グローバル教育
なぜ「国際バカロレア」なのか | 第4回 大学編

日本の大学の世界ランキングが年々低下している中、各大学はグローバル化に向けて急速に動いており、入学試験においても新たな取り組みを行っています。 ここ数年、「国際バカロレア(IB)」入試を導入する大学も増え、現在では8大学(岡山大学、鹿児島大学、関西学院大学、工学院大学、国際教養大学、玉川大学、筑波大学、立命館アジア太平洋大学)が学部の制限なく、IBのみでの入学に門戸を開いています※。 第四回目は「大学編」として、日本の国立大学で初めて全学部でIB入試を導入し今年で2年目を迎える、筑波大学の副学長先生お二人に、お話をうかがいました。
※2015年10月現在

Spring編集部が聞きました

筑波大学副学長・理事
石隈 利紀氏、キャロライン・ベントン氏

日本の国立大学の中で初めて全学部でIBによる入試を導入された経緯を教えてください。

石隈 利紀氏 石隈 利紀氏

ベントン氏: 本学は創立以来40年以上にわたり、「開かれた大学」という建学の理念のもと国際性豊かな知の拠点としてリーダーシップを発揮し、世界で存在感のある大学として国際社会に貢献してきました。「地球規模の課題解決に向けた知の創造とこれを牽引するグローバル人材の育成」というミッションを掲げており、大学側にはそれに必要な知識の創成が、学生にはグローバル社会の課題に向かい果敢にチャレンジする意欲が求められます。
この理念とミッションにIBの概念が見事に合致したため、本学ではIBに賛同し、世界的に活躍できる人材を育成するための新たな入学試験として、全学部をあげて国際バカロレア特別入試を導入することに決めたのです。
IB入試の導入により、IB教育を受けたグローバル人材の「金の卵」が本学に来て、ますます「開かれた大学」になり、真のグローバル教育を展開できると期待しています。

石隈氏: 本学は国際化が進んでおり、留学生数は2015年12月現在で約2,400名です。英語だけで学位をとれるプログラムが学部では3つ、大学院では30以上あります。「グローバル人材育成」を掲げる本学は、教育改革の軸として世界水準の知的生産術をすでに身につけているIB取得生に注目しました。今後、18歳人口が減る中で、日本全国のみならず、世界中から優秀な学生には来て欲しいと思っており、IB入試には大いに期待をしています。IBは、グローバル人材を育成する一つのチャンネルと言えるのです。

一部の学部ではなく全学部で導入されましたが、導入の準備段階で不安や困難な点などはありませんでしたか。

キャロライン・ベントン氏 キャロライン・ベントン氏

ベントン氏: 「IBの学習者像(10のラーニングプロファイル)」と本学が目指す方向性が重なっており、適合性が非常に良かったため、あまり大きなハードルと感じず、自然な流れの中で取り入れることが出来ました。

石隈氏: IBの導入は、大学の「入試改革」の柱の一つとして決定されました。IBを知らない教員もいましたが、IB教育を受けた教員もいたので導入に大きな抵抗はありませんでした。本学の場合、学部(筑波大学では学群・学類)自治ではなく、全学群の長が全員参加で議論し進めます。教育改革を全学レベルで行えるのが強みで、IB導入に際しても、それぞれの学問領域で独自の選考方式を採用しました。そして各学群・学類が求める人材をアドミッッションポリシーとして詳細にかかげました。IBのスコアだけで選ぶのではなく、その学群・学類との適応性を大切にしています。

IBの学習者像
IB認定校が価値を置く人間性を「10の人物像」として表しています。こうした人物像は、個人や集団が地域社会や国、そしてグローバルなコミュニティーの責任ある一員となることに資すると私たちは信じています。
● 探究する人(Inquirers)
● 心を開く人(Open-Minded)
● 知識のある人(Knowledgeable)
● 思いやりのある人(Caring)
● 考える人(Thinkers)
● 挑戦する人(Risk Takers)
● コミュニケーションができる人(Communicators)
● バランスのとれた人(Balanced)<
● 信念をもつ人(Principled)
● 振り返りができる人(Reflective)

参考:国際バカロレア機構「国際バカロレア(IB)教育とは」より抜粋

一般受験生で入学された学生さんと、国際バカロレア特別入試の学生さんとで、大きく異なる点は何でしょうか。

ベントン氏: IBの教えは「学習者像」にあるように、「主体性」がキーだと感じます。探究心を持って主体的に学ぶ姿勢です。知識はもちろん、自分から課題を見つけて積極的にアクティブな学習が出来る人たちが多く、知識尊重型の学びをして来た学生にも良い刺激を与えてくれています。

