グローバル教育
IHIアジアパシフィック社 取締役社長 小林 広樹 氏

当社が世界レベルのインフラを提供しようとするならば、日本という、いわゆるガラパゴスの中だけでのサービス提供では通用しません。

日本に限らず豊富な経験に裏打ちされた知見やノウハウ、世界レベルの視野を持ち能力を発揮できる人材が必須で、遠回りをしてでも良い経験をする方が活躍できるチャンスが広がるのです。

グローバル時代を迎えた今、企業が求める人材、教育とは何でしょうか。
企業の方からお話をうかがいました。

Q. 御社について教えてください。

当社は、総合重工業グループとして、「資源・エネルギー・環境」「社会基盤・海洋」「産業システム・汎用機械」「航空・宇宙・防衛」の4つの事業分野で日本の工業化の歴史とともに歩み、新たな価値を提供してきました。
1853年のペリーの来航に合わせて江戸幕府が作った造船所を起源とし、1959年には日本企業で初めて海外(ブラジル)に造船所を設立しました。シンガポールには、63年に経済開発庁(EDB)との合弁で「ジュロン造船所」を開設し、多くの日本人技術者が指導にあたるなど、シンガポールの基幹産業である貿易に欠かせない造船にも貢献してきました。現在は従業員数約3万人、海外に約160の拠点を有し、世界各地のローカル市場のニーズを把握しながらその地域に合った製品やサービスを提供しています。

IHIアジアパシフィック社 取締役社長 小林 広樹 氏

Q. 新卒一括採用とキャリア採用の状況は。

求める人材として「世界レベルのプロフェッショナル」を掲げ、新卒一括採用に限らずキャリア採用(中途採用)も増やすなど、採用の仕方は多様化しています。日本企業である当社が世界レベルのインフラを提供しようとするならば、日本という、いわゆるガラパゴスの中だけでのサービス提供では通用しません。そのため、日本に限らず豊富な経験に裏打ちされた知見やノウハウ、世界レベルの視野を持ち能力を発揮できる人材が必須なのです。

決して新卒の門戸が狭くなったわけではありません。親御さんの世代では、卒業後1~2年で人生が決まるという就職活動が一般的だったことでしょう。グローバル化が加速する現代では、ゴールにつながる道も多様になっており、遠回りをしてでも良い経験をする方が活躍できるチャンスが広がるのです。当社は「総合重工」ですが、事業が多岐にわたるゆえ、事業間に壁があることは否めません。その壁を越える意味でも少し違う発想や畑違いの経験をされ総合的な教養を身につけつつ、多様なフィールドで豊かな経験を積むことが不可欠と考えています。

Q. 多国籍・多文化のスタッフと協働する上で工夫されている点は。

数十年前は、日本で成功したモノやサービスをそのまま輸出するだけで海外でも利益を出すことが可能でした。しかし、国の垣根が低くなった現代の国際社会で成長し続けるためには、もはやそのビジネススキームでは成り立たず、地域に根付いた「地域主導型」であることが重要になりました。

ビジネスを遂行する上で、当社は常にPDCA(Plan, Do, Check, Action=計画、行動、チェック、アクション)を基本にしています。以前はPは日本人、D以降を現地スタッフが担うスタイルが定着していました。しかし、優秀な現地スタッフに高いモチベーション持って従事してもらうには、日本人が場を提供するだけではなく、最初(Plan)の段階から参画しアイデアを出してもらうことが大切なのです。なぜなら、始動から関わることで自分の立ち位置や可能性を自ら見出すことができるからです。実際に、運営自体を現地の人々に任せている事業の業績は恒常的に安定しています。経験に基づく実績や経験から、今では地域に依存ししっかり根付いたビジネススタイルを確立しています。

かつて日系企業は、安定性や知名度から、多くの現地の方が就職を希望したものでした。しかし、近年は日系企業の仕事は「ワクワク」する度合いが低いと感じるそうで、人気が低迷したと言わざるを得ません。そのワクワクとは、昔の企業のように、新しい発明などで感じる躍動感であり大いなる可能性を意味しているようです。どうすれば以前のように期待感を持って躍動してくれるのかを考えると、前述の通り日本人が仕事の大半を仕切り、一部だけを任せていては楽しめるはずはないことは想像に難くありません。そのため当社では、現地スタッフにも運営を任せ、能動的に働いてもらえるような環境作りを心がけているのです。

