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世界が注目! シンガポールの算数教育

世界が注目!
シンガポールの算数教育

世界各国の教育到達度を比較する国際調査で、常に上位に入っているシンガポール。特に算数・数学の教育方法は、米英をはじめ、さまざまな国で「シンガポール算数(Singapore Math)」として、カリキュラムや教材を導入する学校や地域が増えています。今回Spring編集部では、この「シンガポール算数」の特徴についてお伝えします。

世界に広がる「シンガポール式算数教育」

シンガポールのリーシェンロン首相が、シンガポール算数が世界の17ヵ国の公教育に導入されていることについて、以下のように自身のFacebookに投稿したのは2017年のことです。

「我が国の子どもたちの優秀さから、この算数教育法の良さに気付いたに違いありません。世界の子どもたちが算数の力をつけるのに、シンガポール算数が役立つのは嬉しいことです。」

<ニュースでも注目!>

● シンガポールの名門校で実施された定期試験の過去問を、香港の保護者たちがオンラインで買い求めているというニュースが話題に。
● 米国ではカリフォルニア州をはじめ、数多くの州がシンガポール算数の教材を正式な教科書として導入。
● 英国オックスフォード大学の研究チームが、英国内でシンガポール算数を導入した学校の成績の伸びについて分析し、その有益性を報告。

シンガポールでは数々のインターナショナルスクールも導入

お子さん二人がインターナショナルスクールに通う日本人保護者Aさん
シンガポール算数の評判を聞いていたので、子どものインターナショナルスクールを選ぶ時には、シンガポール算数を導入している学校を選びました。バーモデルは日本の線分図と少し似ているように思いましたが、日系塾で受験算数として習っていた「植木算」や「つるかめ算」が、シンガポール算数の教科書には普通に出てきたので、日本の算数にも役立つと思いました。

世界でもトップレベルの成績

シンガポールは国際的な学力調査PISA(※1)やTIMSS(※2)の算数・数学で常に上位を維持し、前回(2015年)は小4・中2ともに堂々1位でした。

※1 PISA:Programme for International Student Assessment
経済協力開発機構(OECD)が実施する国際的な学習到達度に関する調査で、15歳児を対象に読解力、数学、科学の三分野について3年ごとに実施。2015年は72ヵ国・地域から約54万人が参加。
※2 TIMSS:Trends in International Mathematics and Science Study
国際教育到達度評価学会(IEA)が、児童生徒の算数・数学、理科の到達度を測定し、学習環境等との関係を分析。小学校は50ヵ国・地域(約27万人)、中学校は40ヵ国・地域(約25万人)が参加。

TIMSS算数の成績の推移(小学4年)

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TIMSS数学の成績の推移(中学2年)

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シンガポールの算数カリキュラムの特徴

その1)「バーモデル(Bar Model:テープ図)」を書こう!

簡単なたし算・ひき算から、より複雑な文章題も「バーモデル(テープ図)」を描いて、式を立てて解くのがシンガポール算数の特徴と言われています。シンガポール公立校の授業では、簡単なたし算・ひき算の問題でも、1年生の時からこのバーモデルを描くことを徹底しており、バーモデルを描くための専用の定規を教科書と一緒に購入します。

<問題例>
アニーと ブレンダは合わせて800枚のカードを持っています。ブレンダのカードの枚数はアニーより300枚少ない数です。
ブレンダは何枚のカードを持っていますか。

世界が注目! シンガポールの算数教育

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日本の算数教育との比較
サカモト式算数教室 若林 憲司 先生より

特別企画 シンガポール算数

シンガポール算数は世界から注目されていますが、日本の算数教育も非常によく練られており、無理なく理解を進める工夫がされています。もし日本のカリキュラムが英語で作られていれば、シンガポール算数ではなく日本式算数が世界に普及していたかもしれません。 
シンガポールでは「バーモデル」の徹底が特徴的ですが、高学年になるとバーモデルでは解けない文章題も出てくるので、さまざまな解法を学びます。日本のように一部の中学受験生だけでなく当地では全児童が卒業試験(PSLE)を受験します。落ちこぼれや留年生を出さないように、全体のレベルを底上げする努力が行われていること、そして英語で論理展開する力、解法を説明できるコミュニケーション力は、世界に通用する大きな強みだと感じます。

