シンガポール発海外教育情報誌サイト

専門家の声 Specialist

企業からの声

デンカ シンガポール社長 徳本和家氏

2018.06.25

LINEで送る
Pocket

「グローバル化」とは、それぞれの国のアイデンティティを認めながら「一緒に調和して進んでいくこと」だと考えます。

海外にいると、いかにして外国人に溶け込むかと考えがちですが、日本人として自国の文化や考え方をしっかり持ちながら「日本人として」外国人と接することが大切でしょう。

グローバル時代を迎えた今、企業が求める人材、教育とは何でしょうか。
企業の方からお話をうかがいました。

デンカ シンガポール社長 徳本和家氏
デンカ シンガポール 社長
Denka Singapore Pte Ltd Managing Director
徳本 和家 氏

Q. 御社について教えてください

デンカは、1915年に創業されて以来100年余りにわたり、その時代の最先端の「化学」の技術を用いて皆さまの生活に役立つ素材製品を作ってきました。馴染みがある製品の例としては、肥料やセメント、合成ゴム、家電製品や食品容器として使用されるポリスチレン樹脂、接着剤、インフルエンザなどのワクチン、ペットボトルのフィルムや食品包装材などがあります。インフルエンザワクチンに関しては、日本において大きなシェアを持っています。

デンカ株式会社としては、日本国内に6工場を持ち海外は9ヵ国に拠点を築いています。海外市場では、その地域で競争力を持つ製品の販売に力を入れ現地のニーズに迅速に応える体制を確立しており、現在の海外売上比率は全体の40%に達しています。

シンガポールへの進出は1980年で、現在ある4つの工場では良導電性かつ高純度カーボンブラック(アセチレンブラック)や、スチレン系樹脂、半導体封止剤としてシリカ、さらにはウィッグ・ヘアピース向けの合成繊維なども生産しています。

Q. 海外でのマネジメントで、工夫されている点は

全社では6,000名近い従業員がおり、当地では300名の従業員を擁しております。その内の25名ほどが日本からの出向者です。現地でのマネジメントは、過去と比べると随分変わってきました。以前は、シンガポールの人たちの関わりはここまでというような線引きがあり、基幹技術は伝授しない傾向がありました。すると現地スタッフにとっては「ただ作っているだけ」「言われていることをやるだけ」という感覚になってしまい、面白みを感じてもらえず優秀な人ほど早く辞めていってしまったのです。

そこで、逆に重要な業務をどんどん任せていくことにしました。その結果「非常に期待されている」とか「仕事が面白い」と感じてもらえ、レベルアップが図られ、定着率が格段に上がったのです。それなりの待遇と教育を提供していることもありますが、現在では入社後数年で辞めていく人はほとんどいなくなりました。現地で経験を積んだスタッフが日本に転勤したり、他の海外拠点に赴くこともあるくらいです。やはりやりがいと責任感からくる「喜び」は大きなモチベーションとなり、良いスパイラルにつながっていると確信しています。

マネージャーなど管理職クラスも現地で採用しています。シンガポール人は大変優秀な人が多く、数学的な能力やロジカルな面で長けています。日本で2~3年研修を受けると日本語も話せるようになり、優秀なエンジニア、スタッフに成長してくれます。日本の工場とも円滑に業務を遂行してくれるので、活躍の場が広がっています。

Q. 御社のアイデンティティをどのように共有していますか

企業として大切な姿勢は「社会にも環境にも誠実であること」だと考えています。肥料の会社としてスタートして100年、現在もこうして企業活動ができるのは、取引先や近隣社会の方々から「信頼と支え」をいただいてのことです。いつまでも信頼されるものづくり企業を目指して、「地球環境の保全」と「資源の有効活用」には特に厳しく取り組んでまいります。

例えば、シンガポールは排出物の規制が非常に厳しいのですが、化学メーカーの重要な責任として排出物、大気汚染についても、環境規制以上に厳格に対応しています。日本とシンガポールの工場では環境・品質ともにマネジメントの国際規格を取得し、継続的な改善にも努めています。まさにこの姿勢こそが当社のバリューであり、アイデンティティなのです。シンガポールは事業者にとって非常に環境の良いインフラを提供してくれています。したがって、我々はそれにしっかり答えなくてはいけないという、大きな責任も感じています。

