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この人からエール

シンガポール日本人学校小学部 クレメンティ校 校長 前川 嘉宏氏

2017.03.24

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~夢を持ち、夢を育み、夢を叶える教育を~

はじめに

子どもの数が減り、遊び場や見守る大人の存在も限られている現代の社会では、子どもを取り巻く環境は大きく変わってきています。日常生活や仲間内で失敗をしたり、周囲の大人に褒めて認めてもらったりするなどの経験を積むことが難しくなっています。このような時代だからこそ、教師や保護者だけでなく社会全体で子どもたちの未来を応援していくことが大切だと心から感じます。

私は小学生時代の先生の影響から勉強への意欲がかりたてられ、教師の道を選びました。日本や海外で教育の現場に立ち「学び続けることは充実した人生を送ること」だと日々感じています。35年以上にわたる教員生活や教育委員会での経験から、私が理想と思う教育観をお話ししましょう。

シンガポール日本人学校小学部 クレメンティ校 校長 前川 嘉宏氏

シンガポール日本人学校小学部 クレメンティ校 校長 前川 嘉宏氏

「教育は馬引きにあらず、牛追いたるべし」

江戸時代の私塾の教育理念に、「教育は馬引きにあらず、牛追いたるべし」という言葉があります。理想的な教育とは、馬を引くかのように「これを覚えなさい」「速くやりなさい」と前へ前へと引っ張るのではなく、牛を目的地に行かせるようにゆったりと構え、子どもが自分で目標に向かうべく声掛けをし、励ますべきであるという意味です。

親御さんの中には、お子さまの日常生活を見るとあれこれ口出しをしてしまう方も多いのではないでしょうか。しかし、あえて「見守ること」も大切な教育なのです。特に最近は「子どもに失敗をさせたくない」と思うがあまり、親御さん自身が先回りをして手助けをしてしまう傾向があるように感じます。私自身の子育てを振り返っても、子どもが嫌な思いをしないようにという親心で、余計なことまで口を出しすぎて、子どもの自主性に任せ切れないときもありました。親としては難しいところですが、子どもは小さな失敗や挫折を経験してこそ成長し、そこから学ぶ教訓は多いものです。少子化の影響もあると思いますが、ご家庭ではお子さまに任せるところは任せ、じっと見守ることの大切さを重視していただきたいと思います。

「自尊感情」を育てるために

お子さまの成長で大変重要なことは「自尊感情」を育むことです。「自尊感情」は「自尊心」とも言い、自分自身を評価する感情のことです。「自尊感情」が高い人は「私は大切な存在だ」と感じ、何ごとにも積極的に取り組めますが、低い人は自分に自信が持てず、消極的になりがちだと言われています。

「自尊感情」を育むためには、まずはお子さんを認め、褒め、励ますことが何よりも大切です。その際、他の子どもと比較してはいけません。基本的には1年前、半年前、いえ、昨日のお子さんと比べ何が出来るようになったか、どんな進歩を遂げたかを讃えてあげるのが良いでしょう。

以前、「自尊感情」について調査をしたことがあります。誰が見ても勉強もでき、生活態度もしっかりしている優秀な児童がいましたが、調査をすると「自尊感情」がとても低いことが分かりました。意外な結果でしたので更に調べると、原因は「兄弟比較」にありました。その児童は自分でも周囲も常に優秀なお兄さんと比較していたため、自分に自信が持てず「自尊感情」を高められずにいたのです。とても残念でもったいないことだと思いました。

このようなケースで、「自尊感情」を高めるための方法としておすすめしたいことは、年上も年下も含む異学年と交流することです。本校でもそのような機会を設けていますが、同級生同士ではその子の良さが見えにくい場合でも、異学年では十分発揮されることが少なくないのです。家族で年少のお子さんは、日頃はお兄ちゃんお姉ちゃんに仕切られてなかなか出番がない場合でも、学校や他のコミュニティなどで下級生と関わることで「自分もできる、頼られる存在なのだ」と感じることができるのです。そういう意味でも、学年を越えて交流することは意義のある貴重な機会だと思います。

「減点法」より「加点法」で

お子さんのテストの点数が70点の場合、採った70点よりも採れなかった30点に目が行き「あと30点で100点満点だったのに、こんな失敗をして!」と、つい責めてしまうことがあります。日本人の傾向として「欠点を補う」という価値観が根強いように思います。私は学校で子どもたちを見る際、いつも先生方に「『減点法』より『加点法』で」と伝えています。これができていない、あれもできていないというマイナス評価では、子ども本来の良いところは見えてこないのです。「一人でできるようになったね」「式はきちんとできているぞ」など、子どもが頑張ったところを一つひとつ加点し評価していくやり方であれば、努力の跡や頑張りがよく見えてきます。何よりも、子ども自身が、成長していることを実感し、自信とやる気が持てるようになります。ご家庭でも、ぜひ、お子さんが新たにできるようになった小さな進歩を見過ごさず、しっかり見つけて褒めていただきたいと思います。

子どもの心に寄り添って

海外に赴任したときや日本に帰国したとき、子どもたちは、非常に緊張しながら新しい生活をスタートします。一見すると分からないかもしれませんが、さまざまな緊張や不安を抱えているものです。まずは、「規則正しい生活を送る」ということが一番大切だと感じます。緊張して頑張っている子どもほど我慢によるストレスも溜まるものです。学校のことをあまり話さなくなったり、友だちのことを良く言わなかったり塞ぎ込んでいるような様子が見られたら、遠慮せずに先生に相談してください。学校の先生は面倒とは決して思いませんし、早期に相談していただくと問題が長期化せずにすむ場合が多いのです。

また、ご家庭の中で子どもの言葉使いや態度が気になるときも注意が必要です。「それは駄目だ」と頭ごなしに伝えるのではなく、「そう言われたらどんな気持ちになる?」「お母さんだったら、そうはして欲しくないな」と、視点を変えて伝えると子どもも素直に聞けるものです。愛情を受けて育ったお子さんですから、そのときは反発するかもしれませんがしっかり心に響いてくれるはずです。

親子で「夢」を語ろう

シンガポール日本人学校小学部 クレメンティ校

私は教育の基本姿勢として「夢を持ち、夢を育み、夢を叶える教育実践」を掲げています。昨年、開校50周年を迎えるに際し、色紙に子どもたちに自分の「夢」を書かせたところ、内容は実に多種多様でした。また、ある学年で書かせた「目標にする人」では、野球選手やサッカー選手の名を挙げる子もいましたが、自分の「お父さん」「お母さん」と答えた子どもが多数いました。子どもたちにとって、夢や目標を持って海外に出られ、立派に活躍されている親御さんは「グローバル人材」の良いモデルです。多くの子どもたちがそんな親御さんの姿を間近で見て誇りに思い、尊敬しているのだと強く感じました。

海外で暮らす貴重な期間にこそ、親御さんにはぜひお子さんと「夢」について語り合っていただきたいと思います。親御さんご自身が小さい頃に抱いていた夢や目標について話していただくと共に、ぜひお子さんの「夢」についてじっくり聞いてあげてください。

子どもたちの最も身近なところで活躍しておられる親御さんと共に夢について語り合うことで、子どもたちは自分の「夢」を更に膨らませていくことでしょう。それが、夢の実現への一歩だと思います。

前川 嘉宏氏

1980年より小学校教論として熊本県内の学校で教鞭をとる。
1988年~91年にはナイジェリアのラゴス日本人学校へ赴任。
帰国後は熊本県公立小学校で教頭、校長を歴任。この間、大津町教育委員会審議員、熊本県庁社会教育課審議員を務める。
2015年より現職。

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