グローバル教育
なぜ「国際バカロレア」なのか 第10回 社会人 編

── 第10回 社会人 編 ──
Springではこれまで「国際バカロレア(以下IB)」について、プログラムの詳細や国内外への大学進学についてお伝えしてきました。
最終回となる今回は「社会人編」をお届けします。「IB教育とグローバル人材の育成」について日本マクドナルド株式会社代表取締役社長日色氏に取材するとともに、「IBでの学びがどう役立っているか」社会で活躍している3名にお話を伺いました。

これまでの連載はこちら
https://www.spring-js.com/global/?category=80

取材協力先:
日本マクドナルド株式会社・公益社団法人ユナイテッド・ワールド・カレッジ(UWC)日本協会オンライン家庭教師 EDUBAL立命館宇治中学校・高等学校
参照先:国際バカロレア機構文部科学省IB教育推進コンソーシアム日本経済団体連合会(経団連)

IBとは?
1968年にスイスで設立された国際的教育プログラム。
平和な世界の実現を目指し、探究心や知識、思いやりに富んだ人間性の育成を目的とする。

対象年齢
【生徒の年齢に応じた教育プログラム】
PYPは精神と身体の発達を重視した全人的教育、MYPは教科内容と実社会とのつながりを学び、
DPは国際的に認められる大学入学資格の取得が可能となるプログラム。

特徴


世界と日本のIB認定校数※2023年9月

参照:国際バカロレア機構・文部科学省IB教育推進コンソーシアム
※IB認定校等を学校・プログラム単位で数えたものであり、IB機構が公表している校数とは異なる。

10の学習者像

 

グローバル人材に求められる資質 参照:日本経済団体連合会 「産業界からみた国際バカロレア課程への期待」より抜粋

グローバル人材に求められる資質とIBの親和性は? 
多国籍・多文化のスタッフが在籍し、世界的グローバル企業である
日本マクドナルド社代表取締役社長兼CEO(最高経営責任者)の日色 保氏にお話を伺いました。

日本マクドナルドホールディングス株式会社
代表取締役社長兼CEO(最高経営責任者)
日色 保
オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス株式会社 代表取締役社長、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社 代表取締役社長を経て、2018年 日本マクドナルド株式会社 上席執行役員、19年 代表取締役社長兼CEO就任、2021年より現職

これからの時代、「多様な価値観・文化的背景への理解・尊重」や「考える力」が大切
文部科学省IB教育推進コンソーシアム主催のシンポジウムでIBについて学ぶ機会がありました。優れた教育カリキュラムは他にもありますが、IBも素晴らしい教育プログラムだと思いました。企業が必要とする人材と大いに親和性があると感じています。
まずは多様な価値観・文化的背景への理解と尊重を大切にしている点です。
当社では、高校生や大学生、主婦やフリーター、高齢者や外国人といった属性やバックグラウンドのまったく異なるスタッフが一緒に働いています。お店を運営していくにはお互いを認め合い、その多様な力を生かすことが求められます。
日本はこの50年ほどの間、多くが同質性の高い組織で成り立ってきました。「新卒採用で同じ時期に入社し定年まで働く」という文化は非常に頑丈な反面、脆さもあります。国際情勢や気候変動などで予想外の事態が起こった時、同じような知識を持ち、同じような経験をしてきた人の集まりでは対応しきれない局面が出てきます。さまざまな文化や価値観が混在する組織の方が、変化の激しい世の中に対応できると考えます。
組織の力を最大化するには相手の主張に寄り添うだけでなく自分の考えや主張を的確に発することも大切です。そのためにはディベート力やコミュニケーション力、語学力も必要で、IBはこうした力を育んでいると感じています。
私はこれからの時代「正しい答えを出す」より「正しい問いを立てる」ことが求められると考えています。すでに答えが出ている定型的な問題は、今やインターネットから誰でも簡単に答えにたどり着くことができます。特に昨今はChat GPTなどの誕生で、非定型的な課題ですら正解が導かれるようになりました。企業も個人も「競争力」を身につけようとした時、定型的な問題を解く力だけでは他社(者)との差別化は難しいでしょう。
世の中に大量に溢れている情報を「これが正解」として鵜呑みにしていると、受け売りの情報を自分の考えだと思い込み、ただ「情報に流されるだけの人」になってしまいます。「本当にこれは正しいのだろうか」「本当はどうなのだろう」という「批判的思考力」が求められます。これは企業経営にも必要な力です。
IBの学習者像にある「考える人」は、まさにこれに通じると思います。これからの時代は「いかに考える力を持続していくか」が求められるでしょう。
※日色社長へのさらに詳しいインタビューは新年号「企業からの声」に掲載する予定です
 