Q. 御社にとって「グローバル化」をどう考えますか

私は「グローバル化」とは、それぞれの国のアイデンティティや文化を認めながら一緒に「調和」して進んでいくことで、決して世界が混然一体化することではないと考えています。そのためには日本の文化や考え方をしっかり持ちながら外国人と接することが大切でしょう。海外にいると、いかにして外国人に溶け込むかと考えがちですが、あくまで日本人としてあるべき姿で思いやりや責任感、調和の心を持ち「日本人として」行動することが必要なのです。

我々のような素材産業は、この「調和」なくしては生き残れないと危機感を持っています。お客さまや取引先、従業員などのステークホルダー、そして環境との「調和」があってこそ、社会から求められているものに応えることができます。その上で、安全性や環境面での課題解決に向けて企業として取り組むことで、リスクを軽減しつつ持続的に成長することが可能になると信じています。

日本の企業は、昇格や決定が遅いなどという理由でシンガポール人の学生に人気がないと言われることがありますが、実際に働いている現地スタッフに聞きますと当社はそういうイメージとは対極的です。国籍にかかわらず社員同士が心を通わせ、信頼し合える社風があります。グローバルに普遍的な企業価値を理解しているため、皆が高いモチベ―ションを持ち、「調和」のとれた仲間意識を感じながら、働く意義を実感してくれているようです。

Q. 求める人材について

当社では、文系・理系、男性・女性を問わず採用していますが、業種柄、理系の採用が多いです。男性が多いイメージがありますが、近年では女性の研究職も増えています。現場に「女性の感覚」が入るとバランス感覚を発揮して細やかな点に目が行き届き、仕事をしやすい環境が整備されていきます。そのためエンジニアには積極的に女性を採用し、工場や営業の場でも女性が活躍しています。シンガポールは諸外国の中でも女性の活躍が一番進んでおり、研究所、総務、そして技術・資材関係のトップは女性が就いています。

求める資質としてはいろいろありますが、ぜひとも「プロジェクト運営力」を備えてほしいと思います。日本の教育現場では、あまり聞きなれない言葉ですが、当地では、学校教育の中でこの力が養われていると感じています。

私の息子は当地でインター校に在籍していました。学校では「プロジェクト」と呼ばれる宿題が多く、一定の期間で取り組む大きなテーマが与えられます。例えば「川が上流から下流を経て海に流れ着くまでに鉱山や化学工場があります。水質汚濁があるため上流・中流・下流それぞれの場所で特殊な微生物が発生し悪臭を放っています。あなたは何をし、どうアクションしますか」という内容です。社会で実際に起こっている環境問題などがテーマとなり、自分で原因を調べて解説し論理的に対処法を提案する、という内容が多いのです。このような「プロジェクト」の宿題は、詰め込んだ知識だけでは解決できず、その知識を活用できる知恵が求められるのです。

Q. 海外で暮らすご家族へのメッセージ

海外生活では、ぜひ現地のアクティビティに参加する機会を積極的に作ってあげていただきたいと思います。日本人が海外で暮らすと、どうしてもお子さんを取り巻く社会が小さくなりがちです。しかし、その一方でお子さんの「視野」は、日本にいるときよりも確実に広がっていきます。ボーイスカウトのように、異なる国籍の子どもと交流できる機会は絶好のチャンスと言えるでしょう。ぜひ海外の生活の中ではせっかくの機会を最大限に活かし、「国際交流プロジェクト」のような活動に積極的に参加していただき、日本では得難い経験や知識を積んでいただきたいと思います。

前述の通り、海外にいると「日本人として大切なこと」を忘れがちで、外国人に同調しようと振る舞う方が多く見られます。仮にどんなに言葉が流暢になったとしても、日本人が他国の国民になることはできません。常に「日本人として」自国の歴史や文化の造詣を深め、さらに学んでいただきたいと思います。貴重な海外での生活が、ご家族皆さまにとりまして有意義な期間になりますことを願ってやみません。

会社概要

デンカ シンガポール
Denka Singapore Pte Ltd

デンカは、1915年にカーバイト工業を主体に発展を遂げる。シンガポールにはアセチレンブラックを皮切りに半導体封止材、スチレン系樹脂、カツラ用原糸を生産し、昨年はワクチンや診断薬の研究所を開設。「化学」の技術を用いて人々の生活に役立つ素材製品を生み出す。

『企業からの声』バックナンバーはこちら
https://spring-js.com/expert/expert01/fof/

徳本 和家 氏

1981年電気化学工業(株)入社。

その後、スチレン系製品の製造、建設工事に携わる。

シンガポールは工場建設、操業、運営と異なる立場で3度目の赴任、通算17年間駐在。

現在はアジアパシフィック地区の拠点の総括を担う。

 

LINEで送る
Pocket

PAGE TOP