日系企業の対応 ~就業構造の急変~
日本の各企業は、グローバル化の進展に対して、教育機関より早い対応を始めています。特に海外に展開する日系企業(主な収益を海外で出している企業)は日本の大学が輩出する人材が急速に社会の要請に応えられなくなっていると認識、日本人純血主義を捨て大きな方針転換を開始しました。
筆者は様々な企業の人事責任者の方にお話を伺っていますが、おっしゃっていることをまとめると以下の6 つが挙げられます。
- 採用にあたってグローバル人材に焦点を当てる。国籍にこだわらない。
- 今後縮小する国内市場でしか働けない人材は歓迎しない。
- 新卒一括採用の制度は崩していく。
- 海外大学卒を広く採用する。
- 本社機構の一部を海外移転、採用を海外で行う方向に転換する。
- 管理職の多国籍化は当然、役員も徐々にその方向で転換する。
ある大手メーカーの人事統括責任者のK 氏の言葉をご紹介しましょう。
「国内本社が中心で、海外部門は出稼ぎ部隊という発想を捨て、現実に本社機構のうち海外統括はシンガポールに移転しました。人材登用、マーケティング、税制から言っても日本に置いておくメリットがない」「花形は当然海外部門ですが、今後採用も海外で行うようになるでしょう。草食系の日本人を採用するぐらいだったら、弊社の理念を理解する外国人のほうが良いです」
大手商社のF 氏はこう語ります。
「日本の2040 年代人口は9200 万~ 9500 万くらい、GDP(国内総生産)は現在の半分になる。すでに国内だけで利益を出すのは難しい状況になっています。少なくともその事態を想定して事業計画を立案・実行しないと生き残れない。解決法は、日本発の企業の遺伝子を大事にしながら徹底的にグローバル化するしかありません。大学の9 月入学は当然です。日本の教育制度は特殊すぎて他の国に通用しないことが多い。目指すところは、役員レベルまで国籍を問わないこと。新卒一括採用をやめて、良い人材がいたら適宜採用することです」
今後日本の教育界で起こりそうなこと
東京大学が9 月入学に踏み切る2017 ~ 2018 年前後を境に、日本の教育の仕組みが急激に変わることが予想されます。
1. 国際化する大学と出来ない大学の二極化と格差の拡大
日本の上位大学が激しい国際競争にさらされるのは前述の通りですが、日本の750 以上ある大学情勢を見ると入試の難度ではなく、国際化の進展という観点から二極化が始まると思われます。
A. 国際化が進む大学…更に2つのグループに分かれます。
○ 積極的に国際化を推進し世界大学ランキングの上位に連なるTOP レベルの大学
○ 世界大学ランキング上位には載らないが、国際化と専門化が進みグローバルな人材を輩出する大学
B. 従来通りの日本語での教育、国内市場向けの職業訓練教育に主眼を置いた大学
両者の学生の間では、将来大きな収入格差がつくことは言うまでもありません。
2. センター試験を始めとする入試制度の変革
入試制度も変わらざるを得ません。センター試験は、SAT Subject Test のようにレベル別の科目到達度テスト(基礎・応用レベル)になる可能性があります。大学毎に必要な学力を見るためのテストの必要性があるからです。
英語に関してはTOEFL/IELTS 等の国際的なテストで一定以上のスコアがあれば、試験免除という大学が増えるでしょう。
また、9 月入学が一般的になると、4 月~8 月までの ギャップイヤー(※)が推奨され、大学によっては入学後の単位として認定される大学が出てくるでしょう。
(※)ギャップイヤー 入試から入学までの期間のこと。英語圏の多くの国ではその間に大学の学習では得られない経験(ワーキングホリデー、ボランティア活動、短期留学等)をすることが推奨されている。
3. 中等教育段階で国際バカロレア(IB)導入の機運が高まる都立のIB 校ができる?!
現在日本で国際バカロレア(IB)特にディプロマを本格的に導入しているのは、インター校以外では加藤学園暁秀、立命館宇治高校、玉川学園等数えるほどしかありません。しかし、大学の国際競争が激しくなると、IB の導入を検討する学校が増えることは確実です。
2 月11 日に東京都が画期的な計画を発表しました。「国の指定を受けた国際戦略総合特区で外資系企業の誘致を図る中で、外国人子弟が英語で学べる高校が少ないため、海外の大学入学資格(国際バカロレア… DIPLOMA)が得られる外国人クラスを都立高校に設ける。そこでは海外の大学に進学希望の日本人生徒も受け入れる」この計画は2014 年度からスタートさせる予定とのことです。
急激な教育の国際化の流れはシンガポール在住の皆さんにとって、教育方針次第ではむしろ有利に働きます。時代の潮流をしっかり読んで、多民族国家という環境を生かし、お子さんの明るい将来を開いていただきたいと思います。(終わり)
World Creative Education Group CEO 後藤敏夫さん