データサイエンスやAIの急速な技術進化が社会に大きな影響を与える中、理・工学の知識を持つ人材育成が注目されています。また、高齢化社会が進み医療が高度化・多様化する現代社会において医師の社会的ニーズが高まっており、定員数や受験者数も増加傾向にあります。Springでは、昨年の「医学部受験」に続き、今年は「医・理・工学部の受験」について、専門家に伺いました。
河合塾 海外帰国生コース責任者
藤田真由美さん
1992年学校法人河合塾に入塾。教材作成部門、大阪校、大阪校医進館(医学部特化校舎。現大阪北キャンパス東大・京大・医進館)などを経て、2020年よこれまでの指導クラスは、医学部医学科、東京大学、京都大学、慶應義塾大学など幅広い大学、学部に及び、多くの受験生(帰国生・一般生)を合格へと導く。
理系の大学は文系の大学よりも難しい?帰国枠は縮小傾向?
理系の帰国生入試は、ほとんどの大学で数学と理科2科目が課され、しかも難易度は一般入試と大きな差がないことが多く、文系と比較して難関と言われています。
同時に、早稲田大学や慶應義塾大学、26年度入試(25年度出願)からは法政大学など有力大学が帰国生入試を廃止または縮小する中で、帰国生入試を検討している受験生・保護者の皆さまは不安を抱えておられるのではないでしょうか。
その一方で、学内活性化の観点から、海外で様々な経験を積んだ帰国生を受け入れることにメリットを感じている大学・教員も多く、帰国生入試はたくさんの大学で継続されており、帰国生にとってチャンスはまだまだ広がっています。
そしてこの帰国生入試で合格を勝ち取るには、日本への帰国前、海外にいる間にどれだけ準備を進めておけるかが大きなカギとなります。
帰国生入試合格に向けた7つのポイント
①現地での学習に力を入れる。
これが全ての学習のベースになります。よい成績をキープしましょう。
②統一試験等のスコアアップを図る。
日本帰国後の受験は難しいため、海外にいる間に目標点到達をめざしましょう。
③日本の受験学習にも力を入れる。
現地の学習範囲と日本の受験範囲が異なる場合がほとんどです。計算機は使用できず、公式も覚えなければなりません。数学の学力が理科にも影響するため、まずは数学を頑張ることをおすすめします。
※海外滞在暦が長く、日本語力に不安がある人は早いうちから日本語の勉強に取り組んでください。日常会話が英語の方の場合は、まず家庭内では日本語で話すということから始めてみて
④志望学部・学科に関する知識を得る。
面接で志望理由は必ず聞かれます。学部学科に関連した基礎知識は絶対に必要なため、大学のホームページを元に関連知識について自ら調べることが重要です。
⑤社会のできごとや滞在国に関心を持つ。
面接では、社会時事に関して問われることも多々あります。日頃からニュースに興味関心を持つことが重要です。特に、滞在国と日本が関係しているテーマは、滞在国と日本との捉え方の違いも把握しておきましょう。
また、海外での体験の中で、大学進学や将来の目標に影響を与えたような出来事を問われることもあります。日常的に周囲の出来事に関心や問題意識を持っておくことが重要です。
⑥大学・学部情報、入試情報を収集する。
受験大学の情報収集は必須事項です。大学パンフレットやインターネットを利用し、大学学部の研究内容や校風を理解するとともに、アドミッションポリシーの把握、出願資格の確認も重要です。シンガポールのALベルでは出願資格を得られない大学もあるため、注意が必要です。
⑦親子間のコミュニケーションを図る。
普段から社会での出来事や受験大学等について会話を欠かさないようにしてください。また、出願書類を揃えることは大変ですので、保護者の方のサポートをお願いします。
海外在住中からできる数学対策
専門家に聞きました
河合塾 数学科講師 高田 宇吉 先生
30年に渡り、帰国生を指導。東京大学理類(理科三類を含む)や慶應義塾大学(医学部医学科を含む)など、国公立・私立大学理系学部に多くの帰国生を合格に導いてきた帰国生指導のスペシャリスト。帰国生の弱点を知り尽くした指導を展開。
