グローバル教育
全日本空輸株式会社(ANA) アジア・オセアニア室長 兼 シンガポール支店長 石井 智二氏

多くのエアライングループの中から選ばれ、世界で勝ち残るためには、ご利用いただくお客さまの満足度を高め、信頼を得ることが不可欠です

そのため、「安心と信頼」はANAグループとお客さまとの「約束」と位置づけ、安全を最優先に、いつもお客さまに寄り添う気持ちを大切にしながら高い品質を追求し続けています。

グローバル時代を迎えた今、企業が求める人材、教育とは何でしょうか。 
企業の方からお話をうかがいました。

Q. 御社の紹介をお願いします。

読者の皆さまには、日本への一時帰国やビジネスのためにご利用いただいているかもしれませんが、当社は1952年にヘリコプター2機でスタートした航空会社です。現在は日本国内はもちろん、世界44都市に約80の路線を有し、一週間でおよそ1,300便の国際線を運航しています。世界最大の航空会社連合である「スターアライアンス」に加盟しており、自社運航便とスターアライアンス加盟の航空会社を中心とした共同運航とで、世界に広がるネットワークを形成しています。

当社は航空各社の品質を評価する英国SKYTRAX社より世界最高評価である「5スター」に2013年から7年連続で認定されるなど、常に「ジャパンクオリティー」を意識しながら着実に成長を遂げてきました。

一昨年、シンガポールからの訪日観光客は40万人を超え、外国人居住者を除く国民の10人に1人が日本を訪れるまでになりました。こうした旺盛な訪日需要とアジア・新興国の経済成長を背景とした航空需要の拡大、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催やそれに向けた首都圏空港の発着枠拡大など、ANAグループはさらなる飛躍に向けたビジネスチャンスを迎えようとしています。

全日本空輸株式会社(ANA) アジア・オセアニア室長 兼 シンガポール支店長 石井 智二氏

Q. 多国籍のスタッフが協働する上で、工夫されていることは何ですか。

シンガポールのスタッフは、日本からの駐在員が2割、ローカルスタッフが8割です。空港のお客さま対応やセールスはローカルスタッフが担うなど、かなり現地化が進んでいると言えるでしょう。異文化・多国籍のスタッフが働く環境の中で気をつけなくてはならないこと、それは「文化的な相互理解」と「明確な意思表示」という2点です。

例えば、イスラム教徒のスタッフは金曜日の午後に集団礼拝があります。日本では想像がつきにくいですが、当地では彼らが礼拝できるように可能な限り対応しています。もし、異文化に対する理解がなければ、「仕事をさぼっている」などと誤解を招きかねません。シンガポールは文化・宗教の多様性に富んだ国ですので互いに異文化に対して寛容で、そのような理解が得られやすい環境だと感じます。

「明確な意思表示」については、日本人社会では一般に言わなくてもわかるという「忖度」が働きがちですが、国籍も文化も異なるスタッフが関わる場合は、一人ひとりがはっきり言葉にして伝えないと通じないことがしばしばです。「阿吽の呼吸で伝わっているだろう」と一方的に思い込み、実は肝心なことが全く伝わっていなかったと慌てることになりかねません。どのような時でも「きちんと伝える」という明確な意思表示が大切だと痛感しています。

Q. 航空業界で名誉ある「5スター」に連続で認定されているそうですね。

多くのエアライングループの中から選ばれ、世界で勝ち残るためには、ご利用いただくお客さまの満足度を高め、信頼を得ることが不可欠です。そのため、「安心と信頼」はANAグループとお客さまとの「約束」と位置づけ、安全を最優先に、いつもお客さまに寄り添う気持ちを大切にしながら高い品質を追求し続けています。

前述の通り、弊社は7年連続「5スター」という世界最高評価をいただきました。この評価を得るには、搭乗手続きからラウンジや機内環境、客室乗務員のおもてなしや言語対応、トイレの清潔感に至るまで、実に多くのチェックポイントがあります。それらをSKYTRAX社の評価員が実際に搭乗し、評価しているのです。当社は日本やシンガポールでは認知していただいていますが、欧米では「ANAって何の会社?」という具合に、ご存知ない方もいらっしゃいます。そのような場合でも、「『5スター』に認定された航空会社であれば」と信頼くださり、ご搭乗いただけるのです。

高評価をいただけたことは社員のモチベーションにもつながっており、今後もその評価を維持するために、指摘された点の改善には会社をあげて取り組んでいます。商品開発担当部署のスタッフはあえて他社の便に搭乗することで、お客さまの立場でサービスの違いを感じ、当社のサービス向上に反映したりもしています。