立命館宇治高等学校(京都府) 卒業
ニューヨーク大学アブダビ校 (アラブ首長国連邦) 大学院博士課程 在籍
飯吉 建さん
博士課程で電気工学を研究。分子レベルでの新しい技術の開発に携わる。学会でのプレゼンや論文発表とともに文献収集や実験装置のデザイン、製造やプログラミングなども行う。

IBで学んだ「学び方」が現在の研究活動の礎に
IBでの学びが、研究活動でどのように役立っていますか
 高校時代、自分の研究テーマが他校の教員から酷評されることが多々ありました。当時は分かっていませんでしたが、何年も大学レベルの研究をしているとそのテーマがいかに新鮮味がなく研究し尽くされたものであったか理解できます。高校時代にすでにそうした経験ができたおかげで、その後はテーマ選びで失敗することはなくなりました。
 また「知の理論(TOK)※」での学びを通じて、情報を常に疑問視する習慣が身につきました。特にIB科目の「世界史」では、後の時代の考察が加わった資料ではなく「一次資料」と呼ばれるその時代そのものの資料を解釈する大切さを実感しました。資料を翻訳なしで読み込むために、新たに韓国語、中国語、アラビア語などを勉強する必要がありましたが、原文で理解することがモチベーションになりました。この時の語学力が現在も仕事やプライベートで生かされています。

※知の理論 Theory Of Knowledge(TOK):
IB DP必修の「3つのコア科目」の一つ。「知識の本質」について考え、「知識に関する主張」を分析し、知識の構築に関する問いを探究。

IBで学ぶ人へメッセージ
IBでの厳しい学びを乗り越えるには、自分を助けてくれる人が多くいる環境を作ることが大事です。常に自分の家族や友人、そしてクラスメイトと会話していると、自分のニーズをより理解してくれるようになると思います。それぞれに違った知見や人脈があるので、助けてもらうことは多々あります。さらに自分から周りの人を助けていけば、チャンスは増えていくと思います。

United World College of South East Asia(シンガポール) 東京大学 卒業
在学中「オンライン家庭教師EDUBAL」で家庭教師・インターンとして勤務
ネスレ日本株式会社 勤務
常盤 馨さん
コーヒー製品のマーケティング担当として、製品戦略の立案や製品開発、宣伝広告やキャンペーンなど消費者コミュニケーションの立案・実行業務に従事。

「プロジェクト管理能力」や「自己分析能力」は仕事に必要な力
IBでの学びが、仕事でどのように役立っていますか
 特に重要なのは「プロジェクトマネジメントスキル」です。仕事では複数のプロジェクトを限られた時間で同時並行に進めていくため、常に優先順位をつけながら何にどのくらいの時間を当てるか考える必要があります。IBでも毎日エッセイや課題、テスト勉強やCAS※活動などに追われていましたが、現在、複数のプロジェクトに携わることと共通しているように感じます。高校生の時から効率的に時間を管理する能力が鍛えられたので、その点は今も役に立っています。
また、自分の活動を振り返り内省する「マインドセット」も社会人として必要な能力です。IBのCASやレポート作成の際に繰り返し行いましたが常日頃から「何を達成し、今の自分には何が足りないのか」を分析することが求められます。仕事でアウトプットの質を上げたり今後のキャリアアップを考えたりする際にも、こうした自己分析能力がIBで鍛えられて良かったと思います。

※CAS(Creativity, Activity, Service)創造性・活動・奉仕:
   IB DP必修の「3つのコア科目」の一つ。
   想像的思考を伴う芸術などの活動、身体的活動、無報酬での自発的な交流活動といった「体験的な学習」に取り組む。

IBで学ぶ人へメッセージ
IB DPはかなり大変だとは思いますが、社会に出るとIB以上に多くのプロジェクトマネジメントを課されることがあるので、その時に向けて土台を固めている時だと思い頑張ってください。何よりも大事なのは、IBを楽しむことです。厳しい課題でも楽しみながら取り組む姿勢は、社会人で仕事をする上でも求められます。常に前向きに、自分の成長を楽しみながらIBに立ち向かってください。

United World College of South East Asia(シンガポール) 東京大学 卒業
在学中「オンライン家庭教師EDUBAL」で家庭教師・インターンとして勤務
ネスレ日本株式会社 勤務
常盤 馨さん
コーヒー製品のマーケティング担当として、製品戦略の立案や製品開発、宣伝広告やキャンペーンなど消費者コミュニケーションの立案・実行業務に従事。

