学校・幼稚園コラム
「シンガポール算数」ってなに?

シンガポール算数とは

歴史と背景

現在使われている小学校の算数カリキュラムは、1980年にシンガポール教育省が、米国の教育心理学者ジェローム・ブルーナー博士が唱える「学習の論理」に関する教育心理学を応用して、独自に開発したものです。異なる文化や母語環境にある多様な生徒たちが簡単に算数を習得できる工夫がされており、導入からまもなく教育効果が顕著に表れました。1990年代には文章題をふんだんに取り入れた内容に徐々に改訂され、近年はさらに「論理的思考力・論理的推理力」そして「自身の数学的思考を、人に伝えるコミュニケーション力」にも重点を置いています。

明確な目的意識

自然資源に乏しいシンガポールは、「国の将来は人的資本の質にかかっている」ことを強く意識し、決して「勉強のための勉強」ではなく、未来の産業経済が必要とする人材を育てるための教育を効率よく実施していくことを至上命題としています。

シンガポール教育省では、初等算数教育の目標を、「すべての子どもが、生活・人生の中で数学的な情報をもとに適切な決定を下せるようになること」「数学的なスキルを高等教育やキャリアで生かせるようになること」としています。

シンガポール算数の実力

1995年
第一回 国際比較教育調査国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)※において小学4年生、中学2年生ともに世界第一位。以後毎回3位までの上位に入り続ける。
※国際教育到達度評価学会(IEA)が行う小・中学生を対象とした学力調査

2008年
カリフォルニア州の公立校で教材として公式に承認。米国、カナダ、英国、インドなどでも導入が進む。

2009年
生徒学習到達度調査(PISA)※の「数学的リテラシー」で世界2位
(1位は中国上海市、日本は9位)。
※経済協力開発機構(OECD)による国際的な生徒の学習到達度調査

2012年
生徒学習到達度調査(PISA)※の「数学的リテラシー」で世界2位
(1位は中国上海市、日本は7位)

「シンガポール算数」ってなに?

「シンガポール算数」ってなに?
提供:シンガポール教育省 Huamin Primary School

シンガポール算数の特徴

◎文章題が多い。
◎「Bar Model(バー・モデル)」という図を描いてから問題を解く。

入門編
とにかく文章題の内容をバー・モデルで描く

例 題 :
青いボタンが2つ、赤いボタンが3つあります。ボタンは全部で何個ありますか。
① 実際に机の上に、青いボタンと赤いボタンを取り出して並べ、数える。
② バー・モデルを描く

③ 式を立てて、解く2+3=5

このような図を教科書や黒板で見て問題を解くことは日本の小学校でも行われていますが、重要なのは、実際に自分で描くことです。シンガポール公立校の授業では、上記のような最も単純な足し算・引き算の問題でも、1年生の時から必ずこのバー・モデルを描くことを徹底しています。その徹底ぶりは、「頭でできるから」とバー・モデルを描かずに、式と答えを書いただけでは、減点されてしまうほど。シンガポール算数で訓練されるのは、「多種多様な文章問題の内容を、適切なバー・モデルで表せるようになること」です。

上級編
代数の概念も

例 題 :
アマンダとメイリンは、同じ数だけシールを持っています。アマンダが5枚使った後の残りの枚数は、メイリンが19枚使った後に残った枚数の3倍です。メイリンは、最初に何枚のシールを持っていたのでしょうか。


ここで1 Unitに設定したのは、メイリンが19枚使った後に残った枚数です。このバー・モデルを見ると、19と5の差にあたる部分が、Unit 2個分であることが容易にわかります。
式:
2 Units = 19-5 = 14
1 Unit = 14÷2=7
よって、1 Unit = 7

最初に持っていた枚数は 7 + 19 = 26
使った計算は、非常に簡単な、引き算と割り算だけです。

日本の中学数学では、このような問題に対しては代数xを使って式を立て、解を導きます。
3x + 5 = x + 19
問題文をバー・モデルに表すことができると、小学校中学年までに学習した計算方法だけで、一見複雑な文章題をとけるという点が、シンガポール算数の最大の特長と言えます。