石隈氏: 知識を持っていること自体が「力」ですが、これからの時代は知識だけでは生きていけません。IBで「考える力」を身につけ、主体的に学ぶトレーニングを受けた学生が来ることで一般の高校出身者と切磋琢磨し合い、大学での学習を豊かにしていると確信します。

ベントン氏: 20年後、今の職種の50%以上がなくなると予測されており、そのスピードも速くなると言われています。自分で物ごとを考え、好奇心を持って臨むことは大切なスキルになるに違いありません。IBを学び、その素地を築いている学生を迎えることには大きな意味があると手応えを感じます。大学として、IBに大いに期待しています。

合否の基準は何ですか。

石隈氏: 昨年は9名の受験者があり2名合格、今年は13名中5名の合格者が出ました。大学として共通のものもありますが、学群・学類ごとに求めている「アドミッションポリシー」に基づき、厳しく判定しています。IB学習者であれば誰でも良いわけではなく、基礎学力と総合力の両面を見ており、適正と判断されれば全員合格もあり得ます。今後は、ますます多くの方に挑戦していただきたいと思います。

ベントン氏: 具体的にはスコアでなく、学群・学類で重きを置く適合性を大切にし、高校で何を学んできたかを重視しています。TOK(Theory ofKnowledge:知の理論)、CAS(Creativity、Action、Service:創造性、活動、奉仕)のレポートも出してもらい、面接で総合的に判断します。特にここを重要視ということはありませんが、あえて言うならば、面接は時間をかけ大切にしています。

石隈氏: 今年は「日本語」ができる人だけを対象にしました。日本語を母語とする、または、日本語AまたはBのHigherlevel を履修した人です。全学部でIBを導入しましたが、どの学群・学類でも英語で授業が受けられるわけではないからです。科目は学部ごとに異なりますので、受験を考えている人は事前に募集要項を見て、科目選択をすることが大切です。

2016年度4月入学 筑波大学国際バカロレア特別入試
学生募集要項アドミッションポリシーの例(抜粋)

人文・文化学群人文学類人文系の学問に強い関心を抱くと同時に、旺盛な知識欲と探究心を持ち、よりグローバルな観点から新たな問題提起をなし得る発展性のある人材を選抜します。若干名
比較文化学類人文系の学問に強い関心を抱くと同時に、旺盛な知識欲と探究心を持ち、よりグローバルな観点から新たな問題提起をなし得る発展性のある人材を選抜します。若干名
人文学類自立して世界的に活躍できる人材を育成するため、本学類の教育を受けるのに必要な基礎学力を有し、探究心旺盛で積極性・主体性に富む人材を受け入れます。若干名
日本語・日本文化学類国際バカロレア資格を取得した者を対象として、日本語や日本文化、国際交流や異文化理解に対する旺盛な知的好奇心と明確な問題意識を持ち、国際的な視野に立って自ら問題を見出し、解決する能力を有する人材を選抜します。語学力を含めたコミュニケーション能力を重視し評価します。若干名
医学群医学類広い基礎学力に加えて、数学、理科、英語の学力を評価するとともに、医学を志向する動機、修学の継続性、適性、感性、社会的適応力など総合的な人間性について評価します。若干名
看護学類看護に関連する分野において必要とされる明確な問題意識と優れた洞察力、大学で看護学を修得するために必要な基礎知識ならびに思考力や学力などを総合的に評価します。若干名
医療科学類医療や医科学を志向する動機と適性、人を愛する感性、社会貢献への熱意に加えて、医科学を学ぶために必要な基礎学力を総合的に評価します。若干名

IBへの課題はありますか

石隈氏: 今後、国際バカロレア・ディプロマプログラム(IBDP)を実施する高校が増える中で、IB教員の養成が必要です。IB教員は、日本の一般の教員資格を取った上で、更にIB校でも教えられるメソッドを学ぶ必要があります。日本の一条校※の免許にIBのトレーニングを積むイメージです。本学では、大学院でIB教員の養成をするコースの準備をしています。