帰国生入試で合格するために、海外在住時にしっかり取り組んでいただきたいことは、現地での学校の成績を上げ、「日本の数学」にも対応しておくことに尽きます。それは大学側も認めていることで、この両方ができている優秀なお子さんを大学は求めています。 数学では「記述力」、すなわち正しい数学的思考・論述ができているかが問われます。その答えをどう考え、どの定義や公式を使い、途中どの部分に注意しながら答えを導いたかに対する部分点が大きいのです。記述の解答については、多少の漢字の誤りなどは減点にはなりません。 海外生活が長いと数学が苦手になりがちと思われるかもしれません。しかし、これまで多くの帰国生を指導してきて感じることは、数学が苦手なのではなく「日本式の数学」が苦手なだけなのです。答えを導くこと(=推定)はできても証明が苦手という方が多いと感じます。その意味でも、「日本の大学」に向けた受験対策をしっかりしていただきたいと思います。
海外在住中からできる面接対策
❶ これまでの経験で何を得て、何に関心があるのか、考えてみること。
❷ いろいろなことに問題意識を持ち、自分なりの考えを持っておくこと。
❸ 滞在国から客観的に日本を見る習慣をつけておくこと。
❹ 志望大学のホームページで大学学部学科調べをしておくこと。
全国でわずか10人たらず? 一般入試よりも難しい「医学部帰国生入試」
少子化が進むなかでも、医学部入試は年々志願者が増えています。学力トップクラスの受験生が1点を争う一般選抜や、意欲や適性が重視される総合型選抜(旧AO)も高倍率ですが、定員が極めて少ない帰国生入試もまた「超狭き門」と言えるでしょう。 「帰国生入試」とは、一般に保護者の海外赴任などで日本の教育を受けられなかった高校生を対象にした大学入学試験を指します。医学部の帰国生入試について、「全国82大学医学部のうち、帰国生枠を設けているのは国公立大学と私立大学を合わせてもわずか15大学前後です。いずれも募集定員は若干名で、実際に合格するのは1名か2名で合格者が出ない年度もあり、難関中の難関と言えます。
一般入試と異なり、複数の国公立大医学部に出願できるのは、帰国生入試の利点とも言えそうです。選考方法は大学によってまちまちで、中には理科3科目を課す大学もあり、突破のハードルは非常に高いのが現状です。また、入試要項が突然変わることもあり、戦略を立てるために常に最新情報に目を配らなければなりません。 医学部受験は情報戦とも言えます。海外のインターナショナルスクールを卒業し、帰国してから「さあ、どこに出願しようか」という感覚でいてはとても間に合いません。高校1年生、あるいは中学生のころから医師になる決意を固め、第一志望をある程度絞り込んでおくことがおすすめです。
医学部の帰国生入試とは
・例年9月に始まり、翌年2月まで各大学がそれぞれの日程で選考する長期戦。
・ 選考はおもに二段階。
一次選考では、共通テストの代わりにSATやAレベル、IBDPなどの統一試験のスコアのほか、TOEFL、IELTS、現地校での成績(GPA)などが問われる。
二次選考では、大学ごとの個別日程で面接、口頭試問、小論文などが課される(図Ⓐ)。
現地で基礎を固めれば、帰国後に応用がきく
医学部をめざす帰国生にとって最大の壁の一つが、世界的にみても高いレベルにある日本の学力試験です。
Q.帰国生入試でも一般入試と同じ対策が必要ですか。また、注意すべき科目は。
A.同じ対策が必要なわけではありません。
特に必須科目である数学については、海外の高校では得意だった生徒も帰国してから苦手科目になってしまうほど、日本で数学を学んできた受験生と比べると大きな学力差が生じています。計算力や暗記力、記述力を重んじる日本の数学と異なり、海外の試験には電卓を持ち込むことができ、公式も試験問題に示されている上、答さえ求めることができれば、答までの課程を示さなくても点数は与えられます。また、ベクトルや微分積分を海外では習わないなど、履修内容も大きく異なります。帰国生にグラフを描かせると、原点O(オー)、グラフの方程式を描きません。こうした乖離を埋めるには、相当な努力が必要です。
Q.日本の医学部入試に対応する学力をつけるには?
