グローバル教育
この人から エール 東京女学館中学校・高等学校 国際副教頭 クリスタル・ブルネリ 氏

~明治時代から続く英語で学ぶ授業~ 国際学級増設で 理系・海外大進学が身近に

東京女学館中学校・高等学校 国際副教頭 クリスタル・ブルネリ 氏

はじめに   

アメリカ出身の私が、ご縁があり東京女学館で教員生活を始めて21年目になります。今でこそ外国人教員が在籍している私立の中学校や高等学校は一般的になりましたが、当時は稀有な存在で、まさに本校は先駆的な取り組みをしていたと言えるでしょう。外国人に会うことなど滅多にない環境で育った私が、ファーイーストである国、日本に関心を持ったきっかけは、街の図書館で「俳句」の本に出会ったことでした。限られた字数のシンプルな言葉で表現されているにもかかわらず、その奥深さと豊かな季節感が盛り込まれた独特の響きに魅了され、私は日本語の世界に惹きこまれていきました。地元で開催された日本文化プログラムへの参加や、大学時代の京都留学を経て、本校の国際学級立ち上げに関わりました。   

本校は、1888年の開校当時から英国人教員を招き、国語と日本史以外の全科目を英語で教えてきました。19世紀に日本人女子が英語で化学を勉強していたとは、なんと画期的なことでしょうか。今でも、学校の史料展示室には当時の生徒が使用していた化学のノートが保管されており、こなれた英語で板書された様子が窺えるのです。グローバル化が加速する現代でこそ英語で学ぶ授業を取り入れている学校が増えましたが、明治時代の開校時からすでに英語で学ぶ教育を確立していた本校は、まさに日本のグローバル教育を牽引してきたと言えるでしょう。   

常に時代に先駆け日本女子の教育に励んできた本校で、私は母国アメリカと日本の教育の素晴らしさを融合しながら、世界へ羽ばたく日本女性の育成を目指し日々邁進しています。   

真の多文化コミュニティである「国際学級」   

本校の「国際学級」は、英語が堪能な帰国生だけが入学するクラスではありません。さまざまな学習歴の生徒が在籍する、真の「多文化コミュニティ」なのです。例えば、アメリカやシンガポールなど英語圏からの生徒をはじめ、中国やフランス、オランダなど非英語圏の現地校に通っていた生徒、各国の日本人学校生、さらには本校小学校から推薦される一般生など、生徒たちが持つバックグラウンドは実に多様です。   

同学級は、他校にある「英語取り出しクラス」や「英語特化コース」とは一線を画す存在です。なぜなら、英語教育に力を入れながらも英語だけではなく、いろいろな価値観を理解し「多様な人たちとふれあう精神」を養うことを使命としているからです。そのため、生徒の活躍の場として見据えているのは日本の社会だけではなく、世界規模の国際社会なのです。その前段として、生徒一人ひとりの「得意」を伸ばし、弱いところはサポートし合う「インクルーシブ・リーダーシップ」を育て、世界中どこででも通用する真の国際人としての資質を育んでいます。   

国際学級の根幹「インクルーシブ・リーダーシップ」とは   

例えば 日本のお子さまで外国生活が長い場合、英語や他の言語に長けていても、漢字が苦手ということがあるでしょう。また、日本語の環境で育ち英語の発音は完璧でなくとも 理科が得意であるかもしれません。同学級では、自分の強みを生かせる場面では「リーダー」になり、それ以外の場面では「フォロワー」になる場面が学校生活の随所で見られます。誰もが手を挙げることに抵抗なく、ありのままの自分でいながらリーダーになれる、それこそが「インクルーシブ・リーダーシップ」であり、国際学級の根幹となっているのです。   

社会に出れば皆が同じ常識であることはあり得ません。むしろ、いろいろな意見や価値観があることが普通です。帰国生の場合、日本語以外の言語で生き抜いてきた「たくましさ」を秘めています。また、多文化多様性の環境で培った「問題解決力」も身についており、あらゆる場面で対応できています。実際に授業中でも「間違えたら大変」という概念がなく、質問することにも抵抗がありません。それを見た日本育ちの生徒たちもまた、率先して質問しようと士気が高まっており、帰国生の存在がクラス全体を良いスパイラルに導いてくれているのです。   

国際学級 増設  ~ケンブリッジ国際認定校としての登録を申請中~   

現在、国際学級は1クラスですが、2026年度から2クラスに増設し、新たな局面を迎えます。理由は、生徒の多様な進路に対応しやすくするためです。これまで、同学級は文系が中心で、理系に進学する生徒はコース変更をしなくてはなりませんでした。学校として、6年間の一貫教育を提供しながら最後の2年間にコース変更を余儀なくされることは痛恨でした。増設することで、文系・理系、 国内・海外を問わず希望の大学に進学しやすいカリキュラムの提供が実現します。   

