早稲田アカデミー・インター校
校長 五十嵐敢先生
情報があればあるほど、まじめな方であるほど、「何かを選択しなければいけない」という気持ちになるのではないかと思います。シンガポールでは、驚くほど「教育」に関する情報にあふれています。しかし、親の世代にここまでの情報量があったでしょうか。情報が足りなかったから、正しい選択ができなかったと感じている方はいらっしゃるでしょうか。必ずしもそうではないと思います。
子どもには、素晴らしい教育を与えてあげたい。そのためには正しい選択をしなければいけない。これは教育だけに限らない、「マスティズムの罠」だと私は考えます。マスティズムという言葉は私の造語で、何かをしなければいけないという「MUST」と、主義という「ISM」を足したものです。情報は、時に個人に選択を迫ってくるように感じます。その中で最善を選ばなくてはいけないと悩んだり、不安を感じたりするのが、「マスティズムの罠」です。自由な意思決定のはずなのに、いつのまにか最善の選択のため追い込まれたようになっているのです。教育に関しては、主にお母さまがこの役割を担わされていると感じます。
しかし、私たちは常に与えられた選択肢から選ばなくてはいけないのでしょうか。それは違います。必要なものは、自然と見えてくるからです。本の好きな人には、読みたい本の背表紙が光って見えてくるように、必要なものはそこにすでにあって、発見されるのを待っています。ですから、いずれたどり着くので、その場で無理に選択する必要はないのです。
そして、誰の選択かという視点を持つとより自由になれます。子どもは恐るべき観察眼で、自分に合うものと合わないものを見抜きます。そして、教育はその子の将来にかかわる、本人の選択です。ですから、親の側が全てリストアップし、その中から選ぶことができないところに、実は救いがあります。むしろ、ご両親の考えと違う選択を本人がした時に、それを認めてあげる「勇気」の方が必要だと思いますね。
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