グローバル教育
全日本空輸株式会社 執行役員 アジア・オセアニア室長 兼 シンガポール支店長 神田 真也 氏

企業からの声 Focus On The Future

シンガポールの方は異口同音に「この国は資源もなく人こそが財産」と言いますが、それは少なからず日本も同じです。
井の中にいるままではこれから先の日本は衰退していく一方ではないかと危機感を感じています。海外で育っているお子さまには将来、世界のどこに行っても活躍できる逞しさを養っていただきたいと思います。滞在中にご家族皆さんで異文化に触れる機会を持つことで、お子さまの「グローバル対応力」はますます高まっていくに違いありません。

グローバル時代を迎えた今、企業が求める人材、教育とは何でしょうか。
企業の方からお話をうかがいました。

Q. 御社の紹介をお願いします。
当社の創業は1952年で、昨年創業70周年を迎えました。戦後長らく GHQ の管理下であった日本の空に日本人の手で飛行機を飛ばしたい、という思いを持った創業者が「日本ヘリコプター(NH)」を設立し、2機のヘリから始まった会社です。現在も当社の略称がNH と記されるのは当時の社名が由来なのです。シンガポールには1991年に支店を開設し初便を就航しました。従業員は、2023年3月末時点でグループ(ANA ホールディングス株式会社傘下)で約40,500名、ANA単体で約12,800名です。昨年創立70周年を迎え、それを機に経営ビジョンを「ワクワクで満たされる世界を」に刷新しました。空から事業を始めた当社は空の可能性を信じ、社員やお客さまと一緒に、ヒト・モノ・コトが更に多様につながる社会を創り、その可能性を広げていきたいと考えています。

コロナ禍では航空業界全体が大きな打撃を受けました。就航便数もお客さまも一時激減しましたが、現在、国際線旅客便は19年比の7割程度まで回復しました。燃料高騰に加え円安などの影響もあり、お客さまから、コロナ前より運賃が高くなったとご指摘をいただくこともありますが、プロモーション運賃の設定などの営業努力も行っています。また当社は英国スカイトラックス社の「5STAR」を10年連続取得し、世界の代表的な社会的責任投資(SRI)の指標である「Dow Jones Sustainability World Index (DJSI World)」 の構成銘柄に6年連続で、また 「Dow Jones Sustainability Asia Pacific Index(DJSI Asia Pacific)」 の構成銘柄に7年連続で選定されています。これからも安全を最優先に、誠実にひたむきにお客さまからの信頼に応え続け、現状に満足することなく挑戦し続けていきます。

Q. どのような人材を求めていますか。
コロナ禍では厳しい状況が続いたため、その間新卒採用を控えていましたが、今年は採用活動を再開しています。待ち望んでくださった多くの方に受験いただくことができ、本当に嬉しく思います。当社の職種には「グローバルスタッフ職」と「運航乗務職」「客室乗務職」「エキスパートスタッフ職(障がい者採用)」があります。グローバルスタッフ職では、文系理系の隔てなく採用しています。各種データを扱って仕事をするニーズがかなり高まっている昨今において、事務系業務でも理系人材が、また文系人材でも理系の知識を持った方が求められています。近年はキャリア採用も積極的に行っており、いわゆる第二新卒の方も含めて随時入社しています。コロナ禍前は海外大学出身者も積極的に採用していました。

英語については、海外拠点で公用語となる場合が多く非常に重要で、社員の中には複数言語に堪能な者もいます。また中国のオフィスなどでは、日本語に堪能な現地社員が多くいます。過去は日本からの駐在員が上位ポストを担うケースが多かったのですが、現地採用の社員が支店長になったり、空港所長になったりといったケースも増えてきました。本邦採用であれ現地採用であれしっかり育成し、能力や気力を高め、活躍フィールドを広げていくことがますます重要になっています。

社員に求められる資質は主に3つあります。1つ目は「安全や品質向上に取り組む姿勢」です。かつて死亡事故を起こしたことがある航空会社として、二度と事故は繰り返さないという強い決意を持って日々業務に向き合っています。またお客さまに対する接遇品質も重視しており、入社後はできる限り、お客さまとの接点である空港カウンターや予約センターなどの業務を経験してもらっています。2つ目は「グローバル対応力」です。今や当社のお客さまの半分以上が外国人であり、またビジネスパートナーは世界中に広がっており、世界の航空会社が同じ飛行機を使ってビジネスを展開しています。こうした中、世界相手の交渉やサービス訴求、そして競争で負けないために、世界で戦える逞しさを兼ね備えていることが求められます。最後に、当社の新しい経営ビジョンに「ワクワク」というキーワードがあるように、既存のビジネスをしっかり実践しながら新しいことにも挑戦する「チャレンジ精神」も重要だと感じています。

