グローバル教育
関西学院千里国際中等部・高等部 校長 萩原 伸郎氏

個性や人間性を重んじ 「個別最適化」教育を実現

はじめに

千里国際中等部・高等部(SIS)は、帰国生の受け入れを主な目的とし1991年に設立されました。開校当初から「国際バカロレア(IB)」の理念を取り入れた対話型・思考型の学習を重視し、大学とも連携した高度な教育を提供しています。また、日本で唯一、インターナショナルスクールと協 働する学校でもあります。近年、文部科学省が「個別最適化」教育を掲げていますが、海外在住歴や学習歴により必要なサポートが大きく異なる帰国生こそ、「個別最適化」教育が合っていることは言うまでもありません。

日本での教員経験に加え、1988年に文部省(当時)の派遣で西オース トラリアのパースに赴き、以来30年間にわたり大学や小学校、地元の高校で教えてきました。私は、以前から日本の学校教育で行われている画一的な教育に疑問を呈していましたが、一人ひとりの個性や人間性を大切にする本校の教育に共感し、この学校に加わりました。

関西学院千里国際中等部・高等部 校長 萩原 伸郎氏

1つのキャンパス、2つの学校

本校は、日本で唯一、インターナショナルスクールと協働する学校として知られています。同じ敷地内にある大阪インターナショナルスクール(OIS)と理念だけでなく教室や施設を全て共有し、授業の一部や活動を日々ともにしています。まさに、2校で1つの存在です。入試は年7回行われ、高校3年生まで編入が可能です。生徒は一般生と海外生・外国籍が半々、教員と生徒の比率は1:10という少人数制で、35の国と地域からバックグラウンドが異なる生徒が集まっています。

実際に学校生活の中でどのように2校が関わっているかというと、学期の組み方、始業終業の時間は全て同じ、学校行事や生徒会活動、音楽・体育・美術も合同でOISの外国人教員が担います。日本の一般的な学校とは全く違うスタイルで流れていくので、とても面白い学習活動ができます。クラブ活動はいわゆる日本の「部活動」という感覚ではなく、スポーツはすべてシーズン制(4シーズンある)で行われ、勝ち負けよりも「楽しむ」ことに主眼が置かれています。帰国生の皆さんには、海外の学校と似ていて馴染みやすいと好評です。

本校は昨年度、1階図書館の全面改修を、今年度は3階教室部分の改修を行い、伝統的な教室のありかたや学習環境とは異なる両校ならではの新しい空間を実現しました。コンセプトは全生徒が「深く学び成長する ことを可能にする学習環境」で、生徒の主体的な学びを育み、教室の内外をつなげることで動的な流れとコラボレーションを生むようデザインされています。来年度は2階教室の大改修を行い、生徒の深い学びを実現する教育環境の創造をめざして、これまでにはないイノベーティブな学校づくりに取り組んでいきます。

帰国生のための制度と学び

どの国からの帰国生でも、また、どんなカリキュラムからでも移行できるよう、「学期完結制」と高等部の「自由選択制」、そして「無学年制」という本校独自の3つの制度があります。

「学期完結制」は、1年間を春・秋・冬ごとに60日間の均等な3学期に分 け、授業は全て学期ごとに完結し、単位を認定しています。学期ごとに集中して学ぶため、年に3回新しいスタートを切ることができます。この制度により、世界各地からの帰国生の学習が円滑に継続できます。

「自由選択制」は、学びたい授業と学ぶべき授業を組み合わせ、「自分だけの時間割」を学期ごとに創る制度です。学校が決めた「コース」ではなく、生徒それぞれが自分だけの学び方を決めるため高いモチベーションを維持できます。同じ時間割の生徒は一人もいません。時期を選んで履修できるため、効率良く学ぶことができるのです。

「無学年制」とは、多くの授業で学年の枠にとらわれず選択できる制度です。限られた諸条件の中で生徒の幅広い授業の選択肢を確保し、必要に応じたレベルから学習を始めることができます。高校1年生と3年生が同じ教室で学ぶことで良い相乗効果も生まれます。

関西学院千里国際中等部・高等部 校長 萩原 伸郎氏

「個別最適化」教育を実現

文部科学省は、新学習指導要領に基づいた児童生徒の資質・育成に向けて「個別最適化」教育を掲げています。「個別最適化」教育とは、子どもたちが誰一人取り残されることのない学びであり、子どもの特性や学習進度、学習到達度などに応じて柔軟に対応する「指導の個別化」を意味します。私は、以前から日本の学校教育で行われている画一的な教育、つまり「One size fits all」という仕組みはもはや通用しないと感じていました。今、社会が求めているのは、かつてのような激しい受験競争を勝ち抜いた知識重視の画一的なエリート組織ではなく、個性を重視した多様性(ダイバーシティ)のある組織です。これからは学校が従来の教育を変えていくという努力をしなければ、教育機関としての役割は担えないでしょう。これは日本の教育機関が避けては通れない現実です。学習形態の多様化や選択肢をたくさん作らなければ、ますます世界の潮流に取り残されるに違いありません。