※学校教育基本法・第一条で定められている、幼稚園・小学校・中学校・高等学校・高等専門学校・大学のこと。通常は高校卒業資格と見なされる。

写真提供:国際バカロレア機構 写真提供:国際バカロレア機構

国際バカロレア(IB)を修了して日本の大学に進んだ学生の方4名に、IBの学びについて聞きました。

質問内容
① 英語学習経験は ② IBDPを選んだ理由は ③ IBDPで一番苦労した点・楽しめた点は

多岐にわたる質問に詳細にお答えいただきましたが、誌面ではその一部をご紹介します。科目選択や学習法、ハイスコアをとるために心がけた点などは、ウェブサイトで公開しています。

国際基督教大学(ICU) 中村 陶子(なかむらとうこ)さん

国際基督教大学(ICU)中村 陶子(なかむらとうこ)さん

公立小学校
→AICJ Junior High School
→ニュージーランドAuckland International College
→ICU 教養学部

「日本の大学に行っても海外の大学のような学びを求めて、日本のリベラルアーツ教育の先駆的な存在で少人数制のICUを志望しました」

「私にとってのIB」
IBは大学受験で有利だと思います。IBを受け入れている日本の大学であれば、主にIBのスコアを含む書類選考です。センター試験のように一発勝負ではないため心にゆとりが生まれこつこつ勉強できるので、自分に合っていたと感じます。受験に特化した勉強をしなくて良いので、日々の勉強に注力することが可能です。ただ、受験する大学が9月入学を実施している学部や一部の学部などに限定されるのが課題だと思います。
IBをしっかりやっていれば、大学の学びもスムーズに、より効率的に進められると思います。特にエッセイは、IB時代にかなりこなしていたので、大学でのレポートはあまり苦労していません。

①小学生までは、週1回の英会話教室程度。中学では、国語のみ日本語で学び、数学・英語・社会・理科・体育は英語でのイマージョン教育。姉妹校のニュージーランドの高校に単身留学。

②「英語を学ぶのではなく、英語で学ぶ」ことを目指していたから。

③当初は留学先の授業を理解するだけでひと苦労でした。いきなりA4一枚に20分で英語でEssayを書くように言われ、Essayの書き方や構図、時間内に仕上げるコツが全く分からず戸惑いました。プレゼンの多さ、PowerPointやExcelなどのPCスキルも一から学びました。生物の授業では、自分でオリジナルの実験方法を作り、それをまとめるという日本の教育にはないクリエイティブなものがたくさんあり、慣れていない私には難しかったです。
Economicsは、はじめは苦手科目でしたが、復習に一番時間を割いた結果、半年ほどでかなり知識量が増え、経済用語にも明るくなったことでモチベーションが向上しました。日本のTPP問題やアベノミクスなどを、楽しんで考察できるまでになりました。

ハイスコアを取るために心がけたこと
■ IBで高得点を取ることを第一目標にすること。
■ 受験のためには、TOEFLの構成を攻略して、慣れることが重要。90点以上を目標に努力した。
■ 日々のテストやエッセイがそのまま合否につながるので、こつこつと勉強を積むこと。

Q. IBDPの選択科目とその理由は
HL: Economics, Japanese A, English B  SL: Biology, Spanish ab, Math
※HLとはHigher Level、SLとはStandard Levelのこと。IBDPでは3教科を必ずHLで選択する必要がある。

語学や文学が好きだったため、日本語、英語以外にSpanish abを選択しました。
社会科系は、Economics Geography Historyの3つの中で、将来役立つと考えEconomicsを選択、理系はあまり得意ではなかったので、一番計算や化学式の使用が少ない Biologyを選択しました。
※Spanish abの「ab」とはab initioのことで、外国語としての初級クラス。

Q. 工夫された学習法は
周りの現地の生徒に比べて英語力が劣っていたため、はじめは授業中に発言することが出来なかったのでその代わりに、先生の言ったことがわからなくても、とりあえずメモを取ることに徹しました。授業後に教科書を読みながら勉強し、わからなかった単語を理解するために、英語のメモ中心の「授業中のノート」と、理解度を深めるために日本語でまとめた「復習用のノート」を組み合わせて学習していました。
どう頑張っても10年以上英語を学んでいるネイティブスピーカーには敵わないので、授業を熱心に聞いて、テストやエッセイでの情報量やクオリティを上げることに力を注ぎました。

