~音楽との出会い~
「クリスタルのような透明感と温かみのある音を強みに」
ピアニスト 石田 成香さん
ピアニスト石田 成香さんは、12歳でロザリオ・マルチアーノ国際ピアノコンクール(31歳以下)2位、最優秀若手音楽家賞などに輝いて以来、米国、欧州、中国、トルコなど世界各国で多くの賞を受賞しています。今回は留学中のウィーンから、シンガポール交響楽団(Singapore Symphony Orchestra)の11・12月公演のために来星され、お話を伺いました。
ピアノとの出会い
3歳の時、ピアノ教師であった母から手ほどきを受けピアノを始めました。ピアノがとにかく大好きで、家では食事が終わるとピアノに直行するような毎日でした。
小学生で国内のコンクールに参加し、初めて海外で音楽セミナーに参加したのが4年生の時でした。ヨーロッパでは作曲家の息吹を感じられ、街には音楽が溢れていました。アメリカでは、観客が演奏者を超えるほどの熱量を持って聴いてくださり、温かい歓声が飛び交っていました。日本の聴衆はあまり感情を出さないため、「楽しんでいるのだろうか」と不安を感じていた私にとって、海外での体験は衝撃的なものでした。いつしか私は、「自分を表現できる舞台は海外」だと考えるようになりました。
世界的ピアニスト 故中村 紘子先生との出会い
私の人生で何よりも大切だったことは、「恩師」との出会いです。中でも、中村 紘子先生との出会いはまさに奇跡的でした。アメリカでの国際コンクールの審査員からの紹介がきっかけで、中村先生が私の演奏を聴いてくださいました。その際、中村先生が「あなたの音はクリスタルのようで温かみがある」と評価してくださったことが、今日に至る私の原動力になっています。中村先生からのご指導は、3年半に及び ました。そして、「高貴な音楽家として、その指先にピアノの神さまが宿るような芸術家になって」というお言葉を常に心に抱きながら、演奏家の道を歩み続けています 。
モーツァルトに魅了され、ウィーンへ
数多くの偉大な音楽家の中で一人を選ぶとしたら、それはモーツァルトです。幼い時からモーツァルトの調べに親近感を覚え、私自身が一番明確に理解している音楽家だと感じていました。「物語」が聞こえてくるようなモーツァルトの音に、私の個性の一つである軽いタッチで「語りかける」演奏が、互いに呼応している感覚を覚えるのです。
幼稚園の頃、初めて旅行で訪れたのもモーツァルトが生きたウィーンでした。幼いながらも「ここが好き」と感じたその直感は、やがて「留学するならウィーンへ」という夢、そして確固たる目標へとつながっていきました。その夢が叶い、現在はウィーンに在住しています。街のあらゆるところにモーツァルトの生きた証を感じながら、歳を重ねるごとに抱くあらゆる感情は、全て私のピアノへの情熱が起点となっているのだと感慨深く感じています。
海外で暮らすご家族へのメッセージ
私にとってピアノはなくてはならないものであり、いつも自分を反映してくれる存在です。お子さまが何かを成就するには「楽しませてあげる」のが一番だと感じます。また、いろいろな所で特有の景色を見る、美味しいものを食べるなど、一緒にその瞬間を共有し触れ合い、感性を伸ばしてあげることが大切だと思います。ピアノであれば、楽器が作られる背景や取り巻く環境も学ぶと、 自然に興味も深まるに違いありません。
海外では大変なことも多いと思います。私はウィーンで築120年程の古いアパートに住んでいるため、些細なことでも不便さを感じますが、外国に出て良かったことは数え切れないほど感じています。
海外の空港では、日本人パスポートの強さを感じることが多々あります。安心安全が担保された日本はとても恵まれた国です。海外の方は、私たちを通して「日本」を見ていると思います。今いる環境に感謝しながら「日本の良さ」を改めて感じ、世界に発信できる立場になれたらと、思いを強めています。