男女共同参画に向けた制度改革が進んで久しいですが、世界国際フォーラムが発表した 「ジェンダーギャップ指数(2021年)」を見ると、日本は未だ大きく遅れをとっているようです。
一方で、近年は「多様な男性の生き方」にも注目が集まっています。女性と比較して短い 平均寿命、自殺率の高さ、家庭の大黒柱として長時間労働を余儀無くされていることなどが 挙げられます。欧米ではいち早くこの問題に着目し、1993年には米国の社会学者 ワレン・ ファレル氏がこのような「男性の生きづらさ」を「ガラスの地下室」と表現しています。このよう な社会の中で、教育書などでは、男子・女子固有の子育て論などにも注目が集まっています。
※誌面と同じ一覧がPDFでご覧いただけます。ジェンダーギャップ指数ランキング(2021)
1位 | アイスランド |
2位 | フィンランド |
3位 | ノルウェー |
4位 | ニュージーランド |
5位 | スウェーデン |
54位 | シンガポール |
120位 | 日本 |
日本におけるジェンダーギャップ指数
出典:ジェンダーギャップ指数2021(世界経済フォーラム)
共学化が進む日本と「男女別学」の魅力
10代という多感な時期をいかに過ごすかは、社会で活躍し幸福な人生を生きるためには重要なことでしょう。多くの時間を過ごす中学・高校は、少子化などを背景に2000年頃から全国的に共学化が進んでおり、2021年の調査では、全国の高等学校のうち男子校は2%、女子校は6%まで減少していることがわかります。
性別によるバイアスがかからない「男子校・女子校」は、別学ならではの経験ができたり、男女の特性に合わせた教育を受けられるなどの利点があるとうかがいます。Springでは、男女別学の先生と卒業生に「男子校・女子校の良さ」をお聞きました。各校の取り組みもご紹介します。
男子校・女子校の卒業生に聞きました 〈男子校の良さ〉 ● 個性あふれる友人が多く刺激的 ● 好きなことに没頭できる雰囲気がある ● 周りの目を気にせず自分の価値観で 物ごとを判断できる ● 堂々と「オタク」でいられる 〈女子校の良さ〉 ● 伸びのびとやりたいことに熱中できる環境 ● 学校生活の中で自然と、社会でも生きる言葉遣いや 作法を学べる ● リーダーシップをとる機会が多くあった ● 臆せず意見を言える |
<男子校><女子校>
それぞれの良さとは?
男子校の良さ
● 一人ひとりの「居場所」が あって、伸びのびと好きなこと に仲間と没頭できる。
(海城中学高等学校)
● 一般的に精神的な成長の早い女子生徒に臆することなく、男子だけでリーダーシップや組織運営力を養える。
(開成学園中学校・高等学校)
● 素の自分でいられるため、伸びのびと自分の「好き!」を とことん伸ばせる環境がある。
(佼成学園中学校・高等学校)
● 男子校では、「自分らしさ」を安心して表現でき本音で語り合える仲間たちが、支えや刺激になってくれる。
(逗子開成中学校・高等学校)
● 男子校には、周囲の目を気にすることなく、それぞれが自分の興味を持てる分野に没頭できる環境がある。それは、自身の将来を決定するかもしれない「何か」を発見する貴重な6年間となる。
(東京都市大学付属中学校・高等学校)
● ティーンエイジという多感な時期を、胸襟を開いて語り合い助け合いながら過ごす中で、一生の親友関係が育まれます。
(灘中学校・高等学校)
女子校の良さ
● 女子生徒しかいないので、自分らしさを伸びのびと表現できる。結果として社会に出ても自分の考えをしっかりと発信できる。
(大妻中野中学校・高等学校)
● 人間形成の大切な時期にに伸びのびと過ごすことができる。卒業生や先輩が良いモデルとなり、キャリア形成や将来の進路・ビジョンについて考える機会が多くある。
(学習院女子中等科・女子高等科)
● 部活や好きな活動に一生懸命に打ち込んで充実した毎日を過ごし、男子を意識した「女子力」よりまず「人間力」を磨くことができる。
(カリタス女子中学高等学校)
● 異性を気にせずさまざまなことにチャレンジすることができ、自分の可能性を広げるチャンスに出会える。
(昭和女子大学附属昭和中学校・高等学校)
