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海外生・帰国生が挑む!医学部受験 -後編

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いつどんな対策をする?海外生・帰国生が挑む!医学部受験 -後編-
~先輩たちに聞く合格の秘訣~
大学受験において理系の最難関とされる医学部受験。知られざる「帰国枠入試」を特集した前号に続き、今号では、帰国枠入試、公募推薦、学士編入と、それぞれの道を経て医学部入学を果たした帰国生たちを取材しました。彼らは将来なりたい医師像をどのように描き、進路を選択したのでしょうか。医学部受験の近年の傾向や気になる6年間の学費もご紹介します。

河合塾 海外帰国生コース責任者
藤田 真由美さん

1992年学校法人河合塾に入塾。教材作成部門、大阪校、大阪校医進館(医学部特化校舎。現大阪北キャンパス 東大・京大・医進館)などを経て、2020年より本郷校海外帰国生コース、2021年より現職。
これまでの指導クラスは、医学部医学科、東京大学、京都大学、慶應義塾大学など幅広い大学、学部に及び、多くの受験生(帰国生・一般生)を合格へと導く。

 

医学部受験 近年の傾向は?

日本には医学部を設けている大学が81校ありますが、一口に医学部受験といっても入試日程や選考方法はさまざまです。近年は、国公立大学が後期日程を廃止する傾向にある一方で、推薦入学制度を採用する大学や、地域の医師不足を解消することを目的とした「地域枠」の募集定員が増えています。医師をめざす受験生は、推薦制度を選択肢に入れることよって、受験の機会が広がり医学部入学の可能性が高まるでしょう。「帰国枠入試」を実施する大学は、わずか15校前後です。募集定員も若干名で、一般選抜よりも「狭き門」と言えます。早めに情報を集めチャンスをつかみましょう。
※富山大学(2022年度~)、岐阜大学(2023年度~)が後期日程を廃止

一般選抜
● 募集定員が最も多い。学力上位層の受験生が合格ボーダーの1点を争う大激戦
● 国公立大学は、1次試験で「大学入学共通テスト」、2次試験で各大学の「個別試験」が課される
● 私立大学は、1次試験で「英語、数学、理科2科目」、2次試験で面接・小論文を課すパターンが一般的
● 帰国生が挑む場合は、「海外の高校で好成績を収め、かつ日本のカリキュラムも網羅したうえで、日本の上位層とボーダーラインを争う」ことになる

帰国枠入試
● 保護者の都合や海外赴任で、日本の教育を受けられなかった高校生が対象
● 例年9月に始まり、翌年2月まで各大学がそれぞれの日程で選考する長期戦
● SATやAレベル、IBDPなどの統一試験のスコアのほか、TOEFL、IELTS、現地校での成績(GPA)、推薦状などが求められる
● 「数学、理科2~3科目、(英語)」、大学ごとの個別日程で面接、口頭試問、小論文などが課される

学校推薦型選抜・総合型選抜
● 出願開始時期は総合型が9月、学校推薦型は11月。年内に合否が出るケースも。一般選抜と併願できる
● 評定平均(国公立4.3以上)や出身地域の出願条件が厳しいため、一般選抜より倍率は低い
● 公募制、指定校制、地域枠など受験形態に応じた対策が必要
● 合格したら入学することが前提
● 書類審査、面接試験・小論文などの人物評価を重視
● 「大学入試共通テスト」を利用する国公立大学が多い。個別試験を課す大学もある

藤田さんからのアドバイス

各国の統一試験は英語漬けの海外滞在中に必ず受験を! 帰国後、日本式の試験対策に集中できます。取得したい参考スコアは下記の通り、ハイレベル!