Q. 日系企業として大切にしているアイデンティティとは。

日系企業として、日本人特有の「責任感の強さ」は大切にすべきアイデンティティだと考えています。スポーツを例にすると、練習や試合の終了後にグラウンドに一礼したり、ゴミを拾う行動は、自身が「場」に深く関わっているという「責任感」からきていると感じます。サッカーワールドカップでも日本人のその行動が世界から称賛されました。一方で、強い責任感ゆえに慎重になりすぎ、とりあえずやってみようという見切り発車ができず、新しいことに挑むチャレンジ精神が他国企業と比べる欠如しているようにも思えます。

これまでの総合重工業は、立派なインフラを作り、「完成したら終了」でした。しかし現在では、提供したインフラをいかに「維持・管理していくか」に価値が置かれています。「ライフサイクルビジネス」と呼ばれ、製品を作り使っていただき、その後の処理やさらには製品を作り直すことまでをも考えて提供する必要があるのです。現在、当社で重点を置いている「ライフサイクルサービス」がまさにこれにあたり、最後まで当事者意識を持ってサポートする「責任感の強さ」は、今後の事業展開に欠かせない要素であるとともに、大切にすべきアイデンティティだと考えています。

「ライフサイクルビジネス」を遂行する上で難しいと感じる点は、アジア特有とも言える短期間のキャリア形成にあります。5年ほどでキャリアを変えていく慣習のもとでは、一人の担当者がお客さまとの長期的にお付き合いを継続するのは現実的ではありません。会社という組織として、お客さまとの信頼関係を維持しながらいかに長く携わるかを仕組み化する必要性を強く感じています。例え担当者が変わろうとも、変わらぬ価値を提供し続ける日本企業の良さを残していきたいからです。

Q. 環境問題への取り組みや社会貢献活動について教えてください。

「プロジェクトChange」という名の下で環境問題への意識改革を始め、自然と技術が調和する社会を目指し、カーボンニュートラル、保全・防災・減災などの取り組みを強化しています。当社の事業では、多くのインフラ設備の過程で「物を燃やす」ことは不可欠です。これまでは、いかに「効率良く燃やすか」が重要視されていましたが、現在ではいかに燃やさないか、すなわち「燃やすこと自体をどう変えるか」という方向転換の局面を迎えています。「お客さまのCO2半減」という高い目標を掲げ、地球温暖化の防止にお客さまとともに取り組んでいます。これまでが「CO2を排出する事業」であったからこそ、逆転の発想で「CO2を出さない事業」へと方向転換を図ることができ、さらには得意分野にすることすら可能であると確信しています。実現できれば、日本のみならず東南アジアで躍進する事業分野となるでしょう。

近年続発する甚大な自然災害においても、強靭な社会インフラを創出することで人々の豊かな暮らしを守り、さらには先駆的な技術開発にも挑戦しています。具体的には、重要なライフラインである橋梁が、巨大地震発生時でも落橋しないために耐震補強工事を行なったり、長く利用していくための点検や調査診断、補修工事を行っています。また、設備産業とデジタルを融合することで可能となる減災にも取り組んでいます。

Q. 海外で子育てをされているご家庭へのメッセージをお願いします。

子どもは必ず何かに興味を持つものです。親御さんには、ぜひその興味を絶やさぬよう、お子さんがやりたがることがあればできる限りチャンスを与えてください、とお伝えします。人は皆、得手・不得手がありますが、「好き」な気持ちや「ワクワク」する感覚が「得意」につながることは間違いないと思います。その感覚を磨きながら本気で楽しめる何かに出会えれば、それが一番幸せなことではないでしょうか。

昔は日本の企業で活躍したいと思えば、大学卒業後に入社するのが一般的でした。しかし現代では、いろいろな経験を積み時に回り道をしながらたどり着いたところで力を発揮するというプロセスが、自分のため、ひいては社会のためになる時代です。入り口を大学卒業時に絞る必要はないのです。自分のゴールに向けて2ステップくらい踏むことで可能性を広げられるのではないでしょうか。

海外にいるということは、その時点でチャンスがさらに広がっていると言えます。日本にいれば確実に受験戦争という空気に呑まれていきますが、海外ではその空気感から一歩距離を置くことができ、人生の多感な時期を見つめることができます。これからの時代、「どこの大学」を出たかではなく「何の経験をしたか」の方が重要なのですから。今いらっしゃる環境の中でチャレンジできることに、とことん挑んでいただきたいと思います。ワクワクし楽しみながら掴むチャンスは、必ずやお子さんが目指すゴールへとつながるに違いありません。

会社概要

IHI アジアパシフィック社

1853年に創設された日本初の近代造船所。「石川島造船所」が前身となる160年以上の歴史を持つ総合重工業グループ。インフラ、資源・エネルギー、航空・宇宙など幅広い分野の事業を展開。
IHIアジアパシフィック社はその子会社として2012年5月に設立され、東南アジアを中心とした地域・事業の発展に貢献している。