Q. CASとTOKとは
CASは、日本でいう部活や課外活動と同じだと捉えています。バランスよい人間になるために、全てを網羅させるようにしているのだと思います。ここでの「学び」は、「情報」を頭に入れるいわゆる「勉強」ではなく、コミュニティの中で活動し、そこでの自分の行動を振り返ることで、自分の行動、発言、存在の意義を見つける「学び」であったと思います。私は東日本大震災の後に留学先で募金活動を行ないました。ここでは、NZ人の人と「募金」という行動を通してコミュニケーションを取りました。その活動を通して、日本の文化や環境、状態について聞かれ、自分の「日本に関する知識」の少なさを実感し更に勉強したいと思うようになったり、「わたしは日本人なのだ」という忘れがちな自分のアイデンティティの再発見にもつながりました。
TOKは、確かに理解することがかなり難しかったです。私が考えるに、自分の行動に対常に「疑問を持つこと」を教えてくれた教科であると思います。例えば、私は「ゴキブリが怖い」と思うとします。でも、なぜ自分より何十倍も小さく、殺されるなどの危害もないゴキブリを怖いと思うのか、感情や思い出、五感やイメージングなどのアスペクトに当てはめて、その理由を探すのがTOKであると思います。
※CASとは 3つの項目「creativity」 「action」 「service」を結びつけた社会貢献活動。

Q. 大学入学までのタイムラインは
IBDP1年目の終わり:
日本の大学への進学を決める。そこから、日本の9月入学を行なっている大学、同じ高校から日本の大学に進んだ先輩たちの進路先などから、ICU、早稲田、上智、慶応についてリサーチ。主にインターネットで雰囲気や校風について調べ、先輩たちから各大学の様子などを情報収集。

Q. 今感じていること・現在の大学生活について
大学では、まずIBよりも授業のコマ数が減った分、自主学習に時間を多くさけるようになりました。ICUでは、メディア・コミュニケーション・文化というメジャーを専攻していますが、実際に映画を撮影したり、コミックを書いたりと、より大きな行動からの学びが出来る。それは、大学ならではのスケールの大きな学びであると思います。高校の時と違い、ノートにまとめるだけでなく、新聞や文献を読み込むということを行っています。土日は、サークルのスノーボード合宿に行ったり、インターンなどの活動をしています。

東京大学 常盤 馨(ときわ かおり)さん

東京大学 常盤 馨(ときわ かおり)さん

小学1年~中学2年 オランダ United World College of Maastricht
→中学2年~3年 シンガポール Overseas Family School
→中学3年~高校卒業まで 同 United World College of South East Asia(Dover Campus)
→東京大学教養学部文科二類、海外子女向けオンライン家庭教師EDUBALにてインターン中

「東京大学では、はじめの二年間は全員教養学部に属し、文系理系を問わず自由に好きな科目を学べるシステムとなっており、好奇心の赴くままに多様な勉強をすることができます。3年からは経済学部を専攻する予定です。CASの一環でミャンマーへ行った際に、地域格差を目の当たりにしたことで、将来は途上国の経済発展に貢献したいと考えたからです」

「私にとってのIB」
私は進路の候補として日本の大学しか視野になかったため、IBDPは非常に有利だと思いました。各国の大学からの評価も高く、やりがいがある、と人気を集めているほか、日本の多くの高校でも近いうちに導入されるというだけあって、日本の大学からのIBの評価はかなり高いと帰国受験を通して感じました。

①5歳の時にオランダに引っ越し、インターナショナルスクールに8年間通学。

②Grade 11の時に通っていたインター校がIBDPしか提供していなかったため。Grade 10の時の自分の学力レベルがIBDPを選択する上で特に問題ないと考えたため躊躇なく進学しました。

③苦労した点は、取りたい科目と自分の実力のバランスを取ることでした。IBで高得点を取ることが第一の目標だと感じたので、「高得点が見込める科目」を優先的に選択しました。IBDPの二年間は一つ一つの課題やテストをこなすのに精一杯でした。
IBDPの学びで特徴的だと思うのが、多様な学び方です。Geographyなどの社会科学の科目ではFieldworkおよび課外授業の一環でマレーシアに一泊したこともありました。IBDPは、先生の講義を聞いて机に向かい、知識を詰め込むばかりではなく、多様な学び方で生徒を楽しませているのだと思います。
学期末になると複数の科目が単元の終わりに近づき、いくつものテストや提出課題の期限が重なってしまうことが多々ありました。これらに加えてCASやその他課外活動をこなすことが要求されるので、睡眠時間を十分に取ることが難しく、授業中集中できない、といった悪循環に陥ることも頻繁にありました。2年通して息をつく間がない、というのがIBで一番苦しかった点だと思います。

