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【特集】小学校進学を考える ~前編~

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外務省「管内在留邦人子女数調査」によると、海外在住の日本人児童(6~11歳)は1990年の3万7千人以降増加し続け、2018年時点では6万人※を超えました。一方海外から日本に帰国した児童数は、文部科学省「学校基本調査(2022年)」によると、年間で6,200名ほどいるようです。
シンガポールをはじめアジア諸国では以前より駐在員の平均年齢が下がり、幼稚園児を持つご家庭の層が一番厚いとも言われています。現地でローカルやインターナショナルスクール系列の幼稚園・プレスクールに通っていたお子さまも多く、帰国後、同じような教育環境を求めるご家庭も増えています。
今回Springでは、幼児・小学生を持つ海外のご家族に向けて日本の小学校進学・編入について専門家にお話を伺いました。また、最後には国際教育や探究学習を進める「海外生・帰国生を歓迎する日本の小学校」もご紹介します。ぜひ、ご一読ください。
※文部科学省 学校基本統計(学校基本調査報告書)「海外在留児童・生徒数・在外教育施設数」より。

Q 海外在住の児童・生徒数は増えている?
1990年から比較すると小学校相当年齢の児童で増加傾向

Q 帰国が多い学年は?
帰国児童は小学2~5学年で各学年1,000人超に

Q 帰国後に入学する学校区分は?
帰国児童は国立・私立小学校にも

Q 海外で日本人が多く住む国は?
外務省「国(地域)別在留邦人数推計」上位20ヵ国(令和3年)

Q 日本人が多い都市は?
都市別在留邦人数推計上位10ヵ国(令和3年)

帰任時期は予想がつきづらく戸惑いも多いものです。そこで、海外生・帰国生を歓迎する日本の小学校、専門家からのアドバイスをご紹介します。
引越しする地域の教育委員会が外国語教育を重視しているかなど、確認してみよう。
「外国語活動のモデル校」を探してみよう。
私立小学校では随時、編入を歓迎する学校も。個別対応が多いため直接連絡を。
私立小学校の場合、海外から直接の転入が条件になることも。
学年相当の日本語力を求められることが多いことを忘れずに。
帰国児童生徒学級・国際学級がある学校を調べよう。
国際教育プログラムを採用する学校なども視野に。
学校以外で、英語を維持・向上させる方法を検討しておこう。
関連記事も併せてどうぞ。
◇ 帰国後の英語保持どうする?
https://www.spring-js.com/global/5304/
◇ 国際教育プログラムの学校を探す
日本の国際バカロレア(I B)校一覧 https://www.spring-js.com/global/5389/
I B初等教育プログラム(PYP)とは? https://www.spring-js.com/global/5390/
ケンブリッジ国際とは? https://www.spring-js.com/global/6350/
◇ 帰国後の体験談 https://www.spring-js.com/overseas-student/
◇ 日本の学校一覧(小・中高、インター校 検索)
https://www.spring-js.com/japan/school/
 

今回は長年にわたり幼児・小学校教育の専門家として活躍される久野泰可氏と国内外の教育事情に詳しい髙宮敏郎氏・信乃氏をお迎えし、幼児・小学校教育の動向と小学校進学に関するお考えを座談会形式でお聞きしました。どのお子さまにとっても重要な「小学校進学」に関するアドバイスを、ぜひご一読ください。(敬称略)

幼児教室「こぐま会」代表
久野 泰可 氏
1948年、静岡県生まれ。横浜国立大学教育学科を卒業後、現代教育科学研究所に勤務し、1986年「こぐま会」代表に就任。常に幼児教育の現場に身を置き、その実践を通して幼児期に大切な「思考力」を育てるための独自のカリキュラム「KUNOメソッド」を確立。その中で「ひとりでとっくん」100冊シリーズや、多くの「具体物教材・教具」を「こぐまオリジナル知育教材」として開発する。著書に『子どもが賢くなる75の方法』(幻冬舎)、『「考える力」を伸ばす AI時代に活きる幼児教育』(集英社)など。

SAPIX YOZEMI GROUP 共同代表
髙宮 敏郎 氏
1974年東京生まれ。1997年、慶応大学経済学部卒業後、三菱信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)に入社。2000年4月、祖父・髙宮行男が興した学校法人高宮学園代々木ゼミナールに入職。同年9月から米国ペンシルベニア大学に留学、2005年に教育学博士号(大学経営学)を取得。2009年から現職。SAPIX小学部などを展開する株式会社日本入試センター代表取締役副社長、オンライン英会話スクールを運営する株式会社ベストティーチャー代表取締役社長なども兼務。

