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日本人学校英語教育への取り組み

シンガポール日本人学校小学部 英語教育への取り組み

~楽しい少人数授業 「使える英語」を目指して~

シンガポール日本人学校小学部では、学習指導要領に規定された学習内容だけでなく、シンガポールだからこそ実践できる独自のカリキュラムを採用しています。
 現地校交流、ホームステイ、ネイティブ教師陣による水泳や音楽のイマージョン教育(英語で学ぶ授業)などをはじめ、習熟度別少人数授業による英会話教育に力を入れています。母語である日本語をしっかりと学ぶことで思考力を伸ばし、日本人としてのアイデンティティーをきちん と確立させながら、将来世界で活躍するために不可欠な「使える英語」の習得を目指しています。
 クレメンティ校・チャンギ校両校の授業風景を取材させていただきました。

英会話教育の基本内容(両校共通)

 総勢15名(両校合わせ計30名)のスタッフで1年生~ 4年生は週3回、5 • 6年生は週4回の英語の授業を担当します。

 英会話のクラスは習熟度別に12段階に分けています。クラス編成は毎日の取り組みの様子から各学期のはじめに判断します。新入生や編入生は最初の数回の授業の様子でクラスが決定されます。教師の多くはネイティブスピーカーです。教科書は「Way Ahead」「 English World」( Macmillan 社)、「 Mighty Movers」「 Fantastic Flyers」「 Everyday Grammar」( Oxford University Press)などを使用。さまざまな英語活動を実施する中で多角的なアプローチにより総合的な英語力をつけることを目標にしています。

 フォニックス(アルファベットが単語の中で発音されるときの規則性を学習します)や英文法(5 • 6年生に日本人教師が教えます)にも力を入れています。フォニックスは、クレメンティ校ではイギリスで開発されたJolly Phonicsを、チャンギ校では日本人(松香洋子氏)の視点から作られた松香フォニックスを採用しています。

 保護者との連携を深めるため英会話の授業参観が定期的に行われ、担当教師が英語で書いた成績表が配布されます。

クレメンティ校

【小4 E14クラス (※1)】

 この日は1912年に沈没した豪華客船タイタニック号がテーマでした。

 はじめに、英語雑誌「ナショナルジオグラフィック(子ども版)」の特集ページを子どもたちが順番に声を出して読んでいきます。先生は「なぜ100年前の過去のことなのに現在形で書かれていると思いますか」「hullとは何か説明してください」「意味がわからない単語が出てきても文脈から推測することが大切です」 と児童たちに話しかけます。子どもたちは次々と挙手し、自分の意見を述べていきます。

 記事を読み終えた後、船長が取った行動とその理由、子どもと女性の救助が優先された理由、男性より優先されることの是非について熱の入った議論が行われました。タイタニック号の乗船客の旅の目的や家族構成、当時の乗船券についても学んだ後、単語のつづり方や反対語・類義語をクイズ形式であてるゲームを行い、授業が終了。45分の授業の間、日本語は一度も聞こえてきませんでした。

楽しい雰囲気の教室

【小4 E6クラス】

 取材当日は比較級の学習を行いました。younger/ taller/ stronger/ louder といった表現を使った文を一人ひとり前に出て発表していきます。発表者を決めるときも英語でジャンケンゲームをするなど元気いっぱいでにぎやかな雰囲気が印象的でした。

 その後CDとともにワークブックを使用。比較級を使ったヒントをもとに英語クイズ「Who Am I?」の答えを考えました。

 説明文を聞いてNurseやCarpenterといった職業を当てるクイズも行われ、最後にフォニックスとして「 ay」を「ei」と発音する単語( play / say/ hooray など )が取り上げられました。

 教師は授業中常に英語で話しかけます。子どもたちがときおり日本語で答える様子も見られましたが、先生が話す内容は全て理解しているようでした。友だち同士助け合って理解しようとする姿勢が見られました。

【小5 E13クラス(※2)】

 はじめに、当日のテーマである「昆虫のオリンピック」という記事(ナショナルジオグラフィック子ども版より)への導入として、時事トピックであるロンドンオリンピックや聖火、パラリンピックについて会話が進められました。

 次に、その記事を児童たちが順番に音読していきます。どの昆虫が「昆虫のオリンピック」で勝つのか、prey / predatorという単語を確認しながら読み解いていきます。昆虫と動物を比較検討する事例が多いため、ワークシートを利用して事実を整理しながら授業が展開されました。記事の中から好きな昆虫を1つ選び、なぜそのような能力が備わる必要があったのかを記述。友だち同士相談するときも英語で話し合いながら、集中して課題に取り組んでいました。

(※1) … クラスはE1からE14に分けています。E1は主に新しく来星した児童を対象とし、E14はほぼネイティブスピーカーを対象としています。
(※2) …5年生は現在E13までのクラス編成となっています。

英語課スタッフ全員が自由に利用できる英会話資料室もあります。

◎子どもたちの声

小4  S. I.さん:英会話の授業が大好きです。先生に “Super! Fantastic!”と言われるとやる気が出 ます。わからない言葉があったら、わかり やすく説明してくれるのも嬉しいです。