当社が世界レベルのインフラを提供しようとするならば、日本という、いわゆるガラパゴスの中だけでのサービス提供では通用しません。

日本に限らず豊富な経験に裏打ちされた知見やノウハウ、世界レベルの視野を持ち能力を発揮できる人材が必須で、遠回りをしてでも良い経験をする方が活躍できるチャンスが広がるのです。

グローバル時代を迎えた今、企業が求める人材、教育とは何でしょうか。
企業の方からお話をうかがいました。

Q. 御社について教えてください。

当社は、総合重工業グループとして、「資源・エネルギー・環境」「社会基盤・海洋」「産業システム・汎用機械」「航空・宇宙・防衛」の4つの事業分野で日本の工業化の歴史とともに歩み、新たな価値を提供してきました。
1853年のペリーの来航に合わせて江戸幕府が作った造船所を起源とし、1959年には日本企業で初めて海外(ブラジル)に造船所を設立しました。シンガポールには、63年に経済開発庁(EDB)との合弁で「ジュロン造船所」を開設し、多くの日本人技術者が指導にあたるなど、シンガポールの基幹産業である貿易に欠かせない造船にも貢献してきました。現在は従業員数約3万人、海外に約160の拠点を有し、世界各地のローカル市場のニーズを把握しながらその地域に合った製品やサービスを提供しています。

IHIアジアパシフィック社 取締役社長 小林 広樹 氏

Q. 新卒一括採用とキャリア採用の状況は。

求める人材として「世界レベルのプロフェッショナル」を掲げ、新卒一括採用に限らずキャリア採用(中途採用)も増やすなど、採用の仕方は多様化しています。日本企業である当社が世界レベルのインフラを提供しようとするならば、日本という、いわゆるガラパゴスの中だけでのサービス提供では通用しません。そのため、日本に限らず豊富な経験に裏打ちされた知見やノウハウ、世界レベルの視野を持ち能力を発揮できる人材が必須なのです。

決して新卒の門戸が狭くなったわけではありません。親御さんの世代では、卒業後1~2年で人生が決まるという就職活動が一般的だったことでしょう。グローバル化が加速する現代では、ゴールにつながる道も多様になっており、遠回りをしてでも良い経験をする方が活躍できるチャンスが広がるのです。当社は「総合重工」ですが、事業が多岐にわたるゆえ、事業間に壁があることは否めません。その壁を越える意味でも少し違う発想や畑違いの経験をされ総合的な教養を身につけつつ、多様なフィールドで豊かな経験を積むことが不可欠と考えています。

Q. 多国籍・多文化のスタッフと協働する上で工夫されている点は。

数十年前は、日本で成功したモノやサービスをそのまま輸出するだけで海外でも利益を出すことが可能でした。しかし、国の垣根が低くなった現代の国際社会で成長し続けるためには、もはやそのビジネススキームでは成り立たず、地域に根付いた「地域主導型」であることが重要になりました。

ビジネスを遂行する上で、当社は常にPDCA(Plan, Do, Check, Action=計画、行動、チェック、アクション)を基本にしています。以前はPは日本人、D以降を現地スタッフが担うスタイルが定着していました。しかし、優秀な現地スタッフに高いモチベーション持って従事してもらうには、日本人が場を提供するだけではなく、最初(Plan)の段階から参画しアイデアを出してもらうことが大切なのです。なぜなら、始動から関わることで自分の立ち位置や可能性を自ら見出すことができるからです。実際に、運営自体を現地の人々に任せている事業の業績は恒常的に安定しています。経験に基づく実績や経験から、今では地域に依存ししっかり根付いたビジネススタイルを確立しています。

かつて日系企業は、安定性や知名度から、多くの現地の方が就職を希望したものでした。しかし、近年は日系企業の仕事は「ワクワク」する度合いが低いと感じるそうで、人気が低迷したと言わざるを得ません。そのワクワクとは、昔の企業のように、新しい発明などで感じる躍動感であり大いなる可能性を意味しているようです。どうすれば以前のように期待感を持って躍動してくれるのかを考えると、前述の通り日本人が仕事の大半を仕切り、一部だけを任せていては楽しめるはずはないことは想像に難くありません。そのため当社では、現地スタッフにも運営を任せ、能動的に働いてもらえるような環境作りを心がけているのです。

Q. 日系企業として大切にしているアイデンティティとは。

日系企業として、日本人特有の「責任感の強さ」は大切にすべきアイデンティティだと考えています。スポーツを例にすると、練習や試合の終了後にグラウンドに一礼したり、ゴミを拾う行動は、自身が「場」に深く関わっているという「責任感」からきていると感じます。サッカーワールドカップでも日本人のその行動が世界から称賛されました。一方で、強い責任感ゆえに慎重になりすぎ、とりあえずやってみようという見切り発車ができず、新しいことに挑むチャレンジ精神が他国企業と比べる欠如しているようにも思えます。

