グローバル教育
なぜ「国際バカロレア」なのか 第8回 日本の大学編

なぜ「国際バカロレア」なのか 
第8回 日本の大学編

Springでは1年余にわたり、 国際バカロレア(以下IB) について幼児・小学生から高校生までのプログラム内容をお届けしてきました。 
シリーズ第8回目となる今回は 「日本の大学編」として、IBを活用した大学入試や国・大学がIBで学んだ学生に期待していることについて文部科学省IB推進コンソーシアム事務局やIB生を受け入れている大学にお話を伺いました。

 

取材協力:文部科学省 教育推進コンソーシアム事務局、名古屋大学

 

◆ 理工系学部でも活用されるIB

理工系学部で最も多く実施。 理系でも多くのIB生が受け入れられています 。

 

◆ 併願がしやすいIB

特に国立大学の一般入試の場合、 推薦・前期・後期と最大でも3回の受験に限られますが、 IBによる入試はそれ以上の受験が可能なため、 一般入試に比べて自由度が高いと言われています。

 (ただし、大学や入試により基準スコアや科目の要件があるため、確認が必要)

 

出願要件は必ず確認!


大学や学部などによって、 IBDPの科目やレベル、 語学の条件が定められている場合があるので、 事前に確認が必要です。 
下記は一例です。

・科目の種類、 HL (Higher Level) かSL (Standard Level) ※1などが指定される。例えば医学部受験の場合、 「数学はHL、 理科科目もいずれかはHLで取得しなければならない」など

・言語科目で「日本語を第一言語科目のA2で取得しなければならない」など。または一定の日本語力があることを証明する必要があること

※1「HL (Higher Level) 上級レベル」と「SL (Standard Level) 標準レベル」: IBDP6科目のうち3科目以上をHLで履修することがIBDP取得の条件

※2 IBDP2つの言語科目のうち母語として学習する言語をA、 「外国語」として学習する言語はBとされている (例: Japanese A, English Bなど)

 

Spring 編集部が聞きました

IBは国際化を目指す国内大学からの評価が高く、導入する大学が増えています。

文部科学省IB教育推進コンソーシアム事務局長 
小澤大心氏

 

 

 

Q1 大学入試におけるIBの動向は?


近年、スーパーグローバル大学 (SGU) をはじめ、国も「大学の国際化」に力を入れています。 IB教育を受けた学生は国際社会に貢献できる優秀な人が多いと評価されているため、入試でIBを取り入れている 
大学はますます増えています。 また、 さまざまなバックグラウンドを持つ生徒に合わせて、秋入学など大学の入学選抜も多様化しています。 
そのため、 国内外でIBを取得した生徒に対して、 日本の大学の間口や選択肢が広がっていると言えます。 
※国際競争力の向上などを目的とした、 00年より開始された文部科学省による 「スーパーグローバル大学創成支援事業 国内外トップレベルの大学との交流・連携など、国際化に取り組む大学を重点的に支援。

 

Q2 他の国際的なカリキュラム (A-level, AP など)と比べたIBの良さは?


IBのプログラムは、特定の分野だけを履修するのではなく、6つの履修科目で横断的に学びます。 どの学生にも得意分野だけでなく、必ず理系・文系をバランス良く学ぶことを課すことが特徴です。 また知識だけではない 「探究的学習」 など、 全人教育も魅力であると考えています。

 

Q3 今後IBによる大学入学を目指す人へのメッセージは?


早い段階から将来の希望 「どのような人間になりたいか」「何を学びたいか」を自分で考えたり、 親子で話し合うことをおすすめします。 
大学入試でIBDPを活用するには、早い段階で進路を見据え、履修科目について調べる必要があります。 まず、 事前にその大学で必要なIB履修科目を調べ、 高校進学の際にもその科目が受講可能な高校であるかどうかを確認しなくてはなりません。 詳しい受験資格については、各大学の募集要項を必ず確認するようにしてください。


