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今注目される「リベラルアーツ」の学び ~21世紀を生き抜くための大学教育~

皆さんは「リベラルアーツ教育」を、ご存知でしょうか。日本の教育改革が進む中、グローバル時代・AI時代を生き抜くための大学教育のあり方が問われています。現代の複雑な課題解決には、従来の学問分野の枠組みを超えた融合的な学びが必要と言われており、中学・高等学校でもSTEAM教育※などを導入する学校が増えています。自ら課題を見つけ、未知の問題に対しても、幅広い分野の知識を動員して取り組む判断力と行動力が重要視される中、大学では「リベラルアーツ教育」への注目が高まっています。今回Spring 編集部では、「リベラルアーツ教育」に取り組む日本の大学を取材しました。

◆ そもそも「リベラルアーツ」とは?

「リベラルアーツ」はラテン語Artes Liberalesを語源とした古代ギリシャで発達した学問で、欧州の大学では、言語に関する三科「文法」「修辞学」「論理学」と数に関連した四科「算術」「幾何」「音楽」「天文学」が教えられたことに遡ります。そして長い歴史を経て近年では、特にアメリカの大学で「自らを自由に開放する学問」として、リベラルアーツ教育が発達しています。

今日ではイギリスなど欧州の大学が、当初から専門分野を深め、3~4年で学位を取得するのに対し、アメリカの大学では、まずは教養を学んだ後に専門性を追究するアプローチが一般的で、比較的少人数できめ細やかな指導を行い大学院進学もはじめから視野に入れる「リベラルアーツ・カレッジ」と、学部の2年間で「リベラルアーツ教育」を受けた後、専攻分野に移行する「総合大学」の2種類があります。

かつての日本の大学はイギリスと同様に、はじめから専門分野を決めて学ぶ形で発達してきましたが、複雑化する地球規模の課題が山積し、テクノロジーがあらゆる分野で変革を起こす今、理系・文系の垣根を超えた、あるいは理系・文系が融合した学びとして「リベラルアーツ教育」が求められています。

◆ 日本の大学に見る「リベラルアーツ教育」

アメリカの大学を中心に発達してきた現在のリベラルアーツ教育は、アジア諸国にも広がりを見せ、日本の大学でも昨今注目が一層集まっています。

※Science(科学)・Technology(技術)・Engineering(工学)・Arts(芸術・リベラルアーツ)、Mathematics(数学)を融合した学び。

日本の主な大学リスト(50音順)

※2019年11月現在、Spring調べ。

 大学名プログラム名
国公立岡山大学グローバル・ディスカバリー・プログラム
お茶の水女子大学 全学部(文教育学部、生活科学部、理学部)
国際教養大学(公立)全学部(国際教養学部)
東京工業大学全学部
東京大学教養学部
私立桜美林大学リベラルアーツ学群
国際基督教大学(ICU)教養学部(College of Liberal Arts)
上智大学国際教養学部(Faculty of Liberal Arts)
聖心女子大学現代教養学部
東京女子大学現代教養学部
同志社大学国際教育インスティテュート国際教養コース(ILA)
法政大学GIS(グローバル教養学部)
山梨学院大学International College of Liberal Arts(国際リベラルアーツ学部)
立教大学Global Liberal Arts Program(GLAP)
立命館アジア太平洋大学(APU)国際経営学部、アジア太平洋学部
立命館大学グローバル教養学部
早稲田大学国際教養学部(School of International Liberal Studies(SILS))

◆ 「リベラルアーツ教育」を受けて感じていることは?

リベラルアーツで学んだ卒業生・在学生

今注目される「リベラルアーツ」の学び ~21世紀を生き抜くための大学教育~

(「リベラルアーツという波動 答えのない世界に立ち向かう 国際基督教大学の挑戦」伊東 辰彦・森島 泰則 共編著より 抜粋・編集)

日本の大学にはさまざまな「リベラルアーツ教育」が存在しています

◆ 大きく分類すると以下の3種類のタイプに分けられます

※以下はイメージ図です。詳細は各大学にご確認ください。
今注目される「リベラルアーツ」の学び ~21世紀を生き抜くための大学教育~

 ◆ 通常の大学とリベラルアーツ大学の違いとは?