◎英語主任:Rosemary de la Lancette 先生のお話

~仕事の難しさ、やりがいについてお聞きしました~

 20年ほど前から試行錯誤をしながら、「日本人の子どもにどのように英語を教えるのが最も効果的か」を考えてきました。

 教える側にとって難しいのは、一年中転入生が来るということです。教師が計画的に学習を進めていても、慣れていない転入生に対しては特別な配慮が必要です。また、「話す」「聞く」「読む」「書く」という4つの技能については、同じクラスの児童でも一人ひとりの得意・不得意が異なります。「どの技能を強化すべきなのか」がみんな同じではない点が難しいところです。

 この仕事をしていて喜びを感じるのは、休み時間などに廊下で英語を使っている子どもたちの声が聞こえてくるときです。5年前まではこのようなことはありませんでした。子どもたちは確実に英語への自信を深めています。私たちの努力が実を結んだと感じ、とても嬉しくなる瞬間です。

チャンギ校

【小1 フォニックスのクラス】

 1年生は全員週1回フォニックスの授業 を受けます。授業の前には廊下にきちんと 整列し、入り口に立った教師と元気いっぱ い英語で挨拶をしながらフォニックス専用 の教室に入ります。一歩入ると英語の世界 が広がります。カラフルなカードが飾られ た楽しい雰囲気の中、アルファベットの呼 び名とは異なる綴り字の発音(例:A「ei」 はAppleでは「æ」)を学習していきます。

 前の授業までに習ったフォニックスの歌 を復唱後、新しいアルファベットを学び、 それが単語の中で使われるとどのように発 音されるのかを教師の発音に続いて復唱し ました。黒板を大きく使って書き方を学ん だ後は、教師が発音するときの表情、唇の 動き、1つのアルファベットが書かれた大 きなカードを子どもたちは真剣に見つめ、 新しい音に慣れていきます。最後にプリン トでの確認が行われました。

 数ヶ月前までは幼稚園に通っていたとは 思えないほど、子どもたちはしっかり学習 に取りくみ、体やジェスチャーを使ってリ ズムを取りながら元気いっぱいフォニックス の歌を歌っていました。楽しく歌っている うちに自然に発音を覚えている様子でした。

ice-breaking 何についての英文かみんなで考えよう!

【小2 SAクラス (※3)】

 「スポーツ」をテーマにした授業がテンポよく展開されました。

 まず、絵を見ながらCDを聞き、絵の中 のどの人物の説明かをあてるクイズを行っ たあと、次々と変わるカードの人物がどん なスポーツをしているのか一人ひとり発言 していきます。スポーツによってdo / play どちらの動詞を使うのかを確認したあと は、不規則活用をする動詞の過去形を復習 しました。最後に何のスポーツの説明かを 制限時間内に答えるゲームを大きなスク リーンを使って実施、子どもたちは夢中に なっている様子でした。45分間の授業中、 常に積極的に先生に話しかけ、活発な雰囲 気を感じました。

【小2 NCクラス (※4)】

 自己紹介や年齢、出身などの言い方や尋 ね方、好きなものを相手に聞くときの表現 について学習しました。

 先生は新しい表現を説明するときも、日 本語はまったく使わず英語だけで説明します。児童たちが完全に理解していないと思 われる場合は、言い方を変えて何回でも根 気よく説明し直します。理解できた児童が 日本語で友達に説明し、全員がきちんと理 解したことを確認してから次に進みます。 基本パターンを覚えた後は、単語を入れ替 えて、-What ○○○ does your father like? -と応用した表現を子どもたちが一人ひとり発表しました。先生とは英語でコミュニ ケーションを取らないといけないという ルールが子どもたちの中にしっかりと確立 しているようでした。まったく物怖じせず 英語で発言する子どもたちにたくましさを 感じました。

(※3) … Super A : 英語が母語である、英語が母語に近いクラス
(※4) … Newcomer : 英語を初めて学習するクラス

教科書を使っての授業風景

◎子どもたちの声

小1 M.T.さん: フォニックスの授業はすごく楽しいです。歌を歌ったり、言葉を読んだりします。もっと英語を読めるようになりたいです。

◎英語主任:杉下 知香先生のお話

~仕事の難しさ、やりがいについてお聞きしました~

 海外で育っているということもあり、シンガポール日本人学校の子どもたちの英語力は日本国内と比較すると高いと言えます。そのような児童たちに「どのように教えたら学習意欲をさらに高められるか」を考えるのは難しいですがやりがいを感じます。また、母国から遠い子どもたちに、英語を通して日本について教えることがとても楽しいです。

 英語の習得には、話したいと思う気持ちが大事です。相手の言うことは理解できても、自分の考えを英語で伝えることは難しいのですが、積極的にどんどん先生に話しかけるように子どもたちに伝えています。学校と家庭の連携もとても大切なので、英語学習についての悩みは、いつでも相談していただくように保護者の方にお願いしています。

編集部の感想

 とにかく子どもたちがいきいきとして輝いている-どのクラスに行ってもそんな気持ちになりました。教室も明るくカラフルで、元気いっぱいの声が英語で響き、楽しく学んでいる様子が伝わって来ました。学習指導要領に準拠しながら、これほどまでにコミュニケーション力を重視した「使える英語」の学習を進めていることは、日本国内の英語学習を考える上で示唆に富んでいると思います。外国籍の先生にも全く気後れすることなく、のびのびと学習する子どもたちの様子に、近い将来、日本人として世界で活躍する姿が目に見えるようでした。

※本文は2012年9月25日現在の情報です。

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