●文部科学省IB教育推進コンソーシアムとは

日本におけるIBの普及促進およびIB教育のノウハウの展開を主導することを目的として、 2018年に文部科学省から委託を受けて設立。 2023年3月末まで、 アオバジャパン・インターナショナルスクールが事務局となっている。 2022年度までにIB認定校を200校にする国の目標も、 2022年12月末時点で191枚 (認定校・候補校プログラム数換算) と、 おおよそ実現。

Spring編集部がIBを入試に活用している大学に聞きました 

シンガポールプレスクール お役立ちマップ・リスト(幼稚園・保育園など)(2023年1月現在 保存版)

 

実際に日本の大学は、 IBを履修した学生のどのような点を評価し、 どのようなことに期待しているのでしょうか。

◆ IBで入学した学生の特徴は?

既にIB教育を通して国際的な視点で物事を捉える力を身につけている。 さらに, 21世紀型スキルも鍛えられていて、クリティカルシンキングやコミュニケーションスキルにも長けている。 
(岡山大学)

学業や種々の活動に対して積極的に取り組んでいる印象がある。また、考え方や価値観が国内高校出身学生と異なることから、好影響を与えているところも見受けられる。 
(東北大学)

学業成績が優秀で、 英語運用能力が高い。 また探究的思考など課題発見・解決能力が高いと感じている。 
(立命館アジア太平洋大学)

◆IBを履修した学生に期待していることは?

IB教育で学んだことを生かして学生生活や、授業を有意義なものに、 さらには研究活動を活発に進めてほしい。 た。 グローバルな経験や考え方を持つIB生が、 他の学生に良い刺激や影響を与え、大学内を国際化してくれることを期待している。 
(岡山大学 )

高い語学力や主体性、 積極性やチャレンジ精神 チームワークやリーダーシップなどを発揮すること。 
(近畿大学)

Spring 編集部が聞きました

名古屋大学 国際本部 
グローバル・エンゲージメントセンター特任教授 
牧正敏 名誉教授

G30プログラムの一環で、 入学選抜にIBを取り入れています


名古屋大学では、 大学の国際化を目指し、 留学生を増やすことを目的に発足した「G30 (グローバルサーティ) 国際プログラム」を実施しています。 入学時期は10月 (秋入学) となり、 英語で講義を受け、英語で学位が与えられるプログラムです。 海外からの留学生はもちろんのこと、 「国際学生」と呼ばれる、 海外の学校などで学び、 英語が堪能な日本人学生も多く在籍しています。 G30プログラムでは各国の現地カリキュラムを修了した生徒も受け入れています。 IBをはじめ全体で毎年50名弱が入学しており、 18%がIBによる入試 (そのうち日本人は40%) です。 実際にはアジア出身の学生が多く在籍しています。海外経験が長く、 一般入試を受けるには少々ハードルが高いと感じる日本人の生徒さんでも、 本学を受験できるチャンスが広がっているといえます。

他の学生にも良い影響が


日本国籍で英語が堪能な学生は、国際的な環境の中で異なる人種や民族の同級生と過ごしてきた経験があること 
から、好奇心が旺盛だと感じます。 特にIBで学んできた人は受験勉強一色ではなく、 さまざまなアクティビティや課 
外授業などを経験してきていますし、大学でも主体的に取り組んでいるようです。 本学では、 一般入試などで入学した日本人学生がG30の授業に参加するプログラムがありますが、英語で困った時にIBの学生が親切に教えるといった協働学習の様子も垣間見ることができ、 他の学生にも良い刺激を与えてくれています。 英語力だけでなく、課題解決などを意識して新しいことに挑戦しようという意欲も皆に良い影響を与えていると思います。

 

Spring 編集部がIBを修了して日本の大学に進学した学生4名に聞きました。

「大学で扱う分野を先行学習し、 
時間管理能力も身につきました」

東北大学 理学部2年 
フックストリスタン龍馬さん 
進才中学国際部 (中国上海)

●IBを選んだ理由は? 
志望大学のいくつかが旧B入試を導入していたり、 IBスコアを提出することが出願要件だったため、IBを選ばない理由はありませんでした。 また、 EEやTOK" といった他の教育プログラムにはない活動にも興味がありました。

