グローバル教育
JTB アジア・パシフィック本社 取締役社長 坪井 泰博 氏

グローバル時代を迎えた今、企業が求める人材、教育とは何でしょうか。企業の担当者に聞きました。

御社は日本をベースにアウトバウンド(日本発海外の旅行)事業を展開されているイメージが強いですが、現在の事業展開を中心に、御社の紹介をお願いします。

株式会社ジェイティービーは、1912年に海外からの訪日旅行のお客様拡大を目的に創立されました。現在、世界35カ国に361拠点を有し、旅行業界では日本最大かつ世界有数の事業規模を誇ります。学生の志望企業アンケートでは、毎年上位にランキングされる人気企業です。

JTBアジア・パシフィックは、シンガポールを拠点に韓国、中国を除く全アジアとオセアニアを担当しており、現在10カ国に20拠点があります。グループ全体で約1000名のスタッフがおりますが、日本からの出向者は全体で70名です(シンガポールには180名のスタッフ)。主な事業内容は日本からのお客さまの受け入れや、当地から海外へ出られる方への旅行商品の提供です。

現在JTBグループでは、次の100年における長期的・安定的な成長を実現するために、「2020年ビジョン」を掲げています。それには、2020年に目指す姿は「アジア市場における圧倒的NO.1ポジション」とし、従来の日本発・日本着の旅行事業に加え、アジアを中心としたグローバル事業を成長させ、アジアのリーディングカンパニーとしての圧倒的な地位を築くことを謳っています。今後はアジアを中心とした「世界発・世界着」のビジネスモデルで本格的に展開し、世界中のお客さまに最高の感動と幸せをお届けするグローバルブランドを目指していきます。

アジアでの事業をますます強化するためには、今後は現地採用 の割合も増やしていくのでしょうか。

現在はアジア・パシフィックに約1,000名の社員がいますが、「2020年ビジョン」を達成するには2,500名ほどの社員がいないと実現は難しいと考えています。そのため、現在拠点のないフィリピンやカンボジアといった国にも進出すると同時に、インバウンド(海外拠点にて日本を含む諸外国からの旅行を受入れる事業)だけでなく、旅行に派生するビジネスやイベント関連なども積極的に展開していこうとしています。

日本とのやり取りが不可欠なため、日本人が必要であることは変わりませんが、今後は少しずつ現地採用に切り替えていくべきだと考えています。現在非日本人のスタッフが支店長を務めるのはシンガポールだけです。しかし将来的には支店長や現法社長のポジションであっても、必ずしも日本からの出向者が就くことがないよう現地採用を普及させるのが理想です。近年一番目指していることは、出向者を減らすということで、可能な限りローカルの人材に切り替えています。JTB グループが日本で採用する学生さんの中にも、約10名はJTBアジア・パシフィックの採用があり、入社直後から当地シンガポールを中心としたアジア・パシフィック各国が活躍の場となります。

御社は就職ランキングでも常に上位で学生にとっては狭き門と なる人気の会社だと思います。求める人材像をお聞かせください。

一言で言うのはなかなか難しいですが、大切なのは「チャレンジ精神」を持っていることです。人に言われたことをやるのではなく、自らいろいろなことにチャレンジし、それをやり遂げる行動力がある人を求めています。採用については、大学名で線引きをすることは一切なく、あくまで人物重視です。学生時代にぜひ心がけていただきたいのは、「一つのことをやりきる」ということです。例えば、体育会系の部活に所属し4年間辛いことをやりぬく姿勢はとても素晴らしいと思います。勘違いされやすい例は、「私英語ができます。」とアピールされることです。確かに素晴らしいことですが、企業としてはこれだけでは使いものにならないのです。TOEIC900点以上で受けてくる方はたくさんいますから、それだけでなく、プラスで何があるかということが重要になってきます。

「人間的な魅力」が大切なことは言うまでもありませんが、それは面接で30分ほど話していれば不思議と見えてくるものです。訓練して養える部分と天性のものがありますが、お客さまに日々接することが求められるビジネスでは、「感じが良い」という第一印象を持ってもらえることは大切なことです。

