「日本人としてのアイデンティティ」 を確立するために、 ぜひ読書をおすすめします。
私がお伝えしたい日本の誇れる文化の一つは、新渡戸稲造の『武士道』にある精神です。「あらゆる国の歴史に敬意を払うことで相互の信頼が生まれる」とは、現代の私たちにも通じる精神だと感じます。この精神のもと「熱く・高く・そして優しく」グローバルに活躍することを期待しています。
グローバル時代を迎えた今、企業が求める人材、教育とは何でしょうか。
企業の方からお話をうかがいました。
Q. 御社の紹介をお願いします。
当社は、1923年に設立された総合電機メーカーです。古河電気工業とドイツのシーメンスの合弁企業として設立され、創業以来、エネルギー・環境技術を追求し、産業・社会インフラの分野で広く世の中に貢献してきました。事業内容は主に4つあり、「パワーエレクトロニクス事業」と「半導体事業」、「発電プラント事業」と「食品流通事業」です。皆さまに馴染みが深い製品でお伝えするなら、ハイブリッド自動車やエアコンに使用される「パワー半導体」と、「自動販売機」でしょう。後者は日本ではナンバーワンのシェアを持っており、大手コンビニエンスストアに設置されているコーヒーマシンは、誰もが知る存在ではないでしょうか。
世界共通の課題である「脱炭素社会の実現」に向けた取り組みは、日々 加速しています。当社の強みは、省エネには欠かせないパワー半導体を自社で開発・製造し、それを搭載した機器やシステム、エンジニアリング・ サービスをトータルで提供できることです。事業は国内外あわせて207の拠点で展開しており、海外ネットワークは世界21ヵ国におよびます。海外の売上高比率は28%で、そのうち46%をアジアが占めています。創業100周年を迎える来年には、売上高1兆円・営業利益の800億円を目標に掲げ、全社一丸となって事業運営をしています。
Q. 御社が掲げる「環境ビジョン」と環境への取り組みは
国際社会では、SDGs(持続可能な開発目標)や地球温暖化対策の国際的な枠組み(パリ協定)が採択されました。企業も社会の一員として、経済成長と社会・環境課題解決の両立に向けた積極的な行動が求められています。当社では2050年にカーボンニュートラル・ゼロを目指すにあたり、「2030年目標」を発表しました。東南アジアでの取り組みとしては、例えば、タイでは既に当社工場に太陽光発電設備を設置し、生産地の温室効果ガス排出量の削減に努めています。今後はマレーシアやフィリピンの工場でも同様の取り組みを加速し、当社のクリーンエネルギーや省エネルギー製品を東南アジアで普及させることで、脱炭素社会・エネルギーマネジメントの課題解決に貢献していきます。
「気候関連の財務情報開示タスクフォース(TCFD)」という取り組みがあります。当社はいち早く賛同を表明し、気候関連にどのように貢献しているかを開示しています。この取り組みにより、CDP(イギリスの環境関連の評価をする会社)から、3年連続で「最高評価A」の企業に選定されています。国によっては既にCO2排出の規制が始まっています。例えばベトナムでは、工場からの排出ガスを計測する規制があり、遵守しないと生産活動の継続はできません。東南アジアの各地域では環境に対して厳しい規制が進んでおり、当社にとってはそれが大きなビジネスチャンスになっているのです。
Q. どんな人材を欲していますか。
採用のポイントは、「富士電機の文化」に即した「コミュニケーション力」や「チーム力」を求めており、知識偏重ではなく人柄を重視する採用です。理系出身者は大学院卒も多く、近年では帰国生や海外大学出身者など国際的なバックグラウンドを持った方も増えています。新入社員の多くは英語力が高く、また、女性の活躍推進施策を強化しており、「女性が活躍できる職場」を積極的に提供しています。
当社の事業は半導体から発電プラントまでと幅広く、扱う製品数は約47万3千点にも上ります。そのため、多様な人財が必要とされ、個々の意欲を尊重しながらチームとして総合力を発揮することが不可欠と考えています。新卒については年齢構成の歪みを作らないために、基本的に景気に左右されない安定した採用を継続しています。文系・理系については、新卒・キャリアを含め8割以上が理系の採用です。
当社の「スローガン」は、「熱く・高く・そして優しく」です。これは当社のDNAであり、「熱い」は、新しい技術や製品を通して世に尽くす熱い気持ち、「高い」は自分の限界を決めずに、高い目標を持とうという意味が込められています。「そして優しく」は「感謝」を表しています。「お客さま」「一緒に働く仲間・従業員」、そして「家族」への感謝を示しています。当社が創業以来100年事業を続けることができたのは、このスローガンのもとで培われたチームとしての「団結力」があったからこそだと感じています。