●IBDPで選択した科目とレベルとEEのテーマ 
Japanese A (日本語A) HL 
グループ ① 言語と文学 
グループ② 言語習得 
English B (英語B) SL 
Economics (経営) SL 
グループ ③ 個人と社会 
グループ ④ 理科 
Chemistry (化学) SL, Physics (物理) HL 
Mathematics (数学) HL* 
グループ ⑤ 数学 
EEのテーマ 
Physics (物理) 「クリップモーターをモデルとして用いて 直流モーターの最高出力とコイルの巻き数の関係性に 
ついて」

●大学受験でIBDP取得が役立った点 
大学によってはIBのスコアがあれば筆記や面接などが免除されたり、 提出書類も少なくて済むなど、他の帰国生入試より負担が少ないことが多く、受験の選択肢が広がったことです。 IBスコアを活用することで、筆記試験や面接にも集中して取り組むことができました。

●IBでの学習が大学生活でどう生かされているか 
IBを通じて長い文章を論理的に構築することに慣れていました。 そのため、 多くの学生が苦労するプレゼンテーションやレポート作成などを、入学当初から問題なく行うことができました。 大学では、さまざまな課題や勉強を平行して行う必要があります。 そのような場合にも、 IBで身につけた 「時間管理能力」が発揮されていると感じます。 専攻している物理学でも、日本の高校では習わない内容をIBでは先行して学んだため、予備知識があり大きく役に立っています。

 

「リサーチカ」 やさまざまな観点で 
思考する力が培われました

立命館大学グローバル教養学部3年 
神谷夏生さん 
アメリカ出身 
Nagoya International School (NIS)

●IBを選んだ理由は? 
在籍しているグローバル教養学部は、 立命館大学とオーストラリア国立大学の両方の学位取得を目指すプログラムであり、高い英語力や主体性が求められることから、 IBで培ってきた力を入試 で発揮でたと感じます。 
また、幅広い分野の科目を履修できるため、 自分の得意分野を見つけることができました。 得意科目はHL、 少し苦手な科目はSLで選択できることも魅力でした

●IBDPで選択した科目とレベルとEEのテーマ 
グループ① 言語と文学 Japanese A (日本語A) SL 
グループ① 言語と文学: English 
A (英語A) HL 
グループ ③ 個人と社会 Economics (経済) HL 
グループ ④ 理科 
グループ⑤ 数学 
EEのテーマ 
Chemistry (化学) HL、 Biology (生物) SL 
Mathematics (数学) HL 
Chemistry (化学) 「条件を変えながら紅 
茶からカフェインを摘出」

●大学受験でIBDP取得が役立った点 
大学によっては、 合格に必要なスコア範囲が公表されていたことと、 「PredictedScore」と呼ばれる予測スコアでその大学に合格できるか事前にある程度判断できたので、効率的に受験することができました。予測スコアで大学に合格しても、 海外の大学などでは、 最終試験の結果次第で合格取り消しとなることもるようなので注意が必要です。 大学によっては科目ごとの成績も見られる場合があったので、成績を維持するは大変でした。

●IBでの学習が大学生活でどう生かされているか 
現在、日本とオーストラリアの大学の授業を受けていますが、 必要な資料の探し方など「リサーチカ」 やさまざまな観点から思考する力、ディスカッションでも他者の意見の背景や根拠を考えるなど、 IBで培われたスキルが役に立っています。

 

好きな分野でリサーチしたことが、 
出願・面接で役立ちました

名古屋大学 G30プログラム農学部1年 
山岡 美品 さん

●IBを選んだ理由は? 
当時タイのバンコクに住みIB校に通っていたため、自然の流れで選択しました。 IBDP開始時は志望大学について具体的には考えていませんでしたが、自分が興味のある科目を選択しました。