TOEFL110
SAT1500
IBDP40
IELTS7.0

 

医学部入試スケジュール(出願スケジュールは必ず各大学ウェブサイトなどで確認を)

入試形態の多様化が進む中でも「合格のために必要なポイント」は変わりません。海外の高校で履修する科目は、満点をとるつもりで勉強しましょう。土台となる基礎学力があれば、帰国後、日本式の学力を積み上げることができます。大学側は、帰国生に対して語学力だけでなく、海外経験で培った豊かな「人間力」に期待しています。志望理由書や面接で、将来の医師像とつなげてアピールしましょう。志望校は、高校1年生のうちに、ある程度絞り込むこと。志望校の出題傾向を知ることで、戦略的な対策をたてられます。「どんな医師になってどのようなことを実現したいのか」といった志望動機も、モチベーションアップの一助になります。かつて医学部受験は「2浪、3浪も当たり前」とも言われていましたが、今は現役生主体です。「絶対に医師になる」という強い意志をもつことが肝要です。


 

Interview 医学部合格を果たした帰国生たち
Case 1 帰国生入試

課外活動などの海外経験を自信をもってアピール!
国際医療福祉大学医学部 永田 雄輝さん
滞在国 : イギリス
滞在期間 : 3年(高1~3)

小学生のころから「医師になりたい」と漠然と考えていました。関西の中高一貫校に通っていた高校1年生の5月に渡英。全寮制学校でIGCSE、A levelを履修しました。とくに力を注いだ科目は、英語と化学です。最初は授業の内容が聞き取れないこともありましたが、2年経ったある日突然、日常会話も授業もすべての英語を聞き取れる、かつペラペラと話せるように。この変化には自分でも驚きました。

志望大学は、海外校を卒業する前に半年ほどかけて、出願資格のある大学をインターネットで調べました。イギリスと日本では履修範囲が異なります。その溝を埋めるために、高校3年の6月に帰国した後は、数学、化学、物理を一からやり直しました。

国際医療福祉大学の帰国生入試は、数学と理科2科目、英語、英作文、面接です。筆記試験は、他大学より易しく感じた一方で、英語は難しく、海外校の経験を生かせたと思います。面接は30分×2回。イギリスで取り組んだボランティア活動について、面接官にアピールしました。日本と違って海外の高校では、課外活動に積極的に取り組みますから、他の受験生と差がつきやすいと思います。深く聞かれることを想定して、将来実現したいことや目標は、自分の言葉に落とし込み、志望理由書にまとめました。

■ 高校時代のおもな成績
A level のPhysics A*, Chemistry A, Maths A*, Further Maths A*を取得。 帰国前に受けたIELTS スコア7.5

■ 受験対策で意識したこと
その日にわからないことを残さないこと。予備校の授業で理解できなかったことは、友だちや先生に必ず聞いてクリアに。

■ 将来の夢
患者さんとご家族、一人ひとりに寄り添えるような脳神経外科医になりたいです。


 

Case 2 公募推薦入試

英語の学習時間を数学・理科に充て効率UP!
筑波大学医学群医学類 Y.Kさん
滞在国 : シンガポール
滞在期間 : 4年(小4~中1)

「どんな時代になっても命を軽んじる時代は来ない」と考え、総合的なやりがいから医師をめざしました。筑波大学医学群医学類を第一志望に据えたのは、中学3年生のときです。父の仕事で4年間滞在していたシンガポールから帰国して2年経ったころでした。 

公募推薦の出願条件は、評点平均「4.3以上」と厳しいものですが、シンガポールのインター校で全教科を英語で学ぶうちに自然と英語力が身に付いていたので、日本では、英語を一つの科目として勉強することは余りせず、その分、他の教科に学習時間を割り当てることができました。この点は、合格への近道となり、海外生のアドバンテージと言えると思います。一方で、最後まで苦手だったのが現代文です。参考書を2~3周し、感覚で解くことを止めたら点が伸びていきました。  推薦入試の科目は、小論文と適性試験(心理テストと面接)です。小論文といっても、いわゆる「作文」ではなく、英語・数学・理科2科目の総合学力を問われます。合否は12月中旬にでました。

振り返ると、海外で培ったメンタルの強さも合格の一因と思います。初めてインター校に登校した日は、周囲が何を言っているかわからず強い孤独感と不安に襲われましたが、時間をかけて友人をつくり、授業も理解することができました。この経験は、「どんなことでも努力すれば成し遂げられる」という自分を信じる力となり、勉強を続ける原動力にもなりました。

