日本メディカルケアー 吉國 晋 医師
「食物アレルギーについて教えてください」
◎ 食物アレルギーはなぜ発症するのですか?
アレルギーは、体を守る免疫機構と関係しています。免疫で重要な役割を果たす抗体は白血球が作る物質で免疫グロブリン(Ig)とも呼ばれ、抗原と結合して免疫反応を起こします。抗体の中でもIgE抗体は、寄生虫やアレルゲン(食物、花粉やダニなど)と結合して白血球からヒスタミン等を放出させ、じんましんや喘息、鼻炎等の即時型アレルギー反応を起こします。
食物アレルギーは「食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫機構を介して生体に不利益な症状が生じる現象」と定義され、免疫機構はIgE抗体が関わる反応と関わらない反応に分けられます。
食物アレルギーは、じんましんなどの皮膚以外にも口・目・鼻の粘膜が腫れたり、喘息や呼吸困難などの呼吸器症状、腹痛、下痢などの消化器症状も起こします。複数の臓器に全身性アレルギー症状が生じ、生命の危険を伴うような過敏反応をアナフィラキシーと呼び、中でもアナフィラキシーに血圧低下や意識障害を伴うショック症状をアナフィラキシーショックと呼びます。このような症状が出た場合は、アドレナリンの注射などの緊急処置が必要です。
乳児から幼児期の食物アレルギーの主な原因である鶏卵、乳製品、小麦の多くは、その後成長とともに8~9割の人が食べてもアレルギー症状が出なくなります(これを「耐性の獲得」と言います)。
学童~成人で発症するじんましんなどの食物アレルギーの主な原因は、カニ・エビ、小麦、果物、魚、ソバ、ピーナッツです。これらの食物の耐性を獲得する可能性は、乳児期発症の食品に比べて低いので、耐性を獲得できない場合はこれらの食物を長期間除去する必要があります。
乳児湿疹やアトピー性皮膚炎において食物アレルギーの関与するも のは全体の7割を占めます。乳児期ほど食物アレルギーがアトピー性 皮膚炎に関与する割合が高く、幼児期を過ぎるにつれて食物アレル ギーとアトピー性皮膚炎の関連性は少なくなります。
◎ 子どもが食物アレルギーかどうかを判断する方法は?
食物アレルギーの検査には、血液検査と皮膚テストの2つの方法があります。
① 血液検査は、全てのIgE抗体の量を表す総IgEと卵白、牛乳などに含まれるアレルゲンに反応する特異的IgE抗体の量を測定します。アトピーの人は総IgE値が高いことが多いのですが、食物特異的IgE値が高くても、その食物を食べるとアレルギー症状が必ず出るとは限りません。しかし卵、牛乳、小麦については食物特異的IgE値とその食物を食べた時に症状が出る確率を表す曲線があります。例えば、牛乳特異的IgE値が成長とともに変わらなければ大きくなるにつれて牛乳を飲んでも症状が出ない確率が高くなります。
② 皮膚テストは、皮膚にアレルゲン液を滴下した上で針で皮膚を軽く刺した後の皮膚反応(紅斑や硬結)を調べます。特異的IgE抗体が陰性でも食物アレルギーが疑われる場合は皮膚テストが有用です。
◎ 食物アレルギーが疑われる場合どうしたらよいですか?
1)問診や食事日誌からアレルゲンになっている食物を推定します。その際に血液検査や皮膚テストなどのアレルギー検査を行って診断の助けにします。
2)食物除去試験:アレルゲンと推定した食物を家庭での食事から除いた時に症状が改善されるかを見て、症状が改善した時にはその食物が原因である可能性が高いです。しかし除去する食物は必要最低限にすべきですし、栄養面に関する注意が必要です。例えば、牛乳を除去する場合は不足するカルシウムを補うために低アレルゲン化粉ミルクのような代替食品を摂る必要があります。
3)食物経口負荷試験(oral food challenge test):食物アレルギーの症状が改善している状態で原因と思われる食品を少量ずつ食べてみます。食べた後でアレルギー症状が出た時には食品がアレルゲンであることが分かります。この試験はアナフィラキシーを生じる恐れがあるため、自宅ではなくクリニックの外来や病院に入院して行うことが多いです。
食物アレルギーのある人は加工食品の購入の際に原材料をチェックしましょう。日本ではアレルギーの発症頻度の多い食物(卵、牛乳、小麦、エビ、カニ)や重い症状を起こしやすい食物(ソバ、ピーナッツ)を微量でも含有している加工食品は、食物名を表示することが義務付けられています。また牛乳や卵アレルギーのある人は卵や牛乳のアレルゲン成分が入っている薬剤は使えませんのであらかじめ医師や薬剤師に伝えましょう。