Q. 外国人スタッフの採用状況とマネジメントについて。
シンガポール拠点の日本人スタッフは全従業員の10%程度です。他国ではさらに少なく5%程度の拠点もあります。東南アジアで積極的に事業拡大をするために、外国人スタッフを積極的に採用し、人財活用を進めています。海外人財は、「割り切った関係」「契約の関係」というイメージがあるかもしれません。実際に、3年から5年ぐらいの期間で職を変える方も多いですが、当社グループでの勤続年数は比較的長いです。もちろんキャリアアップで転職する人はいますが、その人が他社に移籍したにも関わらず取引時に当社製品を採用してくれたときには、感激したもの です。最後まで手厚く雇用し、新たな挑戦を応援してあげることは大切だ と感じています。
また、当社ではグローバル人財の育成も制度化し力を入れています。 「日本から海外への計画的な優秀人財の派遣」、「海外拠点から日本への優秀人財の派遣」、「日本国内人財のコミュニケーションスキル強化」の3つの取り組みを中心に推進しています。特に2つ目の「海外の優秀人財の日本への派遣」はNational Specialist Programとして、年間10人規模で実施していますが、現地拠点の将来のリーダー人財を国内主要拠点(マザー拠点)で育成し、当社製品知識・技術を習得しています。例えば、インドやフランスで工場を立ち上げるときは、タイの工場からこの教育を受けたリーダー人財が指導に行きました。今後もグローバル展開をス ムーズに行うために計画的にリーダー人財を育成していきます。日本人スタッフにとっては、英語もでき技術力の高い現地の人財が増えることに 焦りを感じる気持ちもあるでしょう。今後は日本企業における日本人スタッフであっても、競争力を高め、より一層自分を磨いていかなくてはなりません。日本人より現地スタッフの方が給料が高いという現実は、もはや珍しくないのですから。
Q. 女性の育児休暇からの復職率・定着率が100%だそうですね。
2006年に「女性活躍推進室」を発足して以来、女性活躍推進を進めてきました。柔軟な働き方ができる環境整備にも力を入れており、在籍する事業所以外の場所で勤務を可能にしています。育児や介護を目的に在宅勤務も可能で、移動時間を削減し効率良く勤務時間を確保する環境を整え、社員のワーク・ライフ・バランスに寄与しています。
当社でも育児休暇への支援は高まっています。現在では男性も育児休暇を取るようになり、あまり抵抗感なく定着しています。日本社会では制度がありながらも形骸化してしまい、実際に利用する人は少ないと聞きます。とても残念なことだと思います。当社では育児休暇中でも週に1回は上司がメールでコミュニケーションを取り、復帰しやすい環境を提供しています。
当社は経済産業省・東京証券取引所の「なでしこ銘柄」や、厚生労働省の「えるぼし」「くるみん」などの認定を受けています。いずれも女性の活躍に関する取り組みの実施状況が優良な企業に与えられるもので、これらの認定を受けていることは誇りでもあります。
Q. 海外で暮らすご家族へのアドバイス・メッセージ
海外在住の方には、「日本人としてのアイデンティティ」を確立してください、とお伝えします。そのためには、ぜひ読書をおすすめしたいです。親御さんはお子さんが夏目漱石から太宰治など日本の小説を、毎年夏に1・2冊でも読むように促してあげてください。お子さんに知っていただきたい日本の誇れる文化の一つは、新渡戸稲造の『武士道』にある精神です。上梓されたのは110年以上前ですが、現代の私たちにも通じる精神が記されています。それは「国民の精神的価値はその国民の伝統文化に根ざしている」「あらゆる国の歴史に敬意を払うことで相互の信頼が生まれる」というものです。
外国人と接した時に、日本人よりもはるかに日本文化を知っており自国の文化にも誇りを持っていると感じた経験は、皆さんもあるのではな いでしょうか。日本人として自国の文化を知らないのはとても恥ずかしいことです。日本には世界に誇れる文化がいっぱいあり、海外にいるからこそ気づくことも多いはずです。日本は素晴らしいということを、海外という一歩離れた所から眺めることで再認識していただきたいと思います。
会社概要
富士電機株式会社
1923年に設立された総合電機メーカー。脱炭素社会の実現に向け、豊富なノウハウと長年培った技術をもとに、小さな半導体から大きな発電所までを幅広く展開。エネルギー・環境技術をコアに、「パワエレ」「半導体」「発電プラント」「食品流通」の4つの事業を通じて、安全・安心で持続可能な社会の実現に取り組み、産業・社会インフラを支えている。