ハイスコアを取るために心がけたこと
■ 各科目の年間予定を把握し、重要項目を把握した上で授業に出る。
■ 「考え方」が問われる科目では教師やクラスメートの意見や考え方などを細かく書き出しておく
■ 数年分の過去問を一通り網羅して問題のパターンを頭に叩き込む

Q. IBDPの選択科目は。
HL:Japanese A Literature, Maths, Physics
SL:English A Language and Literature, Geography, Chemistry

日本の大学に進学希望で、日本語(長編小説を読解する能力、論文を書き上げる能力)の向上および維持のためにHLのJapanese A Literatureを選択。IB科目を選択した当時は理系に進もうと考えていたためMaths、PhysicsもHLで選択。 Physicsは暗記量が比較的少ないと聞いていたことからBiologyやChemistryより苦手意識が弱く、HLで選択。
個人的に英語にはあまり自信がなかったため、English A Literatureより負担が軽いと言われていたEnglish A Language and LiteratureをSLで選択。文系科目に特にこだわりがなく、Grade 10で取っていたGeographyをそのまま継続。ChemistryはHLはかなり大変だと先輩から教えられ、SLで選択。

Q. 工夫された学習法は
[1]Syllabusを確認
Syllabusに一通り目を通すことで、これから授業でどんなことを教えられるのか、そして自分はそこから何を学ぶべきかがある程度分かります。重要なポイントを事前に頭に入れておくと、効率的に授業を受けることができます。

[2]教師・クラスメイトの発言は細かくメモを取っておく
English, Languages, TOKなど「考え方」が問われる科目では教師の意見や考え方などを細かく書き出しておくことで、視野が広がり自分のエッセイのargumentを考える糸口になります。饒舌な先生の授業では授業中先生の話をひたすらパソコンで書き取っている時もありました。

[3]過去問を徹底的に解く
似たような問題が例年繰り返し出されることがあるため、数年分の過去問を一通り網羅して問題のパターンを頭に叩き込みました。解答例も詳しく見て、どこで加点されるのか把握し「点数が取れる解答」を書く練習を繰り返しました。

上記のコツを駆使したこと、また点数が伸びずとも辛抱強く粘って勉強を続けたことで最終的には得点を伸ばすことができました。Grade 10からIBに上がった当初は、自分の成績が全ての科目で一段階以上下がり大きなショックを受けました。特にMaths HLでは、最後の模擬試験まで目標の点数より2段階低い点を取ってばかりでした。ですが、それに懲りずしぶとく勉強を続けたことで目標以上の点数を取ることに成功したのだと思います。

Q. CASとTOKとは
CASとは、Creativity, Action, Serviceの略で、IB Diplomaを取得するうえで全生徒が修了しなくてはならない課外活動のようなものです。Creativity、すなわち創造性、とは生徒が活動を企画し実行することや、幅広い芸術的な活動を指します。何かのプロジェクトに関して、リーダーシップを発揮して企画することや、楽器や絵画などの習い事、部活動などがCreativityとして認められます。私はフルートを学んだり、学園祭で発表するダンスをつくるリーダーを担ったりしました。
Action、直訳すると活動ですが、これも幅広い意味を持っています。個人、団体スポーツに限らず、エクスペディション(目的を持った遠征、旅行)や国際的なプロジェクトに参加することもActionに含まれます。具体的な例としては、体育系の部活動や登山旅行に行くなどです。国際的なプロジェクトといえば、私は学校が主催する中国の孤児院を支援する団体に入っていました。
Serviceとは社会奉仕活動、慈善活動を指します。日本でいうボランティア活動に近い意味を持ちます。特別なニーズを持った人を助ける活動や、地域の人々と交流する活動、病院への訪問などが挙げられます。私は学校が用意してくれたボランティアに11年生の頃毎週一日参加していました。活動内容は地域の障害者ホームへ赴き、障害を持つ患者さんたちと交流することです。
CASはFinal Examとは違ってIB機構に正式に評価されることはなく、学校側と生徒の間でCASの進捗状況は審査されます。CASで高い評価をもらうには、活動時間の最低条件はもちろん満たした上でいわば活動記録ともいえるCAS Reflectionsをしっかり書くこと、そして学校のCAS AdvisorおよびCAS Supervisorに良い印象をあたえることが重要だと思います。
IBDPで生徒全員が必ずこなさなくてはならないCASはやはり大学へのアピールに非常に効果的です。私の場合、CASの一環でミャンマーへボランティアをしに行った経験を志望動機の根拠とし、各大学の面接で使い倒した結果、面接官は非常に興味を持ってくれました。
一方、TOKは「考え方」を問う科目です。日本語に訳すと「知識の理論」となりますが、文字通り「知識の本質」について学びます。「知る」ということはどういうことなのか、私たちは何を知っているのか、などを考えることで生徒の批判的思考を培うことを目的とする科目です。考え方によって社会問題への取り組みや観点が変わることを学びます。最終的にはKnowledge Issue、すなわち4 ways of knowingの観点から評価できる社会問題を、Emotion、Reason、Sense-perception、Languageの観点から私たちはどう評価するべきなのか、といったテーマでプレゼンやエッセイを提出します。