また、新たな学びの選択肢として「ケンブリッジ国際認定校」としての登録を申請中です。同カリキュラムは、得意分野を絞って探究することができ、世界中の大学が認める入学資格です。本校の卒業資格と同時にAレベルも取得できるようになれば、日本の大学のみならず海外大学へも大きく門戸が開かれ進路の選択肢が格段に広がるのです。   

米国人から見た日本の教育   

母国アメリカでも教鞭をとっていた立場で日本の教育を俯瞰すると、日本中どこにいても高いレベルで基礎力が身につく日本の教育は、本当に素晴らしいと感じます。特に主要5教科だけなく、体育や美術、音楽や家庭科など広い分野を学ぶことができ、まさに「人間教育」を実践していると思います。しかし、一つだけ日本の教育に物足りなさを感じていることがあります。それは、言語技術を磨く「ライティング」スキルの育成です。アメリカの教育と比較すると、小学校から高校に至るまで、日本の学校で「書く」時間が圧倒的に少ないと感じるのです。「書く」ことで言語技術が身につき、「プレゼンテーション力」が向上します。一般的に、日本人は穏やかで慎ましい気質から、自分の意見を主張することが苦手と言われます。今の子どもたちが社会で活躍する頃は、ライバルはもはや日本人だけでなく世界中の誰もが対象です。そのため、自分の意見を論理的に主張する力が必須なのは言うまでもありません。   

国際学級立ち上げに際し、私は多くの教育ワークショップに参加しました。当時出会った早稲田大学の教授が、アメリカの小学生が行う「Show & Tell」の教育的意義を説明され大変驚いたことを今でも覚えています。確かにアメリカでは、 自分の言葉で物ごとを説明する訓練を小さいうちから自然に行っており、後々のプレゼンテーション力の土台に繋がっていると確信します。ライティングについても、小学校低学年から参考文献を記載するリサーチペーパーを書き始め、その後、高校生まで継続的に行います。日本の国語教育でも初等教育からこの「言語技術」を訓練していくことで、自然とレベルアップしていけるのではないかと感じるのです。国語における土台があれば、英語でも同様に文章を味わい表現することができるはずです。本校ではこうした観点を踏まえ、言葉の選び方からさまざまな文章の書き方を練習し、日英両言語で言語技術を育んでいます。   

「女子校の魅力」とは   

私は、教員人生の大半を女子校で過ごしてきました。また、本校の姉妹校であるオーストラリアや韓国、マレーシアやイギリス、アメリカの女子校を見ても感じること、それは「女子校には世界共通の文化がある」ということです。その文化とは「リーダーになる機会の多さ」です。これは、前述の通り、本校の国際学級が目指す「インクルーシブリーダーシップ」とも重なります。共学の場合、リーダーになるのは積極的な女子だけでしょう。しかし女子校であれば、全ての生徒が得意な分野でリーダーになることができるため、日々の生活で意欲を育み、卒業後には社会の中で大きなエネルギーとしてその意欲を発揮できるのです。 

  

女性のキャリアパスは決して一直線ではありません。実際に私自身も、夫と出会ったことで生活の拠点を日本に移しました。幼い頃の私は想像すらしていなかったことです。女性の多くは、さまざまな選択肢の中から常に何かを選びとり、状況に合わせてどう行動するかを問われています。大事なのは、いろいろ覚え一つの正解を出す力ではなく、問題が起こった際に「適切に判断する力」と「対応力」なのです。女子校なら数々のリーダー経験を通してそれらの力を培い、生徒が自ら輝ける環境があります。つまり、社会でのキャリアパスへの準備が整いやすいのです。   

海外で暮らしているご家族へのメッセージ   

本校では、帰国生はとても大切な存在です。皆さんには、海外在住中に現地でしかできない体験をしていただき、自分の良いところに気づいてください、とお伝えします。そして帰国後は日本の価値観に染まるのではなく、皆さんの良さを存分に発揮していただきたいと思います。   

海外で多彩な経験をしながら、学習面で日本の同学年のお子さんと同じ国語や算数のレベルを求めるのは無理なことです。しかし「言語」の大切さについては、常に意識して過ごすことをおすすめします。日常の会話では「お母さん、牛乳」といった単語だけのコミュニケーションではなく、文章の会話を心がけ対話してみましょう。また、私が遠くアメリカの地で俳句の本に出会ったように、自分にとって大切な一冊との出会いがあることを願っています。小さい時から読書の習慣を身につけ楽しい本に出会えば、人生が豊かになるに違いありません。

Profile

クリスタル・ブルネリ(Crystal Brunelli)氏

米国ニューハンプシャー州出身。ウェルズリー大学で心理学・日本学を専攻、在学中に京都に留学。ハーバード教育大学院卒業後、ボストン大学で留学生アドバイザー、Dana Hall School(女子校)での社会科教師・留学生アドバイザーを経て、2003年より東京女学館中学校・高等学校に勤務。国際学級を立ち上げ、同学級の担任、同校小中高で英語教師を経て24年より現職。 

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2024年6月25日現在の情報です。最新情報は直接お問い合わせください。

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