●IBDPで選択した科目とレベルとEEのテーマ 
グループ ① 言語と文学: English A (英語A) SL 
グループ② 言語習得 
グループ ③ 個人と社会 
グループ ④ 理科 
グループ ⑤ 数学 
EEのテーマ 
言語・数学・自然科学 社会・芸術の満遍ない学びと、 培われた 「企画力」「プレゼンテーションカ」 
IBDPで選択した科目とレベルとEEのテーマ 
グループ① 言語と文学 
グループ② 言語習得 
グループ ③ 個人と社会 
グループ ④ 理科 
グループ ③ 数学 
French Abinitio (初級言語) SL 
: Information Technology in Global Society 
(ITGS) (情報テクノロジーとグローバル社会) SL 
Chemistry (化学) HL、 Biology (生物) HL 
Mathematics Analysis and approaches (解析と 
アプローチ) HL 
Biology (生物) 「サリチル酸がミントの生育に与える影響についての研究」


●大学受験でIBDP取得が役立った点 
IAやEEなど、 自分の好きなテーマをリサーチする機会が多かったため、 志願理由書や面接で伝える内容には困りませんでした。 自分が興味のあることをテーマにすると良いと思います。特に理系の場合、 IBDPの科目は 「理科の科目をHLで2つ」「数学はHLのみ」などの要件も多いため、注意が必要です。 自分が目指している大学の募集要項は必ず読んでください。

●IBでの学習が大学生活でどう生かされているか 
大学1年生の1学期で学んだ内容は、 ほぼIBの復習でした。時間にも余裕ができたため、新しいことにチャレンジすることができました。

 

言語・数学・自然科学・社会・芸術の満偏ない学びと、

培われた「企画力」「プレゼンテーション力」

国際基督教大学(ICU) 教養学部1年 
吉田さくらん 
Stamford American International School (シンガポール)

●IBを選んだ理由は? 
大学入試に利用できることと、 IBDPのプログラム内容そのものに魅力を感じたことです。 IBでは、 言語・数学・自然科学・社会・芸術などの分野から、満遍なく教科を選択する必要がありました。そのため、幅広い知識や考え方を身につけることができました。

● IBDPで選択した科目とレベルとEEのテーマ 
グループ① 言語と文学 : Japanese Self-Taught (日本語) SL 
グループ② 言語習得 
English B (英語B) HL 
グループ ③ 個人と社会 
社会: Business and Management (ビジネスと経営) HL、 
Economics (経済) HL 
Chemistry (化学) SL 
Mathematics Applications and Interpretation (解析と解 
釈) SL 
Business and Management (ビジネスと経営) 「スシローグ 
ローバルホールディングス (現FOOD & LIFE COMPANIES) の再上場はどのように企業の事業拡大に影響したのか」 
グループ④ 理科 
グループ ⑤ 数学 
EEのテーマ

●大学受験でIBDP取得が役立った点 
EEやTOK、 CASなど、 他のプログラムではできない経験を得ることができたと思います。 大学受験の面接では、面接員の方が私の書いたEEのテーマにとても興味を持ってくださり、話が盛り上がりました。また、 IBでの学びにより興味の幅が広がりました。大学受験時は経営学部や商学部も視野に入れていましたが、 Chemistryでの学びを通じて環境問題にも関心を持ちました。

●IBでの学習が大学生活どう生かされているか 
CASの一環で、ボランティア活動を行うクラブの幹部メンバーになりました。 そこで得た「企画力」や「プレゼンテーションカ」は今でも役立っています。またIBでは6教科の他に、IAやEE、CASなども両立させていたので、大学でも上手くタスク管理ができています。

編集後記 
今回の取材を通じて、 「国際化」の一環としてIBで学んだ学生を受け入れている日本の大学が年々増えていることがわかりました。 「学習への積極的な姿勢」や「他の学生に好影響を与える」点を受け入れ大学が高く評価していることは、まさにIBの学習者像が反映されていると感じます。 IBを通じて得られる国際感覚やさまざまな能力が、 その後の学びや社会での活躍において大きな礎となることは、近い将来、日本からグローバルリーダーの輩出につながると確信しました。これまでIBというと「海外大学への進学」のイメージが強い印象でしたが、 日本の大学の受け入れが増加するということは、 IBを選択している学生にとってより多くの可能性や選択肢が広がっていると言えるでしょう。

※2023年3月25日現在の情報です。最新情報は各機関に直接ご確認ください。

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