Spring編集部がシンガポール教育省(MOE)に聞きました

Q. 文章題が中心の学習ですが、基礎演習はしなくてもよいのでしょうか。

基礎演習もしていますが、算数を学ぶ目的は実生活で数学的な問題に直面した時に解決できることです。日々の生活場面などを再現している文章問題は、その演習として重視しています。

Q. 国際調査で高順位を保持している要因はどこにあると思いますか。

教育心理学を考慮したカリキュラム、それに合った適切な指導法、教師たちの熱意、そして子どもたちのモーチベーションが作用していると考えています。また保護者の方々も子どもの教育に関心が高く、学習を支援する環境を積極的に提供していることも大きな要因の一つでしょう。

Q. 欧米やアジアの他国でも導入されていますが、教師のトレーニングができるかどうかが成功の鍵だと聞きます。他国の先生に対して研修の機会などを提供しているのでしょうか。

シンガポール国民の子どもたちの教育が私たちの目的ですから、他国への研修など普及活動は行っていません。ただ、他の国でこの国のカリキュラムが評価されていることは私たちの励みになっています。

「シンガポールの算数といえば!」
専門家に聞いてみました。

田嶋 麻里江 氏


「世界一の学力がつくシンガポール式算数ドリル 小学1~6年
『バーモデル』で文章題にとことん強くなる!(平凡社)」著者

日本の小学校では方程式を学習する前には「解かせない問題」も、バーモデルを使いこなす当地の低学年生たちは簡単に解いてしまいます。文章題を視覚的に理解することで、答えを導く手順を簡単に見つけ出せるからです。

もちろん、図形問題などバーモデルを必要としないケースも多くあります。その為、当地の小学生たちは問題を解く際に「これはバーモデルを使うべきか否か」をまず考えます。問題の中に「1 Unit」にあたる数値があるかどうかを判断し、バーモデル使用の可能性を考える習慣化を徹底させています。

建国わずか50年余りで、奄美大島ほどの国土面積しかないシンガポールの子どもたちの算数力が、日本の子どもたちを圧倒し、更に当地の教育が世界の人々から熱い視線を集めているという事実から決して目をそらしてはいけないと思います。算数のみならず、日本の将来を担う子どもたちに本当に必要な教育、効果的な学習方法とは何であるのかと、今こそ真剣に考えるべきときではないでしょうか。

シンガポール式算数の教科書・参考書は、書店チェーンの「POPULAR」で購入が可能です。ネットで「Singapore math worksheets」や「Singapore math free test papers」等と検索すると、無料の問題集や解法紹介サイトが多数見つかるはずです。ぜひお子さまと一緒にシンガポール式算数に挑戦してみてください。

サカモト式算数 Sakamoto Educational Systems Pte Ltd
マネージングディレクター
若林 憲司 氏


サカモト式:シンガポール人の児童生徒を主な対象に、英語で算数指導を行う日系学習塾。2012年シンガポールの保護者が選ぶ「最も優れた小学生算数教室アワード」を受賞

シンガポールと日本の小学校算数のシラバス(学習内容)は、各概念の導入時期はずれますが、6年間で学ぶ内容は類似しています。日本の算数のレベルも非常に高く、中学受験経験者であれば算数オリンピックでも好成績を期待できるでしょう。しかし、一般的に日本人の壁になるのは、「英語での論理展開」です。日本人がシンガポール算数を学ぶメリットとしては、まさにこの「英語で算数の問題を説く力」をつけることでしょう。コンピューターのプログラミング言語は英語ですし、日本人であっても理数系を英語で学ぶ必要性は今後ますます高まってくると思います。

入塾してくるシンガポール人のお子さんの中には、小学3年生までは算数が得意だったのに、4年生の頃から苦手になるケースがあります。これは4年生以降、文章題の比重が増え、計算さえできればすぐに解けてしまうような簡単な問題が少なくなっていくことがひとつの原因です。学年が上がるにつれて文章題も種類が増え、内容の「関係把握」がしっかりできず、「バーモデルを適切に描けない」ことでつまずきます。 サカモト式では、問題の内容を整理し「関係を把握」する訓練を通して、これを克服していきます。

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