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G30 シンポジウム グローバル時代の大学ガバナンスと学部教育【前編】

~グローバル時代の学部教育・企業のガバナンスとは~

大阪大学で開催された「G30シンポジウム」。グローバル時代の大学ガバナンスと学部教育について、大学関係者や企業など各界から多彩な講師が参加し、幅広いプログラムで意見が交わされました。

3 月末に大阪大学で G30 シンポジウム「グローバル 時代の大学ガバナンスと学部教育」がおこなわれました。  大阪大学をはじめ、大学関係者や企業など各界から多 彩な講師が参加し、「グローバル時代の学部教育」「企業のガバナンス」「国際バカロレア認定校と大学の対談」な ど、幅広いプログラムで意見が交わされました。そのシ ンポジウムの一部をお伝えします。

G30 の現状 ~大阪大学の場合~

※G30(グローバル 30)とは、2008 年に策定された文部科学省事業「国際化拠点整備事業(大学の国際化 のためのネットワーク形成推進事業)」を指します。採択された 13 大学では、留学生等に英語で学位が取 得できるコースを提供し、留学しやすい環境を整備しています。国内外の優秀な学生の受け入れを促進し、 日本人学生も留学生と切磋琢磨する環境の中でグローバルな社会で活躍できる人材の育成を図ります。

総合司会:大阪大学インターナショナルカレッジ 副カレッジ長・教授 大西 好宣 氏

G30 シンポジウム グローバル時代の大学ガバナンスと学部教育【前編】 大西 好宣 氏

日本人でも英語で学位取得が

日本人でも英語で学位取得が 大阪大学全体(以下、旧・大阪外国語大を含む)では、昨年 5 月時 点の留学生数が 1,924 名と、全体の 7.6%になります。G30 のおかげで 英語で学位が取得できるコースが増え、留学生を中心とする応募者も 年々増加し、大学全体の認知度も上がっています。 それを示すデータを紹介しましょう。

G30 が始まる前の 2003 年か ら 2009 年の 6 年間、留学生は毎年 31.0 人という緩やかなペースで増 えていました。しかし、G30 が始まった 2009 年から 2012 年のここ 3 年間では、年平均 138.7 人増という急激なペースへと変化しています。 G30 は留学生を増やすために始まりましたが、大阪大学ではグロー バル人材を増やすには国籍は関係ないと思い、日本人も受け入れてい ます。

グローバル時代の大学ガバナンス

名古屋大学大学院国際開発研究科准教授 米澤 彰純 氏

G30 シンポジウム グローバル時代の大学ガバナンスと学部教育【前編】 米澤 彰純 氏

求められる大学ガバナンスの再構築

現在、大学はグローバル企業並みの国際的マネージメントが必要と されています。欧米の大学がマレーシアに海外キャンパスを開設した り、日本の大学も国際的な連携でプログラムを運営したりしています。 それに伴い、学生だけでなく教員も外国籍の人が増え、どのように多 国籍の職員をまとめるのか、という課題が出てきました。 ただ、海外有力大学の外国人教員比率と比べると、日本の大学では 英語で講義がおこなわれても、教員は日本人が多いということがいえ ます。教授会の公用語は日本語になっているため、どんなに素晴らし い授業を英語でおこなっても日本語ができなければガバナンスに参加 できないからです。 これからは、大学のグローバル対応に必要な人材を幅広く登用して、 明確なビジョンのもと、大学ガバナンスを再構築する必要があるで しょう。

企業のグローバルガバナンス

パナソニック株式会社 R&D 本部・ オープンイノベーション推進室 室長 平山 好邦 氏

G30 シンポジウム グローバル時代の大学ガバナンスと学部教育【前編】 平山 好邦氏

企業の経験をもとにした大学への提言

私が入社した時代は「グローバル化」は学生には求められていませ んでした。入社後すぐに海外留学などを経て、OJT 方式で必要な能力 を養ったものでした。今は厳しい競争環境の中で企業側もすぐにグローバルで活躍できる資質をもった即戦力の人材を求めるようになってきていると思います。

日本の家電業界が一番成長したのは 70 ~ 80 年代で、欧米に追いつ き大量生産の高品質モデルを作ることで急成長しました。ここ 20 年 は製造モデル自体が変わってきています。東アジアの「ものづくり」のモデルがどんどん変化し、競争力を奪われています。一方で、一度 勢いが鈍化した欧米企業が躍進しています。全く異なるビジネスモデルで業界の構図をぬりかえてしまったのです。また、あらゆるものが「デジタル化」することにより、全てがモジュール化し、高品質のものが簡単に作れるという「製品のコモディティ化」が起こりました。そこで、他の東アジア各国が躍進をして日本企業が市場を奪われているのが現状です。