通常の大学でも、「一般教養」など外国科目をはじめ視野を広げるための教養科目を選択しながら専門性を深めていきます。では、「リベラルアーツ教育」を提供する専門の学部の場合には、どのような違いがあるのでしょうか。「リベラルアーツ教育」専門の学部では、入学時点から卒業時にかけて、主体的かつ段階的に専門性を構築し
ていくことが可能になります。

今注目される「リベラルアーツ」の学び ~21世紀を生き抜くための大学教育~

◆「 リベラルーツ教育」を4年間受ける場合、2つの専攻を選べることも

また、大学によっては、主専攻・副専攻を選択したり、海外の大学に赴いて卒業時に二つの学位を取得することも可能です。

今注目される「リベラルアーツ」の学び ~21世紀を生き抜くための大学教育~

「リベラルアーツ教育」を提供する大学に聞きました。

<国公立大学>

お茶の水女子大学

今注目される「リベラルアーツ」の学び ~21世紀を生き抜くための大学教育~ お茶の水女子大学

リベラルアーツを学べる学部

全学部(文教育学部、生活科学部、理学部)。
リベラルアーツのテーマ:「生命と環境」「色・音・香」「生活世界の安全保障」「ことばと世界」「ジェンダー」。

特徴

● 文系・理系を融合したリベラルアーツとして、現代世界を読み解く「鍵」となる5つのテーマ(生命と環境、色・音・香、生活世界の安全保障、ことばと世界、ジェンダー)に沿った系列講義科目と実習・実験・演習により構成されている。
● 学部や学科を問わず自由に選択でき、1年次から5つの系列に係わる多様な問題について、自然科学・人文科学・社会科学の3つの角度から多角的かつ体系的に学ぶことができる。
● 領域横断的な広い視野と、社会変化に柔軟に対応できる判断力を養うとともに、演習や実験、実習を通して発信・交渉力を高めることを目的とする。

今注目される「リベラルアーツ」の学び ~21世紀を生き抜くための大学教育~

入試形式・出願/入試時期

AO入試出願時期 : 9月
AO入試 : 9月~10月
一般入試出願時期 : 1~2月
一般入試 : 前期2月、後期3月
参 照:http://www.ao.ocha.ac.jp/index.html

<<大学からのメッセージ>>

「リベラルアーツ」は、生涯にわたって、自在に(リベラル)使うことができる技(アーツ)となります。文理融
合リベラルアーツ科目は、複合的な視野を養い、専門教育課程においては、複数プログラム選択履修制度により、各自の関心や進路に応じてプログラムを選択し、専門を深めることも、学際的に幅を広げることもできる教育体制をとっています。

東京大学(教養学部)

今注目される「リベラルアーツ」の学び ~21世紀を生き抜くための大学教育~ 東京大学 駒場Iキャンパス

リベラルアーツを学べる学部

教養学部
1~2年次は東京大学全入学者対象:リベラルアーツの基礎科目(文化系・理科系)と総合科目、主題科目として「環境の世紀 環境学のスヽメ」「心とことば」など。
3年次から教養学部に進学した者対象:文系学科教養学科、文理融合学科学際科学科、理系学科統合自然科学科など。

特徴

● 日本の総合大学では唯一、すべての学生が1・2年次に教養学部に属してリベラルアーツを学び、そのうえで進学先の学部を決定。さらにリベラルアーツを学びたい場合は、そのまま教養学部に進学。
● 1年次から第一線で活躍する研究者が直接講義を担当し、最先端の知に早い段階から触れることができる。
● グローバル社会をリードする人材を育成するための制度を整備(「トライリンガル・プログラム」など)。

今注目される「リベラルアーツ」の学び ~21世紀を生き抜くための大学教育~

入試形式・出願/入試時期

一般入試、外国学校卒業生特別選考など。
一般入試出願 : 1月~2月  入試 : 2月
参 照:https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/index.html

<<学部からのメッセージ>>

科学技術のめざましい発展の一方で、環境問題や地域間格差、社会や経済の不安定化など、グローバルな問題が今
日の世界では山積みです。本学では、個々の学生が知力を高めながら、こうした問題に対して多様な人々と協働し
て解決していくことができる「知のプロフェッショナル」の育成を目指しています。そのためには多様な学生がと
もに切磋琢磨する必要がありますので、全世界から多様な学生が集まることを願っています。