日本入試センター 国際教育事業本部長
髙宮 信乃 氏 
1978年東京都生まれ。イスラマバード、香港、ジャカルタ、ワシントンD.C.、横浜市、ハルツーム、キャンベラと幼少期を過ごし、ニューヨークで高校・大学生活を送る。リーマン・ブラザーズ証券株式会社などの外資系金融機関を経て、現在、SAPIX小学部などを運営する株式会社日本入試センターの国際教育事業本部長、北米ボーディングスクール留学をサポートするTriple Alphaの取締役会長、株式会社ベストティーチャーの取締役副社長。

Q 日本における「幼児教育」とは
久野:日本では、2018年に幼児期から小学校へつなぐ教育指針「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿(※1)」が策定されました。そして「幼児教育と小学校教育をつなぐ架け橋委員会」が3歳児以降の具体的な実施方法について議論を続けています。一方、民間でも3歳以前の乳児を含めて「幼児教室」という形でさまざまな教育が展開されています。ノーベル賞経済学者であるジェームズ・ヘックマン氏(※2)が幼児教育の大切さを説き、OECD諸国では既に幼児教育の基本政策が定められていましたが、その流れを受けて日本もようやく重い腰を上げて変わってきました。国・民間が共通して「幼児期には意図的な教育が必要で、幼児期の学びが将来につながる」と認識し、知識偏重型ではなく「探究型の教育指導こそが必要である」と考えるようになってきました。

髙宮(敏):小学校入学前は厚生労働省管轄の保育園と文部科学省管轄の幼稚園、そして内閣府管轄のこども園などに通うケースがあります。保育園での「比較的自由にのびのびと育つ環境」と幼稚園での「学びの基礎を身につける教育環境」という両園の違いが明らかになり、小学校進学の際に問題視されるようになってきました。保育園でも年長では小学校に向けて少しピリピリした雰囲気で修学準備をするようになっています。また、保護者の高学歴化や女性の就業率向上と晩婚化・少子化が進み、教育に対する期待値が上がっていると感じています。
※1:幼児期の終わりまでに育ってほしい「10の姿」
幼稚園における「幼児教育要領」、保育園における「保育所保育指針」、認定こども園における「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」における指針に加え、2018年に策定された小学校に入学する前に育ってほしい資質や能力をまとめた指針。「10の姿」は次の通り:①健康な心と体②自立心③協同性④道徳性・規範意識の芽生え⑤社会生活との関わり⑥思考力の芽生え⑦自然との関わり・生命尊重⑧量・図形、文字等への関心・感覚⑨言葉による伝え合い⑩豊かな感性と表現。
※2:ジェームズ・ヘックマン
ノーベル賞経済学者、米シカゴ大学経済学部特別教授。40年以上に亘り幼児教育を研究。5歳までに「やり抜く力」を得ると学力だけでなく健康にも良い影響を与えるなど、子どもへの早期教育がいかに生涯を通じてプラスに働くかをデータ分析した。

Q 小学校進学に関する動向は
髙宮(敏):以前は小学校受験と言うと、大学(あるいは高校)まで一貫教育の付属小学校を選び「小学校に入れたらその後の受験は心配無用」と考える傾向が強かったと思います。しかし今日では小学校受験を終えても弊社のSAPIXのような塾にお通いいただくケースも増えているようです。大学の付属小学校のケースなどでは大学が設置している学部に医学部などがなかったり文系学部中心であることを理由に、早ければ中学受験遅くとも大学受験を次のステップとして考えるご家庭が多くなっています。

久野:小学校受験の準備をする現場でも、今までは「そのまま大学まで行けることを期待する」あるいは「加熱する中学受験を避けたい」という思いの保護者が多かったのに対し、現在では高校から外国に留学・海外大学を選択肢に考えたり、将来の大学受験を前提にどのような小学校を選択するかという視点が一般的になってきたようです。特に「将来を見据える」という意味で、お父さまが主導しているケースも増えてきました。

Q 保護者の関わりが変わってきたと伺います
久野:お母さまの就業率向上によって今一番影響があるのは「小1の壁」と言われる問題です。保育園では仕事が終わるまで預かってもらえたのに対し、小学1年生になった途端18時ごろまでしか預け先がない。そこでお母さまが仕事を変えるなど苦労され、お父さまが自ずと積極的に、あるいは消極的にでも子育てに関わる雰囲気が出てきたと思います。我々の幼児教室でもお父さまが前面に出てこられ、土曜日のクラスの送迎ではお父さまの姿が多く見られます。