「プロジェクト管理能力」や「自己分析能力」は仕事に必要な力
IBでの学びが、仕事でどのように役立っていますか
 特に重要なのは「プロジェクトマネジメントスキル」です。仕事では複数のプロジェクトを限られた時間で同時並行に進めていくため、常に優先順位をつけながら何にどのくらいの時間を当てるか考える必要があります。IBでも毎日エッセイや課題、テスト勉強やCAS※活動などに追われていましたが、現在、複数のプロジェクトに携わることと共通しているように感じます。高校生の時から効率的に時間を管理する能力が鍛えられたので、その点は今も役に立っています。
また、自分の活動を振り返り内省する「マインドセット」も社会人として必要な能力です。IBのCASやレポート作成の際に繰り返し行いましたが常日頃から「何を達成し、今の自分には何が足りないのか」を分析することが求められます。仕事でアウトプットの質を上げたり今後のキャリアアップを考えたりする際にも、こうした自己分析能力がIBで鍛えられて良かったと思います。

※CAS(Creativity, Activity, Service)創造性・活動・奉仕:
   IB DP必修の「3つのコア科目」の一つ。
   想像的思考を伴う芸術などの活動、身体的活動、無報酬での自発的な交流活動といった「体験的な学習」に取り組む。

IBで学ぶ人へメッセージ
IB DPはかなり大変だとは思いますが、社会に出るとIB以上に多くのプロジェクトマネジメントを課されることがあるので、その時に向けて土台を固めている時だと思い頑張ってください。何よりも大事なのは、IBを楽しむことです。厳しい課題でも楽しみながら取り組む姿勢は、社会人で仕事をする上でも求められます。常に前向きに、自分の成長を楽しみながらIBに立ち向かってください。

オンライン家庭教師EDUBAL
海外子女・帰国生のためのオンライン家庭教師として2014年よりサービス開始。IB DPの補習のほか、帰国受験やSAT対策などを行っている。

UWC日本協会より奨学生としてUnited World College of the Atlantic(イギリス)へ派遣
京都大学・シンガポール国立大学リークアンユー公共政策大学院 卒業
独立行政法人 国際協力機構(JICA)勤務
久保 彩子さん
日本の政府開発援助(ODA)を実施するJICAの職員として、開発途上国の発展にかかるプロジェクトの形成・実施監理に従事。インドネシアやフィリピンで公共交通を軸に、環境負荷が少なく人々が快適に移動・活動できるまちづくり・都市計画立案の案件を担当。

国際的な視野と理解を深めたIB留学
IBでの学びが、仕事でどのように役立っていますか
IB DPで履修した「経済」の科目では、新聞や雑誌から選んだニュースを授業で学んだ経済学の理論で分析し、レポートにまとめたりクラスで発表したりするという課題を何度も行いました。体系立った理論を活用して世の中で起きていることを理解し、課題を整理して他者に説得力を持って説明する基礎的な訓練となりました。
一方で、シラバス(授業計画)にあまり縛られず自由な形で行われた科目もあり、物ごとの捉え方や試験の準備でさえ生徒に委ねるような先生もいました。その自由で多様な学びの環境が私の視野を広げたと思います。
現在、経済や社会文化背景が違う多様な外国政府や関係者を相手にプロジェクトの協議を進める上で、こうした経験は大いに役立っています。IBの経験は、私に度胸と挑戦する気持ち、そしてさらにこの先には広い世界があるこ

IBで学ぶ人へメッセージ
世界中で実施されているIBは、国際的な視野と理解を重視しています。私はUWC留学で90ヵ国以上から集まった同世代たちと寮生活を送りながらIBを経験したことで、より国際理解を深めることができました。IBを通じて皆さんが仲間と切磋琢磨しながら社会や世界へ関心を広げたり、関心のある教科・分野をより掘り下げて学んだりすることを願っています。
公益社団法人 ユナイテッド・ワールド・カレッジ(UWC)日本協会
教育を通じて国際感覚豊かな人材を養成するUWCの理念に賛同し設立。日本経済団体連合会(経団連)の支援を受けながら、世界のUWC(高校)へ派遣する奨学生(高校生)の選考、奨学金の支給、UWCプロジェクトの日本への紹介などの事業を行う。

 

2023年3月、国が掲げた
    「日本のIB認定校等数を200校以上に増加」の
    目標を達成。
● 全国の公立学校でもIB認定校が増加。

※2023年11月25日現在の情報です。最新情報は各機関に直接ご確認ください。

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