その2)小学1年生から学ぶ大事な単元「お金」

たし算・ひき算の基本ができたら、1年生の内に「お金」の単元を学びます。おもちゃのお金を使って計算したり、買い物ごっこをしたりしながら「1ドル=100セント」と理解し、お金のたし算・ひき算をマスターします。低学年でも学校の食堂でおやつや昼食も自分で買うことが一般的なシンガポールでは、お小遣いを計算したり、お釣りの計算を間違えないための大事な学びです。

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その3)わり算や分数も、2年生から

日本では小学2年生で一度に覚える九九の計算は、シンガポールでは段階的に覚えます。小学2年生では2・3・4・5・10の段を覚え、更にわり算の概念や、わり算とかけ算との関係についても、右の図のような課題を通して学習します。6~9の段は3年生で覚えます。

世界が注目! シンガポールの算数教育

また日本では3年生で学ぶ「分数」の概念は2年生でその基礎を習い、分母が同じ分数のたし算ひき算も学びます。

その4)「計算機」は小学5年生から必須アイテム

5年生になる前に全生徒が購入するのが、「関数計算機」です。文章題が難化するこの時期、計算に時間を取られないよう計算機の使用が始まります。6年生で受ける卒業試験(PSLE)やセカンダリースクールの卒業試験でも使うため、正式に使用が許可されている機種を学校で購入します。
高校2・3年生に相当する「ジュニアカレッジ」の数学では、グラフィック関数計算機を使用し、ベクトルや微分積分、統計学などの課題にも活用します。

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計算機使用のメリットとデメリット
MESシンガポール 佐藤 剛 先生より

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計算機を小学校高学年から使用することにはメリットとデメリットがあると思います。メリットとしては、計算に主体を置くのではなく問題解決のプロセスを重視させることで「考える力」を養える点です。デメリットとしては、簡単な計算でも計算機を使っていると「計算力」が弱くなることです。中学・高校で計算力が弱いと自分の答えが適切かどうかの判別がうまくできない恐れがあります。しかし問題によっては明らかに「計算機を利用して問題を解く」ことを前提としている場合もあるので、指導する際には問題を吟味した上で、計算機の使用・不使用を判断しています。

Spring独自取材!
シンガポール教育省に聞きました

Q. 国際的な学力調査で算数の好成績を保持していますが、その理由をどう分析していますか。

A. 学校現場では、基礎力を身につけること、思考力やコミュニケーションのスキルを低学年の内から養うこと、そして学ぶことを楽しむポジティブな学習文化を大切にしています。また、教師がプロフェッショナルとして専門性を高められるような研修やさまざまな教育手法を活用できるよう十分にリソースが用意されている点など、教師へのサポートが充実しています。また多くの保護者が学校の良きパートナーとして協力的です。国際調査での好成績は、これらの複合的な成果だと考えています。

特別企画 シンガポール算数 © Ministry of Education, Singapore

Q. 子どもたちは低学年から塾などに通い、勉強ばかりしていると聞いたことがありますが、この点についてはどう考えていますか。

A. お子さんの学習に関心の高い保護者が多く、塾をはじめ教育に多くを投資する傾向があります。しかし成績ばかりに注目して過度に勉強させられれば、子どもは学びを楽しめなくなり、自ら学ぶ姿勢を失いかねません。また、想像力や創造性、社会性や感情的なスキルなどを養うために、子どもは自由に遊んだり考えたりする時間が必要です。このためカリキュラムの内容を減らし、宿題の量を調節するなど工夫しています。保護者に対しては学業成績だけではない「全人的な発達」の大切さや、より幅広い「成功」の定義について理解を深めてもらう努力をしています。

Q. 小学生が計算機を使うようになった背景は。

A. カリキュラムを定期的にレビューする中で、11~12歳から計算機を使うことが適切と判断されました。すでに基礎力のある高学年では、計算機を使うことで問題の解き方や推理力などのプロセススキルを高めることに集中できるからです。

過去のシンガポール算数に関する特集も合わせてご覧ください。
「シンガポール算数」ってなに?
https://spring-js.com/singapore/5566/

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