髙宮(敏):私自身も11歳と3歳の子どもがいますが、11歳の子が保育園に通っていたころ父親の私が送迎していると非常に珍しがられました。現在3歳の子の保育園では送迎するお父さんが圧倒的に増えましたし、男性の保育士さんも多くなっています。当然の如く子育てにしっかり関わるようになったお父さんの存在が、小学校進学への意識を大きく変えたと思います。

久野:将来の学校選びにおいてお父さまが積極的に関わり決められることはもちろん良いことです。経済誌などで特集される受験情報を熱心に読まれているようですが、その情報が果たして正しいか煽られていないかと問うてみることも大事です。お母さまとお父さま両者の子育てにおける世界観に食い違いが生じているケースも見られます。ご両親で教育の方向性を共有していくことが必要でしょう。

髙宮(敏):小学校入学後に保護者会や授業参観に参加し、実社会で働く保護者が「ビジネスで戦っていく力や社会で必要なクリエイティビティが身につくのか」と不安になるケースもあるようです。実際に海外に出ていかれるケースはまだ少数派だと思いますが、海外留学など将来に向けた情報収集をする動きが相当増えてきているなと感じています。

Q 小学校進学に関する動向は
久野:将来の学習は大切ですが、「何が書けた」「計算ができた」ということ以上に学習を支える「土台」が大切だと思います。我々は教科につながる「原教科」を考えています。スポーツを例にすると、基礎の運動能力を鍛えずに早期から特定のスポーツの技術を教えようとすると、「できない」という事実にぶつかり劣等感だけが植えられてしまいます。学びにおいても、知能テストや記憶力、フラッシュカードなどは形が明確で一見身についたように錯覚しますが、真の学力は身につきません。遊びや生活に根ざして数量の概念やお話を想像しながら聞くなど幼児期に「土台」を築くチャンスを見出すこと、そして子どもが自ら「成長したいと思う意欲」を育てることが大切だと思います。

髙宮(敏):「歩く道中で何を見つけたか」「今日何が楽しかった(悲しかった)のか」と聞くことで、子どもが自分の言葉で話そうとします。それが大切だと思います。ChatGPTだ、グローバリゼーションだと言われる中で、幼児期に特別なことをしなければならないと思いがちですが、実は日常生活の中で「対話する」ことが大切なのだと思います。

高宮(信):アメリカンスクールの3歳児のクラスなどでも、先生は注意深く対話しているそうです。子どもたちが「これ何?」と質問すると先生は教えるのではなく必ず「何だと思う?」「どういうふうに感じる?」と問うそうです。子ども自らが考え答えることで自信をつけていく姿勢が育っていくのだと思います。

久野:小学校受験ということではなく一般的に「小学校への準備」として、家庭ではやはり幅広くいろいろな観点で関わっていくことが求められます。机に向かう勉強だけではなく、自然の中や実際の事物に触れ五感を通じて体験を積むこと、そしてスポーツなどを通して勉学以外の能力を育んでいくことも必要でしょう。海外において日本の幼児教育が評価されているのは「遊びの中で育てる」という姿勢です。また、日本には「・・道」と呼ばれる伝統的な学びがいろいろあります。その「道」には礼儀作法も含めた総合的な学びがあるわけです。幼児期に必要なことを学ぶことは、小学校受験をする・しないに限らず大切なことでしょう。

髙宮(敏):日本では英語を学ばせるプリスクールが急激に増えています。幼児が綺麗な発音で話せる様子を見れば保護者は嬉しいものですが、語彙力や文法力はかなり覚悟を持って意識的に継続していかないと身につきません。英語もしっかり頑張るけれど漢字なども手を抜かずにしっかりやるということは相当大変ですから、小学校に向けて2言語の優先度をどうするか戦略を立てていく必要があります。

後編では、「学校選び」などのアドバイスをご紹介します。どうぞお楽しみに。

小学校進学におすすめの学校はこちら↓

昭和女子大学附属昭和小学校
https://www.spring-js.com/japan/school/6495/
聖心女子学院初等科
https://www.spring-js.com/japan/school/5467/

※2023年11月25日現在の情報です。最新情報は各機関に直接ご確認ください。
 

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