Q. コロナ禍でスタートした新たなビジネスチャンスもあるそうですね。
国家間の往来が断絶された期間、私どもはさまざまな工夫を凝らし、業績悪化を食い止めようと取り組みました。例えば駐機中の機内で結婚式を挙げていただいたり、レストランとしてご利用いただいたりなどです。中には予想を遥かに上回るほど好評をいただいたビジネスモデルもあり、その1つが「ご家庭で機内食を」をコンセプトに打ち出した「ANA国際線エコノミークラス機内食 」の通信販売でした。現在も継続しており、2020年12月の発売以来、累計で196万食以上を販売しており、大好評となっています。多くの皆さまに機内での味を身近に感じていただけることをとても嬉しく思っています。

コロナ期間中、客室乗務員の中には他企業に出向した人も多くいました。接客やコミュニケーションのプロから従業員教育の参考となる沢山のことを学べたという企業さまも多く、出向を継続して欲しいという要請も沢山来たと聞いています。このようにお客さまや企業さまとのお付き合いの深度が増したことは大変喜ばしいことです。

Q. 御社は「女性の活躍」について積極的に取り組まれているそうですね。
ANAでは全社員の半数以上を女性が占めており、2023年時点で7名(16.3%)の女性役員が在籍しています。21年6月には、意思決定の場における女性比率の向上について「女性役員・女性管理職比率30%以上」という中期目標を定め、その早期実現に向けて人事・サポート制度の見直しや能力開発・意識醸成を進めています。また、ワークライフバランス促進、女性活躍推進、ジェンダー平などに向けて行動しており、男性の育児休暇もグループ全体で制度化されました。多くの社員が育児休職から復帰し、子育てをしながら活き活きと仕事をしています。

女性比率が低い技術系の仕事はその向上を図るとともに、国際航空運送協会(IATA)の「25BY2025」プログラム※に参画し中期的ゴールを設定しました。今後は、次世代を担う女子学生が理系も含めた幅広い領域に関心を持ってもらうためのプログラムや、情報発信にも更に力を入れていきます。近年は、女性社員がお子さまと 海外赴任しているケースも見られます。会社として、更に積極的に推進していきたいと思っています。
※2025年末までに女性の少ない部門(技術・運航)における女性社員数を2019年比で25%増加させるなど、4つのコミットメントを行っています。

Q. 海外で暮らす日本人のご家庭にアドバイスを。
子どもの頃に海外で育ち異文化に触れたという経験は、グローバル人材の育成という点で非常に重要な要素だと思います。その点から見て当地は、さまざまな国籍の方と触れ合う機会の多い非常に恵まれた場所ですので、ぜひDEI(Diversity, Equity & Inclusion)を強く意識し、異文化への対応力を高めていただきたいと思います。

最後に、シンガポールの方は異口同音に「この国は資源もなく人こそが財産」と言いますが、それは少なからず日本も同じです。人口減少に歯止めがかからない中で、井の中にいるままではこれから先の日本は衰退していく一方ではないかと危機感を感じています。海外で育っているお子さまには将来、世界のどこに行っても生活でき、闘い、活躍できる逞しさを養っていただきたいと思います。滞在中にご家族皆さんで異文化に触れる機会を持つことで、お子さまの「グローバル対応力」はますます高まっていくに違いありません。せっかくのチャンスですから是非、実践していただきたいと思います。

会社概要
全日本空輸株式会社
1952年設立の日本の航空会社。現在は世界44の都市に約80の路線を有する国際線、国内線ともに国内最大規模。英国・スカイトラックスによる航空会社の格付けで、最高評価の「ザ・ワールド・ファイブ・スター・エアラインズ(The World's 5-Star Airlines)」の認定を得ている。国際線を成長の柱に、LCC事業、商社事業、旅行事業などの各事業でもグループ一丸となってさらなる挑戦を続けている。

神田 真也 氏
1965 年 京都生まれ。90年 関西学院大学卒業、全日本空輸株式会社(ANA)入社。 
大阪空港支店 、米国バージニア州ワシントン・ダレス国際空港研修生、東京支店、成田空港支店などを経て2009年に当時の CEOである伊東信一郎氏の秘書に就任。16年人事部副部長、20年より現職。22年執行役員。 
※2023年9月25日現在の情報です。最新情報は各機関に直接ご確認ください。

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