日本の教育現場ではさまざまな変化が起こっていますが、中でも2020年の大学入試改革には大きな注目が集まっています。英語については「社会で通用する英語力」の真価が問われており、大学入試では外部の英語試験を導入する大学が増える一方、大学の国際化を目指すべく、英語で学士を取れるプログラムが急増しています。
最近では国際系の学部だけでなく、理系や経済・経営などの専門的な学部でも英語コースが開設されるなど、多くの日本の大学が「英語で学士号※を取るプログラム」の充実に尽力しています。Springでは、昨年に続き大学の取り組みをまとめました。
※大学の学部を卒業した人に与えられる学位
■英語で学士を取れる主な大学一覧(50音順)
私立
大学名 | プログラム名 |
慶應義塾大学 | 経済学部PEARL(★) |
上智大学 | 国際教養学部FLA、理工学部英語コース |
同志社大学 | 国際教育インスティテュート国際教養コース (ILA) |
法政大学 | 経営学部GBP(★)、人間環境学部SCOPE(★)、グローバル教養学部GIS |
明治学院大学 | 国際学部国際キャリア学科 |
明治大学 | 国際日本学部 English Track Program |
立教大学 | グローバル・リベラルアーツ・プログラム(GLAP) (☆) |
立命館アジア太平洋大学(APU) | 国際経営学部(APM)、アジア太平洋学部(APS) |
立命館大学 | 国際関係学部 グローバル・スタディーズ専攻 |
早稲田大学 | 政治経済学学部(★)、国際教養学部(SILS)、社会科学部、文化構想学部(*1)、基幹理工学部(*1)、創造理工学部(*1)、先進理工学部(*1) |
国立
大学名 | プログラム名 |
大阪大学 | 化学・生物学複合メジャーコース(★)、人間科学コース(★) |
岡山大学 | グローバル・ディスカバリー・プログラム |
九州大学 | Engineering(★)、Bioresource and Bioenvironment(★) |
京都大学 | 工学部地球工学科国際コース(☆) |
国際教養大学 | 全学部 |
筑波大学 | 地球規模課題学位プログラム(★) |
東京大学 | 教養学部英語コースPEAK(★)、グローバルサイエンスコース(GSC) (★) |
東北大学 | 理学部化学系(化学科) 先端物質科学コース(★)、工学部機械知能・航空工学科国際機械工学コース(★)、農学部生物生産科学科国際海洋生物科学コース(★) |
名古屋大学 | 国際プログラム(複数の学部で実施) (★) |
(*1)日本の高校以外の卒業生は秋入学
■授業を英語で受けられる主な大学一覧 (50音順)
私立
大学名 | プログラム名 |
学習院大学 | 国際社会科学部(☆) |
国際基督教大学(ICU) | 教養学部アーツ・サイエンス学科 |
立教大学 | 異文化コミュニケーション学部DLP(☆)、経営学部国際経営学科(☆)、社会学部国際社会コース(☆) |
国立
大学名 | プログラム名 |
東京工業大学 | 環境・社会理工学院融合理工学系(☆) |
取材協力:トフルゼミナールhttp://tofl.jp/juken/english.php(2018年8月17日現在)、国立大学はSpring調べ。
春入学のみ(☆)、秋入学のみ(★)。最新情報は各大学に直接ご確認ください。
一覧表でご紹介した大学は一部ですが、全国的に国公立大学、私立大学共に英語で学士が取れるプログラムの導入は増えています。
次のページでは、私立大学は慶應義塾大学、立命館アジア太平洋大学(APU)、同志社大学、立命館大学、国立大学は東京工業大学、京都大学、岡山大学の取り組みについてご紹介します。在籍学生の生の声を通して、より実態に迫ります。
下記の大学の在校生の声をWEB限定で公開しています。ぜひご覧ください。
慶應義塾大学東京工業大学
4年間一貫して英語で経済学を学ぶ「PEARL」を展開 慶應義塾大学
私立大学では専門性の高い学士プログラムが英語で提供されています。慶應義塾大学経済学部では、2016年に経済学部のPEARL(Programme in Economics for Alliances, Research and Leadership)が新設されました。PEARLは、4年間一貫して英語で経済学を学ぶ9月入学のプログラムです。しっかりとした経済学の知識を基礎に語学力を生かして、世界を舞台に活躍する、先導者の輩出を目的としています。また、5年間で学士号・修士号を取得することも可能です。経済学部では、特に世界のトップレベルの大学との協定強化も進めており、フランスのパリ政治学院における2年間の留学や、イタリアのボッコーニ大学における1年間の留学を含むダブル・ディグリー・プログラム※などが充実しています。