帰国生は特に海外在住歴や学習歴により、必要なサポートが大きく異なるため、「個別最適化」教育が求められています。現在、日本には多くの帰国生受け入れ校が存在します。帰国後の学校を決める際には、その学校が責任をもってお子さんを預かる体制があるかどうかを見極めなければなりません。本校では「ブリッジング・センター」があり、その名の通り、異文化の橋渡しの役割を担っています。同センターでは帰国生一人ひとりの理解度に応じた完全個別指導をおこなっています。例えば、帰国したばかりで日本語での学習が全く理解できない生徒には、丁寧に指導をします。サポートは本人がもう大丈夫と自信を持てるまで継続し、寄り添います。期間は生徒によりさまざまで、学習面だけでなく、カウンセラーによる心のサポートも万全です。 

関西学院千里国際中等部・高等部 校長 萩原 伸郎氏

「国際水準(グローバルスタンダード)」の重要性

日本には学校名に「国際」がついた学校が多数あります。真に国際かどうか、グローバルかどうかの基準は一つしかありません。それは、その学校の生徒が世界の一員であることを意識しているか、すなわち「国際水準(グローバルスタンダード)」があるか否かということです。

本校では今年のはじめ、ロシアによるウクライナ侵攻で情勢が悪化した際、支援活動をしたいと有志が集まりました。本校の場合、ウクライナ人の生徒もいればロシア人の生徒も在籍しており、一概に「ロシアの侵攻はひどい」「ウクライナ人を助けよう」というメッセージを出せば、ロシア人家族を傷つけることになります。そこで、皆で意見を出し合い、真の人道支援とは何かを考えました。多感な10代のうちからこのような国際情勢を日々の生活の中で感じ、向き合い、考えることは、とても貴重で尊い体験です。ロシアとウクライナ双方の立場で検討した結果、批判や支持といったメッセージ色を一切なくし、純粋に人道支援に徹しようと募金活動 やウクライナのお菓子を作って販売するなどしました。「国際水準」で考える素養を育む上で、とても意味深く価値があった活動だと思います。

私たちが物ごとを考える際、無意識のうちに自分のアイデンティティや属性を意識し、自分たちだけが良ければ良いと考えがちです。しかし本来は地球規模の社会課題や相手の歴史・文化・考え方を視野に入れた「国際水準」で考える必要があります。70年代、私がまだ学生の頃に耳にした「地域に根ざして世界を見る」という言葉そのものです。国家の垣根がなくなりつつある現在、あらゆる産業や社会的課題が想像を超える範囲で密接に繋がっています。世界全体で脱炭素社会を目指すなど国際社会で取り組むべき課題は山積しています。「国際水準」で物ごとを考えることができる多様な人材を輩出することは、教育機関にとって待ったなしの課題なのです。

関西学院千里国際中等部・高等部 校長 萩原 伸郎氏 関西学院 千里国際キャンパス外観

日本の大学の問題

世界の大学ランキングなどで日本の大学の評価が下がっていることが指摘されていますが、日本の社会、大学、企業も含め、その競争力が落ちていることは確かで、理由は、日本がパラダイムシフトを上手くできなかったからに他なりません。

国際社会では、大学の位置付けも大きく異なっており、生涯教育(Lifelong learning)の場所となっています。国際情勢が目まぐるしく変化を遂げる中、日本の大学もリカレント教育を促進し、何歳になっても学びの場が提供されているという「生涯教育のハブ」として多様なオプションを社会に還元していくことが求められていると感じます。

海外在住の方へのメッセージ

世界のどこにいようとも、地域を愛し地域の人たちと十分に交流し合う豊かな経験を積んでくださいとお伝えします。せっかく海外にいるのですから「日本人化しない」ことが大切だと感じます。日本人社会には独特の慣習や考え方がありますが、現地の多様な価値観に触れ、「それはおかしい」と思ったら、自分はあえてそうしないという勇気を持って欲しいと感じます。

海外に長く生活をして帰国すると、自分が日本人であることに違和感を感じたり、自信をなくしてしまうお子さんもいることでしょう。環境も大きく変わりますから、まずは慌てず焦らずゆっくりやりましょう、というメッセージをいつも送っています。周りの目を気にしながら生活せざるを得ないこともあるかもしれませんが、皆さんには、ぜひとも「自分らしく生きる」ことを続けていただきたいと切に願っています。

※関西学院千里国際中等部・高等部に関する情報はこちらにも掲載しています!
https://spring-js.com/japan/6475/2/

 

※2022年9月25日現在の情報です。最新情報は各機関に直接ご確認ください。

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