文部科学省「海外で学ぶ日本の子供たち(2024年度版)」によると、海外の日本人学校や日本語補習授業校に通う児童生徒は約4万人おり、インターナショナルスクールや現地校に通う児童や未就学児も相当数いると推測されます。帰国の際は海外と近い教育環境を求めるなど、帰国後の教育に高い関心があるご家庭は多いと伺います。
Springでは、昨年好評いただいた「小学校進学を考える」をアップデートしてお届けします。教育の専門家から最新の「小学校進学の動向」や「ご家庭へのアドバイス」を伺い、「海外生・帰国生を歓迎する小学校」もご紹介しています。ぜひご覧ください。
今回ご紹介する小学校
●昭和女子大学附属昭和小学校
●聖心女子学院初等科
●ローラス・インターナショナルスクール・オブ・サイエンス
●千葉大学教育学部附属小学校
幼児教室「こぐま会」代表
久野泰可氏
1948年、静岡県生まれ。横浜国立大学教育学科を卒業後、現代教育科学研究所に勤務し、86年「こぐま会」代表に就任。常に幼児教育の現場に身を置き、その実践を通して幼児期に大切な「思考力」を育てるための独自のカリキュラム「KUNOメソッド」を確立。その中で「ひとりでとっくん」100冊シリーズや、多くの「具体物教材・教具」を「こぐまオリジナル知育教材」として開発する。著書に『子どもが賢くなる75の方法』(幻冬舎)、『「考える力」を伸ばす AI時代に活きる幼児教育』(集英社)など。
Q.首都圏の小学校進学の動向は
幼児教育と小学校受験に携わって50年になりますが、小学校進学において親御さんが求める「良い教育環境」の定義は、時代の要請により変わってきています。かつては、小学校から大学までの一貫教育を期待するご家庭や、キリスト教教育を期待するご家庭、また、ご家族の出身校と同じ学校への進学を希望するご家庭などが多くを占めていました。 ここ10年では首都圏の小学校受験の裾野が広がり、お父さまがより積極的に子育てに関わるようになりました。その中で「より良い教育を受けさせたい」という意味が変わってきたように感じます。一旦小学校に入学しても早ければ中学、あるいは高校・大学で再度受験することを念頭におくご家庭が増え、小学校選択では「将来の受験に対してどれほど体制が整っているか」が重要な要素になってきたのです。また、共働きのご家庭が増え、 働く保護者に寄り添った支援として私立学校でも「アフタースクール」が運営されるなど、学校側も変わってきています。
Q.小学校での英語教育は
シンガポールをはじめ海外在住の幼児・小学生を持つ親御さんにとっては、「当地でいかに英語を習得するか」「母語である日本語をどう育むか」が大きな関心事でしょう。「国際社会で生きていくために英語を身につけさせたい」という保護者の要請に応える動きは、公立小学校における英語の導入だけでなく、従来から英語教育を行ってきた私立小学校でも、より徹底して行うようになってきました。英語教育に力を入れている学校としては、例えば、英語教育の時間数が大幅に多い都立立川国際中等教育附属小学校、東京農業大学稲花小学校などがあります。また、昭和女子大学附属昭和小学校が小学校(一条校)初の「国際ケンブリッジ認定校」となり、国語などの教科以外は英語で教育する「国際コース」を開設しました。 ご家庭では「なぜ我が子に英語を習得させたいのか」「英語を学ぶ具体的な目標は何か」を突き詰めて考え、英語学習に向き合うと良いでしょう。安易に英語の時間数が多い学校を選んで安心するのではなく、「なぜ英語の習得が重要なのか」をお子さんがその理由を理解していないと学習意欲につながりません。幼児・小学生と限らず、第二言語の習得は明確な動機づけによってこそ、功を奏すると思います。
Q.「考える力」「探究心」を育てるには
児童心理学者のピアジェ※は自分の子どもを観察する中で、子どもの成長過程では「自発性」つまり「子ども自らが関心を示し、物ごとに働きかけて主体的に学ぶこと」が重要であることに気づきました。幼児や小学校低学年において、子どもは興味がないことにはいくら外から教え込んでも身につかず忘れていくのです。
一般に、抽象能力が身につくのは小学3~4年以降と言われています。幼児期や小学2~3年ごろまでは、実際の「事物」を使って考える力を養うことが大事です。だからこそ「体験」が重要なのです。また、幼児には「一つの観点にこだわってしまい他の観点が見えてこない『知的自己中心性」と呼ばれる特徴がある」と言われています。例えば、ぬいぐるみを正面から見るだけでなく横から見たらどう見えるかを確かめるなど、「視点を変えて物ごとを見る力」を養うことが「考える力」を育てるのです。教科書や紙に書かれたものや、映像で目にするだけで「わかったつもり」になってしまいますが、幼児期・小学校低学年では「実際の物に触れる体験」が重要です。
※ピアジェ:スイスの児童心理学者。大人とは異なる子ども特有の思考プロセスや、子どもの行動をもとにした認識論、0~7歳の教育環境が人格形成を決定することなどを明らかにした。
「好きなこと」から主体的な学びが始まる
幼児期のお子さんが好きなものから興味関心を広げていく例をご紹介しましょう。
お休みの日には電車見物と駅巡りに付き合うなど、親の覚悟も必要です。好きなことを否定せず親子で体験することで、考えを深掘りでき探究心へと繋がっていくのです。忙しい親御さんにとって、好奇心旺盛なお子さんにとことん付き合うのは、大変なことでしょう。それでも、小学校高学年や中高時代には養えない「今しかないこの学びの時」を大切にしてください。あえて「不便な環境」に身を置き自然に親しむキャンプなども探究心を育むのにおすすめです。
学校の先生に聞きました。
どのように子どもの力を育んでいますか?