将来の「ものづくり」には、いまや21世紀型の新しいR&D(Research and Development 、研究開発活動)を組み合わせることが必要になっています。 今後は、企業一社の研究開発力だけで競争し生き残っていくことはかなり難しいでしょう。今後は企業の外にあるアイディアや研究機関を積極的に活用する 「オープンイノベーション型R&D 」へと、大きくシフトしていきます。 グローバルな産学連携のもとで、複数の大学・研究機関と複数の企業でコンソーシアム連携体制をとることが、これからグローバルに勝ち抜いていく 必要条件になっていくと感じます。

門真中心から、世界の門真へ

会社としてもっとグローバル化するために、海外の人を日本に、日 本の人を海外に送る「Work in Japan」と「Work globally」による多様な人材の 入り交じりが不可欠になっています。パナソニックグループとして約 33 万人の従業員がいますが、海外に出ている日本人社員の数はまだまだ限られています。 数字の上では「大学のグローバル化」のと同様、日本の企業も決して進んでいないと思っています。一方で、採用はどんどん「グローバル採用」になっています。 日本の大学を卒業した日本人学生には辛い話ですが、日本の新卒採用が減ってきているのは事実です。企業としては、(日本での採用は)海外から来ている留学生、もしくは海外大学の学生の採用 も強化していく必要があるでしょう。

ヘッドクオーターは大阪の門真に位置しながら、グローバルに競争 していく必要があるの ですから、「門真中心から、世界の門真へ」と私たち日本人自身も多様化・国際化しないといけません。

「Work in Japan」で大変優秀な外国人に来てもらっていますが、大多数の日本人の中で少数の外国人に働いてもらうと、優秀ゆえに日本文化にすぐになじんで しまいます。つまり全体の外国人の数を上げないと、少数派では多様化が進みにくいという課題があります。 社内言語を全て英語にすると効率が落ちますから、言語や文化の壁をどう乗り越えていくのかも日本のグローバル企業の今後の大きな課題です。

グローバル時代の大学に求められるもの

大学マネージメント研究会会長 本間 政雄氏

G30 シンポジウム グローバル時代の大学ガバナンスと学部教育【前編】 本間 政雄氏

日本の大学に多様性はあるか

「グローバル時代の大学ガバナンスと学部教育」と聞いた時に最初 に考えたことは、「G30」や「G プラス」という一部大学の新しいプログラムが与えた 国際化・多様化の効果です。実態を見ると、日本の大学の学生における留学生の比率はだいたい3%、専任教員における外国人教員も 3%であり、多様性は ほとんど存在しない、と言っても過言ではありません。また、OECD 諸国の 25 才以上の成人学生は 26~7%、日本の大学は2%くらいときわめて低いのが現状です。 この点でも多様性があまりないといえるでしょう。

日本の大学は物ごとを変えるのに大変時間がかかります。日本にある約800の大学のうち、国際化に向けて一生懸命取り組んでいるのは ほんの数%の大学に 過ぎないでしょう。現在、大学を取り巻く環境は 非常に厳しくなっていること、その中で大学が今何をしなくてはならないかを話したいと思います。

社会が大学に求めているもの

一言で言えば、「社会が大学に求めているものと、大学の現実との ギャップが非常に大きくなっている」ということです。産業界はグ ローバルな競争に日々 さらされているので、こうした競争に太刀打 ちできる人材を求めています。一方、東大や京大など日本をリード すべき大学でも、毎年正規留学する学部生の 数は 50 ~ 60 名に過ぎず、本気でグローバル人材の育成に向けて取り組んでいるとは言えない 状況です。

今後大学は、明確なビジョンを持って大胆な改革をスピーディにし なくてはなりません。「グローバル人材」と言っても何かこれまでと 違った特別なことが求められているというより、幅広い教養と一定の 専門知識、物事を論理的に考え、それをきちんと表現する力を学生に 身につけさせてほしいということです。その延長として、異文化理解 や実践的な外国語力も養うということでしょう。

現在、日本の文系の学生の1週間の学外での勉強時間は54 分(1 日 約 7 分)というデータが出ています。対照的なのは中国で、この国の 課題は、「大学生にこれ以上勉強させない」ということだそうです。勉 強のしすぎで体を壊す恐れがあるためです。日本の大学も、もっと学 生の勤勉意欲を高め、社会の求めに沿った人材育成を進めていく必要 があるでしょう。

【次号(9 月 25 日発行)に続く】

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