算数・数学 国際比較で連続トップの成績
「シンガポール算数」がすごい理由
世界の教育到達度ランキングで、毎回トップを争い注目を集めるシンガポールの算数教育。Springでは前編に続き、後編として日本の算数との比較や「シンガポール算数」を導入しているシンガポールのインターナショナルスクールの算数についてお届けします。
「シンガポール算数~前編~」はこちら ☞https://spring-js.com/singapore/18189/
「日本の算数教育」との違いは?
世界の学力ランキングを見ると、算数・数学は日本も常に高順位にランクインしています。今回、日本とシンガポールの両国で算数を教えてきた専門家にお話を伺いました。
若林 憲司 先生
Sakamoto Educational Systems Pte Ltd
基礎から段階的に理解を深める 発展的なカリキュラム
シンガポールと日本の算数の教科書を比較すると、各学年で学習するトピックはほぼ同じです。シンガポール算数では1年生から6年生へと進むにつれて、秩序正しく順を追って内容が深くなります。「これを理解するためには、その前にまずこの学年でこれを勉強することが必要である」というような配慮が、計算問題、文章題、図形など、すべての分野で実現されています。
以前、東南アジアのある国を訪問した際に算数の教科書を拝見したことがあります。「小1から小3まで、なんだか同じことを繰り返しているようだなあ」と感想を漏らすと、横にいらした塾の先生が、「そうなんですよ。だから塾ではシンガポールの教材を使うんです。」とおっしゃっていました。
卒業試験で問うのは基礎力を運用する力
シンガポールでは小学6年の卒業時に全員が卒業試験(PSLE)を受験します。結果次第で進学するセカンダリースクール(中学校)が限定されたり、あるいは留年することもありうるので、みんなよく勉強します。ただしPSLEでは、日本の中学受験で出題されるような難問がずらーっと並ぶということはありません。6年間のシラバスで求められていることを履修できたか否か、もっている知識を使って問題が解けるかどうかを確かめることが基本姿勢であるためです。こうして体系的に基礎をしっかり身につけると同時に、日常生活に即した多様な文章題でその運用力を磨くのが、シンガポール算数の特徴です。近隣諸国の方々の中には、わざわざシンガポールの小学校へお子さまを入学させる方がいらっしゃるのも頷けますね。
そこが知りたい!
インターナショナルスクールにおける 「シンガポール算数」の取り組み
「シンガポール算数」はシンガポールの公立校のために開発されたカリキュラムですが、各国の学校でも導入されているほど世界的にも知られています。また、シンガポールでは多くのインターナショナルスクールでも導入されています。
オーバーシーズ・ファミリースクール(OFS)に伺いました。
算数においてさまざま な国際カリキュラムを活 用しています。中でも小学部ではシンガポール教育省が開発した算数カリキュラムの基本的な概念 も用いています。2022年度には、教員のシンガポール教育省の算数カリキュラムの基本的な概念の理解を深めるために、シンガポール国立大学(NUS)から専門家を招聘して小学校全体で教員研修を行い、特に文章題などの問題解決をする際に一つの方法として導入しています。
OFSでの算数教育の進め方 新しい概念を学ぶ際に、「具体的なものごと」から「数学的な概念」へとプロセスをふむことで、理解を深めています。 |
イートンハウス・インターナショナルスクール (トムソン校)に伺いました。
Dhwani Pandya 先生
Q なぜ「シンガポール算数」を導入しているのですか。
本校では18年から導入しています。私たちは、子どもたちが実生活に取り込んで理解し、その学習プロセスを楽しむことを大切にしています。算数は問題解決のための思考力を鍛えるツールです。「シンガポール算数」はこの考えに最適で概念的な理解力を育てることができます。
Q 他の教授法に比べてどのように優れているのでしょうか。
ただ算数の問題の解法を覚えさせるのではなく、数学的な概念をしっかり理解することに重きを置いています。授業では具体物に触れ、手を 使いながらクラスメートと理論や解法について会話をする機会を作って います。実際の生活との関連付けもしやすく、楽しく基礎力をしっかり身 につけられます。こうしたプロセスの中で、一つの問題でも「さまざまな解き方」があることに気づき、算数に対して意欲を育てることができます。特に小学部低学年では科目の枠を超えた学びを大切にしており、例えば昼食時にテーブルセッティングを行ったり、工作の材料を公平に分配したり、調べたデータをグラフにして発表したりと、一日のさまざまな活動を通して実践的に算数を用いるように心がけています。
Year 2の授業風景 ~「足し算」を学ぶ~ ❶ 図や絵を用いた足し算の「ストーリー」を読む |
Year 3の授業風景 ~「重さ」を学ぶ~ ❶ 実際に量りを使って重さを量り、目盛りを読む |
シンガポール算数の特徴
「ナンバー・ボンド」とは?
「足して5になる」数字の組み合わせを考えてみよう。
Q 家庭で取り組むのにおすすめの教材などはありますか。
書店で手に入りますが、現地校で教科書として使われている「Shaping Maths」(Marshall Cavendish社)のシリーズはおすすめです。本校では教科書とアクティビティブックを両方使っています。
ミドルトン・インターナショナルスクール (ウェストコースト校)に伺いました。
Gladys Ang-Proudlock 先生
Q なぜ「シンガポール算数」を導入しているのですか。
基礎的な力をしっかり養い、算数の概念をきちんと理解することが重視されているため、本校開校時の17年から導入しています。シンガポール教育省によると、シンガポール算数では「数学的な概念」「算術」「課題に対する態度」「自己を客観的に捉える力(メタ認知)」「思考プロセス」に注目して総合的に学習していきます。学力の土台を築くだけでなく、問題解決能力を養うためによく練られたカリキュラムだと考えています。
Q 他の教授法に比べてどのように優れているのでしょうか。
世界にはさまざまな算数のカリキュラムがあり、それぞれに長所がありますが、「シンガポール算数」は小学1~6年生までの「スパイラル・カリキュラム」と呼ばれる教授法だと思います。これにより、綿密に考えられた順番で数学的概念の理解を徐々に深めていくことができます。さまざまな問題に対して、経験則から、または試行錯誤を重ねながら答えを探す力(心理学では「heuristics」と呼ぶ)をつけます。シンガポール算数の代名詞とも言える「バー・モデル」を描くのも、その手法の一つです。低学年ではこのバー・モデルを描くことや「ナンバー・ボンド」を解いたり式をきちんと書くことを重視します。こうして身につけた基礎概念を用いることで、高学年で代数に容易に取り組むことができるのです。
シンガポール算数の特徴
「バーモデル」とは?
共通する単位を「ユニット」と見立てて作成したテープ図を指します。詳細は「シンガポール算数~前編~」をご参照ください。
「シンガポール算数」では、意図的に設定された順番で学びを深め 基礎力がしっかり定着し応用の幅が広がり、さまざまな場面で算数を用いて考えることができるようになります。本校では、探究型の学び 「Units of Inquiry」にも算数の学びを融合させて、実際の生活の中で算数を使う機会を提供しています。例えばGrade5で「ベイキング」の テーマを学ぶときに材料の量を変えるため、「割合と比」の概念を学んだりするのもその一例です。
Q 家庭で取り組むのに おすすめの教材はありますか。
さまざまな教材がオンラインでも入手できるでしょう。本校ではMarshall Cavendish社の書籍からヒントを得ています。