● 男性と比較して、女性は自己肯定感が低いという調査があります。女子校には、自由を生き抜くための「自己肯定感」を育む心の教育と「挑戦」を後押しする環境があります。
(清泉女学院中学高等学校)
● 男子に頼むという発想がなく何ごとも自分たちで動くため、常に自分の能力を発見するチャンスがある。
(桐朋女子中学校・高等学校)
● 同じ興味・関心を持つ人同士が団結でき、リーダーシップやフォロワーシップが養われる。
(豊島岡女子学園中学校・高等学校)
● 性差を意識することなく「ありのまま」でいられるため、常に伸びのびしている。
(富士見丘中学高等学校)
海外における男女別学の動向
海外では、男女別学(男女別クラスも含む)の学習効果が見られた研究が複数発表されています。
● 公立高校を対象に調査をした結果、女子生徒の場合、女子校の方が成績が良く、より高度な数学と物理の授業を選択した (2002年/英国/英国国立教育研究財団) ● 男女の学力差を埋めつつ、それぞれの能力を伸ばすには男女別学の教育が最適である (2005年/英国/ケンブリッジ大学) |
「脳の男女差」がもたらす学習効果の違い
近年、海外では「脳の男女差」に関する研究が増えており、マイケル・グリアン氏※は「脳の男女差」がもたらす学習効果の違いを発表しています。彼の研究は男女別学を推し進める一因となったと言われているそうです。
※アメリカの作家・社会哲学者。複数の大学で教鞭をとるとともに、本を30冊以上執筆し、ニューヨークタイムズのベストセラーにも選ばれている。
「脳の男女差」による傾向 (一部抜粋)
● 男子は抽象性を好み、女子は具体性を好む ● 男子は記号・符号、女子は言語の使用を好む ● 男子のほうが飽きっぽく授業中により頻繁に気分転換が必要であるのに対して、女子は忍耐強く話を聞くことができる ● 高学年になるにつれ、男子は女子より抽象度の高い文章や図、グラフにひかれる ● グループ学習の際、男子は統率のとれた組織づくりを好むのに対して、女子は緩やかなつながりのあるグループを好む |
個人差によるところも大きいでしょうが、先天的に脳に違いがある男女が別学で学習することは効果的な学習につながると言えるようです。
<男子校><女子校>
学校紹介
(学校掲載は五十音順)
<男子校>
海城中学高等学校
https://www.kaijo.ed.jp/
東京都新宿区大久保 3-6-1
全校生徒に対する海外生の比率 | 約11.5% |
英語習熟度別クラスの有無 | 有 |
特別講座では男子校ならではの視点で議論を展開
2017年度から課外特別講座が開講し、生徒の「とがった」興味関心を深掘りする学びの場となっています。その一つ「SDGsゼミ」では持続可能な開発目標(SDGs)について議論・研究しています。国連大学のシンポジウムでは本校生徒が男子校ならではの視点で「ジェンダー平等の提言」を発表しました。多様性の時代を生きていくために、広い視野と深い見識を身につけるための活動を行っています。
興味・関心を 存分に深められる環境
※海城中学高等学校の詳細はこちら https://spring-js.com/japan/939/
<男子校>
開成学園中学校・高等学校
https://kaiseigakuen.jp/
東京都荒川区西日暮里 4-2-4
全校生徒に対する海外生の比率 | 中学 | 約2% | 高校 | 約4% |
英語習熟度別クラスの有無 | 無(課外特別授業あり) |
男子だけでリーダーシップや組織運営力を養う
本校は帰国生入試を行っておらず、海外で生活していたということも多様性の1つと受け止める土壌があります。学校行事や部活動は生徒主体で行っており、自分の性格や得意に応じた役割をそれぞれが担い、不得手な面をも認め合い、開成生活を過ごしています。
同期生、先輩、後輩の縦横の密接な関係から、ロールモデルが見つけやすく、自分の近未来を考えやすい環境です。
<男子校>
佼成学園中学校・高等学校
https://www.kosei.ac.jp/boys/
東京都杉並区和田 2-6-29
全校生徒に対する海外生の比率 | 中学 | 26名程度 | 高校 | 40名程度 |
英語習熟度別クラスの有無 | 有(別途取り出し授業も設置) |