A.最も大事なのは現地校での勉強です。
まずは海外滞在中に学ぶべきことを着実に学び、学力の絶対基礎となる土台を作っておけば、その上に日本の大学で求められる学力を乗せることができます。理科は英単語を日本語に置き換えれば理解が進みますし、数学の記述力定着にも役立ちます。高校の成績(GPA)をはじめ、AレベルやSAT、TOEFL、IELTSなどのスコアを現地にいる間に上げておくことが大切です。
藤田さんからのアドバイス
海外の高校は宿題や課外活動も多いことでしょう。日本式の難解な問題集をやりこんで、現地での成績を下げてしまっては本末転倒です。最も優れた参考書は日本の検定教科書です。高1、2年生から目を通しておき、日本との違いを知っておくと、帰国後に慌てないでしょう。
日本とは違うプログラムで学ぶ帰国生の強みとは?
「親が医師だから」「偏差値が高いから」という理由で医学部をめざす人もいるかもしれません。医学部入試では昨今、すべての大学で面接試験が課されており、受験生の「医師としての適性」が重視される傾向にあります。医師は患者の命にかかわる職業だからこそ、大学側も学力だけでなく、高い『人間力』を備えた学生を選びたいと考えています。この点は、一般入試でも帰国生入試でも共通しています。 語学力は言うまでもありませんが、いろいろな国の文化や価値観に揉まれる中で身に付けた『発信力』が高く評価されます。ここでいう発信力とは、自分の意見を伝えるだけではなく、他者を尊重して、その場をうまくまとめる順応性に富んだ力です。 医師は、看護師や検査技師、管理栄養士ら専門スタッフと協働する「チーム医療」の一員でもあります。現場をまとめるリーダーシップやコミュニケーション力は欠かせない資質と言えるでしょう。 また、日本ではできない国際的な経験を積んでいることもポイントです。医学部に合格した帰国生の中には、欧州でウクライナ難民を受け入れるボランティア活動に取り組んだ人や、Aレベルの課題をきっかけに医療系の研究論文を書き上げた人もいました。また、自分が海外の医療機関で辛い思いをした経験から、『日本で医師になって外国人患者を助けたい』という明確な志を持った人も多いです。大学側は、帰国生の経験値に期待しています。
藤田さんからのアドバイス
海外にいる間にいろいろな経験を書き出しておくことをおすすめします。その経験をもとに将来どのような社会貢献をしたいか、医学部志望者であれば自分はどのような医師をめざすのか、医師としての将来像にまでつなげて描けるようにしておくと、志望理由書や面接での説得力が増すでしょう。 特に医学部の帰国生入試は甘くはありません。晴れて合格後も、日々の勉強を怠らないことが大切です。医学部生になったら、ハイレベルな一般入試を突破してきた優秀な学生と机を並べることになるのですから。「医師は一生勉強」とも言われます。合格は医師になるためのスタート地点であることも忘れないでください。
■ 帰国生入試を設けている医学部
■ 合格へのロードマップ
高1
・ 医師になる決意を固める
・ 日本の教科書の内容を確認する
・ 志望校を絞り込む
・ 志望校の情報収集
高2
・ 現地校で高GPAをめざす
・ SAT、TOEFLなどを受験する
・ 国際的な経験を書き出しておく
・ 志望理由書を書いてみる
高3
・ 帰国前 自国の統一試験に集中
・ 6月 帰国 志望理由書を作成
・ 7月~ 一部の大学にて出願スタート
・ 7・8月 日本式の試験対策
・ 9~2月 一次・二次選考
※海外のインターナショナルスクールに通う生徒のスケジュールの例です。
通っている学校や学習進度によって異なります
2024年11月25日現在の情報です。最新情報は直接お問い合わせください。