同大学にはPEARLに限らず、800以上の英語による講座(語学を除く)が開講されており、留学生にとっては学びやすく、日本人学生にとっては国内にいながらにしてグローバルリーダーを目指す実践的な環境と言えます。
※大学間の単位互換制度を活用することで、学生は複数の学位プログラムを修了し、それぞれの学位を取得できる取り組みのこと。
◆ ◆ ◆
在籍する竹内アリシアさんは大学入試を控えた時、国際社会でも通用する英語レベルで経済学を学びたいと思いPEARLに入学することに決めたそうです。「PEARLは海外生やインター校に通っていた人、私のように日本の学校で学んできた人などさまざまなバックグラウンドを持つ人が集まるため、どんな人でも受け入れられる意心地のよさを感じる」と話します。この9月からダブル・ディグリー・プログラムを通じて、フランスのパリ政治学院で2年間勉強する予定で、「慶應義塾大学とパリ政治学院の両方の大学の学士号を取得できることはとても楽しみです。将来は日本が直面する諸問題について学び、英語力を活かして『海外から』変革をもたらす人になりたい」と夢を語ります。
PEARL在籍中の竹内アリシアさん
【Web限定!】もっと知りたい在校生の声
在校生の声
慶應義塾大学 経済学部PEARL 竹内 アリシア さん
Q1. 大学入学までの海外経験 、留学経験や英語の学習経験について教えてください。
アメリカで生まれ、7才の時に日本に引越しました。小学6年生の卒業式直前に東日本大震災が起こり、数ヵ月間アメリカの親戚の家から中学校に通いました。小、中、高と12年間は日本での日本語の通常の教育を受けましたが、母がアメリカに長く住んでいたため、家庭内での会話は英語でした。
Q2. PEARL を志望したきっかけ・理由を教えてください。
日本に引越した後も、大学はアメリカで学ぼうと考えていました。アメリカの大学に進む可能性を考慮して、学校での成績を良く取ることを常に意識していました。経済学に興味を持ったのは中学生の頃です。たまたま聞いたpodcast で、ファイナンスとそれが世界に与える影響について知り、それ以来経済学に興味を持ち始めました。また、高校2年生の時に日本の高齢化が世界で類を見ない速さで進んでいること、それに伴って経済ポリシーを変えていくことは不可欠であることを知り、あえて「日本で勉強したい」と強く思うようになりました。経済学を学ぶなら慶應義塾大学に進みたいと考え、4月入学の受験に向け塾に通い、勉強を進めました。
高校3年生の夏、Harvard Pre-College Programへの参加をきっかけに大学レベルの英語教育にもついていけることに気づき、国際社会で最も通用する「英語で」経済学を学びたいと思うようになりました。その夏、ハーバード大から帰国後、9月入学で英語で学べるPEARLがあることを知り、突如受験方式を変更しました。
Q3. 大学入学までのタイムラインを教えてください。
~2016年8月 慶應義塾大学の4月入学を志望していたため、日本語の受験勉強に取り組む。
8月 PEARLについて知り、受験方式を変更。
9月 SAT, ACTとTOEFLの勉強開始、TOEFLを受験。
10月 SAT, ACTを初受験。
11月 SAT, ACTを再度受験。
12月 出願。
2017年 1月 合格発表。
Q4. PEARLで学ぶ中で印象的なこと・感想をお聞かせください。
入学してすぐに聞いた教授のお話が印象的でした。「日本を国内から変える人、海外から変える人、逃げる人、この3パターンの人がいる」という話で、これをきっかけに私は「今、日本が直面する問題について学び、英語力を使って海外から世界を変える人になりたい」と思うようになりました。
PEARLには異なるバックグラウンドを持つ人たちがいます。日本だけでなく世界各国のインタナショナルスクールに通っていた人や、海外の現地校に通っていた人、私のように日本の学校に長くいた人など本当にさまざまです。誰一人同じライフストーリーの人はいないため、その多様さがどんな人にとっても居心地の良い環境と言えます。
今年の9月から慶應のダブルディグリープログラムを通じて、フランスのパリ政治学院で2年間勉強します。慶應義塾大学とパリ政治学院の両方の大学の学士号を取得できることはとても嬉しいことです。
Q5. 卒業後の目標を教えてください。
慶應を卒業後、大学院に進みたいと思っています。その後は、世界に出て働きたいと考えています。
慶應義塾大学
【入学選考(PEARL)】
書類審査のみ。IB、SATもしくはACTの成績、英語能力を測るためのTOEFLまたはIELTSの結果、そして、各人の志望動機や適性を見定めるための志望理由書などを提出、これらを総合的に評価して合否を決定。面接や独自の筆記試験なし。
【入学時期】
9月
【募集人数(PEARL)】
約100名
日本人・外国人を問わず国内外から幅広く学生を受け入れる。
※慶應義塾大学の詳しい情報はこちら
https://spring-js.com/japan/685/