Q. 大学入学までのタイムライン
受験する年の6~7月 大学のホームページや帰国受験の雑誌、予備校から、帰国生入試の募集要項を入手。
IB時代はIBの点数を延ばすことに集中し、IBのサポートのために塾に通っていました。UWCを卒業してからは、大学受験まで半年以上あったため、予備校に通って帰国受験の勉強(小論文対策、英語、面接など)をしました。

7月 慶応義塾大学や早稲田大学の出願提出
9月 合格通知
11月 東京大学出願
翌1月 京都大学出願
2月 京都大学合格通知
3月 東京大学合格通知

Q. 今感じていること・現在の大学生活について
現在は教養学部で関心のある科目を自由に取っています。1年生の間は中国語やドイツ語など新しい言語を始めてみたり、心理や開発経済などIBで学んだことのなかった学問に触れたりしました。他にも環境問題に焦点を当てた授業、国際社会における平和構築を考える授業、美術作品を分析する授業など、多岐にわたる科目を履修して教養学部を満喫しています。サークルでは法、社会、人権を考えるゼミに入り、あらゆる社会問題をその分野の専門家の話を聞いたり、現場を見に行ったりして考える活動をしています。学園祭ではクラスメイトとバンドを組んで、ステージで歌わせてもらいました。学校外ではEDUBALというオンライン家庭教師の会社で、海外子女のより良い教育サービスを考え、作っていくインターンを行っています。
IBDPの2年間は長いようで一瞬で終わってしまう非常に充実した教育プログラムです。CAS、TOK、EEなどのIBの特徴から、なるべく多くのことを吸収してください。多くのことを吸収すればするほど、皆さんは大学にとってより魅力的な人材となります。また、IBDPで得た考える力、活動する力、社会に対する問題意識は日本で学習する高校生たちが持っていない貴重な能力です。その特別な能力を伸ばすことを怠らずに、全力でIBと戦ってください。

筑波大学 菅沼 夏未(すがぬま なつみ)さん

筑波大学 菅沼 夏未(すがぬま なつみ)さん

公立小学校(小1~5年)
→イギリス現地校 Tettenhall College(小5~中3)
→加藤学園暁秀高等学校(高1~3)
→筑波大学 人文・文化学群比較文化学類

「海外の大学も視野に入れていましたが、具体的にどの大学かは決めかねていました。高3のとき、将来は国際バカロレアで国語Japanese A Language and Literatureを教えたいと考えていたところ、筑波大学の比較文化学類では文学全般について領域を超えた幅広い分野での学習ができると知り、同大で学びたいと考えました。また、留学も考えていたため、手厚く留学のサポートがあることも理由の一つでした」

「私にとってのIB」
IBは「海外大学への切符」と言われることもありますが、私はIBDPでの経験こそが私を価値あるものにしてくれたと思っています。進路が有利になるためにIBを取るのではなく、自分をもっと豊かな人間にしてくれることが、IBの素晴らしい点だと思います。日本の多くの大学は、まだIBDPをよく理解しきれていない気がするので、入学後は、自分が主体的かつ積極的に学び続ける姿勢が必要だと思います。

①子ども英会話教室に2~3歳頃から通い、英語での音楽や遊びを通じて英語に自然に親しみました。

②イギリス在住時に通っていた日本語補習授業校の国語の先生が、加藤学園暁秀で国際バカロレアの国語を担当されていて、すすめられたため。イギリスで学んだことを維持・向上させたいと思い、選択しました。

③学校でどのIB科目が選択できるかを事前にしっかり調べる必要があると感じます。
日々の学習での評価も重要なので気が抜けず、時にはストレスを感じました。メリハリをつけて学び、時間配分を決めるセルフマネジメントを訓練できたことこそが、学習の要だったと思います。
楽しかった点は自分の成長を実感できた点です。IBを通じてさまざまな科目でエッセイを書き、人前で発表や討論を続けることで、英語であっても日本語と同じように、自分の考えを述べることができるようになりました。英語を使うことが楽しくなるのがIBの魅力だと思います。