Q. 日本の航空会社として「おもてなし」を重んじていると伺いました。

航空会社が商品で差別化するのは、難しい側面もあります。例えば、ある航空会社がビジネスクラスでフルフラットになる座席を提供すると、他の航空会社も次から次に追随し、同様のサービスを展開します。就航している路線や飛行時間に大差はないため、航空会社同士で差別化できるサービスの種類には限りがあります。そのような中、お客さまが航空会社を比較される際に一番大きな違いとして感じていただける点は、やはり「おもてなし」の精神だと考えています。

私どもは、海外を飛び回っていらっしゃる忙しいビジネスマンが機内に一歩足を踏み入れた瞬間に「ああ、日本に帰ってきた」とほっとした安らぎを感じていただける存在でありたいと考えています。また、海外から日本にお見えになる外国人のお客さまにも日本のおもてなしで寛いでいただきたいと考えています。その気持ちは、当社の機内食にも現れています。「和食」については、多様な食材を用いて四季の食材の味わいを活かした日本の伝統的な食文化を堪能していただけるよう、細心の注意と心がけをもってご提供しています。

「おもてなし」の精神を、国籍にかかわらず全スタッフがサービスを通してお客さまに提供できるようにするには、社員教育の徹底が必須です。現地のスタッフには東京本社で実施するトレーニングに参加してもらうなど、さまざまな工夫をしています。こうして、日本の考え方やANAとしての「おもてなし」を全社をあげて大切にしています。

Q. 御社が求める人材について教えてください。

昨年度の新卒採用については、事務系は60名(文系8割、理系2割)、整備士は50名(理系10割)、パイロットが30名(文系5割、理系5割)、客室乗務員は700名(文系9割、理系が1割)を採用しています。

航空会社では、私どもの商品であるフライトを作るのにとても多くの職種が関わっており、全員で協力し合うことが欠かせません。例えばお客さまにお乗りいただく際に、空港でお出迎えしチェックインをするグランドスタッフ、機内でサービスをする客室乗務員、飛行機を操縦するパイロット、地上には整備士もいます。安全を第一に、「お客さまの満足度を高める」という目的に向かって一丸となってそれぞれの業務を遂行するチームワークを非常に重んじています。

航空会社は一見華やかに見えるかもしれませんが、現場はとても泥臭い仕事です。仲間と一緒に額に汗を流しながら働けるバイタリティーがないと難しいと言えるでしょう。私は採用面接などの際に「現場でお客さまのために走り回れますか」と質問をしています。そのような気概がベースにないと勤まらない業種なのです。

Q. 海外で暮らすお子さま、ご家族へのメッセージ

これからの社会を生きていく上で、多様な文化や宗教の人とコミュニケーションを取れる力や受容する力がとても重要になってくると思います。海外で暮らす皆さんはそのようなチャンスに恵まれていますので、日本人社会に引きこもることなく、外の世界に大いに飛び込んでいってください。何気ない話題であっても、多国籍の友人と語り合う中で、皆さんの人間性がますます豊かになっていくに違いありません。そうして養われる人間性こそが、将来グローバルに活躍していく上で一番大切な資質だと確信しています。

「日本人の若者は内向き志向」と言われて久しいですが、日本人のパスポート保有比率はとうとう25%を切ったと聞きます。若者が海外に行きたがらないという事実は、グローバル化が進む世界でこれから先の日本にとって大問題であり、経済にも影響が出ないとも限りません。国の垣根がなくなりボーダレス化していく世界経済において、昔のように国内だけで完結する仕事は多くはありません。自ら海外に足を運び、将来日本の企業を背負う立場として活躍いただきたいと思います。皆さんには、すでにその素地が十分にあるのですから。

会社概要

全日本空輸株式会社

1952年設立の日本の航空会社。現在は世界44の都市に約80の路線を有する国際線、国内線ともに国内最大規模。イギリス・スカイトラックスによる航空会社の格付けで、最高評価の「ザ・ワールド・ファイブ・スター・エアラインズ(The World's 5-Star Airlines)」の認定を得ている(日本のエアラインとしては史上初)。国際線を成長の柱に、LCC事業、商社事業、旅行事業などの各事業でもグループ一丸となってさらなる挑戦を続けている。

『企業からの声』バックナンバーはこちら 
https://spring-js.com/expert/expert01/fof/

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