■ 受験期の一日の勉強時間
平日6時間、休日9時間。
平日は朝早く登校。始業前に自習室で1時間、放課後は塾に直行して塾の自習室で夜9時まで、さらに夕食・入浴後にも勉強して午前0時に就寝。
通学時間も、化学式や古文の単語などの暗記ものを中心に取り組んだ。

■ 将来の夢
患者さんの「QOL」を上げるために、患者さんの声を聞き、ともに考える医師になりたいです。


 

Case 3 学士編入

帰国生・海外生が多く学ぶ「リベラルアーツ・カレッジ」から「国立大医学部」へ!
兼城 一媛乃さん国際基督教大学(ICU)卒業後 岡山大学医学科5年
兼城 一媛乃さん
昭和薬科大学附属高校(沖縄県)卒業 ▶︎ ICU卒業 ▶︎ 岡山大学医学科2年に学士編入

きっかけ
 高校2年次に米国の州立大学へ短期留学する機会があり、文理を分けずに学ぶリベラルアーツを知りました。医学にも興味があった私は、まずはリベラルアーツで学び、その後、医学の道に進みたいと考えました。そのためリベラルアーツ・カレッジであるICUに進学し、主専攻に「ジェンダー・セクシュアリティ研究」を、副専攻に「生物学」の2つの専攻を専門にしました。卒業研究では「乳がん」をテーマに生物学的・医学的視点、そして「ジェンダー」の視点から「女性のシンボルを失うことがどのような心理的・社会的苦痛を与えるのか」を分析しました。大学在学中、患者さんの会に参加する中で「乳房を取る位だったら死ぬ方がマシだと考えた」と話された患者さんとの出会いは衝撃的で、このような患者さんにジェンダーの視点からも寄り添える専門医を目指し医学部編入を決めました。

学士編入試験
 1次試験では小論文、2次試験では生命科学や最新の医学のトピックに関する出題、医学分野の論文に関する英語の読解問題、個人面接の中では「生命倫理」に関するディスカッション力も求められました。ICUでの日英バイリンガルの学びやディスカッションの経験が生かされたと思います。

海外生へのアドバイス
 海外で学んだ経験は、医学部でも存分に生かせると思います。語学を生かして最先端の研究に触れられるのは大きな強みであると言えるでしょう。

■ 短期留学先・期間
●米国・モンタナ州立大学(沖縄県「グローバル人材育成プログラム」3週間)
●ICUからカナダ・ブリテッシュコロンビア大学(語学留学、6週間)
●岡山大学からイギリス・リーズ大学(基礎医学研究、3ヵ月)

■ 将来の夢
患乳腺外科または形成外科での乳房再建など専門医を目指している。

■ 兼城さんのポイント解説
学士編入の場合は、学部で理系科目の単位取得を。「なぜ医学進学か」を考え関心分野を深掘りしよう。医師や患者さんとの出会いは重要。

気になる! 医学部学費ランキング(2023年度河合塾調べ)

医学部をめざす際、重視すべき要素のひとつが学費です。私立大学の6年間の学費総額は2,000~5,000万円近くと高額です。一方で、国際医療福祉大学や慶應義塾大学、東京慈恵会医科大学など「特待生制度」を導入している大学も多くあります。経済的な理由で受験をあきらめず、最新情報を集めましょう。

私立大学

国公立大学

※産業医科大学は修学資金貸与制度で11,504,600円。自治医科大学は修学資金貸与制度で0円。
⚫︎ 「6年間総費用」は2023年度募集要項(一部HP)で公表されている学費に基づいて試算。募集要項に記載されていない大学も含むので、必ず入学時に確認してください。

編集後記
志を貫き難関を突破した3人に共通して感じたのは、海外の体験で培った「芯の強さ」です。優れたバランス感覚をもつ帰国生たちは、病で苦しむ患者さんや、外国語を話す患者さんに寄り添う医療人となることでしょう。環境適応力や問題意識も高いので、臨床医だけでなく、海外大学や医療機関との共同研究など、さまざまな分野で活躍できると感じます。この特集が、医学部を志望する帰国生・海外生にとって「どんな医師になりたいか」「そのためにどんな準備をすればいいか」を考えるきっかけとなれば幸いです。

2024年1月10日現在の情報です。最新情報は直接お問い合わせください。

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