<男子校>
逗子開成中学校・高等学校
http://www.zushi-kaisei.ac.jp/
神奈川県逗子市新宿 2-5-1
全校生徒に対する海外生の比率 | 中学 | 約7.1% | 高校 | 約7.4% |
英語習熟度別クラスの有無 | 有 |
海を通して自分と世界を学ぶ
「海洋人間学」は、目の前に広がる海や自然を生かした「海と人との関係」について学ぶ教科横断型総合教育活動です。ヨットの製作・帆走や遠泳実習では常に変化する自然を相手に臨機応変に対応する力や困難に立ち向かう勇気、仲間と成し遂げる協調性を育みます。海洋学特別講義では大学や専門機関の先生の講義から学問の面白さや奥深さ、スケールの大きさを知り、知的好奇心を刺激して将来の進路にも役立てています。
※逗子開成中学校・高等学校の詳細はこちら https://spring-js.com/japan/12419/
<男子校>
東京都市大学付属中学校・高等学校
http://www.tcu-jsh.ed.jp/
東京都世田谷区成城 1-13-1
全校生徒に対する海外生の比率 | 約17% |
英語習熟度別クラスの有無 | 有 |
<男子校>
灘中学校・高等学校
http://www.nada.ac.jp/
神戸市東灘区魚崎北町 8-5-1
全校生徒に対する海外生の比率 | 約2~3% |
英語習熟度別クラスの有無 | 無 |
ジェンダー・バイアスがない環境で真のpeer教育が実現
「精力善用・自他共栄」の校是の下、生徒の自主性・主体性を涵養する校風の中で、先輩・後輩のきずなが強く、生徒同士が助け合い教え合うpeer教育が実践されています。中でも文化祭は外部に公開する本校最大のイベントで、企画立案から実施まですべてが生徒主導です。男子校ゆえに誰もがいろいろな役割を分担しなければならず、ジェンダー・バイアス解消という視点で大きなメリットがあると感じています。
<女子校>
大妻中野中学校・高等学校
http://www.otsumanakano.ac.jp/
東京都中野区上高田 2-3-7
全校生徒に対する海外生の比率 | 11%以上 |
英語習熟度別クラスの有無 | 有 |
帰国生がのびのびと過ごせる環境
「帰国生が異文化体験から得た特性を伸長させる」「帰国生と一般生とを相互に啓発させる」という教育を掲げて21年。海外経験の有無に関わらず「アドバンストクラス」と「グローバルリーダーズコース」の2つのコースへの変更も可能なため、帰国生と一般生が一緒になって一つの学校環境を作っています。女子校だからこそ、個々の生徒が一層自分らしさを出せることが魅力です。
※大妻中野中学校・高等学校の詳細はこちら https://spring-js.com/japan/3619/
<女子校>
学習院女子中等科・女子高等科
https://www.gakushuin.ac.jp/girl/
東京都新宿区戸山 3丁目20番1号
全校生徒に対する海外生の比率 | 約10% |
英語習熟度別クラスの有無 | 有 |
品性と知性を身につけ、全人格的な陶冶を目指す
委員会、学校行事、クラブ活動に生徒一人ひとりが活発かつ主体的に取り組んでいます。学習面では実験・実習をはじめ、本物に触れる機会を多く取り入れ「進度より深度」を大切に掘り下げる授業を展開しています。「ライフサイクル講座」では、専門の先生をお招きし「あなたらしい人生を ~現代女性の心とからだの健康~」と題した講演を行いました。帰国生対象の「海外英語取りだしクラス」は3年間同じクラスで、強い絆と連帯感が生まれます。
<女子校>
カリタス女子中学高等学校
神奈川県川崎市多摩区中野島 4丁目6-1
全校生徒に対する海外生の比率 | 約4% |
英語習熟度別クラスの有無 | 有(英語アドバンストクラス/EIPクラス) |
日仏交換留学などを通じて国際感覚を磨く
カナダやセブ島、マルタでの研修、オーストラリアやニュージーランドでのターム留学、日仏交換留学など、生徒は憶せず出かけていきます。中・高時代の女子はコミュニケーション力や共感力が発達しています。また一般的に女子の方が精神的・身体的な成長が早いものです。そうしたアドバンテージを生かして、男子に遠慮することなく、生徒たちは早くから世界に飛び立ち、国際感覚を磨いています。