これまでの総合重工業は、立派なインフラを作り、「完成したら終了」でした。しかし現在では、提供したインフラをいかに「維持・管理していくか」に価値が置かれています。「ライフサイクルビジネス」と呼ばれ、製品を作り使っていただき、その後の処理やさらには製品を作り直すことまでをも考えて提供する必要があるのです。現在、当社で重点を置いている「ライフサイクルサービス」がまさにこれにあたり、最後まで当事者意識を持ってサポートする「責任感の強さ」は、今後の事業展開に欠かせない要素であるとともに、大切にすべきアイデンティティだと考えています。

「ライフサイクルビジネス」を遂行する上で難しいと感じる点は、アジア特有とも言える短期間のキャリア形成にあります。5年ほどでキャリアを変えていく慣習のもとでは、一人の担当者がお客さまとの長期的にお付き合いを継続するのは現実的ではありません。会社という組織として、お客さまとの信頼関係を維持しながらいかに長く携わるかを仕組み化する必要性を強く感じています。例え担当者が変わろうとも、変わらぬ価値を提供し続ける日本企業の良さを残していきたいからです。

Q. 環境問題への取り組みや社会貢献活動について教えてください。

「プロジェクトChange」という名の下で環境問題への意識改革を始め、自然と技術が調和する社会を目指し、カーボンニュートラル、保全・防災・減災などの取り組みを強化しています。当社の事業では、多くのインフラ設備の過程で「物を燃やす」ことは不可欠です。これまでは、いかに「効率良く燃やすか」が重要視されていましたが、現在ではいかに燃やさないか、すなわち「燃やすこと自体をどう変えるか」という方向転換の局面を迎えています。「お客さまのCO2半減」という高い目標を掲げ、地球温暖化の防止にお客さまとともに取り組んでいます。これまでが「CO2を排出する事業」であったからこそ、逆転の発想で「CO2を出さない事業」へと方向転換を図ることができ、さらには得意分野にすることすら可能であると確信しています。実現できれば、日本のみならず東南アジアで躍進する事業分野となるでしょう。

近年続発する甚大な自然災害においても、強靭な社会インフラを創出することで人々の豊かな暮らしを守り、さらには先駆的な技術開発にも挑戦しています。具体的には、重要なライフラインである橋梁が、巨大地震発生時でも落橋しないために耐震補強工事を行なったり、長く利用していくための点検や調査診断、補修工事を行っています。また、設備産業とデジタルを融合することで可能となる減災にも取り組んでいます。

Q. 海外で子育てをされているご家庭へのメッセージをお願いします。

子どもは必ず何かに興味を持つものです。親御さんには、ぜひその興味を絶やさぬよう、お子さんがやりたがることがあればできる限りチャンスを与えてください、とお伝えします。人は皆、得手・不得手がありますが、「好き」な気持ちや「ワクワク」する感覚が「得意」につながることは間違いないと思います。その感覚を磨きながら本気で楽しめる何かに出会えれば、それが一番幸せなことではないでしょうか。

昔は日本の企業で活躍したいと思えば、大学卒業後に入社するのが一般的でした。しかし現代では、いろいろな経験を積み時に回り道をしながらたどり着いたところで力を発揮するというプロセスが、自分のため、ひいては社会のためになる時代です。入り口を大学卒業時に絞る必要はないのです。自分のゴールに向けて2ステップくらい踏むことで可能性を広げられるのではないでしょうか。

海外にいるということは、その時点でチャンスがさらに広がっていると言えます。日本にいれば確実に受験戦争という空気に呑まれていきますが、海外ではその空気感から一歩距離を置くことができ、人生の多感な時期を見つめることができます。これからの時代、「どこの大学」を出たかではなく「何の経験をしたか」の方が重要なのですから。今いらっしゃる環境の中でチャレンジできることに、とことん挑んでいただきたいと思います。ワクワクし楽しみながら掴むチャンスは、必ずやお子さんが目指すゴールへとつながるに違いありません。

会社概要

IHI アジアパシフィック社

1853年に創設された日本初の近代造船所。「石川島造船所」が前身となる160年以上の歴史を持つ総合重工業グループ。インフラ、資源・エネルギー、航空・宇宙など幅広い分野の事業を展開。
IHIアジアパシフィック社はその子会社として2012年5月に設立され、東南アジアを中心とした地域・事業の発展に貢献している。

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