立命館アジア太平洋大学(APU)
【入試形式】
帰国生徒入試(4月入学/9月入学)、秋期AO入試
※英語基準・日本語基準を選択可
【英語学位プログラム対象学部】
国際経営学部(APM)、アジア太平洋学部(APS)
【入学時期】
4月または9月
【募集人数】
帰国生徒入試(4月):30名、帰国生徒入試(9月):20名、秋期AO入試:10名
英国Times Higher Education世界大学ランキング日本版(2018年)「国際性」部門で去年に引き続き私立大学の中で1位にランクインした。講義の9割が日英両言語で開講している。専任教員は25ヵ国・地域から、学生の半数は世界88ヵ国から集まる。
日々の授業では世界各国から集まる学生との活発な議論が行われる
※立命館アジア太平洋大学(APU)の詳しい情報はこちら
https://spring-js.com/japan/965/
同志社大学
【入試形式】
書類審査と面接※による総合評価
※海外在住の出願者は、Web上での面接
【英語学位プログラム対象学部】
国際教育インスティテュート 国際教養コース
(The Institute for the Liberal Arts, The Liberal Arts Program)
【入学時期】
4月または9月
【募集人数】
50名
リベラルアーツ教育を全て英語で行う。同志社大学の教育理念の一つである国際主義に基づき、社会・文化・経済・ビジネス・法律・政治・国際協力などの分野において、国際的に活躍するために必要な幅広い学際的教養および国際的コミュニケーション技能を身につけた人物の育成を目的としている。日本や京都をテーマにした科目があり、フィールドワークなどの学外授業も行われること、少人数クラスが多いことなども特徴である。
国際教育インスティテュートの詳細はこちら
http://ila.doshisha.ac.jp
立命館大学
【入試形式】
日本語または英語
海外在住の応募者を考慮しウェブ上での面接も対応可
【英語学位プログラム対象学部】
国際関係学部(Global Studies Major)
政策科学部(Community and Regional Policy Studies)
情報理工学部(Information Systems Science and Engineering Course)
グローバル教養学部(2019年開設)
【入学時期】
4月または9月
【募集人数】
100名
シンガポール国立大学をはじめ世界47ヵ国、450の大学・教育機関とのネットワークを活かし、充実した海外留学プログラム制度を展開している。また2018年にはアメリカン大学と連名で学位を授与するジョイント・ディグリープログラムを開講した。さらに19年4月には、オーストラリア国立大学(ANU)とのデュアル・ディグリー・プログラムで学ぶグローバル教養学部を大阪いばらきキャンパスに開設予定である。
※立命館大学の詳しい情報はこちら
https://spring-js.com/japan/7928/
国立大学でも進む大学授業の英語化
国立大学でも、留学生・海外生を積極的に受け入れると共に、英語で開講する授業を増やすなどの国際化への動きがあります。東京工業大学では、国際社会が抱える複合的課題を解決するグローバルエンジニアの育成を目指すべく、2016年4月より英語による学士課程「融合理工学系国際人材育成プログラムGSEP(Global Scientists and Engineers Program)を導入しました。
今年で3年目を迎える同プログラムは外国人学生を対象にしていますが、環境・社会理工学院所属の日本人学生も2年次に融合理工学系を選択することで、GSEPで提供される数学、工学、国際開発、社会環境政策などの講義を英語で受講することができます。必修となるプロジェクトベースドラーニング(PBL)の講義群は、融合理工学系の日本人学生とGSEPの留学生が共に英語で議論・研究を進める科目として展開しています。入試形態は引き続き一般入試であるため、日本語での高い学力が求められますが、今後もさらに英語で履修できる科目を増設する予定です。
現在、GSEPにはタイ、インドネシア、モンゴル、ベトナムなどからの国費留学生・私費留学生が計41名在籍している。融合理工学系の日本人学生2、3年生計52名と共に英語で活発な議論が展開される。
◆ ◆ ◆
在籍する小林萌さんは、「融合理工学系の授業は20名程度の少人数制授業が多く、教授と学生の距離が近いことが特徴です。国籍などバックグラウンドが異なる学生を含めた議論がとても活発です。日々の生活や授業の中で自分の考え方の偏りや視野の狭さにも気づき、はっとさせられることが少なくありません」と語ります。小林さんは、現在留学しているデンマークでマネジメントエンジニアリングを学ぶことで、日本とは異なる思考方法、文化の違いから生まれるさまざまなアイデアを吸収し、新たなイノベーションを起こす考えを得たいという思いが強くなったそうです。
