国際的にも高く評価されているシンガポールの公教育。2015年に行われた国際的な学習到達度調査(PISA)※でも、シンガポールはすべての分野で世界第一位に輝きました。ますます注目が高まるシンガポールの現地教育事情。後編では、実際に現地校にお子さんが通っている日本人保護者の声や、シンガポール公教育の強みについてお伝えします。
※義務教育修了段階(15歳)対象にOECDが実施する、身につけた知識や技能を実生活の様々な場面で直面する課題にどの程度活用できるかを測る国際学習到達度調査
前編についてはこちらをご覧ください
https://spring-js.com/singapore/7261/
現地校(ローカル校)は、こんなところ!
現地校にお子さんが通う日本人保護者の「ホンネ」をSpringが聞きました。
シンガポール教育省によると、現地校に通う外国籍※の生徒は全体のおよそ5%で推移しており、近年は外国籍の子どもの入学・編入は狭き門となりつつあります。実際にお子さんが現地校に通っている日本人保護者から見た、現地校の「魅力」や「ユニークな点」について聞いてみました。
※取材にご協力いただいた保護者はPR保持者や国際結婚の方も含み、お子さんが「外国籍」とは限りません
Q. 現地校を選んだ理由を教えてください。
シンガポールならではの、英語をはじめ中国語などの語学を学べる環境や、学力・勉強のレベルの高さを理由に挙げる方が目立ちました。
- 英語を身につけて欲しかったから、本人が英語の環境を希望したから
- 英語と中国語の両方を勉強させたかったから
- さまざまな人種がいる環境で学んで欲しかったから
- 勉強のレベルが高いわりに、授業料が安いから
- 今後の拠点が日本とは限らず、国際的に育てたいと思ったから
Q. 現地校に望むことはありますか?
日本の学校と比較すると、音楽や図工、体育の時間が少ない現地校では、保護者の方も「情操教育が足りない」と感じている方が多いようです。
第1位 音楽や美術などの情操教育の充実
第2位 運動量、体を動かす機会を増やす
第3位 礼儀やマナー、道徳教育の充実
第4位 テストに向けた負担の軽減、学習分野の偏りをなくす
その他
- 休憩時間、遊ぶ時間を増やす
- 食育という観点
- 始業時間を遅く
Q. 現地校に魅力を感じる点はどのようなところですか?
多くの保護者が、「多様な環境」を肯定的に評価していました。シンガポールの多民族・多文化なお国柄は学校内でも反映されており、日本人生徒も自然に受け入れられているようです。
第1位 多様性があること、多民族・多国籍な環境、異文化を自然に尊重し合う文化
第2位 英語力や基礎学力がしっかりつくこと、留年や卒業試験があるので全員が勉強する環境にあること
第3位 授業料が比較的安いこと
第4位 シンガポールを直に知ることができること、シンガポール人の友だちができること
第5位 多言語な環境・英語と中国語を学べること
その他
- 規律を重んじるところ
- 良い意味で、あらゆることを競わせる環境があること
- 引っ込み思案な性格でインター校では自分をアピールできなかったが、現地校では先生に褒められ自信がついたこと
Q. 将来の進路についてはどう考えていますか?
大学は日本や海外を視野に入れている方も多いようです。小学生の保護者の中には中学からインター校進学を考慮するご家庭も見られました。
Aさん(小学3年、5年):
高校まではシンガポールの現地校が良いと思いますが、中学入学の段階でインター校の選択肢も考えており、大学は海外または日本を考えている。
Cさん(小学3年、5年):
高校までは現地校に通って欲しいと思っています。大学は本人の意思を尊重します。
Gさん(小学3年、5年):
大学からは海外へ進学して欲しいと思っています。
Iさん(小学1年、5年):
明確に決めていないが、いろいろな選択肢を与えたいので、英語と日本語どちらでも対応できるように勉強していく予定。
Lさん(小学3年):