※東京大学教養学部からの回答をもとに作成。

東京工業大学

今注目される「リベラルアーツ」の学び ~21世紀を生き抜くための大学教育~ 東京工業大学

リベラルアーツを学べる学部

全学部。
「教養コア学修科目」として、自己発見と動機付けを行う東工大立志プロジェクト、志をもとに将来展望を描く5,000~10,000字程度の文章を書き上げる教養卒論、リーダーシップ道場(修士課程)、学生プロデュース科目(博士後期課程)。
※本学ではリベラルアーツ関連学位を取得できません。

特徴

● 学士課程から博士後期課程まで、専門分野を軸として東工大流のリベラルアーツ必修科目を学ぶ。
●「 社会性」「人間性」「創造性」を兼ね備えた「志」ある学生の育成。
● 正解を探すのではなく、自らの人生への問いを立てることを学ぶ。

今注目される「リベラルアーツ」の学び ~21世紀を生き抜くための大学教育~

入試形式・出願/入試時期

一般入試、推薦入試、AO入試など。
出願 : 推薦・AO12月、一般1~2月
入試 : 2月・3月
参 照:https://admissions.titech.ac.jp/admission/college/date.html

<<大学からのメッセージ>>

海外生の皆さんには、日本在住の日本人が普段経験していないであろう、世界各国で感じていること、それを日々
克服していることに敬意を表します。違いがあることを理解できることは、将来皆さんが日本もしくは世界各地で活躍するうえで非常に大切だと思います。本学で強調していることは、どの局面においても「多様性」を重んじようということ、そして人種や宗教・文化などの「多様性」を受け入れる「寛容性」を持ち、多様性の中で切磋琢磨するため「協調性」を身につけることです。皆さんにもこのキーワードを意識して、本学に多様な視点と発想をもたらしていただきたいと思います。

重要性を増すリベラルアーツ教育

東京工業大学 学長
益 一哉 氏

今注目される「リベラルアーツ」の学び ~21世紀を生き抜くための大学教育~

日本で最高峰の理工系大学の本学は、さらなる高みである世界のトップレベルを目指して活動しています。理工系の専門分野において最高の教育を行うとともに、「リベラルアーツ教育」を長年にわたり取り入れてきました。将来、科学技術の担い手になる学生には、世界の在り方や社会の構造を理解し、広い素養とバランスのとれた価値観を持つことが求められます。また、世界はますます複雑になり、誰もが納得するような正解がない課題に直面しています。そのような時代に、自分の生き方を考える学問ともいえる「リベラルアーツ教育」は、さらに重要性を増
しています。

そこで、本学は理工系専門知識と学位を提供する6つの「学院」とは別組織として、2016年にリベラルアーツ研究教育院を設立しました。学士課程から博士後期課程まで、人文学や文理融合科目など多様な科目をそろえ、本学ならではの斬新な手法で学ぶ機会を提供しています。学生はそこから多くを学び、成長し変化しています。

学生時代には自分の専門分野のほかに、挑戦的なプロジェクトが課されるリベラルアーツに取り組むことは、将来社会を牽引する、創造性溢れた魅力ある人材の育成のために不可欠であると確信しています。

<私立大学>

国際基督教大学(ICU)

今注目される「リベラルアーツ」の学び ~21世紀を生き抜くための大学教育~ 国際基督教大学(ICU)

リベラルアーツを学べる学部

教養学部(1学部制)。
メジャー(専修分野)として31分野:「文学」「言語学」「物理学」「心理学」など伝統的な学問分野から、「アジア研究」「開発研究」「環境研究」など地域研究型や問題解決型の学際的な分野まで。

特徴

● 日本初の4年制リベラルアーツ・カレッジとして、文系・理系の垣根を超え、人文科学、社会科学、自然科学にわたる幅広い学びを実践し、自身の専門性を深めていく。
● 少人数教育。教員一人当たりの学生数は1:19。多くの授業が講義形式ではなく、グループワークやディスカッションが中心となり、授業は日英バイリンガル。日英両語の運用能力が全学生に求められる。
● 多様性。学生の出身国は55ヵ国にも及び、異なる文化、関心、価値観を受容しながらともに学ぶ環境。

