グローバル教育
啓明学院中学校・高等学校 校長 指宿 力氏

創立100周年、「チャレンジ」を合い言葉に最適な教育を目指して 

はじめに
私は牧師の家庭に生まれ、兵庫県西宮の教会で多くの人たちに囲まれて育ちました 。高校時代はキリスト教主義の学校に通い、長い人類の歴史における「生きることの意味」について学びました。人としての存在や人に与えられている役割の大きさに気付かされることも多く、私の人生に影響を与えてくださった先生方のように、生徒に寄り添い人生を一緒に考える存在でありたいと思い、教師を目指すようになりました。

本校は今年、創立100周年を迎えます。これからも時代の変化に対応しながら、開校当時から受け継ぐ建学の精神を土台に時代に即した教育を提供していきたいと考えています。この大きな節目を迎えるにあたり、「教科横断型授業の拡充」と「理数系に力を入れたリベラルアーツ教育の構築」を掲げています。本校の魅力は生徒一人ひとりが成長するきっかけとなる、深く豊かな出会いがたくさんあることです。校名である「啓明」は明けの明星、金星を意味します。本校で学ぶ生徒一人ひとりが将来薄明の星のような輝かしい人生を送ってくれることを願い、日々教育に邁進しています。

理系進学者の増加を目指して
私が文理融合の大切さを改めて感じたのは、東日本大震災で原子力発電所がメルトダウンしたときでした。責任の所在が科学者、技術者、経営者、政治家たちの間で議論される様子を見ながら、これからは高度な科学技術を、人間、社会、地球を視野に入れて使いこなすために、文系・理系の垣根を越えて学ぶ必要があると切に感じたのです。
また、近年チャットGPTなど生成AIが急速に発達しています。近い将来、人間の仕事の多くがAIに奪われると危惧する声もあり、知的な労働がより高度化していくことは避けられません。また、現代社会が抱える地球規模の課題の多くは、もはや一つの分野では解決できず、文理の枠を超え人類が共同で挑まなくてはならないことは言うまでもありません。

それらの理由から、本校では数学の素養が不可欠と考え、理数系の授業を増やすとともに、教科横断型授業を拡充しています。日本の高校では、2年次に文系・理系に分かれ、学ぶ科目を選択するのが一般的です。しかし本校では、高校3年生になるまで文系・理系のクラスに分けず、高校3年生では全員が数学Ⅲを履修するカリキュラムを導入しました。また、文理の科目をつなげてSDGsについて学んだり、試験的に中学では英語の教員と数学の教員が一緒に一つのクラスに入り「英語で数学を学ぶ」授業を展開したりするなど、異なる科目の関連性を知りながら異なる視点で学ぶ取り組みもしています。

「チャレンジ」を合い言葉に
あるとき、関西学院大学の前学長から、「啓明の生徒は根拠のない自信があるよね 」とおっしゃっていただいたことがあります。とても嬉しい言葉でした。なぜ本校の生徒は自己肯定感が高いのでしょうか。それは、本校が「チャレンジ」を合い言葉にしており、教員も生徒も何ごともまずは「やってみなはれ」の精神で挑戦する校風が根付いているからと言えるでしょう。その挑戦に優劣はなく、例えば 委員とか班長を決めるというどこの学校でも普通にあることですら「チャレンジ」と位置付けています。日常生活にチャレンジが溢れることで自己開示の機会が増え、学校生活がダイナミズムに溢れていきます。誰かが手を挙げる様子を見て、「よし次は私も」という気持ちになり、人生を前向きに切り開く原動力が湧いてきます。

この3年間はコロナ禍により、以前は活発だった海外研修や国際交流が行えなくなりました。どのような状況下でも生徒たちの成長は待ったなしですから、教員たちに海外研修に代わる何かを実施しようと呼びかけました。すると海外提携校とのオンライン交流をはじめ、国会議事堂や裁判所の訪問、しまなみ海道でのサイクリングなど、アクティブな活動から座学的な研修まで、どんどん前向きな提案が出され、それらの全てが生徒たちも新たな体験に目を輝かせる貴重な体験となりました。日常が戻った現在でもチャレンジプログラムの一つとして継続を決めましたが、コロナ禍での逆境から、小さなチャレンジでも決してためらわず挑戦する姿勢が次なる発見と成長につながることを肌で感じた経験でした。

10代の頃は他人の目が気になり、「笑われないかな」と新たな挑戦に躊躇することもあるでしょう。本校にはどんな時でも「応援するよ」という教員側の姿勢が息づいており、「安心して失敗できる学校」なのです。失敗を恐れることは閉塞感につながり自らが持つ無限の才能に限界を定めてしまうことに他なりません。大変もったいないことだと感じます。チャレンジの積み重ねこそが自信となり、自己肯定感を高めていくと確信しています 。