※カリタス女子中学高等学校の詳細はこちら https://spring-js.com/japan/9734/
<女子校>
昭和女子大学附属昭和中学校・高等学校
https://jhs.swu.ac.jp/
東京都世田谷区太子堂 1-7-57
全校生徒に対する海外生の比率 | 中学 | 約8% | 高校 | 約6% |
英語習熟度別クラスの有無 | 有 |
※昭和女子大学附属昭和中学校・高等学校の詳細はこちら
https://spring-js.com/japan/12446/
<女子校>
清泉女学院中学高等学校
http://www.seisen-h.ed.jp
神奈川県鎌倉市城廻 200
全校生徒に対する海外生の比率 | 約5% |
英語習熟度別クラスの有無 | 有 |
「自己肯定感」を育み、「挑戦」を支える
本校の教育の根幹を成す「ライフオリエンテーションプログラム」は、6年間を通して自分と出会い、人として成長するためのプログラムです。それぞれがかけがえのない存在であるということを体験的に学びます。また「ライフナビゲーションプログラム」は、授業の枠を越えてさまざまな学びの機会・活動に参加する生徒をサポートしています。挑戦することで、生徒の地平は未来に向けて開かれ、互いの挑戦を応援し合える関係が生徒間に築かれていきます。
視聴覚教材で 五感を使いながら 英語を学ぶ
※清泉女学院中学高等学校の詳細はこちら https://spring-js.com/japan/9354/
<女子校>
桐朋女子中学校・高等学校
http://www.toho.ac.jp/chuko/
東京都調布市若葉町 1-41-1
全校生徒に対する海外生の比率 | 約10.6% |
英語習熟度別クラスの有無 | 有 |
「積極性」と「リーダーシップ」が自然と養われる環境
「女子であること」がスタンダードなため、性差を意識することなく学校生活を送っています。学校行事でもすべての役割を女子がこなすことから、自然と「積極性」や「リーダーシップ」が養われます。進路指導では、常に「自分は何がしたいのか」を問い、自分で考えることを求めています。その積み重ねから、将来のイメージを明確にし、その実現に向けての努力が学校のサポートのもと進められます。
※桐朋女子中学校・高等学校の詳細はこちら https://spring-js.com/japan/962/
<女子校>
富士見丘中学高等学校
http://www.fujimigaoka.ac.jp/
東京都渋谷区笹塚 3-19-9
全校生徒に対する海外生の比率 | 約20% |
英語習熟度別クラスの有無 | 有 |
「国際性豊かな若き淑女の育成」を目指す
グローバル・コンピテンシーを育てるという教育目標のもと、多彩な「探究学習」を展開しています。教科横断型授業や高大連携授業、国内フィールドワークを通して、環境問題や貧富の格差問題などサステナビリティ(持続可能性)の視点で問題意識を持ち、課題を解決できる女性を育てています。生徒は異性を気にせずのびのびと学び、自分たちの力でやり遂げる行動力や実行力を身につけていきます。
※富士見丘中学高等学校の詳細はこちら https://spring-js.com/japan/1016/
<女子校>
豊島岡女子学園中学校・高等学校
https://www.toshimagaoka.ed.jp/
東京都豊島区東池袋 1-25-22
全校生徒に対する海外生の比率 | 約1%(帰国3年以内) |
英語習熟度別クラスの有無 | 有(高2と高3の一部) |
伝統を守りつつ、新しいチャレンジ
70年以上続く「毎朝5分の運針」は、集中力を高め無心に努力を積み重ねる大切さを身をもって知る場となっています。最近は未来を創る女性の育成を目指し、探究活動に力を入れ、国際的な広い視野を育むグローバル教育も盛んです。また、キャリア教育の一環として卒業生インタビューなどを行っています。誰かに気兼ねすることなく何にでも本気で打ち込め互いに切磋琢磨して成長していく雰囲気があります。
※2022年6月25日現在の情報です。最新情報は各機関に直接ご確認ください。