今注目される「リベラルアーツ」の学び ~21世紀を生き抜くための大学教育~

入試形式・出願/入試時期

主に外国の教育制度で学んだ方を対象(ユニヴァーサル・アドミッションズ)
4月入学帰国生入試(日本語による選考)
4/9月入学書類選考(英語による書類選考) ※試験/面接なし
出願 : 4月入学帰国生入試 8月
4月入学書類選考 8~10月
9月入学書類選考 1~3月
入試時期 : 4月入学帰国生入試 9月
参 照:https://www.icu.ac.jp/admissions/undergraduate/exam/

<<大学からのメッセージ>>

自分と異なる価値観の人々や異文化に触れられるというだけでなく、「世界中の意欲的な人々」があなたの仲間になって、ともに学ぶ…。そこで得られる経験と、あなた自身の成長を想像してみてください。

リベラルアーツ教育を受けて

野山 和美 さん
イケア・ジャパン株式会社 ストアマネジャー
2006年 国際基督教大学(ICU) 教養学部 卒業

今注目される「リベラルアーツ」の学び ~21世紀を生き抜くための大学教育~

私がICUに入学したいと思ったきっかけは、興味が多岐にわたっていた高校生の時、一つの分野に絞ることなく自分の可能性を広げられそうな大学・学部を探しており、英語を手段として「リベラルアーツ」を学ぶICUが面白そうだと思ったからです。

学生生活で出会った人たちは、キャラクターも考えていることも皆違っており、異なる意見を述べても受け入れられる環境でした。私は元々、自分の意見は持っていても、それを積極的に人前で発言
するようなタイプではありませんでしたが、ICUの授業ではディスカッションやプレゼンテーションなどで意見を求められる機会が非常に多くあり、とても鍛えられたと思っています。就職後も物怖じすることなく自分の考えを口に出して表現できているのは、ICUの授業のおかげです。

グローバル企業でポジションを得ていくためには、「自分は何をやりたいのか」「自分はどう考えるのか」という自分の芯を持ち、それを言葉で表現していくことが大切です。また、多くの人と協力しながら成果を最大化するためにも、多様な考えを認め、一人ひとりの個性をしっかりと見定めることが重要だと感じます。このような環境のもとで日本人である私が今のキャリアを築くことができたのも、ICUでの学生生活や留学の経験が大きなベースにあると感じています。

立命館大学

今注目される「リベラルアーツ」の学び ~21世紀を生き抜くための大学教育~ 立命館大学

リベラルアーツを学べる学部

グローバル教養学部。
---オーストラリア国立大学(ANU)とのデュアル・ディグリー・プログラム---
Cosmopolitan Studies(文化研究・地域研究)、Civilization Studies(歴史研究・社会理論)、Innovation Studies(経営理論・科学技術論)を中心に7つの科目群で構成。

特徴

● 世界のトップ大学ANUと立命館大学の2キャンパスで学び、2つの学位取得へ。
● 未来をリードする課題発見力・解決力を養う次世代型リベラル・アーツ。
● 日本人学生と留学生がともに暮らすオンキャンパス寮。

今注目される「リベラルアーツ」の学び ~21世紀を生き抜くための大学教育~

入試形式・出願/入試時期

4月入学 : AO英語基準入試(①6月 ②8~9月)、帰国生入試(8月)、AO選抜入試(①9月 ②11月)
9月入学 : AO英語基準入試(①10月 ②12~1月 ③2~3月)
参 照:http://www.ritsumei.ac.jp/gla/admissions/

<<大学からのメッセージ>>

ANUは世界大学ランキングでも上位に位置し、Politics and International Studies の分野では世界第10位です。こ
のデュアル・ディグリー・プログラムでは、21世紀のグローバル市民に求められる幅広い教養を立命館大学で身
につけ、卓越した研究力を誇るANUでアジア太平洋地域についての知識を深めます。国際的なスケールで展開す
る企業でのインターンシップを通じ、グローバルな舞台で活躍する力を養います。世界の大学と日本の大学の両
方で学ぶ、新たな時代に。世界につながるあなたの未来は、立命館大学のキャンパスから始まります。

※2019年11月25日現在の情報です。最新情報は各機関に直接ご確認ください。

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