子ども自身が行きたい現地校の中学校があるので、そこを目指して頑張っています。高校からは、インター校や海外でも、そのまま現地校でも良いと思っています。
Q. 現地校でユニークだと思ったことは?
- 先生が生徒にご褒美として、お菓子や物をあげること。
- 「子どもの忘れ物を学校に届けてはいけない」と政府からお達しが出たこと。
- 5年生全員参加のキャンプはキャンプ場のスタッフが全生徒を引率して、担任の教師は誰もついて行かなかったこと。役割分担がはっきりしていると思った。
- むち打ちの罰があることに驚いた。(実際にはよほどのことがない限りは行いません)
- クラスが能力別に分かれているが「ゆっくり学ぶクラス」ほど少人数で手厚いこと。落ちこぼれさせないようなシステムに感心した。
Q. 編入を考えている方に、一言お願いします。
- 日本人の方によく「勉強が大変なのでは?」とよく聞かれますが、日本とあまり変わらないと思います。(Cさん)
- 勉強が好きで負けず嫌いな性格のお子さんには向いていると思います。もし編入を考えているならできるだけ早い時期にするのが良いと思います。学年を1年下げることもおすすめです。(Dさん)
- 情緒や感性、個性を育てる側面がおろそかになりがちなので、その点をご家庭で充実させてあげることが子どものバランスを保つうえで重要だと思います。(Hさん)
- 小学生ですが、学年を一つ下げて編入しました。今のところローカルの塾にも通わずについていけているので、良かったと思います。(Iさん)
Spring独自取材 1
シンガポールの公教育の理数がスゴイ! ~PISA 2015より~
国際的学習到達度調査PISAで測られる「数学的リテラシー」や「科学的リテラシー」の「リテラシー」とは、「単に知識があるだけではなく、それを応用して問題解決できる能力」を指しています。2015年に行われたPISAの結果では、シンガポールは3つの分野すべてで世界1位に輝きました。その詳細について、調査を実施したOECDの見解をご紹介します。
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シンガポールの生徒たちは理科と数学の分野で特に秀でています。数学においては、OECD諸国を平均するとトップレベルの生徒の割合は10人に1人でしたが、シンガポールでは4人に1人、また理科においてはOECD諸国平均では、トップレベルの生徒は12人に1人だけでしたが、シンガポールでは5人に1人の割合でした。
「科学的リテラシー」でトップレベルの生徒は…
◇ 科学に関する問題点を評価考察できる
◇「科学的検証を組み立てる」能力が高い
◇ 問題に対して「科学的アプローチ」で取り組むことができる
◇ 科学的に実証すべき点やそのための実験方法、背景にある論理を理解しており、「科学者のような考え方」ができる
シンガポールの学校教育はカリキュラムの枠組みがしっかりしており、明快で充実した授業を行っています。授業では教師の説明と共に生徒同士の議論や質疑も行われ、学習の時間は生産的でアカデミックな能力だけでなく、社会的、感情的なスキルなどもバランスよく養われています。このような優れた特徴は、エストニア、カナダ、フィンランド、そしてオーストラリアなどの学校の授業でも見られます。
取材協力:経済開発協力機構(OECD)
Spring独自取材 2
現地校の編入は、本当にできる?
アジア各国で駐在員向けの教育コンサルティングサービスを提供
ITS Educational Services シンガポール事務所
Client Services Manager ヴァンダナ・ラオさんに聞きました
シンガポールの公立校は英語中心で学費も抑えられるので、欧米からの駐在員のご家庭やアジア各国の富裕層からも大変人気があります。編入試験(AEIS)では英語も算数(数学)も高いレベルが求められ、英語ネイティブのお子さんでも試験対策をしていない場合は不合格になるケースが見られます。
現地校を希望する場合に肝に銘じるべきことは「学校名にこだわらない」こと、「学年を下げることもいとわない」ことです。現地校はどの学校でも教育の質が一様に非常に高く、一度生徒になれば、その後シンガポール公教育システムの中でステップアップしていける可能性があるからです。
教育省主催の現地校編入試験AEIS※の対策塾
The YPLS School of Learning
校長 カリナ・ヨン先生に聞きました
AEIS試験については毎年受験者数も合格者数も公表されず、過去問も無いので対策は容易ではありません。しかしタイ、ベトナム、インドネシア、中国などアジア各国からシンガポールの公立校に入るために、ガーディアンのもとにホームステイしながら勉強している小中学生は多くいます。
「AEISは倍率が高くて合格しにくい」という認識が広まっていますが、ここ数年はシンガポールのカリキュラムに沿った実力をつけたお子さんはきちんと合格しています。試験は受験できる最少学年の小2でも英数2科目で計3時間に及ぶので、慣れていないお子さんは特に対策が必要です。現地校を目指したい場合には、英語力を含め早めに準備を始めることをおすすめします。
※AEIS: 教育省が外国籍生徒の編入学のために小学2年生~中3対象に実施する試験 Admissions Exercise for InternationalStudentsの略(ただし小6は編入不可のため実施していません)
Springでは、毎号コラム「公立校の広場」で現地校の様子をご紹介しています。
※2017年6月23日現在の情報です。最新情報は各機関に直接ご確認ください。