界を繋ぎます。

次なる目標は、2024年の「パリ五輪」でスカッシュが正式種目に認定されることです。そのためにも、まずは世界に通用する次世代のプレーヤーの育成が急務です。新しいステージに向けてスカッシュの素晴らしさが世界中に広がっていくことを、心から願っています。

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