英語力・国際性を育てるために
「バイリンガル」は一朝一夕ではなれません。 ご家庭でもぜひサポートしていきましょう。
本校は文部科学省の「教育課程特例校」※に指定され、日本の小学校(一条校)として初めてケンブリッジ国際の認定校となり、今春から「国際コース」「探究コース」の2コースを開設しました。「国際コース」では、英語で学ぶプリスクール出身者や海外滞在経験のある子どもたちを受け入れ、授業の6割を英語で学習します。学習指導要領と世界スタンダードの学びである「ケンブリッジ国際」の教育内容は親和性が高いため、日本の小学校のカリキュラムを英語で無理なく学ぶことができるのです。
また、一条校の学校として、第一言語である日本語(国語)を重視し、アイデンティティの確立を図っています。その他体育ではシルクドソレイユ出身の先生から「アクロバティックアーツ」を楽しく英語で学んでいます。
※「学習指導要領」などの教育課程の基準によらない特別の教育課程の編成・実施する「特例」が認められた学校。
各コースの取り組みが子どもたちの未来を広げます
低学年のうちから、学校でのお話をいっぱい聞いてあげましょう。 「あのね」という言葉を引き出せれば大正解!子どもたちの 「アウトプットしたい」気持ちを大切に受け止めてください。
「探究コース」では、学年ごとにテーマを設定し、児童が担任とともに具体的な内容を決めていきます。例えば5年生の「日本」であれば、「和紙」について学ぶクラスもあれば、「日本の食」や「スポーツ」などついて学ぶクラスもあります。大切なことは、児童たちが自ら学ぶ内容を決めていくことです。主体的な学びから、「なぜだろう」「どうしてなのか」という問いを立て、考えを深めることができるのです。
「国際コース」でも、ケンブリッジ国際で学ぶことで自ずと探究する力が身につきます。英語イマージョン教育は18人の少人数制で指導していきます。小学3年からは「グローバルパースペクティブ」という教科横断型の科目にも取り組む予定で、英語での探究学習も本格化します。
小さな問いから広がる世界の出来事への大きな関心
聖心女子学院初等科
Sr.大山 江理子校長
英語力・国際性の育て方
本校では世界の出来事に関心を持ち、子ども同士で話し合い、調べ、分かち合う機会が多くあります。例えば「ハイチデー」という日を設けて、おにぎりだけのお弁当を持参します。おかず分のお金を募金し、海外で活動する聖心会のシスターを通じて最貧国の一つであるハイチやアフリカ、フィリピンなどの子どもたちを支援しています。この活動を通して、一人ひとりの力が合わさると大きな力となることを知り次の取り組みへと繋がっていきます。「世界のことをもっと知りたい」「世界の人と話したい」と夢が膨らんだ子どもたちは、英語を学ぶことにも積極的になっていきます。目的を持つことで、英語の学びは一層意欲的になります。
考える力・探究力の伸ばし方
「問いを持つこと」や疑問を探究する「自主学習を習慣化する」ことを大切にしています。複数の視点から物ごとを考え、実験やフィールドワークを通じて答えを導き出す力を育てています。1~4年生は協働して追究を進め、5~6年生では自ら選んだテーマについて探究していきます。多くの場面で試行錯誤のプロセスを重視し、さまざまな分野への問いや社会の出来事について考える機会を設けています。
データで見る海外・帰国児童
海外在住の日本人の数は約129万人(2023年) 1990年は62万人。
コロナ禍で微減したものの、30年強で約2倍に増加
Q.海外で日本人が多く住む国は?
上位20カ国
Q.海外在住の児童・生徒数は?
在外教育施設※1に通う児童・生徒※2は約4万人。
※1・・・国内の学校における教育に準じた教育を実施することを目的として海外に設置された教育施設。日本人学校・補習授業校・私立在外教育施設を指す。
※2…日本国籍保有者で義務教育年齢相当の児童・生徒。インターナショナルスクール・現地校のみに通う児童・生徒を除く。
Q.帰国時の児童の学年(全国国立・公立・私立総数2023年)
帰国児童は小学2~6学年で各学年1,000人超え、もっとも多い4学年は約1,200人
Q.帰国後の学校区分は?
公立がもっとも多いが、国立・私立小学校に転入する児童も多数
帰国が決まったら・・・
帰任時期は予想がつきづらく戸惑いも多いものです。そこで、海外生・帰国生を歓迎する日本の小学校、専門家からのアドバイスをご紹介します。
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◆帰国後の英語保持どうする?
◆国際教育プログラムの学校を探す
日本の国際バカロレア(IB)枚一覧
1B初等教育ブログラム(PYP)とは?
ケンブリッジ国際とは?
◆帰国後の体験談
◆日本の学校一覧(小・中高、インター校検索)
今回ご紹介する小学校
●昭和女子大学附属昭和小学校
●聖心女子学院初等科
●ローラス・インターナショナルスクール・オブ・サイエンス
●千葉大学教育学部附属小学校
後編では、「国際性の育て方」「日本語と日本人としての素養」についてお届けします。 ウェブサイトでの掲載はメルマガでお知らせします。どうぞお楽しみに。
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