ハイスコアを取るために心がけたこと
■ 自分の興味を詰めて書き上げたExtended Essayでできる限り深堀する。
■ TOKでは「なぜ自分がこう考えるのか」を的確に述ベ、ボーナスポイントを獲得する。
■ 各科目全てに力を入れることは難しいので、重点的にHLに時間を費やす。

Q. IBDPの選択科目とその理由は
HL:Japanese A Language and Literature,English B, History
SL:Mathematical Studies, Chemistry,History,Chinese

中学時代を海外で過ごしたため、日本人として最低限の日本の歴史を知っておきたいと思い、HLでは日本・中国の歴史をSLでは主に世界の歴史を学びました。文系に進むことは決めていたため、文系科目に力を入れるように Mathematical Studies やChemistry SLは敢えて低めのレベルSLの科目で選択しました。HLとしての History HLやJapanese Aで要求されるレベルが高く、専らHLの科目に注力できるように心がけました。私の高校ではPhysics SL/HL、Art SL/HL、Chinese の中からの選択だったので、消去法でChineseを選択しました。

Q. 工夫された学習法は
授業で習ったことはノートに改めて自分の言葉でまとめるようにしていました。Key wordや使うべきPhraseはそのまま使いましたが、なるべく自分の言葉で一から説明できるように努めました。自分の言葉にするには深く理解している必要があり、それができない時は教科書を見返したり、プリント類をもう一度解いたり読み直したりしていました。「理解していたつもり」であるのが一番危険なので覚えることは後にしても、今日何をやったのか、どこが重要点かを理解するように努めていました。テストや期末試験の前はそれらまとめたノートを元に勉強していくのが私の中では一番効率が良かったと思います。自分の言葉だから理解に苦しむこともなく、紙に書くことで記憶にも残りやすいので見返すだけでも随分思い出すことができていたように思います。

Q. CASとTOKとは

CASの「Creativity」では自ら企画し、実行するプロジェクトを含み、かつ創造性が求められました。私はDebate部で主にこれらの時間を費やしました。他校の生徒と共に討論することで問題の解決口を出し合い模索する、英語のスピーチ力や情報分析やプレゼン力なども鍛えられたと思います。独自の解決法をチームで模索するなど、創造性に叶った活動をしていたと感じます。
Actionでは個人やチームでのスポーツ活動を主にし、地域や国際的なプロジェクトなどに参加することが求められました。私は、実家沼津で開催された「さわやかウォーク」という地域主催のイベントにだいたい月1のペースで参加し、町中を設定されたコース通りに歩き、普段通っても気づかなかった新しい発見を通して地域をもっと知っていくような活動を行いました。
Serviceは社会奉仕活動を主に行い、幼稚園のお手伝いや外国人観光客の地域案内などを請け負いました。自ら幼稚園に連絡を入れ、日時を決めボランティアとして先生方の指示に従いながら園児たちを見ていました。地域案内では富士山登山を目指す外国人観光客への御殿場PRを兼ねて富士山までのルート案内をしました。「社会貢献」というような大それたこととは思いませんでしたが、少しでも役に立てばと、合計50時間をCASに費やしました。

TOKでは、様々な考え方を論理的に理解していくということを訓練していきました。他者の意見を受け入れ、理解し、自分のものと比較していく。そこには常に異なった意見があり、考えの根源には何があるのか、抱える価値観などを理解すべく、どのような事柄から考え、捉えていけばいいのか、複眼的な思考力を学ぶことができました。普段は目にも留めないような他者の考え、言葉に含まれる深い意味や自身の考え方など、考えると頭が痛くなるような内容ばかりではありましたが、今振り返ると、とてもやりがいと達成感のある授業だったと思います。

Q. 大学入学までのタイムラインは
高3の春 面談で将来の夢を明確に描く
5月 高2から参加していた各大学の説明会などでの資料を見返しながら、帰国子女枠についての確認を行った
6月 本番さながらの試験の準備に追われていた
7月 面談を再び行い、志望大学を4候補選択する
8月 筑波大学に願書を提出
9月 書類審査が通ったことを確認し、面接の日程を把握
10月 筑波大に赴き、面接
11月 最終試験の準備
1月 IBの結果と共に大学の結果発表