日本人のアジアへの関心は高まっているそうですね。また、ア ジアで高まる日本の人気を背景にどのような取り組みがされて いるのでしょうか。

弊社に限ったことでなく、アジアで働きたいという若者は非常に増えています。かつて海外と言えば欧米が中心でした。しかし状況は大きく変わり、アジアの注目度が10年前と比べると飛躍的に上がりました。活気があり文化や言葉に惹かれる国、そこを自分が働く場として考える若者が確実に増えています。

また、アジアから日本を訪れる旅行者も前年と比較して130~150%と増加しています。アジアの人は日本人に対してとても好印象を持っています。日本が安全安心な国であるということに加え、日本食や温泉など、アジアの人が好きなものがそろっていることも人気の理由です。最近はプロモーションの動きも盛んで、シンガポールにも多くの知事が直接売り込みに来ています。

残念なのは、日本側の受け入れ体制が十分に整っていないことです。地方自治体が持つ観光関連予算も、韓国などと比べるとかなり小さいようです。日本の経済活性化のために多くの外国人観光客を誘致することは、主要観光地ではもちろん、すべての地方で重要課題です。人口が一人減少しても1年間に7人の外国人観光客が訪れればその経済効果は補えるという統計も出ていますから、その重要性は言うまでもありません。

観光庁が創設されて早くも5年が経過しました。日本が「観光立 国」となりうる力はあるのでしょうか。

十分あると言えるでしょう。シンガポールは、面積でいえば東京23区より一回り大きいくらいですが、そこにどれくらいの観光資源があるかと言えば、ごくわずかです。ところがそれに比べて日本の観光資源は北海道から沖縄まで圧倒的な質と量を誇りますが、訪日旅行者数はシンガポールには及びません。大切なのは旅行者に北海道の次 は沖縄、そして古都というように日本への観光を「リピーター化」してもらうことでしょう。シンガポールの場合、小さな国の少ない観光資源にも関わらず、年間約1,300万人も訪れています。国策として早くから観光に力を入れた成果と言えるでしょう。日本の外国人訪問者数は約835万人(2012年度実績)で、目標である年間3千万人には達していませんが、豊富な観光資源があるのでそれは十分に可能だと思います。あとはいかにその魅力をアピールし、受け入れ態勢を整備するかにかかっているでしょう。

日本人がアジアで学ぶべきことはどんなことでしょうか。

「向上心」でしょう。「ハングリー精神」とも言えるかもしれません。アジアのほとんどの人たちは、個々人が将来のビジョンを描き備えています。中国に駐在していた時、大学で講師を務めていましたが、アジアの学生は授業中大変難しいことを訊いてきます。人によっては村の代表として学費を支給され学び、卒業後はその村を盛り上げていくのですから、真剣さが半端ではありません。

アジアではワークライフバランスも定着しており、そこは真摯に学ぶべきだと感じます。シンガポールをはじめアジア諸国では、「豊かな生活やゆとり」という意味が本質的に日本とは異なっています。

海外でお子さまを育てているご家族にむけて、メッセージをお 願いします。

前述の通り、何か一つのことをやり遂げるよう、お子さまに勧めることが大事だと思います。途中で投げ出さず、本当に最後までやり遂げるものを見つける手助けを親御さんがしてあげることが大切でしょう。一つのことをやればやるほど意外にもそれまで見えなかったことが見えてくるため、同時に視野が広がることにもつながります。

また、海外にいると日本の良さが見えてくるため、「日本」を見つめ直すとともに自分の「地元」を再認識する貴重な機会となります。海外からのお客さまが来られた時に、おもてなしの心をもって接し、満足していただくためには、その土地の気候・風土・文化・食などを熟知していることが大切となります。自分が自分の出身地、自分の住んでいる地域の情報を知らなければ、心からお迎えし満足していただくことなどできないからです。

また、海外ならではのさまざまな経験を積み、いろいろな人と親しくなることはその後の人生において、大きな財産になると感じます。海外では日本では会えないような人に会えることも多いですから、20年後30年後に交流を通して広がったネットワークは必ずプラスになると信じ、一人でも多くの友だちを作っていただきたいと思います。

 

 

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