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お子さまとご家族のための 歯科コラム Vol.18 フッ素洗口と思春期の壁

激減した「子どもの虫歯」

近年、お子さんの虫歯が激減していることをご存知でしょうか。最も多かった1970年代には12歳児で虫歯が平均5本あったのに対し、2023年度では一人平均0.56本になり、虫歯がある12歳児は全体の10%以下にまで減っています。虫歯が減少した背景には、歯科に関する知識の普及や食生活の変化があげられます。「虫歯大発生世代」である70・80年代生まれの親世代は、「乳歯は抜けるから歯科など行かなくても大丈夫」と間違った知識がまかり通っていたり、駄菓子やジュースをダラダラと摂取する悪習慣がありましたが、現在は素晴らしい変化が起きています。

都道府県の虫歯格差は、所得格差?

永久歯がほぼ生え揃う12歳児の虫歯の状況は、全国レベルで良くなっています。しかし、都道府県別で見ると大きな格差があります(図1)。

岐阜や新潟の平均虫歯本数は0.26本に対して、沖縄は約5倍。虫歯がある子どもの割合は新潟・中部エリアは5人に1人ですが、沖縄や九州エリアでは2人に1人です。日本小児歯科学会はこの「地域間格差」の理由について、「所得差の影響が大きく、社会経済的状況と親の歯科衛生の知識や習慣に一定の相関関係がある」と言及しています。

都道府県別の賃金を見ると、全国計(311.8千円)よりも賃金が高かったのは5都府県。新潟県は31位

平均賃金(千円)

都道府県(多い順に記載)

376~312

東京、神奈川、大阪、愛知、兵庫

376~312

奈良、千葉、京都、茨城、埼玉、滋賀、栃木、三重、福岡、広島、静岡、岐阜

289~270

和歌山、山梨、長野、岡山、群馬、宮城、福井、山口、石川、香川、富山、徳島、大分、新潟、熊本

269~247

福島、北海道、長崎、愛媛、高知、佐賀、鳥取、島根、秋田、鹿児島、山形、岩手、沖縄、宮崎、青森

出典:「令和4年賃金構造基本統計調査」厚生労働省

都道府県別で見ると全国平均(0.63本)よりも虫歯が少ないのは、16都府県。新潟県が1位

虫歯の平均本数

都道府県(少ない順に記載)

0.2~0.6

新潟、岐阜、愛知、富山、長野、静岡、京都、秋田、山形、埼玉、千葉、東京、滋賀、岡山、広島、佐賀

~0.8

神奈川、兵庫、奈良、和歌山、鳥取、山口、愛媛、高知、福島、群馬、大阪、香川、長崎、岩手、茨城、栃木、石川、山梨、三重、徳島

~1.0

宮城、福井、島根、福岡、熊本、宮崎、北海道、青森、鹿児島

~1.6

大分、沖縄

出典:「令和3年度学校保険統計調査」文部料学省

「新潟県」での官・学・民の取り組み

ここで注目されるのは、新潟県です。賃金水準は必ずしも高くないにも拘らず、12歳児の虫歯の少なさでは2000年から20年以上連続でトップを維持しています。「新潟には4つの自慢の「白』があり、お米・雪・美人・それに歯」と語られて、同県の虫歯予防には、新潟大学歯学部が大きな役割を果たしてきました。同大学は「虫歯は治療だけでは不十分。

予防が大切」という念のもと、ある小学校で週一回のフッ素入りの水で洗口運動を始めました。その後、PTAの要望で保健室に付属歯科治療室が設置され、「フッ素洗口」を行いながら歯科の教育と治療を展開し、児童の虫歯の減少に大きな成果を上げました。

フッ素はカルシウムなどを歯に取り戻す「再石灰化」を促して歯を強くし、更にフッ素を含んだ歯の組織は普通の歯よりも丈夫で「酸」に強くなります。特に乳歯や中学生ぐらいまでの永久歯のエナメル質は弱いため、この時期の「フッ素洗口」は虫歯予防に効果があるとされています。1971年には日本歯科医師会がフッ素の利用を推奨する見解を発表し、市販の歯磨き剤の多くにフッ素を配合するようになりました。新潟県は市町村・歯科医師会・新潟大学が連携しながら、学校を軸に歯の予防と管理を進めていき2008年には全国に先駆けて「歯科保健推進条例」を制定しました。フッ素の利用を盛り込んだ歯科保健の推進体制は現在も続いており、フッ素洗口の実施率は全国平均では19%であるのに対し、新潟県の小学校では94%を誇ります。

日本社会の複雑性

各都道府県が新潟のように「フッ素洗口」や歯科教育など保健活動を進めていけば、地域間の格差は縮小していきそうなものですが、現実は上手くはいかないのが実情です。フッ素利用にも反対の声があり、学校での導入に足踏みする地域も少なくありません。例を示せば、日本弁護士連合会は2011年に「集団フッ素洗口・塗布の中止を求める意見書」を厚労省・文科省・環境省に提出しています。理由は「安全性・有効性・必要性に否定的な見解もあるのに、学校など集団での実施は自己決定権を侵害する」としています。また、日本の医療文化にも起因している事例ですが、風邪の原因はウイルスであるにも拘らず、細菌を殺す抗菌薬(抗生物質)が広く処方されていて、「治療」を名目にした薬物の乱用に反対する社会運動は起こりにくいといわれ、他方で集団で行う「予防」に薬物を使う場合には激しい反対が起こりやすく、公共政策をも左右するほどの影響力が出ています。

「思春期の壁」

しかし実は、12歳児の虫歯予防には全国共通の大問題がその後に控えています。「思春期の壁」と言われ、中学・高校になると親や学校の言うことを聞かなくなるため「小学生にできた良い習慣が崩れ成人までの間に虫歯を作る」ケースが見られるのです。

新潟県でも12歳児歯科検診の結果が良くとも、30歳代前後の成人の虫歯が少ないというデータは見当たらないと言われます。集団フッ素洗口普及前の世代ですが、60歳で自分の歯が24本以上という「6024」の目標は、全国平均では達成率74%に対して、新潟県は66.2%にとどまっています。80歳で自分の歯が20本以上という「8020」の目標は、全国平均では達成率が50%を超えましたが、新潟県は36.6%なのです。

以上の事を含めて学童の時代だけでなく、大人になってからも大切な「歯」。ぜひ、ご家族でもう一度「虫歯予防」について考えてみませんか。

日本デンタルセンター
秋山逸馬先生

日本大学歯学部・同大学院卒業。医局員時代に大連市からの要請で病院開業や韓国の国際学会設立に参画。2002年に来星し邦人歯科医療に従事。11年クリニックを移転し「日本デンタルセンター」を設立。歯科医院運営にも携わる。
 

過去の歯科コラムもぜひご覧ください。

「歯の外傷」「 歯周病とからだの病気」「 ブラキシズム」「 日頃のブラッシング」「 咬むこととお顔のバランスの関係」「歯のクリーニング」「歯を守ることが健康のカギ!」「「入れ歯」は、日本人だけ?」「「虫歯になりやすい人」がいる?」「歯医者さんの歴史」「今さら訊けない「歯磨き」の基本」「睡眠時無呼吸症候群」「ブラキシズム」「歯科医療によるアンチエイジング」「歯科矯正のメリットとデメリット」「予防接種の重要性」
https://www.spring-js.com/expert/5999/

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