Q. 今感じていること・現在の大学生活について
現在は日本文学を中心に授業を選択しています。将来は教師になり、最終的にはIBの国語Japanese A Language and Literatureを教えられる先生になりたいと考えています。そのため、教育系サークルに所属し、毎週小学生から中学生の子どもたちに勉強を教える活動を続けています。
IBで学んだからこそ、文学がいかに奥深くさまざまな事柄をいろいろな手法によって表現しているものだと気付きました。自分が出会った先生から影響を受けたように、IBの素晴らしさを伝えられる人になりたいと思います。

早稲田大学 桑原 ゆい子(くわはら ゆいこ)さん

早稲田大学 桑原 ゆい子(くわはら ゆいこ)さん

シンガポール Dover Court International School(6~14歳)
→United World College of South East Asia(14~17歳)
→早稲田大学 国際教養学部

「生まれてから18年間日本での生活経験がなかったため、日本語の勉強・日本の文化について理解を深めたいという思いで日本の大学を志望しました。国際的な視点を身につけながら、継続して英語力の向上を図りたかったので、国際教養学部へ進みました」

「私にとってのIB」
IBDPをとることは、自分の能力を最大限に生かすための「パスポート」のようなものです。世界中に選択肢が広がり大学進学に有利だと思います。
自分の興味のある分野を、「勉強しなければ」という義務感ではなく、「勉強したい」という意欲を持って 深く学べたことが何よりの財産でした。
IBで学んだ内容と、大学で勉強している内容に共通部分が多く、理解を深められています。先生との距離感もとても似ているので、大学生活が非常にスムーズでした。
IBDPの一部であるCAS※は、日本でいうボランティア活動のようなものだと思います。活動内容は自分で選ぶことができ、私は老人ホームのヘルパーや、親に恵まれない子どもたちのデイケアをしました。
TOK※は、与えられたテーマを調べた上で、ディスカッションやディベートの形で、自分の知識を広め、深めていく授業を行います。大変多くの内容を議論しましたが、その中でも「医療の発展のためにネズミやウサギを使った動物実験を行うことの是非」や、「中絶は認められるべきか、否か」といった少し重いテーマですが「生」に関する内容の議論が印象に残っています。

※CAS=Creativity, Action, Service(創造性・活動・奉仕)、TOK=Theory of Knowledge(知の理論)

①6才から、インター校で。

②自分の勉強したい科目を選択できること、また興味のある内容を深く勉強できたため。

③アートの授業では、アイディアを出すところから作品の完成までにたくさんの時間を要するため、他の教科の勉強とのバランスをとることに苦労しました。その反面、心理学とアートの授業は日本の高校では触れない内容を深く勉強でき非常に充実していました。

ハイスコアを取るために心がけたこと。
■ 各課題で良い成績をとれば、それだけ進学先の可能性も広がると信じ、努力すること。
■ エッセイとTOEFLで高得点を目指すこと。
■ 学びで刺激し合える友人をたくさん作ること。

Q. IBDPの選択科目とその理由は
HL:Visual Arts, Psychology, French (B)
SL:English, Statistics, Environmental Systems and Societies

Visual ArtsとPsychologyは中学から興味があり、成績も良かったのでHIGHERで、フランス語はIBDP以前から学習していたので選択しました。ESS は、地理と科学の両方を学べる UWC独自のカリキュラムで魅力を感じました。

Q. 工夫された学習法は
与えられたタスクは、後回しにしないようにすぐに取り組むこと。また、各科目の勉強時間の配分を事前に決めて計画的に毎日の学習に取り組みました。英語の読み書きだけでなく、自分の意見を英語で発信する機会をたくさん訓練し、経験値を積むことがとても大切だと思います。
毎日の宿題や予習、レポートの量が大変多いので、時間を自主的に管理できるようになる必要があると思います。

Q. 大学入学までのタイムライン
IBDPの1年目(日本でいう高校2年生):学校内で開催される進学説明会に参加し、興味のある大学を自分でリサーチ。
IBDPの2年目(日本でいう高校3年生)1月:9月入学の試験の結果や学校の成績を提出。
同 3月:合格通知を受け取り、入学を決意。

Q. 今感じていること・現在の大学生活について
大学では、美術、音楽、心理学といったクリエイティブな学問を中心に選択して勉強しています。授業は週10コマ(1時間90授業)とる他、授業時間以外では、図書館やカフェで毎日3、4時間程度勉強しています。アルバイトは週に2~3回(1回4~5時間)と、歌手を目指して歌のレッスンにも通い充実した日々を過ごしています。

取材協力:国際バカロレア機構、EDUBAL

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