本校ならではの「読書の時間」
若者の活字離れを切実な課題と考え、本校では中学生は授業の一環として「読書」の授業を設け読書習慣の基盤を作っています。毎年図書館で表彰している「ベストリーダー賞」に輝く生徒は、年間 200冊ほどの本を借りていますが、授業では単に本を読むだけではなく、レポート作成、図書館の使い方、本の検索方法なども学び、最終的には「リサーチレポート」として1冊の本に仕上げていきます。生徒たちにとっては非常に充実感を伴う学びの科目となっています。高校生では「学術研究」として、プレゼンテーションのスキルをアップする授業へとつながっていきます。
 
このような中学と高校での取り組みは、大学の学びに直結する深い探求のリテラシーを養う場となっています。この授業での学びは大学で求められる記述・論述力の素地となり大いに役に立っていると卒業生に好評です。

「グローバルリーダー」育成のために
日本の教育はとかく「詰め込み型」と揶揄されがちです。それは目的もわからずに機械的に覚えさせられるが故に、詰め込まれていると感じるからでしょうが、小中学生で基礎学力をつける時期には反復の学びやある程度の暗記は不可欠で、それがなければ深い思考や答えのない課題解決をすることはできません。一定の知性と教養がなければ、グローバルリーダーとして活躍することもできないでしょう。

 また、グローバルリーダーを育成する上で最も重要な素養の一つに「やり抜く力」があげられます。これは一朝一夕に 獲得できるものではなく、日々の学びや活動の中で多層的に獲得していくものだと信じています。この力を確実に養うために、本校の元服式とも言える「キャンプ教育」があります。中学2年生が夏休みに挑む、5泊6日の無人島(青島)キャンプです。飽食の時代に育った現代のお子さまたちにとって、キャンプ生活は原始的な生活そのもので人生観や価値観が変わっていきます。薪を集め火を起こしその火で食事を作る。全てが不便な非日常の連続です。友人と一緒に粘り強く体一つでものごとを進めることで、「やり抜く力」が養われ、他者を思いやる豊かな人間性が育くまれます。スマートフォンや仮想空間では決して体験できない、生涯に通じる得難い財産となります。本校は生徒が卒業後に関西学院大学に9割以上が進学する大学継続校ですが、「グローバルリーダー」にふさわしい胆力と簡単にはあきらめない精神を持った生徒を確実に育てていると、自信を持って言うことができます。

共学後の顕著な変化として、大学受験で理系志願者が明らかに増えた点が挙げられます。特に女子の理系志願者が増加しており、男子の影響を受けたと推察しています。本校のSTEM教育の一環として国際的なロボットコンテストW R O(World Robot Olympiad)に出場していますが、2020年は優勝することができました。理系分野にも強くなった証と言えるでしょう。

海外在住ご家族へのメッセージ
教育のゴールは「自立した人間を育てる」ことだと答えます。「自立」とは自分自身の判断で行動し、責任を自分で担い、何にも縛られずに自分らしく生きることを目指す、リベラルアーツの目標を具現化した人間像と言えるでしょう。自立できる人になるためには 心の内に「聞く力(=心の物差し)」を持つことが肝要です。聖書にある「隣人を愛しなさい」のような風雪に耐えた普遍的な言葉は、自分さえ良ければ良いという価値観を持ちません。他者とともにどのように「自立的に生きるか」につながっていきます。それこそが「教育のゴール」だと考えています。

 異国での生活では、住んでいる国の人や文化に積極的に触れていただき、その土地ならではの生活を満喫していただきたいと思います。その経験は間違いなく一生涯の糧になると疑いません。そして、親子や家族で多くの時間を共有していただき、家族の深い絆を築いていただきたいと願っています。

 本校では毎朝の礼拝で神様が生徒一人ひとりを大切にしているということを伝え続けており、生徒が自分の存在が認められているということを日々理解する環境をご用意しています。また、本校には海外を経験してきた帰国生が全体の1割を占めており、英語でのプレゼンテーションやディベートコンテストなど、帰国生が活躍する場も数多くあります。特別視されず自分らしくいられる環境の中で輝ける皆さんをお待ちしています。

指宿 力(いぶすき ちから)氏

1965年生まれ。関西学院大学神学部卒業。89年に当時女子高だった啓明女学院に赴任。2002年の共学化に伴う校名変更以来、アメリカンフットボール部、タッチフットボール部の顧問を勤める。19年副校長、20年より現職。

※啓明学院中学校・高等学校に関する情報はこちらにも掲載しています!
https://www.spring-js.com/japan/briefing-session/6023/

※2023年6月25日現在の情報です。最新情報は各機関に直接ご確認ください。

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