小林 萌さん(融合理工学系3年生)
【Web限定!】もっと知りたい在校生の声
在校生の声:東京工業大学 環境・社会理工学院 融合理工学系 小林 萌さん
Q1. 大学入学までの海外経験 、留学経験や英語の学習経験について教えてください。
小学2年生の9月から小学3年生の9月まで、アメリカ合衆国ボストンの現地校に通っていました。帰国後は半年ほど、英会話教室にも通いました。
Q2. 大学入学までのタイムラインを教えてください。
2016年1月 東京工業大学4類 出願。
2月 東京工業大学4類 受験。
3月 東京工業大学4類 合格。
4月 東京工業大学4類 入学。
Q3. 東京工業大学の融合理工学系を志望したきっかけ・理由を教えてください。
環境・社会理工学院は自分が将来すすみたい進路に近く、他の系で専門を極めるより、融合理工系の目標に自分は向いていると思ったので志望しました。また、留学生が沢山いると聞いて、留学生の友だちを作りたかったのも理由です。
Q4. 東京工業大学の融合理工学系から、デンマーク工科大学に留学されていると聞きました。留学を決意された経緯と、何を当地で学んで来たいと考えていらっしゃいますか。
留学はもともとしてみたいと思っていました。系のカリキュラム的にも一年近く留学しても留年しないという制度が魅力でした。また、外国人が少ない日本で母国語でない英語で学位を取りにきている同じ年の友人にも刺激を受け、あえて日本人の少ないデンマークに留学先を決定いたしました。
デンマークではマネジメントエンジニアリングという学部に所属します。日本とは違う思考法、文化の違いから生まれるアイディアを吸収し、日本人としてのマインドセットも忘れずに新たなイノベーションを起こすアイディアを得たいと思っております。
Q5. 卒業後の目標を教えてください。
卒業後の進路は具体的には決まっていませんが、エンジニアに親しい立場として、また国際的に視野が広いことを生かし、実社会に応用できるアイディアを考え、世界の役に立ちたいと思っています。
東京工業大学
【入試形式】
日本語入試(一般入試・AO入試、センター試験利用)
【英語学位プログラム対象学部】
環境・社会理工学院融合理工学系
【入学時期】
4月
【募集人数】
45名(留学生を含む2年次受け入れ可能人数)
1年次の必修科目(数学系4科目、物理、化学、生物など)でも英語で受講可能だが、日本語の方が選択肢は多い。2年次からはGSEPと同じ英語の講義を選択可能。工学系の各分野を学びながら専門分野の確立を目指す。
京都大学
【入試形式】
一般入試
【英語学位プログラム対象学部】
工学部地球工学科 国際コース
【入学時期】
4月
【募集人数】
日本人一般入試枠155名+外国人留学生30名
※一般入試で地球工学科を受験した日本人学生は合格後に国際コースを選択することが可能
将来、国際的に社会資本の整備・マネジメント、防災、国土保全等の分野で活躍したい学生を募集。地球工学科には、国際コース以外に土木工学コース、環境工学コース、資源工学コースの3コースがあり、これらへのコース分属は地球工学科の3年次に行うが、国際コースでは、土木工学コース関連の授業を英語で提供し、英語による授業のみ卒業に必要な単位と認定されるため、1年次よりコース分けされる。
岡山大学
【入試形式】
1)国際入試 2)IB入試(秋入学)3)ディスカバリー入試(AO入試)
【英語学位プログラム対象学部】
グローバル・ディスカバリー・プログラム
【入学時期】
1)4月または10月 2)10月 3)4月
【募集人数】
1)4月入学3名・10月入学30名 2)若干名 3)27名
2017年10月に開始した学部・学科横断型の学士課程プログラムでは、21ヵ国から集った46名の留学生らと共にエネルギー問題や食糧不足、環境破壊、格差などのグローバルな課題にアプローチし、解決策を導き出すための理論的・実践的知識を身につける。フィールド調査や実験、インターンシップ、留学などの実践科目が充実している。
※4月入学には日本語力が必須
授業ではさまざまなバックグラウンドの学生と一緒に学び合う
※岡山大学の詳しい情報はこちら
https://spring-js.com/japan/10312/
編集後記
ますます広がる英語で学ぶ選択肢
近年の特徴として、英語の学部を新設する大学の裾野が広がっており、この傾向は今後も続くと言われています。4月の春入学だけでなく、9月・10月の秋入学も選択肢が増え、海外生や留学生にとっては朗報ではないでしょうか。入試の形式も一般入試だけでなく帰国生向けの入試や面接、英語のスコアで評価する試験など、多様化が進んでいます。現役生の声に「自分の専門分野を国際社会でも通用する英語で学びたい」とありました。グローバル社会を見据えて、今後も英語による学士の取得は一つの選択肢として、さらに広がる勢いを感じます。